異世界に来てから現在までのお話
タイトル通り、主人公が来てからプロローグの直前までのお話。
はじめまして、神楽坂凛です。
今年から大学生になった私。今は異世界にいます。あ、西洋風だからリン・カグラザカで宜しく!
………。
いや、本当なんだって! 嘘じゃないよ!
気が付いたら何故か森の中。いつも通り通学していたはずなのにね。
謎の現象に混乱しつつ、せめてここがどこなのかは確認しようと思い森の散策(という名の散歩)をしていたら村発見。市町村とかの村じゃなくて、本当の意味での村、小規模住宅地。
どう考えても現代日本じゃないよなぁ、と不安になりながら門から出てきた見た目外人女性に話しかけてみたら、あら不思議。言葉が通じちゃいました。
それで軽い事情説明をしたら村長さんの屋敷に案内され。
フェリックス・アリンという名の村長さん。なんとまだ二十代前半の銀髪に薄紫の瞳をした美形さんだった。何故か額から左目にかけて大きな傷痕があったけど、それさえも良い感じにミステリアスな雰囲気を醸し出していました。
訳知り顔のフェリックスさん。一体何を言い出すのかと思っていると。
「ここは君のいた世界ではない。つまり、君は異界人なんだ」
……は? 今、何と仰いましたか。『異界人』?
勿論、すぐにはそんなこと信じないよ。
「いやいや、御冗談を。そんなSFみたいなことが起こるわけがないでしょう」
実はここは異世界なんです、へぇそうなんですか、なんて信じる人がいるものか!
…まあ、フェリックスさんやレベッカ(ここまで案内してくれた女性、フェリックスさんの妹さんだった)と会話しているうちに、ここが異世界だと認めざるを得なくなるんだけどね。それまでにかかった時間は二日。
もともと前向きというか楽天家というか、物事を深く考え過ぎない私はまずここで生きていくための知識から得ることにした。
フェリックスさんのスパルタ教育の成果で、この世界の文字(聞く・しゃべるは出来るのに読み書きは出来なかった)と一般常識を会得。
「せめて子供でも知っている知識くらいは覚えてもらわなければ困る。ヘマをして死なれても迷惑だからな」
と分厚い本を片手に冷たい視線を送られながらの猛勉強の日々は私の記憶から消えることはないだろう。
大学受験より勉強したと思う。
その次に問題になったのが、私の食糧。
「衣住は提供出来ても、毎日の食糧は無理がある。だからこの屋敷に留まる条件は食糧の確保だ」
屋敷といっても家具も調度品もほとんどなくて、苦労してますって雰囲気が来た時から漂っていたし、それに対しては文句なんてないよ。
でもここで問題が発生。この世界にスーパーなんて便利な物があるわけもなく、「確保」という言葉から食糧は狩りをすることが判明。
当然、もとの世界に狩りなんて習慣はない。生まれてこのかた、加工された食材しか目にしたことのない生粋の現代っ子です!
幸い幼い頃から剣道を習っていたことと私のちょっとした『事情』から狩ること自体に問題はないと予想。問題は狩る場所と獲物と武器。
説明に怪訝そうな顔をしつつ一枚の紙を手渡された。そこには「鍛冶屋 ヘルク」とだけ書かれていた。ここを訪ねろってことですか。
「そこにいる男を訪ねろ。もう話はしてあるから、私の名を出せば武器を調達出来るだろう」
すでに手回し済みでした。フェリックスさん、私に拒否権はないんですね。働くけどさ。
**********
そして訪ねた「鍛冶屋 ヘルク」では。
「お前がフェリックスの所に居候しているという異界人か! 俺はロウル・ヘルク、宜しく頼む」
ニカッという音が合う笑顔を浮かべたロウルさんは思わず「アニキ!」と呼びたくなるような人だった。
日焼けした黒い肌に、タンクトップのように袖を切り取ったシャツにズボンという、とてもラフな服装なのが主な要因。
室内には思ったよりもしっかりとした武器が並べられていた。剣だけでも様々な形の物があるし、装飾も凝ってる。
「ところで、お前は何か得意とする武器があったりするのか?」
そう言いながらもロウルさんの視線は私の身体を上から下まで眺めている。変態的なものじゃなくて、私の体格から合う武器を考えてくれているんだろう。
フェリックスさんから話しは聞いているみたいだし、ということは私が平和な世界から来たことも知っている。今の質問も念のためだろうね。
でも私もフェリックスさんに全てを話した訳じゃないんだよ。特に私の『事情』についてはね。
「私の背に合った剣ってあります? 出来れば細身で柄が長めの」
私がスラスラと答えながら店の中を物色していると、後ろからロウルさんの感心した声が聞こえてくる。
「ほう。フェリックスからは平和ボケした子供と聞いていたが、意外としっかりした娘じゃないか」
独り言みたいだけど、ロウルさん。聞こえてますよ。というかフェリックスさんもロウルさんにどういう説明しているの。私ってそんなにバカっぽく見えるのだろうか。
剣がまとめられている一角に向かったロウルさんは「そうだなぁ…」とか呟きながらゴソゴソしていたけど、暫くすると一振りの剣を持って出てきた。
「これとかどうだ? ちょっと長めだが、細身で軽い。お前の腕でも十分に振れるはずだぞ」
両手で受け取るとズシッとした圧がかかる。確かに剣にしては軽めだね。それでも十分に重いけど。
鞘から少しだけ抜いてみると綺麗に磨きかけられた刃が太陽の光を反射して輝いた。刃こぼれもないし装飾も控えめでシンプル。
「うん、気に入った。少し慣らしたいんですけど、練習場みたいな所ってあります?」
「おう。この時間帯なら村のガキ共もいるはずだぜ」
ロウルさんの案内で向かった場所には、腰くらいの高さの柵で囲まれた空き地があった。その中には同い年くらいの男の子達が数人いて、今は二人を囲んで皆が応援してる。賭けでもしてるのかな。
「おーい、お前ら! ちょっと場所を借りたいんだが」
「ん? アレ、ロウルじゃん。仕事はどうしたんだよ」
近くに座って試合を眺めていた一人がロウルさんの声に気付いて振り向いた。そして後ろに従えている私を見て目を見開いた。
「もしかして、ソイツがフェリックスさんのとこに居候しているっていう異界人?」
「そうだ。ちょっと慣らしたいんだと」
「へぇ……」
ちょっと、そこの男。何その馬鹿にした目は。しかもちょっと下心があるのバレてるから。減るから見るな。
「君、剣扱ったことあるの? 好奇心で来てるんなら、怪我しないうちに帰った方がいいよ」
「あら、あなたくらいなら三分以内で終わらせてあげるけど?」
ニヤニヤした笑いで話しかけてきた男に笑顔で言ってやる。「三分」の所を強調するのがポイント。
案の定顔がちょっと引きつったよ。女、しかも自分と同じ世代の女子に言われちゃ、そりゃ男としての(無駄な)プライドが許さないでしょう。そこを叩き潰すのが私だけどね!
「三分ね……。そこまで言うなら、俺と一戦手合わせ願おうか」
「怪我してもいいのなら」
おお、そろそろ額に青筋立てそうだよ。健康に悪いからちょっと落ち着け。煽ったのは私だけど。
鞘をロウルさんに預けて柵の真ん中に立つ。先ほど戦っていた二人も他の仲間に混じって、今は柵の外からロウルさんと共に観戦態勢。危ないのでロウルさんに頼んで出てもらった。
「謝るなら今のうちだぞ」
「先にケンカ売ってきたのはそっちでしょ。何、怖くなったの? なんならお友達にも参加してもらっても構わないわよ」
「…強気だな。まあ、傷が残らないようにしてやるよ」
あ、やっぱり下心が。私が負けた時には「俺の彼女にしてやるよ」くらいは言いそうだなぁ。
負けないけどね? 君が私のこと「ただの女」だと思っているのなら。
「じゃあ、二人とも構えて」
審判はロウルさん。戦闘の指導もしているらしいし、危なくなったら止めてくれるよね。
マルク・アロードと名乗った(尋ねてないよ? あっちが勝手に名乗ってきたんだ)男は軽く中段構えをとるのに対して、私は剣先を下に向けたまま。それを見たマルクは馬鹿にしたような顔をするけど無視。
「それでは………始め!」
ロウルさんの低い声が耳に届く。よし、じゃあ文句も出ないくらいに完膚なきまで叩きのめします!
右手で柄を軽く握って一度回して馴染ませる。うん、作りが良いからすぐに馴染むね。ロウルさん、良い仕事してます。
「敵を前にして随分と余裕だな。俺のことを馬鹿にしてるのか?」
「あれ、やっと気付いたの?」
鈍いなぁ、と笑ってやったら簡単に挑発に乗ってきた。本当に頭悪いな。
強く柄を握り直したマルクは剣先を私に定めて、一気に間合いを詰めてきた。へぇ、一応基礎はしっかりしてるんだ。
呑気にそんな感想を抱きながら一撃目を捌く。マルクは自分の攻撃を容易くいなされたことに驚いて、一瞬だけ足が止まった。
そして私はこんな初歩的なスキを見逃してあげるほど優しくない。
片足を大きく一歩踏み出して相手の剣に絡ませるようにして、軽く上に向けて力を加える。
それだけでマルクの剣はその手を離れて地面に突き刺さった。フェンシングの応用だ。
きっとマルクには私の剣の残像さえ見えなかったはず。それほど私と彼との技には差があるってこと。
最後の後押しとして鼻先に剣を突きつけると、マルクは「ひっ…」と悲鳴をあげて尻餅をついた。その瞳は試合前と違って恐怖一色。これだけ力の差を見せつけとけば彼も、その友達も私にこれからちょっかいを出してくることはないだろう。
パフォーマンスとしてロウルさん達がある場所に向けて深く一礼してやる。顔を上げると少年達は完全に固まっちゃっている。あらら、これくらいで驚いているようじゃ、君達もマルクと同レベルだな?
そんな中、ロウルさんだけは私に称賛の視線を送ってきた。
「素晴らしいな。これでもマルクは俺が直々に手解きしてやったんだぞ?」
「鍛え方が足りないのでは? 試合はともかく実戦では役に立ちませんね」
「ハハハッ! 容赦ないな。まあ、確かに俺は実戦向きの戦闘は教えてないからな」
所詮は子供の遊びさ、というロウルさんも中々の性格だね。本人達の目の前で「遊び」って言い切っちゃうなんて。
マルクに視線を戻すと、先程の体勢のまま地面を睨みつけていた。予想以上のダメージだったみたい。
彼の前にしゃがんで顔を覗き込むと、ビクッと肩を震わせた後に地面に向けていた視線を倍にして睨んできた。剣を扱っている私が睨んだくらいで怯えるとでも思っているのかね。
「はい」
そう言って片手を差し出すと、マルクはポカンとした顔で私の掌を見つめた。
「ば、馬鹿にしているのか!」
目の前で手を振ったらハッとしたように私の手を払いのけた。その反応に私は笑みを浮かべた。うん、良い反応だね。
手を払いのけられたのに嬉しそうにしている私に彼は怪訝そうな顔をする。
「な、なんだよ」
「いや、もしこれで手を取ったら君はもう伸びないなって思ってたから。負けた相手に敵対心を持ったままでいられるのは伸ばすことが出来る人」
だから頑張れ。ニッコリと笑ってやると、マルクは顔を真っ赤にして唐突に勢いよく立ち上がった。
あまりの勢いに呆気にとられていると、彼は顔を赤くしたまま私に向かって指を突きつけてきた。
「覚えとけ、いつか必ずお前に勝ってみせる!」
まるでどこかの悪党みたいなセリフに、今度は私がポカンとしてしまった。
最後に一睨みしてからマルクは背を向けて歩き出した。と思ったら数歩で立ち止まった。どうした?
「お前、名前は」
こちらを振り向かずに尋ねられた言葉に思わず笑顔になる。
あぁ、男の子だなぁと思って。
「リン。リン・カグラザカっていうの」
立ち上がりながら返すと、マルクはそのまま何も言わずに今度こそ立ち去っていった。
まあ、マルクとの初対面はこの辺で終わらせるとして。
私の実力を完全に信頼したロウルさんは、あろうことか私一人を森の中に放り出した。ロウルさんや、私は人ならともかく動物を相手にしたことはないのですが。
ちょっとドキドキしながら指定された場所を目指すと、まさかの熊発見。ちなみに何がいるのかは行ってからのお楽しみと言われた。全く楽しくない!
……フェリックスさんとの約束もあるから、ちゃんと狩ったけどね。腹が減っては戦は出来ぬと言いますし。
さすがに熊一匹を私一人で運ぶのは無理なので、一旦村に戻ってロウルさんに報告。ロウルさんが集めてくれた男の人達と談笑しながら熊を置いてきた場所に戻った。
熊にロープを括り付けるべく近寄っていくと何故か皆さんが立ち止まっていた。どうかした?
仲良くなったお兄さんが恐る恐る尋ねてくる。
「お前……コイツを一人で?」
「まあ。ロウルさんには『お前なら大丈夫だ!』とか言われたので」
え、この村じゃ熊狩りは珍しくないって聞いたんだけど。
そう言ったら全力で否定された。正確にいえば一部否定された。
「いやいや! 確かに熊を狩るのは珍しくないけど!」
「俺らが狩るのは小熊であって、こんな親熊のデカイのじゃないから!」
「まず小熊でも一人で狩るなんてことはない!」
口々に反論されたうえに化け物を見るような視線を送ってくる人まで出る始末。知らなかったんだよ、そんな情報聞いてない!
あんまりの反応に涙目になりお兄さん達に慰められながら、熊をロープで引きずって村へと帰還。とりあえず、私を見て大笑いしたロウルさんには跳び蹴りをお見舞いしておいた。
余談だが。熊狩りの報告をフェリックスさんにしたところ一瞬驚愕で固まった後「いつまでもいてくれていいんだぞ」とポンと肩に手を置かれて言われました。フェリックスさん、それってただの食糧調達者の確保だよね。
そんな感じで異世界にガッツリ馴染み中。以上、近状報告終わり!
次回は『山賊と騎士団』




