アリア
「私が道を作る!お前たちは私の後ろを走れ!」
鼓舞するように、奈都が先頭を走る。
そろそろ、敵がこちらに気付く頃だ。
攻撃に備え、奈都はすう、と息を吸った。
しかし。
「……?、何……」
敵の様子が、おかしい。
「コーサ!」
「…ええ。妙、です」
敵が手を、出してこない。
こちらが進撃を始めたというのに。矢の一本も、飛んでこない。
「静かすぎる」
敵の兵士たちには動く気配がない。
戦場には似つかわしくない程の、静寂。
「!奈都さま!」
コーサが声をあげ、指をさした。
敵の陣の後方。崖の上に、女がひとり立っている。
「あれは、アリアムンドの女王です!」
「何!」
長い髪を靡かせ、女王は奈都たちを見下ろしている。
「……来たか。コルネシアの、犬どもめ」
吐き捨てるように女王が言う。
「ここはアリアムンドの聖なる地。貴様らのような蛮族が足を踏み入れていい場所ではない」
ビリビリとした緊張が走る。
「…よくも、我等の同胞を足蹴にしてくれたな。…しかし貴様らがいくら抗おうと、決してこのアリアムンドの火は消えることはないのだ」
女王は、薄ら笑いを浮かべた。
「なぜならこの国は、アリア様に守られているのだから」
「ーっ!?ア……、アリア、だと…?」
その名が出た途端、兵たちがざわつき始める。
「死んでいった者たちの怒り。哀しみ……いかほどばかりであったろう!さあ?全てを今、貴様らに償わせようではないか」
「…………」
そして。
「さあ。アリア様………」
アリアが、現れた。
視線は、一点に注がれている。
「……、あれ、が……?」
女王の隣に立つ、仮面をつけた、小柄な少女。
彼女が、アリアだというのか。
「ご覧ください。アリア様…」
女王が、うっとりと言う。
「観客は充分。なんと素晴らしい舞台でしょうか」
「…………」
「彼らに、あなた様の歌声を。甘く甘美な絶望の味を、教えて差上げましょう?」
「…………」
アリアが、歌い出した。
「ーーーーーーー」
高く、繊細な声。響き渡るそれは、まさに恐ろしいほどの、美しい旋律だった。
「ーーーーーー……」
そして…。
「ーッ!ああああああああああああああああ!!」
兵士が、耳をおさえて苦しみだした。
「ああ…あああ……ああああーーーーっ………!」
兵士の体が、破裂した。
「ー…っ、う……うああああああ!!」
「ぎゃあああ……ぁあっ!!」
破壊は止まらない。
導火線についた火のごとく、ボン、ボンと音をたてて、端から順に兵の肉体が弾けていく。
「アアアアア!!」
「ぎぃいいぃぃぃ……!」
すでに何人もの兵士たちが、跡形もなく破壊された。
血生臭さが辺りを満たす。
「奈都さま!」
「…!」
惨劇に呆けていた奈都が、ハッとしたように、歌い出した。
「ーーーーーー!」
アリアムンドの女王が、ピクリと眉をつり上げた。
「………あれが、コルネシアの………」
破裂は、止んだ。
しかし。
「フッ………フフ……」
女王は、不敵な笑みを浮かべた。
そして。
「アリア様……」
アリアに、耳打ちした。
「ーーーーー…」
「!何…!?」
アリアが、曲調を変えた。
女王の指示だろう。
すると、再び。
「がっ……あああああ……!」
兵の悲鳴が、こだました。
「ああ、ああああ……」
「ぐ、ぐう、うううう…」
コルネシアの兵たちが、もだえ苦しんでいる。
ギチギチと、まるできつく締められた縄がほどけていくように。筋肉が音をたてて、裂けていく。
「あ…あ……」
「!!アァアアァアアアアアアーーー!!」
「…っ!」
血の雫が、降り注いだ。
「………な、なんて……なんてこと………」
「ふふっ……あはは、あははは!美しい!なんという、力!」
女王が叫んだ。
「このアリアムンドは、アリア様の美しい光のなかにいる…!神はこの私にアリア様を遣わせたのだ!神は、私の方を正しいとおっしゃっている!あはははは!」
最早、兵士たちには戦闘の意思は残っていない。みな、アリアムンドのその力に、怖れおののいていた。
「アリア…アリアが……」
「もう、終わりだ……」
辺りは血と、脂と、肉の破片で足の踏み場もない。
兵は次々に殺されていく。
「………このままみんな……壊して壊して、壊し尽くしてやるわ……!」
女王の、狂気じみた笑い声が響き渡る。
圧倒的な力の差に、奈都はただ、呆然とするしかなかった。




