一つの手掛かり
い、いつぶりの更新だろう……
あけましておめでとうございます……
もう一方の捜索隊(アッシュ視点)
サーシャから王子の依頼(命令?)を聞いた時、最初に思ったことは「またか…」だった俺は悪くないと思う。
数日前に街で見つけた女を、また探してくれとなれば。
しかし、その依頼を持って来たサーシャの顔は苦々しいものだった。それを見れば只事じゃないのは一瞬で分かる。
「…何か、事情でも変わったか?」
「あぁ。しかも、ちょっと面倒なことになりそうな予感がするぜ」
「……マジかー」
こういう時のサーシャの予感はよく当たる。思わず顔を見合わせる、幼少期からその勘に助けられていた俺とハーマン、サウロの三人。
サーシャの横に立つラウを見るも、いつも通りの無表情、のように見えるが眉間に皺が寄っていた。
そして実際に調べてみたら案の定、その女---カレン嬢は、バナンス国内にいなかった。
どうやら誘拐されたようだとリンやケインの助けもあり判明した結果。
ーーー俺達は今、隣国サファリスへと向かっていた。
サファリスへと続く山道を、隊ごとに列を作って歩く。数刻前に中規模の商隊にすれ違ったのを最後に人の気配はなし。
といっても特別なことではなく、人通りがないのはいつものことだ。
今回の作戦に参加するのはサーシャとラウ、ジャックの第八隊、俺の第四隊、レンジュの第三隊とギースの第六隊から数名。サウロの第五隊は要請があり次第動く。
『スベイン』の主な拠点はバナンスだが、他国にも小さいながら拠点がある。属しているのはバナンス出身だったり、俺らと同じような境遇だった地元の人間だったり。
幹部になるには一度サーシャと面談は必要となるが、それでも他の組織と比べればかなり自由度の高い組織だとは思う。
だからと言ってーーー裏切りに対して寛大かといえば、そうではない。
裏切りやモグリのせいで、仲間が危険にさらされる可能性があるならば、速攻で排除されるだろう。
リンとケインは、最初から誰に頼まれて、どこに属しているのかがハッキリしていたから、そんなことはなかったが。今でも友好的に付き合っているし。
今回は王子の客が被害者とあってかリンとケインも駆り出され、その片割れのケインが俺ら『スベイン』と行動している。
今も先頭を歩くサーシャの横で、何やら会話をしながら歩いている。
俺としてはリンもこちら側で参加してくれれば嬉しかったんだが、アイツは騎士団側で動くことになっていた。
「あーあ。リンが居てくれねぇと、華がないんだよなー」
「まぁ、そういうなよ隊長」
独り言のように吐き出された俺の言葉にも、律儀に返してきたのは第四隊副隊長である男。このモイラスとは上司と部下、というよりは兄弟のような仲だ。
サーシャ達ほどではないにしても、モイラスは副隊長に指名するくらいには信頼している。剣の腕は良いし、頭も切れる。
そして何より、義理堅い。仲間を大切にし、頼りにしている。隊の仲間にも信頼されている。
こう言っちゃあなんだが、俺なんかよりも隊長に向いていると思うんだけどな。その辺、ジャックを隊長にって言うリンの気持ちも分からんでもない。
俺はサーシャについて行くって決めたが、騎士を辞めた時はまさか隊長をやるなんて思ってなかったからなぁ。
大切なものを守れる強さと立場が欲しくて、俺らは騎士になった。
だがーーー実際に騎士になってみりゃ、その立場が邪魔をして守れないものが増えちまった。
上司である隊長は上級貴族に媚びへつらい、仲間である同僚は貴族出身のお坊ちゃんばかりの軟弱者。親が危険な場所には向かわせないくせに、態度だけは御立派だった。貴族として、だが。
もちろんこの国の騎士が皆、俺達が配属されていた部隊と同じだとは思っていない。
……いや、違うな。昔はそう思っていた。
リンとケインが騎士団の仲間として潜入してきた、あの頃。まだまだ最近のことだが、随分と懐かしく感じるな。
そしてーーーその流れで出会った「死神」と呼ばれる騎士団と、この国の第一王子。
団長であるレイモンドは貴族とは思えないほど気さくな奴で、一度でも仲間と認識したら犯罪組織であったはずの『スベイン』の基地にも普通に訪ねて来た。
もちろん、信頼しているリン達が認めたから、というのも大きいだろうが。貴族としても騎士としても、それで良いのかと思わないでもない。
特に強烈だったのが王子なのは言うまでもないな。
お忍びで王子とレイモンド、ガントが『スベイン』を訪ねて来た日だって、王族に会うのだから緊張感もそれなりにあったんだ。
なのに、あの対応。サーシャも大概だと思ってたけど、王子も王子だ。
『諦めろ。アルが玩具を逃がすなんてあり得ないからな』
『玩具…』
『やだなー。手駒を増やしていくのも、王子としての僕の仕事とも言えるだろう?』
『そうだな。お前にとっての手駒諸々が玩具になるだけで』
『分かってるじゃないか』
いくら王子直属の騎士団の団長といえど、あそこまで仲が良いのも驚きだった。
聞けば、王子とレイモンド、そしてリンが世話になっているという公爵は幼馴染だとか。その繋がりで、リンとケインは『スベイン』の事件に関わった。
……ありがたい繋がりだが、こっちに被害が出るのは勘弁してほしいぜ。
そして王子の言葉通りに、私物の如く使われている。
まぁ、本当に彼の私事に使われているわけじゃないし、ちゃんと国の為になっていると分かっているのだから不満はない。
ないが、愚痴くらいは言わせてほしい。
カレン嬢を探しにいった時も、それ以外も、とにかく情報が少なすぎる。「見ればこれだ、と分かる女」で発見できたカレン嬢はマジで奇跡だろ。
今回もカレン嬢から見つかりに来てくれれば楽なんだが……さすがに、な。
「はぁ…どのくらいかかるかねー、今回の仕事は」
「早く帰れるよう、頑張ってくれよ隊長」
「うるせー」
忘れていたが、モイラスは妻がいるのだった。早く妻のもとに帰りたいのだろうが…。
彼女もいない身からすればムカつくので、とりあえず軽く足をかけてやった。真横で転んだモイラスは無視して、先を歩くサーシャとケインのもとへ。
頭領であるサーシャが何故先頭を歩くのか分からんが、今に始まったことじゃない。後ろに、なんて言おうものなら殴り倒されるだろうなー。
近くに寄ると、二人の会話が聞こえて来た。
「じゃあ、人の気配はなしか」
「あぁ」
普通の内容にちょっと意外感を抱きながら、俺もサーシャの横に並んだ。
「なぁ、サーシャ。今回の仕事はどれくらいかかると思う?」
「どうした、なんか用事か?」
「いーや、俺じゃなくて。モイラスが早く嫁に会いたいんだと」
「隊長! 聞こえてんぞ!」
肩を竦めてみせると、後ろから聞こえる怒鳴り声。
小さく後ろを振り向いてフッと笑ったサーシャが、腕を組んで俺の質問に答える。
「そうだな……ま、早くて1か月ってとこか」
「へぇ、結構短く見積もってんのな」
俺としてはもっとかかると思ってたぞ。早くても2か月とか。
ケインはどれくらいかかろうと別に気にしないのか、特に反応はなし。視線が遠くにいっているから、周囲の気配を探っているのだろう。真面目なやつだ。
しかし、俺と近くにいた奴らは意外そうな顔をサーシャへと向けた。
「なんか当てがあんのか?」
「いや……ただの勘だ」
「じゃあ確実だな」
即答に苦笑されたが、今までの経験からの言葉だからな。
暫くはそんな風にワイワイと騒がしく歩いていたが、あまりにも何も無さ過ぎて部下達が追いかけっことかして遊びだした頃。
先頭を黙々と歩いていたケインがピタッと立ち止まった。
近くをちょこまかしていたヴォントが、急停止に間に合わずその背中に衝突したがケインは微動だにしなかった。
「へぶっ……わわ、悪いケイン!」
「問題ない」
そういってヴォントの頭を撫でる姿はまるで兄弟のようだ、などと悠長なことを考えてる場合じゃねーか。
動きと口調に変わりはないが、明らかに目つきの違うケインにサーシャが問いかける。
「どうした」
「ここから暫く行った先…山に入った所に集落のような場所がある。そこから複数の殺気を感じる」
「……山賊かなんかってとこか」
しかめっ面になるサーシャに頷いてみせるケイン。思わず俺も目を眇める。山賊ねぇ……このご時世じゃ、儲かりようのない仕事だと思うがな。
あの王子付きになり仕事も請け負っている今、あまり他の用事で時間と労力を割きたくはないが…。
ーーー元騎士としては、黙っちゃいられねーよな?
「サーシャ。俺達がちょっくら相手してきてやるから、先行ってな」
きっと同じような思いを抱いているのであろう頭領に、そう提案してやる。
腕を組み、考えるように下がっていた視線が、俺に向いた。そしてニヤリと口角が上がる。
「ほぉ……俺も、そう頼もうと思っていたところだ」
「任せな」
こちらも不敵に笑ってみせる。サーシャの態度からは、微塵も俺らが負けると思っちゃいねーのが伝わってくる。
そんなに厚い信頼を向けられちゃ、答えてやんねーとな。
隊長である俺が勝手に決めたようなものだが、振り返った先の部下達は黙って頷いてくれた。モイラスは苦笑気味だったが。
こういう緊急の戦闘を担当するのは、本来ならジャックの第八隊なんだがな。まぁ『スベイン』は基本武闘派集団だから問題はない。
俺らだって負けると思って戦ったりなんてしねーよ。危機感を覚えんのはリンとケインくらいだし。
その相手は現在俺らの仲間なんだから、心配する要素なんてない。
ついて行こうか、と尋ねてきたケインには本隊に残って先導するよう頼み、その集落があるという位置だけを聞いて俺ら第四隊は仲間と別れた。
**********
ケインに示された方角へと駆け続けると、徐々に俺らにも殺気と喧騒の気配が感じられた。
それと同時に、風に血の匂いも混じり始める。
「隊長、どうする?」
「とりあえず、敵の数が把握できるくらいまで近付いてからだな」
横を走るモイラスにそう答えながら、頭の中では人数を想定して幾つかの戦闘パターンを考える。負けることは無いに等しいが、できれば怪我人も出したくないというのが本音だ。
その為には一番効率の良い攻め方で、一気に片づけてしまうのがベストだろう。
リンならこの距離なら一発で相手の数を把握できるんだろうなー。そう考えると羨ましいぜ、ホント。だが無いもの強請りしたところで現実は変わらん。
まずは、やれる事をやる。
「……よし、止まれ」
集落のものであろう建物が見え始めた所で、部下達を止める。全員、静かに様子を窺っている。
どうやら山賊達は無暗やたらと荒らす方ではないようで、数名が住人を中心に集め監視し、他の仲間が食料などを探すという方法をとっていた。
争った形跡はあるが死体は見当たらないし、大きな怪我をおった人達も見当たらない。
どうやら大事になる前に制圧されたようだな。変に荒事になるよりはずっとマシな結果だな。
気配を辿ると俺が探知できる範囲では、見張りに五人、探索に七人。思っていたよりも少ない数だった。
「なら簡単に終われそうだな」
「油断はすんなよ」
モイラスの発言に一応の釘を刺す。もちろん、お互い本気で言っているわけじゃない。
簡単に終われそうではるが、油断は禁物。しかし油断して負けるほどの力も感じない。ま、そんなところだな。
パッと見たところ、リーダーは恐らく見張りの中の一人。背が高く体格もしっかりとした、剣を抜き住人を警戒する四人に対し一人だけ腕を組んで眺めている男。
体格が良いっつっても、平均の少し上くらいか。背丈はケインと同じように見えるが、やはりアイツの方が鍛えられた身体つきをしていた。
伊達に俺も剣を持ってないからな。一目見れば、大体の力量くらいは推し量れる。リンには一杯食わされたが。
他の奴らも鍛えたというよりは、動ける身体つきという印象を受ける。構えた剣も下がり気味だし、まだまだ剣を握ってからの日が浅そうだ。
全員が簡単な装備しかしていないし、それほど大物の組織じゃなさそうだな。
前に一度、よその組織の末端をうっかり攻撃しちまって抗争にまでなったからなー…。あれはもう御免だ。
とりあえず、敵自体はそんなに広がっておらず、それほど難しい戦闘にはならないだろう。そう判断して、部隊も見張りの制圧と探索の捕獲に分かれるだけにした。
一応、モイラスには捕獲と共に周囲の警戒も頼み、俺は部下五名、モイラスが部下八名を連れてそれぞれ動きを開始した。
「おい、そこのおめーら!」
「あ?」
それなりの距離をあけた状態で、大胆に大声で話しかける。当然、そこに居る全員に注目され山賊には警戒された。
住人は新たに現れた俺らを他の山賊とでも思ったのか、更に顔を蒼褪めさせていた。
山賊の方は住人から俺らに剣先を変え、警戒しまくっている表情をみせた。そして、やはりリーダーと踏んだ男へと視線が集まっている。
男は俺らの存在にまったく気付いていなかったからか、驚きに目を見張った。短い時間で笑みへと切り替えたが、無理して笑っているのが分かる。
「なんだ、お前ら。ここは俺らが先約だ。他当たりな」
「はっ。生憎と、俺達はおめーらとは違って食いっぷちにそこまで困ってねーんだよ。なんなら仕事やってもいいぜ?」
「っんだと! 舐めた口ききやがって!」
「頭、よく見りゃコイツら、全員が俺らより下ですよっ」
下、とは年齢のことだろう。もちろん、俺らは狙って部隊の中でも若い年齢のやつを選んだが。
年下の、しかも生意気な口を聞く男を、年上で無駄にプライドが高い男は気に入らねーもんだからな。予想通りに引っかかりやがって、単純な奴らだ。
山賊達の物言いと態度から、更に大物の可能性はなくなった。まぁ、末端には入ってたとしてもこんな雑魚なら報復もしまい。
後々の面倒事がないと分かれば、遠慮する必要はねーな!
俺らを見て年下だと言った男を見て、ニヤリと笑ってみせた。
「あぁ、そうだぜ? おっさん達、怪我する前に降参しとけ」
「それはお前らの方だ! 俺らに歯向かって、ただで済むと思うなよ!」
そんな雑魚定番のような言葉を叫んで、帯びていた剣を抜き構えるリーダー男とその他。
構え方も全然なってねーな。独学であそこまで登り詰めたリンを見習ってほしいもんだ。ケインでもいいぞ?
俺が剣を抜くと、それを合図に部下五人も続く。その統率された動きに、山賊側が若干怯んだ気配。
俺らは元騎士がリーダーの組織。鍛錬だって騎士時代にやってきたものが基本となっている。
そうなると集団戦の訓練も、自然と騎士のような統率あるものになる。
今から後悔しても遅いぞ?
「んじゃ、お手柔らかに」
微笑を浮かべつつ、俺らは戦闘を開始した。
やはりというか、戦闘は半刻も経たずに終わった。山賊達は負傷者どころか、俺らにかすり傷一つ負わせられなかった。
俺らが山賊達を縛り上げている頃に、モイラス達の部隊も合流。こっちは奇襲をすることで戦闘すらなかったようだ。
「まさか、ここまで弱いとは思わなかった」
「同感だな。おめーら、ちゃんと鍛えてんのか?」
思わずモイラスと心配してしまうくらいの戦闘力だった。そういえば分かってもらえるだろうか。
手だけを縛られていたらしい住人達を開放してやって、念の為に家に入っているよう伝える。無くなっているものがないか確認も必要だろうしな。
「それでー? おめーら、一体どこのモンだ?」
「……」
「おいおい、黙ってちゃ会話になんねーだろー」
「誰がてめぇみたいなのと話すか!」
捕まっても威勢だけは相変わらず良いリーダー男は、そう怒鳴るとフンと顔を背ける。ったく、まるで子供の相手してるみたいだ。
俺らも先を急いでんだから、長居はできない。かと言って身元が分からないままだと、後々困る事態を避けられない。
「仕方ねーな……」
「あぁ? …っ」
「早く言わねーと、スパッとヤッちまうぜ?」
そう笑顔で言いながら、リーダーの首筋に剣先を突きつける。
顔を青くさせながらもダンマリを続けようとするので、軽く剣先を横に滑らせた。
「っ分かった! 言う!」
首にうっすらと赤い線が入っただけで、男は降参した。なんとも意志の弱い奴だ。
モイラスら部下達も呆れた視線を男に向ける中、その山賊と思しき男達のリーダーは。
「俺らは、サファリスにある『スベイン』の仲間だ!」
割と重大な事を暴露した。
……んーと? 聞き間違いか?
なんか『スベイン』の名がコイツの口から出たような気がするが…。
「おい、モイラス」
「…お、おう」
「コイツ、今、なんて言った」
「……言いたくねぇ。つか信じたくねぇ」
振り返らず問いかけた言葉は、モイラスによって遠まわしに答えられた。
つまり、本当に『スベイン』って言ったんだなこの男は。
………。
……………。
「はぁ……これは、サーシャに報告しねーとな…」
奴の負担を減らすつもりで買って出た厄介事が、更に厄介事になるとは。
さすがのサーシャも、ここまでは予想してないだろうな。
衝撃の事実に溜息をつく俺と、未だ信じたくないという顔をするモイラス達を見ていた山賊ーーーもとい『スベイン』サファリス支部の奴らは。
「な、何がどうしたってんだよ……」
と、展開される現実についていけず、呆然と呟いていた。コイツらも俺らの正体を知ったら驚くだろう。
だが、これは強調して言いたい。
俺らと、コイツらは、まったくの、別物だぁぁぁ!!!
とりあえず、リンに失望されてしまうよりサクッと始末しちまった方がいいだろうか。
さすがに軽蔑とまではいかないだろうが、少なくとも支部さえ統率できないのだと失望くらいはされるかもしれん。
それならバレる前に消しちまえば……。
「隊長、目が怖いぞ。あと剣しまえって」
「止めんなモイラス俺は殺る」
「落ち着けって、そんな勝手なことしたらリンどころか頭領にまでどやされるぞ!」
「問題ない、リンに失望されるくらいならサーシャだって殺るさ」
「なら頭領に報告してからにしようぜ! な!?」
全力で止めにかかってくるモイラスに、渋々剣をしまった。いやマジで、あのサーシャなら俺と同じことするだろ。
俺の剣幕に顔が真っ青だった男達も、剣をしまう俺に安堵の息をついていた。
そして落ち着きを戻したリーダー男が、怪訝そうに尋ねてくる。
「なぁ、お前らはさっきから一体何をそんなに騒いでるんだ?」
「……あー、そっちも聞いたら驚くぜ」
「だから、なんだってんだよ」
「……はぁ」
イマイチまだ状況を掴めていない様子の男達に、俺は諦めの溜息をつきながら話す。
「俺は『スベイン』本部第四隊隊長、アッシュ。コイツらは俺の部下」
「………は?」
「バナンスの所属だ。随分とやらかしてるみたいだな、兄弟?」
俺の言葉にポカンという表情をしていた男達。それでも意味を理解したのか、また徐々に顔を蒼褪めさせていった。
「バナンスの『スベイン』…?」
「あぁ。だがオカシイな? 俺の知ってる『バナンス』っていう組織は、山賊の真似事をするような集まりじゃねーんだが」
「いやこれはっ」
「それとも俺らと同じ名前の組織がサファリスに出来たか? どうなんだろうなー、モイラス」
「いや、そんな情報は上がってきてない」
「……んじゃ、コイツらは本当に俺らの仲間だと」
「……残念ながら、そういうことだ。諦めて現実を受け止めろ」
いや受け止めたくねーんだけど。割とガチで。
本気で嫌そうに顔を歪める俺らだが、さすがに今は誰も責められまい。
部下達もどうすればいいのかとざわつき始めているし、家に隠れていた住人達もチラホラとこちらを窺いだしている。
さすがに、今さっきまで脅威だった奴らと、それを助けた奴らが実は同じ組織の者でした、なんて知れたら本当にパニックなりかねない。
モイラスに部下と男達を連れてとにかくここから離れるよう指示し、俺は近くの家の戸を叩いた。
暫くして、中からそろそろと顔を出した中年の男に、できるだけ怪しまれないよう笑顔で接する。
「アイツらは俺らが近くの街まで連れていきますね。何か盗られたりとかは?」
「い、いえ!」
「それは良かった。では、俺らはまだ用事があるんで」
必要な事だけを言い、お礼を、という住人達の誘いを断り急いでモイラス達と合流しに向かった。
正直、襲ったのが『スベイン』の連中だと思うと住人の言葉はキツイ。申し訳なさ過ぎて泣けてくるぞ、まったく。
先に行ったモイラス達は、とりあえず山から出て最初に歩いていていた山道で待っていた。
「さて、とりあえずお前達には俺らと一緒に来てもらうぜ」
「い、一緒にって……」
「とにかくサーシャ…『スベイン』の頭領に会ってもらう」
「は!? 頭領って本当に存在したのか!?」
声を上げるリーダー男(ルーヴォというらしい)に、そこまで支部との関係は薄かったのかと実感する。
さすがに顔や名前を知っているというのは期待してなかったが、まさか「頭領は本当はいない」とまで思われていたとは。
しかし、こんな状態の奴らを見て、一つの疑問が湧いた。
サファリスからもたらされたカレン嬢の情報は、正しいのかどうか。
サファリス支部からは「カレンという女はいない」という報告が上がっているが、これが本当なのか怪しくなってきた。
こいつらは当然下っ端なのだろう。サーシャに会わないと幹部にはなれないからな。
それでも、この状態のサファリス支部がちゃんと機能しているのか…。
さすがに主犯となっているとまでは思っていないが……情報を隠している、もしくは偽っているのではないか。
その疑問は俺一人じゃ解決できない。だから急いでサーシャにこの話をする必要がある。できれば、サファリス国内へと入ってしまう前に。
確定はサーシャに任せるとしても、情報はほしい。
なので念の為、とルーヴォに尋ねた。
「お前ら、カレン・サマンシャルという名に覚えはないか」
俺の言葉に、ハッとした顔をするモイラス。彼も俺と同じ考えが浮かんだらしい。疑惑に溢れた視線をルーヴォ達に向けている。
そんな俺らの視線にルーヴォは居心地が悪そうに視線を泳がせながらも、ゆっくりと首を振った。
振った向きは、縦。
「あ、あぁ。知ってるぜ。最近、そんな名前の赤毛の女をエルリール男爵とかいう貴族のもとへ連れてったって話を聞いた」
「……やっぱりな」
思わず苦い表情になる。カレン嬢が「赤毛」という情報をこちらが伝える前に話したということは、その情報は事実なのだろう。となると、支部の幹部らは俺らに嘘の報告を上げたということ。
つまりは、裏切り行為だ。
ここまで大きな裏切りを、サーシャがどう対応するかどうか…。
まぁ、カレン嬢を探せという王子からの依頼は格段と成功する確率は上がっただろう。これが最後の仕事になる可能性も高くなったが。
一つの手掛かりの情報は、安くはなかった。
『スベイン』は今後、どんな未来を迎えるか。
次回は『頭領としての判断』
次はちゃんと早く更新します!本当に!




