隣国サファリス
本編に戻ります!
バナンス国レイラーク城内
廃屋で捕まえた怪しい男達を牢屋へぶち込んで、アル様とご主人の待つ執務室へ。
私と団長以外のメンバーは、いつでも出動出来るようガントさんの指示の下で動いている。
「そっか……やっぱり」
「あぁ。エルヴォンス伯爵の予想は正しかったな」
聞き出した情報を伝えると、アル様は溜め息をつきご主人は腕を組んで無言。二人とも厳しい顔つきだ。
そりゃあ、ね。王子の招いた客人が他国の貴族に拉致られた、なんて大問題。拉致られたカレンさん自身(の能力)にしても大問題。
戦闘能力はほぼ皆無のカレンさんだけど、あの能力は敵にとっては危険極まりない。
だって初見で自分の特技から弱点、闘い方までバレちゃうなんて。隠密部隊にとっては天敵だろうね。
一応、ご主人達の口ぶりからして秘密にしてはいるようだけど。人の口に戸はかけられないって言うし。
「サファリスの貴族って言ってたんだね?」
「はい。本当かは分からないですけど。ーーーところでアル様」
「うん?」
「サファリスってどういう国なんですか?」
他国なんて興味がなかったもんで、ご主人からもちゃんと聞いたことなんてないよ。
私の質問にポカンとした表情をしたアル様だけど、私の正体(異界人)を思い出して納得顔で頷いた。
「まぁ、君の立場からすれば興味がなくて当然だろうね。そうだな……フェリス」
「……なんだ」
「説明よろしく」
「なぜ私なんだ。お前が説明すればいいだろう」
「リンのお世話は君の役目じゃないか。それに僕の教育係りでもある」
もう昔の話だけど、とニコニコ顔のアル様はご主人をイジれて楽しい様子。ご主人は渋面でアル様を睨んでいる。
仕方ないよ、ご主人。長い間アル様はご主人と会えなかったんだから。
表向きは事件のせい、本当は面倒だからなんて理由、そりゃあご主人が悪い。
アル様に何かあったら駆けつけるに決まってるくせに、ご主人はツンデレだね。そんな私を睨んでも八つ当たり以外にはならないですよ。諦めて説明して下され。
アル様と共にニコニコ顔で見つめていると、深い溜め息をついて説明してくれた。
「……サファリスはバナンスの隣に位置する国だ。主に貿易で栄えている。バナンスがサファリスの、サファリスがバナンスの最大貿易先と考えてもらっていい」
「なら、仲は良いんですね」
「いや、そうでもない。最大貿易先ではあるが、貿易国としては競争相手のようなものだ。自国で作ったものを売るバナンスの方が、各国の特産物を集めて売るサファリスより優位といえるがな」
宿敵と書いて友と読む、ってこと? 仲は良くないなら友ではないか。どちらかと言えば共存相手かな。
バナンスは商業・工業が発展してるから、たとえ他国から輸入が出来なくても滅ぶ事はないってご主人が昔に言ってたっけ。
自然が豊かだから農業や漁業も周辺の村や街で行われてる。あの村でも農作物は作ってたし。肉も野生動物を狩ればいい。
アル様が引き出しから取り出した地図を四人で囲みながら、ご主人の説明が続く。
「ここがサファリスだ」
「あー、確かに。山も海も平野もあるバナンスに比べて、起伏の激しい地形ですね」
「そうだ。岩山が半分を占めているから、この国境内の半分しか人の住める場所はない。まぁ、自業自得の結果だがな」
「? 自業自得?」
地形は自然なものなんだから、自業自得とは違うんじゃ?
アル様と団長は知っているらしく、アル様は苦笑、団長は苦々しい表情だ。
ご主人も地図上のサファリスの位置を指でトントンと叩きながら、冷たい眼で睨みつけている。
「昔ーーー今のサファリス王が王位に着いたばかりの頃だ。その頃のサファリスは自然も豊かで、貿易を通して栄えてはいたが、自衛するだけの戦力が無かった。<商人の国>とも呼ばれていたか」
「平和な国なんでしょうね」
「そうだな。だが、サファリス王はそれを良しとはしなかった。これだけ栄えればいつか狙われる、そう思っていたようだな。
そして目を付けたのが、バナンスで作られる魔導具だ」
……なるほど。何となく分かった。
私の変化に気付いたご主人は、軽く頷いてみせた。
「サファリス王はバナンスから大量の魔導具を輸入して、国内にいる僅かな魔術師を城へ掻き集めた。そして魔術師達に魔導具を調べさせ、より強大な威力を発揮するよう改造を繰り返させた結果、確かに自衛するだけの力は得た」
「……その実験として、山を使ったんですか?」
「あぁ。サファリス王が攻撃系の魔術ばかりに力を入れたせいで木々は枯れ、作物の育たない土地になってしまったんだ。今も土地は死んだまま。
そのおかげで、旅の者が無自覚にサファリスに迷い込んでしまう事はなくなったがな。国境から向こう側は枯れ木ばかりだ」
へぇ……それって死者とか出なかったのかね。その辺に住んでる人も居たんじゃ…。
まぁ、他国の知らない人の被害は別にどうでもいいんだよ。
問題は、なんで団長が若干怒り気味なのかってこと。これ何かあったよね。ご主人から団長に視線を移すと、目が合った団長はサッと逸らした。
……おい、何があった。その反応は何かあったな⁉︎
ジーッと逸らされた団長の横顔を見つめてみると、暫くすると溜め息をついた。
「…分かった、話す。とは言っても、それほどの事でもないぞ」
「それほどの事じゃないなら、そんな顔しないでしょう。一応、団長なんですから」
「一応は余計だ。だが、本当に大した事じゃないぞ。犠牲も出なかったし、オレらがちょっと苦労しただけだ。
サファリスが自国の山を使って魔術研究をしていたと言ったろ? なんで、その影響がサファリスの国境内で済んだと思う?」
アレ? そういえば…サファリスは国内に僅かしか魔術師が居なくて、バナンスに比べても魔術関連は遅れてるんだよね。
魔術師の中に凄い人が居た可能性もゼロではないだろうけど……団長の言い草からして違うみたい。
あと考えられるのはーーー他国の介入?
「つまり、団長達が駆り出されたんですか。被害拡大を防ぐために」
「あぁ。バナンスからは騎士団、サファリス周辺の国は誰かしら阻止に向かわせていた。そのおかげで被害はサファリス内だけに留められたんだ」
当時を思い出しているのか疲労を滲ませる団長に、思わず同情の視線を送ってしまう。そりゃ災難でしたな。
しかもバナンスだけじゃなくて、サファリス周辺の国は皆が迷惑したと。
……これを機にサクッと消しちゃっても誰も文句言わないんじゃないかな。さすがに国は相手に出来ないけど、個人で徐々に減らしていけば…。
「おい」
「冗談ですよ」
まだ口にしてないのに睨まないでよご主人。ほら、アル様と団長は不思議そうな顔をしてるじゃないの。
それに元凶はどう考えても現サファリス王みたいだし。
にしても……現サファリス王から始まったんだよね? その魔導具での防衛策。つまり前王は違ったと。
側近とか貴族とか、止めなかったのか? それに他の王族だっているのに。まさか、まともだったのは前王だけとかないだろう。
国民への説明だってあるだろうし、批難集中じゃないの? 誤魔化して英雄譚にでもしてるのかもしれないけど。
アレか? 独裁政権か? 王様が全権を掌握しちゃってるのかい。民主主義国家出身者としては耐えられないね。
バナンスも確かに王族も王様もいるけど、王様が全部を決めるわけじゃない。国民、貴族、他の王族の意見もちゃんと聞く。
何代か前にはそんな輩も居たってご主人から教えてもらった記憶はあるけど、随分と昔の話らしい。
ご主人にそこんところ訊いてみると、溜め息をつきつつ頷いた。
「サファリス王に警告をしようものなら、即死刑だな」
「死刑⁉︎ そこまでですか」
「あぁ。かなり好戦的で、命を軽くみている傾向がある。他人の命はもちろん、自分自身の命もな」
「戦争になれば先陣を切るタイプ?」
「そうだな……少なくとも、魔導具実験の時は現場監督をしていたらしいが」
ワァオ、何やっちゃってんの王様! アンタは玉座で踏ん反り返ってるくらいが丁度いいんだから!
サファリス王の行動力に呆れていると、アル様も遠い目をしてシミジミ言った。
「あー、そういえば居たねぇ。王というより騎士のような格好で」
「へぇ……って、なんでアル様が知ってるの」
「なんでって……もちろん、僕もその場に居たからだけど?」
ちょ、何やってんのアル様。貴方も王族、次代の王様でしょ⁉︎
止めなかったのか、と団長を見るも諦め顔で首を左右に振った。なるほど、止めたけど聞かなかったのな。
ご主人もそれは聞いていなかったのか呆れた視線をアル様に向けるも、当のアル様は楽しげに笑っている。
「第一王子であり、騎士団総指揮長だからね。居ても不思議じゃないよ?」
「いや、そうなんですけど……でも少しは危機感を…」
「レイ達が傍に居たし、危険なんかないだろう?」
そりゃ、この国一番の番犬ですもんね。アル様自身も魔術を使えるらしいし。だからこそ、ご主人も呆れはしても怒りはしない。
まぁ…過ぎたことにワァワァ言っても仕方ない。今はカレンさんについて、だよ。
あの馬鹿達(不審者な男達のことね)は「サファリスの男爵が犯人」って言ってた。確か……エルリール男爵だったかな。
なんでカレンさんを拉致したのかは分からないけど、彼女の能力目的な可能性が高い。
………実は『幼女好き』もあるのでは、と思っていたり。無いとは言い切れないでしょ。
そんなわけで犯行目的は謎。でも犯人は分かってるから救出は可能。
問題はそれが、他国のテリトリーってこと。勝手に入れば犯罪です。
バナンス内で王都に入ろうとするだけで検問があるんだから、国境越えとなるとかなりの手続きが必要。
元の世界でさえパスポートとかあったからね。こっちでも当然、身分証明書は必要不可欠になる。
「私、持ってないですけど」
「僕がどうにかするよ」
「……へぇ」
こんな感じで私の身分証明書は問題ないらしい。エルヴォンス伯爵は外交担当らしいし、彼もどうにかしてくれるだろう。というか、してくれ。
そうそうエルヴォンス伯爵も呼ばなくては、ということで再び執務室に来てもらった。
さすがに私の正体を隠したままはキツイので、アル様から軽く説明してもらう。私はというと、ご主人の後ろで待機。身分的に話しかけれないんだもん!
「ーーーというわけで、この子は気にしないで」
「はぁ……まぁ、別に問題はないですが」
いやいや、そこは問題にしようよ。
という心のツッコミは表に出ることなく消滅。あぁ、話せないってツライ…! チラッとこちらを見た伯爵にニッコリ笑い返しつつ、内心はウズウズしていた。
その後、アル様とご主人からの現状説明を経て、エルヴォンス伯爵は厳しい顔つきで黙り込んだ。いや、考え込んだ、かな。
腕を組んで目を閉じた姿はなかなかカッコ良いのだが、沈黙が苦しくなる前に喋っておくれよ。
ご主人の髪でも弄ってようか、と思い出した頃にようやく伯爵は目を開けた。
「分かりました。そのエルリール男爵とやらについて、私も調べてみます。それと、彼女の身分証明書も」
「実はもう一人、男がいるんだよね」
「……承知しました。では、二人分をご用意しましょう。出来る限り大事にならないよう、あちら側とも話をつけておきましょう」
「助かるよ」
随分と仕事が出来る方のようだ。サクサク今後の方針が決まっていくよ。アル様も満足そうに頷いてるし。さすがは外交官。
私としては伯爵は一つ聞きたい事があるんだけど……誰か質問してくれないかな。
取り敢えず、団長をジッと見つめてみる。こちらに気付いた団長と目が合うも見つめ続ける。困った表情になっても逸らさない。
「……あー、伯爵。その、リンが話したそうなのですが」
ちゃんと意味を察してくれた団長が伯爵に声をかけた。よくやった団長!
団長の言葉に怪訝そうな顔のエルヴォンス伯爵が私を振り返る。
「? なんでしょう」
「あのですね……前にいらした時に『他国が関わっている可能性』を疑ってらっしゃいましたよね? どうして、あの時点でそれを予想出来たんですか?」
だってあの時にはまだ、カレンさんは完全に行方不明状態だった。伯爵自身、始めは行方不明を否定してたのに。
あの『スベイン』からの報告書からじゃ、他国の介入は予想出来ないはず。ただ王都内に居ないことだけは分かった。
頭の良い人の考えは私には理解出来ないのだが、よければ教えてほしいものです。
そしてエルヴォンス伯爵はというとーーー予想通りというか、不思議そうな表情で首を傾げた。
「あの報告書を見れば一目瞭然じゃないですか」
「……そう、なんですか…」
何がどう一目瞭然なんだろう……という疑問は心の中にしまった。
何やらアル様が可哀想なものを見る目を向けてきたので、一応ベーッと返しておく。
あからさまにご機嫌ななめを示す私に苦笑しつつも、アル様は伯爵に指示を出す。
「それじゃあ、よろしくね。あと、この事は他言無用で」
「心得ておりますよ」
それでは、と華麗に一礼してエルヴォンス伯爵は退室。ちゃんと今回もお見送りしたよ。
ご主人の隣へと戻り、取り敢えず一言。
「それで、どうやって分かったんですかね」
「…さぁ。僕にはちょっと」
「オレは彼ほどの頭は無いからな」
「……」
まぁ、作戦は開始されます。
ズバ抜けて頭の良い人って、思考回路が違いますよね。
次回は『作戦開始まで』




