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非常識で常識的な彼女  作者: R
非常識で常識的な彼女
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知識は武器

ちょっと短いかも?

 高い木々のせいで陽の光が当たらなくて、時間の感覚がおかしくなっているようだ。もう隙間から見える空の色が赤く染まり出していた。漂う雲も赤くグラデーションされている。

 …私の好きな空だな。


「ーーーこれが、私が私のことを理解している全てです……ご理解、頂けましたか?」


 遠くに飛んでいた視線を目の前に戻すと、レイモンドさんはまた眉間に皺を寄せた難しい顔をしていた。

 …まあ、理解出来るとは思ってないけどさ。「同類」でない限り、本当の理解なんて得られない。私は自分の『事情』を自覚したあの日、そのことを知った。いや、知っていたかな。

 私の話を最後まで無言で、でも真剣な眼差しで聞いてくれたレイモンドさん。その姿勢には好感を持てるけど、これ以上の侵入は、ね。

 私は笑顔を「作って」声をかける。


「私はそろそろ戻りますけど、どうします?」

「……いや、俺は後で戻る」

「そうですか」


 それじゃ、と言い残してその場を後にする。私はここに何度も来た事あるから夜でも歩ける。団長、始めて来た場所だと思うけど……大丈夫だよね♪

 てか、最後レイモンドさん猫被り忘れてたね。あれが素なのか。愛想の欠片もない口調だったよ。さすがに騎士団長様がアレじゃ、いろいろ困るもんね。政治的意味でもさ。

 王子お抱えの騎士団じゃ、他の貴族からの反発も凄いんじゃないだろうか。普通の騎士からは妬まれるだろうし。夜会とかで個人的なボロを出すだけでも、貴族達はここぞとばかりに小言を言うだろうね。

 あー、嫌だ嫌だ。これだから娯楽の足りないお貴族様は。

 周りに人がいないのに、思わず両手を肩まで上げて「やれやれ」のポーズをしてしまったぞ。こういうのって見られてる時より見られてない時にやってる方が自分にくるダメージが大きいのは何故。


 …まあ、それよりも。

 最終的に今日のバイト、殆ど休んじゃったけど。レベッカに頼んでロウルさんにクッキーでも焼いてもらおう。

 それから屋敷に戻ると、無表情のフェリックスさんと笑顔のレベッカに捕まって応接室に放り込まれ。そこには何故かガントさんともう一人の生贄となった美少年騎士がいた。うん、顔が疲労でやつれていても美形は変わらないね。てか、なんでここにいるのさ。

 私の姿を認めると、ガントさんが異様に迫力のある笑みで出迎えてくれた。


「これは、リン様。今お戻りですか」

「えぇ。少し団長様と森を散歩に」

「そうですか。それはお疲れ様です」


 ふふ、嫌味かい? そんな疲れた(+怒り)顔で「お疲れ様」とか、それはお前がだろ、って言いたくなるね。

 でも残念! 私はそんな可愛らしい脅しに屈するような性格じゃないのさ。彼の笑顔に負けないくらいの満面の笑みで答える。


「いえ、それほどでもありませんよ。これでも結構鍛えてますから」

「……それは先日、拝見させて頂きました。見事な腕前ですね? 一体どのような方に弟子入りを?」


 あれ、そこに食いついたか。怒ってたんじゃないのかーい?

 話が逸れたなら、まぁわざわざ怒られたくもないし。イメージだけど、ガントさんは怒ったら怖い。


「あー、あのですね。私のは我流なんです。だから、師匠とかそういう方はいませんよ」

「…え?」


 実はこれもあんまり言いたくないことなんだよねー。

 剣道は道場とかに通ってたわけじゃなくて、テレビや本に書かれていたものを見よう見まねでやってただけだし。身体を鍛えてたのもそれの一環。

 だから基礎はあるけど技なんて立派なものはないし、どちらかと言うと私のは「実践」を前提とした、現代日本ではなんの役にも立たないもの。前回の山賊退治でフェンシングの応用があったのも、それが原因だね。

 ザックリと二人に説明してみせると美少年は目を丸くして硬直し、ガントさんは面白い生き物を見るような目付きで私の言葉に納得したように頷いた。


「成る程。だから貴方の動きには統一性がないのですね」

「はい。基礎の型がないものですから……でもその方が実践では便利ですからね」

「ふふ、確かに」

「………あ、あの…」


 小さく上がった声に美少年に視線を移すと目が合った途端ビクッと肩が跳ねて、ガントさんに縋り付くように身を寄せた。

 あはは、なんか随分と怖がられちゃったなぁ。でもその顔も可愛いから許す! なんとなくハルと雰囲気が似てるんです、この人(※男です)。

 ガントさんも何処と無く甘えん坊な弟を見るような優しい顔で美少年に先を促した。


「なんです? リウェン」

「は、はい。今の話なんですが…」

「何かおかしかったですか?」

「いえっ、滅相もありません! そうではなくて……動きに統一性がない方がいいってどういうことなんですか? 統一性があった方が、練習するにしても仲間と共闘するにしても、良いと思うのですが」

「あぁ、そのことですか」


 まぁ、確かにそういう意味では統一性があった方がいいよね。グループで行動する時に一人不思議な行動する奴が混ざってるだけでも、全体的にも混乱するからね。合わせようとしても統一性がないから判らないし、逆にこちらに合わせてくれることもないだろうし。

 美少年、もといリウェンさんの言うことも間違ってはいないけど。

 ガントさんの視線に頷いて彼らの対面にあるソファに腰を下ろした。そしていつもフェリックスさんがやってるみたいに背筋を伸ばして相手の目を見る。それにつられたようにリウェンさんもピンと座り直した。

 コホン、と軽く咳払いをして(その瞬間ガントさんの目が生暖かくなった)説明を始める。


「えーとですね。リウェン様は騎士でいらっしゃいます。なので当然のこと、仲間と行動することが主ですよね?」

「そうですね…集団行動も訓練の一つのようなものですから」

「…残念ながらーーー私には仲間がいないもので」

「? 確か前回の戦闘時には、貴方以外にも参戦していた方々がいましたよね。その方達とは…」

「私はまだこの村に来たばかりですし。それにこんな辺境の村で騎士団のような本格的な戦闘訓練は致しません」

「あ……成る程」


 ご理解頂けたか。普段この村は平和なんです。問題があったとしてもそれは狩りや夫婦喧嘩くらい。戦う相手は野生動物か怒り狂った奥さん。

 騎士団のような対人間戦闘は専門外な上、同じ人を殺すということに躊躇いを捨てきれない村人もいる。マルクとかね。まぁそんな村だからこそ、私みたいなイレギュラーが重宝されたりするんだけど。

 通常時なら「優しさ」や「寛大」と捉えられることでも、それは非常時には「甘さ」や「油断」になる。

 殺られる前に殺る、これ基本。敵に情けなんて無用です。邪魔者は即排除しますよ。それが出来るだけの実力もあるんだし。

 リウェンさんの目に若干尊敬の色が混じったところで、控えめなノック音と廊下からレベッカの気配。

 立ち上がろうとした私を手振りで留めて、ガントさんがドアを開いた。てっきり私だと思っていたのであろうレベッカが驚きで目を丸くしていた。


「あ、ガント様。申し訳ありませんっ」

「いえ、これでも騎士ですから。慣れています」


 笑顔と共にそう言い切ると、レベッカの両手を塞いでいたトレイを軽々と片手で受け取った。

 うわっ! 眩しいばかりの笑顔、さり気ない気遣い、優雅な足取り。これぞ騎士の鏡。少女が憧れる騎士様そのものだね。

 そういえば……私と団長が去った後、どうしたんだろうね。随分疲れたご様子だったけど。

 再び腰を下ろしたガントさんに、無邪気な笑顔で尋ねてみる。


「それで、あの後どうだったんですか?」


 ーーーそれから約一時間に渡って黒い笑顔を浮かべたガントさんに、事情説明という名のお説教をされた、とだけ言っておこう。


**********


 翌日。レベッカ特製のクッキーを片手にバイトへ向かっていた私を、何やら機嫌の良いガントさんが引き止めた。

 え、なんですか。お説教だったらもうお腹いっぱいですよ。

 そんな感じで警戒心剥き出しの私に、輝く笑みを浮かべて何を言うのかと思えば。


「リン様。少し、私とデートしませんか?」

「………はい?」


 何の罰ゲームですか、私とデートって。

 ジーッとガントさんの目を覗き込んでも、面白がっている色しか読み取れなかった。いや、それだけでも十分に警戒するに値するんだけど。

 だってガントさんだよ? 笑顔の下で何を考えているか分かったものじゃない、超絶美人な副団長様だよ? 昨日で腹黒いことは身に染みているのに、素直に頷けというのは無理な話だ。

 だから無駄だろうと思いつつ、抵抗してみる。


「私、今から仕事がありますので…」

「ロウル氏の所ですよね? それなら既に許可を貰っています。問題ありません」

「……そうですか」


 はい、無理でした。しっかり手回しされていましたよ。というか、何故バイト先をご存知なのか。そしてロウルさんも、何許可しちゃってんですか。全力で拒否って下さいよ。

 当然というか何と言うか。獲物を捕まえた狩人のような顔になったガントさんに腕をガッチリ掴まれて、連行された先はというとーーー


「……えっと…」

「暫くこちらでお待ち下さいね」

「はあ……」


 気の抜けた返事をする私に無駄に輝く笑顔を向けると、隣の部屋へと続くドアの向こう側へ消えた。

 ズルズルと引きずるように連れて行かれた先は、なんと「あの」宿でした。つまり騎士団が泊まっている所だよ。そして今いる部屋は団長・副団長の部屋。

 ちなみに団長は只今アリン家にいるそうな。ちょうど私と入れ違いだったらしい。狙った感あるけど。

 道中ガントさんにいくら用事を尋ねても答えてもらえなかったので、今から何が待っているのか予測不能。まさか騎士ともあろう者が集団リンチするとは思えないし。

 内心ハラハラしながら座り心地の良いソファで待つこと約五分。軽いノックと共にドアが開かれ、顔を出したのは副団長ではなくリウェンさん。目を丸くした私に笑顔でちょいちょいと手招きする。え、何それ可愛い。

 思わず満面の笑みで駆け寄ると不思議そうな表情をされたけど気にしない! そんな顔さえ可愛いなんて、羨ましいぞ!


「どうしたんですか?」

「ガントさんに言われて呼びに来たんです。闘技場に来て欲しいそうですよ」

「闘技場……あ、広場ですか。了解です」


 あれを闘技場と呼べるのか非常に微妙だ。ただの空き地に円形の柵を建てただけのアレが。作ったのもロウルさんと村の子供達だし。

 ま、それはともかく。

 リウェンさんと軽く言葉を交わしながら闘技場(ガントさん命名)へ向かうと、そこにはやたらとキラキラした集団が。あれ、何かデジャヴ。

 こちらに気付いたガントさんに手を振りつつ思う。


 今更だけど、何故闘技場に? え、リンチ? やっぱりリンチか⁉︎


 入り口で突然足を止めると、数歩先に進んだリウェンさんが不思議そうに振り返った。ガントさんも首を傾けている。


「どうかされました?」

「いえ、その……何故ここに来たのかなぁ、と……」

「え? 聞いてないのですか?」


 正直に一部白状すると驚かれた。彼の視線は私、というより私の腰辺りに注がれている。そこにあるのは……剣?

 歩く度にその存在感を放つ愛剣は、相変わらず繊細な彫刻がある且つシンプルな物。ロウルさんは確かに腕が良いけど、王都だったらもっと上がいると思うんだけどなぁ。

 剣からリウェンさんに視線を戻し首を傾げてみせると、同じように首を傾げた。


「副団長から言われて、帯剣されているのではないのですか?」

「は? あ、いえ。これはいつもなんですよ。いつ何があってもいいように、という感じで」

「そうなんですか? まぁ、でも好都合です。今から使いますから」

「……一体、何をするんですか?」


 ちょっと引きつつ訊くと、何故か目を輝かせて突然私の片手を両手で握り締めた。

 そして何を言うのかと思えばーーー


「先日の件での剣術を、そして昨日の戦闘に対する知識を是非とも我らにお教え願いたいと、騎士団総意の頼みです」

「あぁ、そんなことですか。剣術と知識を教え………って、何を言ってるんですか‼︎」


 思わず納得しそうになったではないか!

 この国で最強とも言える騎士団に、私が戦闘訓練をする? 冗談でも笑えねーわ! 一歩間違えれば死ぬから!

 全力で首を左右に振って、同時にリウェンさんに掴まれた手をスルリと抜き取る。結構な強さで掴んでいたリウェンさんが目を丸くしていた。あ、こういうのもプラス得点なのか⁉︎

 何にしても、ここは全力で拒否しなければ。まだ死にたくはないし。


「そんな、滅相もない! 皆さんは私のことを過大評価し過ぎです。騎士団相手に、ただの小娘が敵うわけないでしょう!」


 頭と両手をブンブン振りながらジリジリと後ずさっていると、柵から出てきたガントさんが足早に近寄ってきた。そしてリウェンさんと何やら目配せしたと思ったら、ガッシリと左右から腕を掴まれた。

 一人、しかも手を掴まれている程度ならともかく、男二人に腕を掴まれたらさすがに逃げられない。

 最後の抵抗として足を動かさないでいると、笑顔のガントさんと苦笑のリウェンさんに引きずられて、私はキラキラした集団のもとへと連れて行かれた。


 なんか………今日はよく引きずられる日だな。現実逃避しなきゃ、やってられねー!

はてさて、リンは騎士団に敵うのか。

次回は『異界人vs騎士団』

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