第二話 無力
15年前、東宮財閥の後継ぎである有希は生まれた。だが病気を患っているため、6歳の時から入院生活をおくっていた。
有希はベットの上で半身を起こし、唯一の友人である蔵沢葉瑠の言葉に耳を傾けていた。
「手術…しないのか‥?有希は…」
葉瑠は有希の7歳のトキからの友人で有希の事を誰よりも心配している。
葉瑠の色素の薄い髪は有希の漆黒の髪よりも遥かに鮮やかで有希はいつもうらやましいといっていた。
葉瑠の言葉を暫く聴いていたが途中で遮り有希は重い口を開いた。
「それでもいい。死んだら、きっとただの私でいられるから。もう東宮有希でいるのは疲れた。」
有希は葉瑠の前でだけは本音を言ってくれる。でも、それは葉瑠にとって喜べる言葉ではない。
葉瑠は振るえる両手をキュッと結んだ。
「俺は待ってるから。有希が元気になって、笑ってくれるの‥。」
葉瑠の顔は真っ赤だったけど有希はいつまで経っても葉瑠の気持ちに気付かなかった。
有希は生きる事を望んでない。だから俺のこんな言葉で有希の心が晴れるとは思えないけど、こんなことぐらいしか言えない。俺はあの頃となに一つ変わってはいない。何も出来ず逃げ出した無力なあの頃とおなじだ。
葉瑠はうつむき、有希の言葉をまたずゆっくりと立ち上がり病室を出た。病室には有希1人が残され風はただ虚しく騒いでいた。窓から見える景色は冬とは思えないほど鮮やかで有希は顔をしかめた。そして静かに目を閉じると少しだけ荒れた風の音に耳を傾けた。風達は有希に話しかけるかの様に優しく揺れた。
「風みたいに生きられればいいのに…。そしたらどんな言葉だってきっと信じられる…。」
風を鎮める様にそっと手をひろげて優しく微笑み有希は言った。だが有希の表情はすぐに悲しみにみちたものへともどる。
葉瑠が私の事を本気で心配してくれてる事は知ってる。だけど本気で心配して欲しいのは葉瑠じゃない…。葉瑠じゃない。あの人がここに来たら、私にとってこれ以上ない幸せ…。それは今のたった1つの希望…。
私の命も長くない。知ってて危険な綱渡りをしている。
「いつまでこの殻の中で生きればいいんだろう。」
有希は手帳の中の写真を眺めながらそっと呟いた。
私が私で無くなって10年の月日が流れた。手を伸ばしても届かなくてその場で足踏みしてる。




