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目覚め

『代償…?』

奈都は首をかしげた。

『代償って、何だよ』

『…………』

『じゃあ…急に目がおかしくなったのは、歌のせいだってことか?』

イサが、頷く。

『……歌の力を、使いすぎたんだ』

イサは手を伸ばすと、窓を指差した。奈都の顔が映っている。

『君の目…瞳の色が変わっていたことに、気づかなかったかい?』

『瞳…?』

『以前より、色が抜けて曇っている。ほら』

『!あ……』

よくよく見れば、確かに瞳の輪郭が薄く、曖昧になっている気がした。

ずっと見てきた自分の目とは、明らかに様子が違っている。

『奈都。これを』

イサが小瓶を渡した。

青い液体が入っている。

『僕が作った薬だ。飲んで』

『何…?』

『まだ、試作段階だけど。抑えることはできると思うから』

奈都はイサの言う通り、その薬とやらを、飲み干した。

『…!』

途端、靄が晴れたみたいに、さあっと視界がクリアになった。

歪んでいた全てが、今はっきりと見える。

『見える…!ちゃんと見えるよ、イサ』

『…………』

しかし、イサの顔は浮かない。

『これはあくまで、一時的なものなんだ』

『一時的?』

『薬の効果は、症状を抑えるだけ。進行を、止めるものじゃない』

『!じゃあ、このまま、歌い続けたら…』

『……視力が、なくなるだろうね』

イサの言葉に、奈都は愕然とした。

『…何も、見えなくなるって、ことか…?』

『…歌は力を放つけれど、そのぶん使う人間をゆっくりと壊して行く。…歌は最初に…目を、奪うんだ』

『そ…そんな……』

失明。

光を、永遠に失うこと。

今見ている世界が、全て暗闇に変わってしまう。

奈都は、恐ろしくなった。

震える奈都の肩を、イサは、優しく支えた。

『奈都…。それを防ぐために、僕は薬を研究している。今はまだ、症状を抑えるだけだけれど…きっと、君の目を、治して見せるよ』

イサの目に、力がこもる。

『歌が奪ったものを、全て取り返させる』

「……、イサ…」

奈都は思い出した。

イサが、治療に歌の力を使うのを、強く禁じたことを。

やっと、その理由がわかった。

力を使えば使うほど、その代償も、大きくなる。

歌姫は、奈都が自分で決めた道だ。

だからせめて、戦以外では力を消費しないよう。なるべく症状が進行しないよう、彼は奈都を止めたのだ。

影で治療薬を探しながら。

彼は奈都の知らないところで、奈都を守ろうとしていたのだ。

「……私は、本当にバカだな…」

『奈都?』

『なんでもない』

ひとりごち、奈都は顔をあげて、イサに微笑んだ。

『お前はずっと、心配してくれていたんだな』

『…………』

『ごめん。…あと、ありがとう』

奈都の腕に、ひんやりと冷たい感触がした。

『薬だよ』

イサが奈都の手首に、湿布を貼ったのだった。

『赤くなってしまった。痛かったろう?』

実に申し訳なさそうに、イサが言う。

『…痛くなんかねえよ。このくらい』

手首を撫でながら、痕が消えなければいいのに、と奈都は思った。





……

………




「アリア様のお体は、まだもどらぬのか!」

アリアムンドの女王は、憤りながら医師に尋ねた。

「…ええ。だいぶ、酷使致しましたからな……」

医師が躊躇いながら口を開く。

「力を、一度に使いすぎたのです…。この先、元に戻るのか…それすらも、わかりません…」

「っ!…貴様、見限るのか!」

「い、いえ…。しかし、なにぶんアリア様は元々のお体自体がその、弱いようで…。まずは体力を回復させませんと…」

「…西の砦が、落とされたのだぞ…」

女王は苦々しく吐き捨てた。

「…あそこは、この国が立ち上げられた最初の土地だというに…!ああ!また奪われてしまったのだ!あの、暴君に!」

女王は焦りと苛立ちを露にし、ぶつけるように、声を荒げた。

「…もうこれ以上、奴等の蛮行を許してはおけぬ…!」

「女王様!しかし…」

「……待てぬ!」

女王は、決断を下した。

「アリア様を、出す……」

「女王様!」

「出すのだ!この国に、アリア様のお力は必要不可欠。なんのために、このアリアムンドは立ち上がったのか、思い出せ!」

「…………」

「戦の用意をせよ。身体の不調など、とるに足らぬ。歌姫は、歌えればそれでよい」

「……、畏まり、ました…」

女王に気圧され、医師は機械のスイッチを押した。

「アリア様」

「…………」

「お目覚めください」

液体で満たされた円柱カプセルの中。眠っていた少女は、その曇りガラスのような目を開いた。


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