嫌な予想
今回はスベイン側の話
とある森にて(アッシュ視点)
「お、戻ってきたんじゃないか?」
そんなハーマンの声に顔を上げると、遠くから駆けてくる馬が一頭。
王子からの依頼で「一目で分かる変人」を探して連れて行ったと思ったら、再び捜索依頼が。
迷子の名人か何かなのか、と呆れもしたが王子の命令を断ることも出来ない。
そして探した結果が、『王都内にいない』だった。
王子に呼び出されたサーシャ曰く、かなり深刻そうな顔つきだったからと『スベイン』の情報網をフル活用して探した結果だ。間違いないと断言してもいい。
そしたら報告に行ったサーシャに連れられ、何故か王都周辺の森の中に。
どうやら騎士団がリンとケインから特訓を受けているらしい。まぁ、気持ちは分からないでもないな。
唯一リンとケインの教えを受けていた第八隊のヴォントは、今では隊内でトップの実力だ。
以前、リンに尋ねられたことなんだが……リン達が基地に来た日、サーシャの近くにヴォントがいたのは単なる偶然。
サーシャ自身が護衛を必要としないし「邪魔なんだよ」と拒否。だからあの日、あの部屋にヴォント来たのが早かったというだけ。傍で聞いていたヴォントも腹を抱えて笑っていた。
まぁ、それはともかく。
獣道など物ともせず駆けてくるサーシャの姿を眺めていると、何やら後ろに乗せている。
あれは……ケインか?
俺らの居るところから少し離れた場所で馬を止めたサーシャを思わず訝しげに見る。
「よぉ、待たせたな」
「いや、それは別にいーんだけどな。なんでケイン連れてんだ?」
「リンから借りた」
借りたって……ケインは物じゃねーぞ。ケインも何普通に頷いてんだ。
呆れた視線を向けても不思議そうな顔。リンもそうだが、ケインも相変わらずだ。良いことではあるんだけどなー。
ラウがサーシャから手綱を受け取り、近くの樹へと結びつけている間にリン達との会話の内容を伝えられた。
つまり後から合流するから、それまでケインを使えって事か。サーシャと違ってリンは信頼からの行動だと思いたい。
「貸し出された」ケインは、今は一人離れた所で何やら遠くを眺めている。ボーッとしてるようにしか見えないが、視線が彷徨っているから何かを探しているらしい。
そういえばリンが「ケインの視力は凄いよ」とか言ってたっけか。どの程度凄いのかは分からないが、少なくともここに居る誰よりも優れてはいるのだろう。
チラリと視線を向けたサーシャも、ケインを面白そうに見ていた。
「それで、俺らはどうするんすか?」
腕を組んで無い頭を必死に捻っているタンクがサーシャに尋ねる。
今回は戦闘になる可能性を考えて、今いるのは俺の第四隊とタンクの第七隊、そしてジャックの第八隊。
ギースの第六隊は基地で情報をまとめ、それ以外は情報収集に当たっている。
ケインの周りには彼を邪魔しないようひっそりと第八隊が控えている。ジャックとヴォントも興味深そうにケインを眺めている。
「今の所、手掛かりは無いに等しいからな。ケインの奴の能力に賭けるしかねぇな」
サーシャの喋り方は相変わらず飄々としたものだが、その表情からは微かな苛立ちが覗く。多分、それに気付けてるのは俺とラウ、ジャックくらいだろうか。
俺とラウは長年の勘から。だがジャックは違う。幹部になれるだけあって頭のキレる男だ。観察力はもちろん、冷静に物を見る事が出来る。
この男が基地へ訪れた時、サーシャは珍しく面白そうにしていた。リンとケインが来た時のように。
『良い眼をした奴だな。面白い』
そんな理由で入れちまうんだから、懐が深いっつーか………。
だからこそ皆、サーシャに着いついく。あいつもそれを許してくれる。
「ま、気長に待とーぜ? な、タンク」
「ウッセェ! 諭すんじゃねーよ! 俺はガキじゃねー!」
「はいはい」
ポンと肩に手を置き、サーシャにまだ何かを言おうとするタンクの注意を俺に向ける。
俺とタンクの言い合いに苦笑したサーシャは、いつの間にか彷徨わせていた視線を一方向に固定したケインに声をかける。
「どうだ?」
「…ここから馬で10分ほどの所」
「そうか」
は? 馬で10分? サーシャも何普通に頷いてんだ。それって結構な距離だろ。見えんのかよ⁉︎
そう思ったのは俺だけじゃなかった。サーシャとケイン以外は全員、二人の間で視線を往復させた。
そんな俺らにケインは不思議そうに小さく首を傾げ、頭領は不敵にニヤリと笑った。
「誰から借りたと思ってんだ?」
「……あー、うん。納得出来ちまうわ」
リンだもんな。アイツの気配察知も野生動物以上だろ。
まぁ、リンとケインの超人能力はさておき。
どうやらケインが何かを見つけたようで、全員でそこへ移動。分かれた方が良くないか? と思ったが敵の姿は近くになかったらしいので一まとまりで歩く。
馬で10分となると人の足ではその倍以上は掛かった。それで疲れるほどヤワな鍛え方はしてないが。
到着したその場所で、見つけたものは。
「……なんだ、この鞄」
「俺達が探してる奴のものだが?」
「いや、それはそうなんだろうけどよ……なんかイロイロ飛び出してんぞ」
「武器だ」
「それも分かる……鞄自体がすでに武器と化している気はするが」
剣やら槍やら、俺の知らない異国の武器まで本当に色々な形の物が、収まり切らずに飛び出している鞄だった。
ジャックの驚きようは良く分かる。俺もあの女と初めて会った時に驚いたからな。
俺の部隊は前回の「変人を探せ」の時に見ているから耐性は出来てるが、初めて見た奴の衝撃は凄かろうに。
ただ眺めても意味がないと思ったのか、最も近くにいたジャックが鞄へと手を伸ばした。
そして持ち上げようと腕に力を入れた途端。
「ーーーうおっ」
という奇声を発して固まった。眼を見開いて手にした鞄を見つめている。
…なんだ? 何かあったか?
それをジャック以外が怪訝そうに眺めていると、顔を引き攣らせたジャックはタンクを手招きした。
「タンク、お前ちょっと持ってみろ」
「なんで俺が」
「いいからいいから」
途端に面倒そうな表情をするタンクの腕を引っ張り鞄の前へと連れて来ると、タンクも諦めて鞄を持ち上げようとする。
………が。
「……は?」
「一体何やってんだよ、お前ら」
「いや、頭領……コレ、持ち上がんないんすけど」
「…何言ってんだ。リンより小柄な女の荷物だぞ?」
「頭領も持ってみりゃ分かるさ」
ジャックとタンクの言葉に、呆れ顔のサーシャが試してみる。
「………」
「だろ?」
「コレを持ち歩いてる奴って、本当に女っすか? それ以前に人間かどうかも怪しい…」
片手で持ち上げようとしたサーシャが腕を伸ばした状態で静止。無言で両手に持ち替えるも、地面から僅かに離れたのみ。
頭領のちょっと無様……笑える姿に仲間内で鞄の回し合いが始まった。
おいおい、遊んでていいのかよ。王子から直々の命令なんだろー?
呆れはするが、鞄の重さも気にはなる。大の男が持てない鞄を持つ女ってのも恐ろしい。
……リンは持てないよな? 腕力とかが強いわけじゃないって自分で言ってたし。見た目は良いんだから、そこらへんは女っぽくあってほしいもんだ。
暫く鞄持ち上げ大会となったが、最終的に持ち上げたのはケインだけだった。
「……やっぱリンの仲間だな」
「? アンタ達も仲間だろう」
「あー、うん。そういう意味じゃねーわ」
不思議そうに首を傾げるケインよ、お前は正しくリンの仲間だ。同類とも言う。
鞄はケインに預け、今後の方針を話し合った。
「どうする? 見つかったのは鞄だけだぞ」
「何言ってんだ?」
「ん?」
「手掛かりはまだあんだろ。よく周りを見てみりゃあ分かる」
ニヤリと笑ったサーシャに促され、周囲を見渡す。少し開けた場所で、地面には上から舞い落ちた落ち葉やら枝やらが散乱している。
至って普通の森に見えるんだけどな……。
………。
……………。
………………あ。
「気付いたか?」
「…あぁ。つーか、よく気付いたな、あんなの」
集中して見てないと見つかんねーよ、小さ過ぎて。
他の奴らはまだ見つけてないのか必死に「何か」を探し出している。目の悪い奴には難しいかもなー。
ケインとジャックは気付いていたようで、何か小声で話している。重くないのか、みたいな事をジャックが訊いてるようだ。軽くケインが首を左右に振る。
サーシャは面白そうに部下を眺めるだけでヒントをあげるつもりはないようだ。アイツの性格も大概わる………うん。
5分ほどウロつきながら捜索していると、ようやくヴォントが発見した。
「あ、あった! これだろ⁉︎」
大声をあげながら地面を指差すヴォントに、苦笑するサーシャが頷いてみせた。
そこへワラワラと集合すると、ヴォントは地面に落ちている大量の落ち葉を退けた。
そこから現れたものに、最初はただの落ち葉の山じゃないかと怪訝そうにしていた奴らも眼を見開いた。
落ち葉の下に隠れていたのは、多数の馬の蹄と人間の足跡だった。
まぁ、俺らが気付いたのは下に隠れていた跡じゃなく、明らかに怪しい落ち葉の山。
考えてもみろ。こんな森の奥、人のいない場所で一箇所に落ち葉が積もるなんてあり得ないだろう。誰かがやったに決まってる。
その足跡は森の奥へと点々と続いていて、それがどこに向かっているかまで気付いたヴォントが険しい表情で隊のリーダーであるジャックを振り向いた。
「なぁ、この先にあんのって…」
「そうだ」
短い肯定の言葉にジャックの微かな緊張を感じた。
俺の隊とジャックの隊は全員理解出来た。が、タンクの隊はリーダーがアレなことから分かると思うが、隊員も馬鹿だ。
部下達は怪訝そうに足跡を眺め、タンクは自分だけ(リーダー格の中で)理解出来てないのが腹立たしいのか、俺に声を掛けてきた。
「おい、どういう事だよ」
「マジで分かんねーの?」
「ウッセーな! 分かんねーから聞いてんだよ!」
「それが人に………ったく。この先にこの国の街や村はない。つまり、国境だ」
俺の回答にも暫く難しい顔をしていたが、時間をかけてようやく飲み込めたらしい。顔を引き攣らせてサーシャを見る。
それに気付いているであろう頭領は、ただジッと森の奥を見据えていた。
ったく、話が難しくなってきたぞ。
口数が少ないだけで、ハーマンはちゃんと最後まで居るよ
次回は『捜索作戦開始』




