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非常識で常識的な彼女  作者: R
王都編
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30/69

意外な作戦

予告していた話の前に急遽入れました。

 さてさて、今日はルーベンス侯爵邸襲撃日ですよん。なので只今ルーベンス侯爵邸の門前。時刻は十一時頃かな。

 時計がないもんで、作戦開始は月が真上にきた時という、なんともアバウトな感じなんだよね。

 時計を見て動く習慣が身についちゃっていた私は、この世界に来た時かなり困った。太陽や星の位置で時間を確認するなんて、高校の地学の授業くらいだもん。

 今ではすっかり太陽や星を見て時間を確認する技が身に付いた。慣れって凄い。

 月を見上げていた視線を下げて、横に並ぶケインに向ける。


「そろそろかな」

「あぁ」


 お互い一言だけしか発しないけど、言いたい事は伝わってる。

 潜入から一週間だけど、多分、今夜で任務は終わると思う。襲撃については報告書にして昨日渡した。アル様達が読むのは今日だろうけど。

 それでもアル様ならすぐ行動に移すだろうね。行動力バリバリな方ですから。しかも今回はご主人もいる。

 ご主人、本当に宰相にならないつもりなのかなぁ。アル様とご主人なら最強コンビになるのに。そこに団長もプラスされるし。

 ……ちょっと、勝てる気がしない。何その無敵要塞。

 想像相手に恐れ戦いていると、ヴォントが不思議そうにこちらを見ていた。おおっと、幹部としての私の威厳がっ。

 元々無いものを心配しても仕方がないので、まだこちらを見ているヴォントに声を掛ける。


「皆の用意は?」

「準備万端! 早く始めたくてウズウズしてるぜ」


 嬉しそうな彼から、その奥に集っている部下に顔を向ける。表情はそれぞれだがビビってる奴はいないね。良い事だ。

 敵前逃亡ならまだ賢い判断と言えるけど、敵を前にして固まるのは論外。逃げるでも戦うでもなく、何もしないうちから諦める奴は始めから何もしない方が何倍も良い。

 仲間に迷惑をかけるのは良いけど、危険に晒すのは宜しくない。

 ジッと皆の表情を窺っていると、一人の男と目が合った。彼は気分を害した様子もなくニッと笑い掛けてきた。

 目の合った男は、私が来る前まで八幹だったらしい。恨まれるかなぁと覚悟していたのだけれど、実際に会ってみた彼は笑いながら握手を求めてきた。

 ポカンと男を見上げると、照れ臭そうにしながら。


「俺はリーダーってガラじゃなかったからな。逆に肩の荷が降りてありがたいくらいだ」


 そう言ってもう一度手を突き出してきたから、私も笑って彼ーーージャックの手を握り返した。

 ヴォントに加えてジャックまで親しげに私達と話すようになってから、他のメンバーも少しずつ喋るようになり。

 今では一緒にお酒を飲むこともある。あ、私は紅茶だったけど。

 ジャックに手を振るとその周りにいた人達も私に気付き、笑みを浮かべたり片手を上げたりしてくれた。

 うーん。潜入してみて思ったんだけど、『スベイン』のメンバーって良い人ばっかりなんだよなぁ。

 もちろんタンク達みたいなのもいるけど、彼らだって侵入者(私とケイン)に警戒しているだけ。

 出会ってまだ一週間だけど、私は彼らを「仲間」だと思うようになった。

 かと言って、私にとって最も大切なのはご主人を初めとした、これまで「神楽坂凛」という存在を受け入れてくれた人達。

 その人達にとって危険になるなら排除する。最悪、殺すことも躊躇わない。


「ーーーリン」

「ん? どうかしたの、ってちょっとっ」


 ケインの声に振り向くと、何故か無言で頭を撫でられた。驚いて彼を見上げると、静かな瞳が私を見下ろしている。

「事情」持ちであるケインには、私の考えが察せられたのだろうか。優しく撫でてくる手からは、落ち着けと言われている感じがする。

 暫くして、ケインが手を離してからニッコリ笑いかけた。


「大丈夫、心配してくれてありがと」

「ん」


 珍しく柔らかい微笑みを見せたケインに周囲の部下達がビックリしていたが、本人に気付いた様子はなし。

 ここに女性がいなくて良かった。基地内の女達も魅了してたもんな。ケインはもう少し自分の外見を自覚すべきだよ。


「さて、そろそろ行きますか!」


 パンパンと手を叩いて惚けている部下達の意識を戻す。男が男の笑顔に見惚れるんじゃない!

 ハッと我に返って気まずそうに顔を背けた数名に生暖かい目で見つめて追い打ちをかけつつ、腰にある剣に手を添えた。

 愛剣じゃないのが残念だけど、こればっかりは仕方ないよね。

 ケインも慣れない剣を片手に持ち、柄を軽く握ったり僅かに抜いたりしている。昨日の打ち合いも慣らすためだし。

 まぁ使い慣れてない剣だから負けるってこともないけど。そんな子供の言い訳しませんよ。

 周りを見渡すと皆の視線が私に向けられていた。一様にその瞳は期待をはらんで輝いているように見える。

 おー、やる気満々だね! でも一つだけ注意してほしいことが。


「はーい、注目ー」


 学校の先生みたいに手を上げて意識をこちらへ向けさせる。視線はともかく意識はもうバトルモードだからね。

 突然の行動にケインも含め首を傾げる人多数の中、私は今回の重要任務を伝える。


「サーシャからの指示で、私兵は殺さないように戦ってね」

「は? どういうことだ?」


 ジャックの訝しげな疑問の声に他のメンバーも頷く。そりゃそうだよね。私もこの指示には驚きを隠せなかった。

 今日の昼間に今回の作戦担当者であるアッシュ、タンク、私は再びサーシャの部屋を訪れた。

 昨日のうちにまた呼び出されることは分かっていたので、それ自体に驚くことはなかった………が、問題はその作戦内容。

 部屋に集合した私達にサーシャはサラッと衝撃の作戦を告げた。


「今夜の襲撃だが……殺しはやらねぇ」


 資料に目を通しながら言われた言葉を、頭でリピートして意味が浸透するまで数秒。


「はぁ⁉︎」


 叫んだ。バンッと思いっきり机に両手をついて叫んだ。私、ではなくタンクが。

 私はその場でアッシュと顔を見合わせ、サーシャの意図を探ろうと再び視線を前に戻す。

 部下三人からの疑念の視線を受けながらも眉一つ動かすことなく資料から目を離さないサーシャは、いつもの如く側に控えていた副官さんに手を振った。

 ちょいちょい、頭領。アンタからの説明はないんかい! 面倒だからって全部副官さんに任せるんじゃない!

 同じことを思ったのかアッシュも副官さんに憐れみの混じった目を向けた。お疲れ様です。

 タンクはと言えば、もともとおバカ……訂正、自分の感情に大変素直なので、回答を得ようと副官さんに詰め寄る。

 副官さんは慣れているのか少しうるさそうに眉を顰めながら教えてくれた。


「今回のターゲットであるルーベンス侯爵家は城に近い所にある。あまり長居をして騎士団に見つかっては元も子もないからな」

「それならいっそのこと、殺しちまった方が早いんじゃねーのか? 殺さずに戦うなんざ、そっちの方が面倒だろ」

「お前は返り血を浴びずに戦える自信があるのか? もし退散時に騎士団と遭遇しても、返り血を付けた服を着て言い逃れなど出来ん」


 なるほど。でもごめんね、遭遇する可能性大だよ。何てったって、私が情報をリーク済みだからね!

 もし騎士団と遭遇して、帯剣しているだけなら護身用で誤魔化せるだろうけど。返り血なんて付けて「ただの散歩です」とか無理がある。

 ルーベンス侯爵家が襲撃されたと知れれば真っ先に疑われるだろうね。

 こうした細かい注意が、今まで『スベイン』が捕まらなかった理由か。意外と頭脳戦派なんだね。

 副官さんの言葉に反論出来ずに、不満げな顔で黙り込んだタンクの肩をアッシュが引いて元の位置に戻した。

 ギロッとアッシュを睨むも文句は言わないタンク。やっぱし階級が上だからかな。アッシュが第四幹なのに対してタンクは第七幹。

 そういえば、『スベイン』の体系って騎士団に似てるよね。いや、犯罪組織ってこんなものなのかな。

 ここ以外の犯罪組織を知らないので正確には分んないけど、かなり統率のとれた組織だと思う。

 静かになったタンクを一瞥してから、サーシャが再び話し出した。


「今回はリンの腕試しでもあるから、私兵の引きつけは第八幹部隊に任せる。いいな?」

「もちろん」


 サーシャの挑戦的な視線に余裕の笑みで返す。殺さなきゃいいんでしょ? 余裕余裕。

 軽く承諾した私をタンクが馬鹿にしたように鼻で笑ったけど無視。馬鹿に馬鹿って言われて怒るなんて、それこそ馬鹿みたいじゃん。

 逆に満面の笑みをタンクに向けてやった。ありゃ、顔を赤くしてそっぽを向いちゃった。カウンターで怒るなよ♪


「リンの部隊が正面で暴れてる間、裏からタンク、正面左からアッシュが襲撃。食糧庫はここだ」


 机の上に何かを広げたサーシャに促され、近寄り覗き込んでみる。

 これは……地図、なのかな? 四角い枠の中に数個の小さい四角が描かれている。正門から左隅にある四角をサーシャは指差していた。

 つまりここが食糧庫なんだな。てか、よくご存知ですね。てっきり行ってみないと分からないのかと思ってたよ。

 アッシュとタンクは特に気にした様子もなく自分の持ち場を確認しているので、いつものことなんだろうけど。

 疑問に思わないのかな。何故に民間人であるサーシャが侯爵家の敷地内の地図を持ってるんだ。

 持ち前のカリスマ性を発動して、侯爵家の私兵を取り込んだとか? なんでもありっすね、サーシャ。

 チラ見したつもりが図らずも目が合って、愛想笑いしておいた。それでも彼は相変わらず、ニヤリと男らしい笑いを浮かべただけだったが。



「そんなわけで、殺しはなし!」


 昼間にサーシャの部屋で言われたことを簡単に説明すると、意外なことに不満が上がることもなく。

 それどころか「さすが頭領だよな」と感心していた。ある意味さすがだよ、頭領。

 ちゃんと注意事項も伝えたことだし。


「よーし、じゃあ行くかぁ!」

「おぉ!」


 あまり大きな声では騒げないので、小声で気合を入れ合う。ちょっと間抜けっぽいかな?

 ケインに目配せすると一つ頷いた。すでに剣を抜いて準備万端な模様。

 皆を見渡すとそれぞれ頷いたり口端を上げたりと反応を示した。

 さぁて、初の襲撃ですよ。いや、本当は犯罪なんだけど。しかしワクワクするじゃないか!

 私も剣を抜いて、一度深呼吸。

 そしてーーー


「たのもぉー‼︎」


 ふっ、やっぱこれだよね? アイアムジャパニーズ。

 サーシャには正門で注意を集めろ、としか言われていない。集め方なんて教わってないもん、我流で行きますよ!

 それに、やってみたかったんだよね(笑)

 突然叫び声を上げた私に部下まで驚いているが、今は放っておく。ケインを見習え、片眉を上げただけだぞ。

 暫く待っていると、敷地内から慌ただしい気配と騒ぎ声が聞こえてきた。

 なんだ、見張りは一切なしで寝てたの? 随分と杜撰な警備ですね。これは注意を集める必要もなかったのでは。

 呑気に私兵が起きてくるのを門の外で待っている私に、ジャックが心配そうに尋ねてきた。


「…なぁ、リンよ」

「んー? どうかしたの?」

「いや、どうかしたって………こんなとこで突っ立ってていいのか?」

「うん、もちろん」

「どうすんだ? 俺達は敷地内に入れてもいないんだぞ」

「これから入るから、大丈夫」


 おっと、どうやって? と言いたげな顔だな。

 まぁ、ちょっと見てなさいな。侵入すること自体は凄く簡単だから。

 だから私は第一目的の「注意を集める」を最大限に実行しようじゃないか。

 自信満々に言い切った私に更に訝しげな表情をするジャックとその他。

 その時、ケインが微かに剣先を揺らした。私もパッと正面に視線を戻す。

 見ると、奥の兵舎がある方向から松明の灯りと、バタバタという足音が聞こえてきた。やっとお出ましか。遅かったじゃないの。

 門まで駆け寄ってきた私兵達は、門の外にいる私達に気付くと顔を顰めた。

 大方、その辺のゴロツキか何かかと思われてるんだろう。彼らの位置からじゃ、部下全員は見えないだろうし。

 先頭に立っていた中年の男が一歩進み出て、面倒そうに頭を掻きながら怒鳴りかかってくる。


「おい、ここをどこだと思ってんだ! お前らのような民間人が来る所じゃねーぞ。さっさと帰りな!」

「うーん、それは無理な相談かなぁ」


 てっきりジャックかケインがリーダーだと思っていたらしい男は、当然の如く返した私に軽く目を見開いた後、小馬鹿にしたように笑った。


「お前が、リーダーか? 小娘」

「半分正解で、半分不正解」

「……どういうことだ?」

「ふふっ、秘密♪」


 楽しげに笑うと男は更に眉間にシワを寄せたが、眠たいのか早く対処することにしたようだ。


「それで、何の用だ」

「えっとね……襲撃? かな」

「は?」


 ジャックに確認をとりつつ素直に答えると、ポカンとした顔をされた。

 そりゃ、こんな面と向かって「襲いに来ました」なんて宣言する奴、普通いないよね。

 少しの間唖然としていた男は、今度は笑い始めた。忙しい奴だ。


「へぇ、襲撃ねぇ? 門の外から俺らを呼び出して、わざわざ教えてくれたのか。そりゃ有り難いことだな」

「じゃあ、お礼として開けてくれる?」

「無理だな、俺らも仕事なもんでな。ほら、分かったら早くお家に帰りな」


 完全にこちらを馬鹿にした言い草に、他の私兵達も笑い声を上げた。

 それにヴォントが踏み出そうとするのを片手を上げて止める。まぁ、ちょっと待ちなって。

 不満げに眉を寄せて、それでも一歩さがったヴォントに微笑んで、私は目の前の門を改めて観察する。

 ふむ。ご主人の屋敷の門に比べれば、やっぱり細い。これくらいなら、この剣でもいける。

 ケインに視線で問いかけると、その意味を理解した彼も目で了承してきた。

 自分の言葉に言い返せなくなったと思ったのか、私兵の男は嫌味っぽく言う。


「襲撃したいなら、出直すんだな」

「あ、それは無理。失敗とか許されないから」


 だってアル様とご主人が待ってますんで。団長だっているし、ガントさんに笑顔で凄まれるのも嫌だ。

 即答した私にまた馬鹿にした笑みを浮かべた男は、肩を竦めてみせた。暗に「やれるものならやってみろ」と言われたよ。

 うん、じゃあ乗り込みましょうか。

 ケインと顔を見合わせた私は、周りにいる部下達にさがるよう指示した。

 不思議そうに数歩さがった彼らにニヤリと笑ってみせ、門に正面から向き合った。その隣にケインも並ぶ。

 私達の行動が理解出来ないのか、私兵達も不思議そうな顔をしている。おいおい、止めようぜ警備役だろ。

 内心ルーベンス侯爵家の警備を本気で心配しつつ、お互い気配でタイミングを合わせ、剣を振り上げた。

 今だ、と思った瞬間、同時に剣を門へ振り下ろした。

 特に抵抗もなく通過した私とケインの剣。やっぱり脆かったな、この門。

 私達が何をしたのかまだ分かっていない周囲のために、私はニッコリ笑って門を軽く蹴りつけた。

 それだけで、あっさりと門は内側へと倒れた。私達の剣が通った所からスパッと綺麗に切れている。

 高さはちょうどケインの身長くらい。幅は人二人が余裕で通れるレベル。

 衝撃の事態に呆然と、門と倒れた門の欠片を交互に見る私兵……と、部隊メンバー。

 おーい、しっかりしろー。お前らが驚いててどうする! それにこのくらいの細さなら誰でも出来るって。

 ケインも同じように思っているのか、固まってしまった彼らを不思議そうに眺めている。

 ほら、ケインも当たり前って思ってるなら普通のことなんだよ。いい加減、戻ってこーい!

 そろそろ面倒になってきたので数回手を叩いてみた。あ、覚醒した。

 ハッと我に返った私兵達は未だ驚愕を滲ませているものの、ようやく私達を危険人物だと認めたのか剣を抜き睨みつけてきた。

 今更ガンつけても怖くないぞ。まぁ元から怖くないんだけど。

 剣が抜かれた音に反応したのか、まだ固まっていた部下達も剣を抜き構える。

 それを気配で確認し、私は一歩、敵陣地へと足を踏み入れた。


「さあ、遊んで下さいな」

リンとケインは普通じゃないので判断基準にしてはいけない。

これで部下達の信頼も上がるかな?

次回は『スベインの真実』

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