作戦会議
遅れてすみません。
私の『試験』の翌日、予定通りケインのも実行され、あと一歩で騎士達が殺されるところだったという何とも微笑ましい(?)事故はあったものの。
見事ケインも合格。必要性を説明したら納得顔をしていたので、騙していたと怒られることはなかった。まぁ怒ってるとこなんて想像出来ないけど。
そして王都到着から四日目。現在騎士寮の会議室的なところに私達は集まっていた。会議室と言っても、あの殺風景な部屋だけどね。
いつもはただの裏口への入口みたいな扱いなんだけど、何かあった場合テーブルやイスを運び入れて会議室として使うそうな。
そのイスにアル様、団長、ご主人、ケイン、そして私が座っている。ロウルさんは用事があるとか言って辞退。
ガントさんやその他の騎士団はテーブルの周りを囲むようにして立っている。
団員がドアの奥に誰もいないことを確認したところで、上座の位置に座るアル様が口を開いた。
「それじゃ、作戦会議を始めまーす」
「始めまーす」
あ、学生の癖が。アル様、その始め方はどうなんだ。返事をした私が言うのもアレだが。
騎士団はいつものことなのか苦笑、団長は苦い表情で溜め息。その半分は私にも向けられた感情だろうね。
隣のご主人にまで溜め息をつかれ、皆の反応に楽しげな笑みを浮かべるアル様を見る。
「ノリが良い子は好きだよ? リン」
「ありがとうございます。でもノリというより癖です」
「うん、どこまで本気か分かってないね。フィリスとレイが君を構う理由が、だんだん理解出来てきたよ」
「…? はあ…?」
ご主人と団長が私を構う理由? そんなの即答で「面白いから」でしょうよ。もしくは「同情」とかかな、いきなり異世界へ飛ばされた異界人に対する。
そういえば、アル様は私が異界人だということを知っているんだろうか……。
報告の義務があるんだし、きっと団長あたりが伝えてると思うけど。
あとで団長に確認しよう、と彼を見ると何故か難しい顔でアル様を睨んでいた。ご主人を窺うと同じことをしている。
アル様は幼馴染の反応も予想通りなのか面白そうにクスクス笑うのみ。
意味が分からずケインを振り向くと不思議そうな顔で三人を見ていたので流し、団長の後ろに立つガントさんに視線を向ける。
私の視線に気付いた彼はいつも通りの輝くような笑顔で。
「リン様、深く突っ込んでは駄目ですよ?」
「ということは、ガントさんは分かってるんですか」
「もちろん。私も貴女のことは好きですからね」
「…ありがとうございます…?」
最終的によく分からなかったけど、一応お礼は言っておいた。あれ、なんか団長とご主人が今度はガントさんを睨み始めたよ。全然効いてないけど。
ついていけない私とケインが顔を見合わせて首を傾げていると、役に立たない上司(アル様)に任せることを止めた団長が意図的な咳払いをした。
「ふざけてないで始めるぞ。今日はお喋りするために集まったわけじゃないからな」
「レイは真面目だなぁ。少しは遊ぶことも覚えようよ」
「お前は遊び過ぎなんだ、仕事しろ仕事」
……頑張れ団長。私は陰ながら応援してるよ、陰ながら。だって私が標的にされちゃ堪らないもん。
憐れみもこもった視線を送ると、また話が逸れ出していたことに気付いた団長が修正をかけた。
「まったく……。それで今日集まってもらったのは、先日フィリス達には説明したある案件について、力を貸して欲しいという話だ」
「その、ある案件というのは?」
前から気になっていたことを尋ねると、ガントさんが手に持っていた紙を一枚、私へ差し出した。
お礼を言いつつ受け取ると、何かの資料のようだ。これは……調査報告書?
横から覗き込んできたケインにも見えるように向きを変えて、書かれた内容を読み取る。この世界の読み書きを習っといて良かった。
ええっと………『スベイン』という組織についての話らしいね。
私達が資料をなぞり見ている間、同じ資料を持ったガントさんが説明してくれる。
「事件の発端は約一ヶ月前。男爵のハーネスト家の武器庫が何者達かによって襲撃され、武器数個を盗まれました」
「男爵家に武器庫があるんですか?」
「ハーネスト家は武器関連の外交を担当することがあるので、見本や試作品などが大量に保存されているんですよ」
「へぇ………計画的ですよね、それ」
「でしょうね」
事前にハーネスト家が武器を扱っているって知ってた感じだね。しかも男爵家だから警備も緩いだろうし。
でも武器を扱っているのなら、普通の男爵家よりは厳しいよな? そこを一介の組織が襲撃したうえに、成功しているなんて…。
ハーネスト家当主の面子は丸潰れだろうね! 無駄に高いプライドをへし折られて、可哀想に(笑)。
顔がニヤけそうになるのを必死に抑えていると、ガントさんが不思議そうに見ていた。いかん、治まれ笑い。
無理に抑えようとして逆に変な顔になってる気がするけど、こればかりは仕方がないよ。
「ハーネスト家襲撃以降、侯爵家や伯爵家の食糧庫が襲われていることから、こちらが本来の目的として捜査を始めました」
「それで見つかったのが、この『スベイン』なんですか?」
「はい。『スベイン』は今回の事が始めてではなく、今までに色々な事件に関わっている可能性があります」
「……可能性、ですか」
つまり決定的な証拠はないと。
あれか、犯人コイツだろって分かってるのに「証拠でもあんの?」とかドヤ顔で言う奴か。
再び資料に目を落とすと、そこには『スベイン』がこれまで関わった可能性のある事件が箇条書きに載せられていた。
しかも紙一面に隙間なく裏表書かれたのが二枚。どれだけ活発なんだ。
でもこれだけの容疑をかけられていながら一つも証拠を残してないなんて、かなり凄い奴らなんだね。
決定的証拠がない限り捕まえられないのは異世界でも一緒だもんなぁ。
しかもこっちの世界の方が科学的に遅れてるから、指紋とか血痕とか調べられない分、大変だろうて。
つまりは書類や凶器を見つけるか、現行犯でしか捕まえることが出来ない。
……レ、レベルが高い…!
まぁ私は戦闘員として呼ばれたんだろうし、頭脳労働のご主人に任せとけば大丈夫だろうけど。
そういえば、私とケインって正確には何をすれば良いんだろう?
いくら腕がたつとはいえ、一般人の集まりである『スベイン』が、国内最強を集めた騎士団に戦闘で勝てるとは思えない。
わざわざ私達が参加する必要はないよね? それどころか邪魔なんじゃ?
疑問が顔に出ていたのか、テーブルの上で手を組み合わせたアル様が声をかけてきた。
「どうかしたかい? リン」
「その……私とケインって、具体的には何をすればいいんですか?」
お恥ずかしながら頭はこの中ではあまり高くない方なんです。大学生だけど。
ケインも表に出さないだけで気にはなっていたのか、静かにアル様を見つめ答えを待っている。
私達の視線を受けたアル様は、何故か一瞬だけご主人をチラリと見て、私達に向き直った。
「そうだね。今回の作戦で一番危険で重要な役割なのは、君達二人になる。早めに教えておいた方がいいか」
「…? そんな重要な役割、私達で大丈夫なんですか?」
「うん。というか、君達が最も適していると思う」
笑顔で言い切るアル様。ご主人はそんな主を絶対零度の目で睨みつけている。まだ怒ってるんですか。
私が少しだけ呆れた顔でご主人を見ていると、アル様が更に爆弾を投下した。
「単刀直入に言うよ。ーーー君達二人には、この『スベイン』に潜入してもらいたい」
「……潜入…ですか」
それはまた……難しい任務ですね。
私とケインが驚きに固まっていると、音を鳴らして席を立ったご主人がバンッとテーブルに片手をついた。
「アル、貴様…」
「その資料を見れば分かるだろう、フィリス。『スベイン』は即急に片付けないとマズイんだよ。王家と騎士団の面子もかかってる」
「そんなもの、この二人には関係ないことだ。あの村で過ごしている分には何の影響もない」
「そうだね。でも君には関係あることだよ、アリン公爵。それにーーー」
公的な名で友人を呼んだアル様は、真剣になっていた表情を崩して、私に挑発的な笑みを向けた。
「リンは、フィリスの立場をしっかり理解しているようだからね」
「もちろんです。私のせいでご主人に害を及ぼすなんて論外ですから。なので引き受けますよ、その話」
ご主人の立場を危うくさせるような事はしませんよ。アリン家当主としても、宰相候補としてもね。
笑顔で即答する私にアル様は満足そうに、ご主人は怒ったような、でも困ったようでもある表情を浮かべて振り返った。
ご主人だって本当は手伝ってやりたいと思ってるんじゃないのかな。だって主であり、幼馴染だもん。困ったちゃんだけど。
私にとって大切な人の大切な人は、守らなきゃいけないライン内です。私自身も、アル様のことは結構気に入ってるし。
ジッと私を見ていたご主人は暫くして大きな溜息を吐いた。諦めて下さいご主人、私の性質なんで。
疲れた感じで座り直したご主人に、明後日の方角を眺めていた団長がホッとした表情で向き直った。それは団長だけでなく騎士団のメンバー全員。
いくら幼馴染でアル様がそれを許しているとはいえ、相手は王子。騎士としてご主人の行動を諌めないといけない立場なのだ。
でも個人的にはご主人の気持ちも理解出来るので、その解決方法としてとった行動が『なかったことにする』だったんだろうね。
思わず団長に労いの視線を向けると苦笑して頷いた。ご苦労様っす。
ご主人のことも肩を軽く叩いて慰めつつ、アル様に続きを促した。
「それで、潜入ってどうすればいいんですか?」
「そうだね……でもその前に、ケインにも訊いていいかな。協力してくれるかどうか」
「あ、そっか」
黙ってるからスッカリ忘れてたよ。偶には自己主張しないと!
左隣を見上げると、何故かケインもこちらを見下ろしていて、パチッと目が合った。
何か用だったのかと首を傾げると、特に何を言うでもなくスッと目を逸らしアル様に静かに頷いてみせた。
「リンがやるなら俺もやろう。俺もフェリックスには世話になっているしな」
「ありがとう。ーーー懐かれてるね、フェリス。羨ましいな」
「ならお前も森へ行けばいい」
………。
あ、ちょっと笑わないで下さいよ団長‼︎ ご主人も、そんなキノコ拾ったみたいな言い方やめて下さい‼︎ 確かに私もケインも森から出て来たようなもんだけどさ‼︎
ケインはイマイチ意味が分かってないのか不思議そうな顔をし、騎士団は苦笑、団長とサハラさんは肩を震わせ笑いを堪えている。
そういえば、私って戦闘訓練の依頼を受けてるんだった。よし、引き受けましょう。覚悟しなよ、そこの二人。
私が黒い笑みを浮かべると二人は引きつった顔で笑いを収めた。それが笑いを堪えているからなのか私への恐怖なのかは不明。
「話がだいぶ逸れちゃったね」
二人へ宣戦布告をしようと口を開くも、アル様の自然な一言で断念。くそぅ、せっかくの見せ場がっ。
ムッとした顔をアル様に向けると、優しげな微笑を浮かべ。
「今度会場を用意してあげるから」
「約束ですよ?」
よし、総指揮長からOKもらいました。これで逃げられないぜお二人さん。
団長とサハラさんから「裏切り者!」という視線を投げられても笑顔でスルーしたアル様は、手元の資料を手に取った。
「潜入といっても暗殺とか内部分裂をしてほしいわけじゃない。事件の証拠となりそうな書類や、組織の内情を流してもらいたいんだ」
「それだけでいいんですか?」
「基本は。一番良いのは現行犯だけどね、言い逃れ出来ないから」
私としてはリーダー暗殺とかの方が分かり易くて良かったんだけど。
なので馬鹿正直に伝えてみると、アル様は困ったような笑みを浮かべた。
「本来なら民間人である君達を関わらせるわけにはいかないんだ。だからあくまでも『騎士団が捕らえた』という事実を作らないと」
「それに俺らなら犯人を殺しても仕事で片付けられるが、お前らじゃただの殺人だ」
「なるほど」
殺ったら最後、私を捕まえなくちゃいけなくなると。それは困るね。ちょっとだけ残念に思っているとご主人に後頭部を叩かれた。
頭をさすりながらケインを見ると、気付いた彼に視線で先を促された。
「ケインもそれで大丈夫?」
「問題ない。だが……」
「ん?」
ハッキリと頷いた後に迷う素振りをみせたケインに首を傾げると、彼は私の耳元に顔を寄せた。言いづらいことなのかな?
「俺の体質が人間に影響がないと確定していない。それに、奴らが動物を使役していた場合、長期間の滞在はマズイ」
「人間に対しては私がなんともないから平気だと思う。でも動物か……」
自分でも精神的に問題があると思ってる私に影響がないなら、人間は大丈夫でしょ。でも動物……番犬(用心棒的な人ではなくリアルな犬)とかいるかな。
コソコソと私達が「事情」について話し合っている最中、幼馴染トリオは未だ私とケインが参加することについて議論していた。というか、ご主人がめっちゃ渋っている。
アル様と団長は、旧友の過保護っぷりに少々呆れているご様子。
「彼女達の実力は、フェリスが一番分かってるじゃないか。たとえ任務が本当にリーダー暗殺でもサラッとやり遂げそうだし」
「リンとケインが強いことと、危険な場所へ向かわせることは別問題だ」
「だが俺達じゃ潜入なんて無理だぞ? まず体格からして怪しまれるし、民間人には見えん」
「だからと言って、この二人じゃなくてもいいだろう。私は良いとして、二人は部外者だぞ」
「君が参加するならリン達もするだろうね、何があっても」
「……」
二人がかりでご主人を説得中。ご主人が言い負けるなんて珍しい。まぁ今回はアル様達のが正論だし。
そもそもご主人が感情論を口にするだけでも珍しいことだが、不満げなご主人を眺めるアル様と団長の瞳は呆れ以外に嬉しそうだった。
昔のご主人がどんな人物だったのかは知らないけど、初めて団長に会った時も「変わった」って言ってたっけ。
嬉しそうってことは良い方向に変わったんだよね? 良かった良かった。
盗み聞きの内容に内心安堵しながら、表面上ではケインの体質について悩む。
「うーん……でも犬程度なら狂っても処理出来るし、大丈夫だよ」
「…犬だけなら良いんだが」
「それは言ったら負けだよ」
日本には言霊というものもありますから。
私達が距離を戻したところで幼馴染トリオの議論も終わった。
アル様を窺うと、何故か呆れを通り越して生暖かい目でご主人を見ていた。それは団長も同様。
なんだろうかとご主人のことも窺うと、いつも通りの無表情。
途中から聞いてなかったけど、どうやらご主人がまた何か過保護発言したっぽいね。
何を言ったか気になるけど、取り敢えずアル様にご報告。
「ケインも了承しました。内情と証拠を流せばいいんですね?」
「うん。証拠さえ掴めれば、あとはこちらで対処出来るからね。それとーーー」
そこで区切ったアル様はチラッとご主人を見、苦笑気味に付け加えた。
「何かあった場合は即逃げることが二人を借りるフェリスの条件だそうだから、そのつもりで」
「粘りましたね、ご主人。了解です」
「無理はしない」
ご主人の「ご主人」らしい条件に、思わず笑ってしまった私と真面目な顔のケインは頷いた。
当の本人はふん、とそっぽを向いているけど、微かに頬が赤くなっているのが見えた。照れてるんですか、可愛いですね!
声に出していないはずなのにギロッと睨まれたので、今度は私がそっぽを向いた。反射神経が活かされる瞬間だな。
潜入方法については後日詳しい説明があるそうなので、今日はお開きとなった。
帰り際。裏口を通っている時に、隣を歩くご主人がボソッと呟いた。
「…すまなかったな」
「? なにがですか?」
何かご主人に謝られるようなことってあったっけ?
見上げつつ首を傾げると、前を見据えたままのご主人は続けた。
「今回のことだ。私が原因のようなものだからな。巻き込んでしまって、すまない」
「あぁ、そのことですか」
さっきのアル様の言葉を引きずってるのかな。
確かにご主人のため、というのが一番の理由ではある。でも勿論、それだけで動くわけない。
この任務がかなり危険なことは理解してる。ご主人が難色を示し続けているのも、それが理由だしね。
もし私とケインがミスを犯した場合、その責任の一端がご主人にいく可能性は十分にある。
なのに私が協力しようと思った理由は、私の性格の方を知っていれば簡単に分かると思うんだ。
前しか見てないようでしっかりと気配で私を探っていたご主人へ、ニッコリ笑ってみせる。
「謝ることないですよ。だって、楽しそうじゃないですか!」
「……は?」
「悪の組織ですよ⁉︎ 普通に暮らしていれば遭遇しないものの一つじゃないですか! しかもそこに潜入出来るなんて、人生にあるかないか!」
「……」
「そんなチャンス、逃すなんてあり得ないです! 楽しまなきゃ損!」
胸を張って言い切りますよ! もうワクワクが止まりません!
目を輝かせて潜入捜査に思いを馳せる私に黙りこくったご主人は、無言で止まっていた歩みを進めた。
ちょ、大股で歩かないで下さい! 身長と足の長さの差が!
…わ、私の足が短いとかじゃないからね⁉︎
主人公は仲間の命の危機以外は、基本「面白い・楽しい」でしか動きません。
次回は『いざ、潜入!』




