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紅茶とパンケーキの美味しいお店

ほんわかした作品が書きたくて、書いたつもりなんですが、やっぱり何処か寂しくさせてしまうような作品になってしまいました。

ちなみに短い話が何個も続く作品になってますので、連載という枠で書きました。

楽しんでいただければ嬉しいのです!(´・ω・`)


 私は私の国を毎日のように散歩する。

 ここは、この場所は一日置きに色んな物が入れ替わる不思議な国。昨日友人になった人は今日はもういない。法律も毎日変わる。風景すらも変わる。店の場所も種類も毎日変わる、国じゅうが花屋さんになった時はそれはそれは花の良い香りがしたものだ。

 そんな不思議な国で私という存在だけが毎日変わることなく暮らしているのだ。

「ちょっと貴方、見かけない顔ね」

 花壇で水やりをしていたふっくらしたおばさんが私に話しかけてくる。

「ええ、はじめまして。でも私はここに暮らし始めて二年も経ちますよ?」

 いつも通りの返事を返す。おばさんは見覚えがないという風に首をかしげていたが、当たり前だ。今日は始まったばかり。私を知っている人間が居るわけがない。

 さて、今日はどんな人たちがこの国に住んでいるのだろう。

「では、これで」

 私はふっくらしたおばさんにそう言うと二年間歩いた道をまた歩き出した。

 今日の景色もまた変わった景色。街は珍しくにぎやかでストリートでは男と女が踊りをしている。

「今日は何があるんです?」

 私は踊りを観ている一人の若い男の肩を叩くとそう質問した。

「あんた、そんな事も知らないのか! ん? 初めて見る顔だな、旅人さんか何かかな? なら仕方ないよ、今日はこの街の名物『求婚祭』なんだよ。若い男と女が踊りながらここで将来のパートナーを見つけるんだよ」

「へーそうなんですか。貴方は踊らないんですか?」

 男が若かったのでそう聞くと「馬鹿な事を言うんじゃない! 君みたいな無礼な人とはもう話したくない!」と顔を真っ赤にして怒りだし、その場を去っていった。

「なんか悪いことでも言ったのかな?」

 私が首を傾げていると、私の肩を叩く人がいた。

 トントン、優しく二回肩を叩かれる。

 私が振り返ると、そこには優しそうな顔をしたお爺さんがいた。

「君、この国は初めてかね?」

 私と目線があったと思うと、そのお爺さんはゆったりとした口調でそう言った。

「いえ、この国に二年間住んでいましたが、こういう行事は初めてで……」

「ほう、二年間も住んでいて初めてかい……それは珍しい人もいたものじゃのう。この祭のことはワシが教えてやろう。だが立ち話もなんじゃ、ワシの店に来るといい」

 そう言うと老人はすたすたと歩き出した。

「よかった、今日もやることが出来た」

 そう言い、私はお爺さんの後を追いかけた。



 祭の行われているストリートから離れ、しばらく歩くと、お爺さんは一つのお洒落なお茶屋さんの前で立ち止まった。

「到着じゃ、ここがワシの店じゃよ」

「これはいいお店ですね」

 私が店を褒めると、お爺さんは少し嬉しそうに笑い、店の中の一番奥の席で座って待つように、と言い残して店の奥へと入っていった。

「本当にいいお店だなぁ……落ち着くや」

 店の中に入ると、すぐにはちみつの甘い匂いが鼻の奥をくすぐりパンケーキの食欲を誘い、その後に紅茶の葉っぱの匂いが香ってくる。外観もそうだったが、内観も相当に力を入れているようだ木材だけで組んだ店だけあって、店の中でも外の自然でお茶を楽しんでいるかのような錯覚を覚えることだろう。

 飾られている花や植物を眺めながら私は一番奥の椅子に腰掛けた。

 座ってからしばらくすると、お爺さんがいい香りとともに一番奥の席へとやって来た。

「お待たせして悪かったね。これはワシの店を褒めてくれた少しのお礼だよ」

 そう言いお爺さんは清潔さ溢れる木の机の上に、はちみつのかかったパンケーキと淹れたての紅茶を置いた。

「これを私に?」

 私はパンケーキを指差し、尋ねる。

「そうじゃよ。パンケーキや紅茶は嫌いかな?」

「いえいえ、大好きです。いただきます」

 そう言い、パンケーキを頬張った。はちみつの甘さと牛乳の甘さが口に広がる。

「美味しい……」

 もぐもぐと幸せそうに食べ続ける私をお爺さんは嬉しそうに眺め、私が食べ終わった頃に話しかけてくれる。

「さて、じゃあ紅茶を飲みながらあの祭の話でもしようか」

 お爺さんは私のカップにもう一度いい香りのする紅茶を注ぐと、話を続けた。

「カンタンに言えばアレは奴隷の男性と女性が次の奴隷を生むための儀式なんだよ。だからあの若者は君を怒鳴り散らしたわけじゃ。この街は昔から奴隷の扱いが特殊でね、奴隷に生まれたものは何かの才能を持っていない限りは生まれた瞬間から奴隷なんじゃよ、だから奴隷の間に生まれた子は生まれてすぐ奴隷じゃ……ただし五歳までに才能が認められた子だけは人の扱いが待っている。だが、その才能を生かした職にしか就かせてもらえんがね」

「もしかしてお爺さんは……?」

「そうじゃ、奴隷の子じゃよ。驚いたかい?」

 紅茶を一気に飲み干したお爺さんはなにを恥ずかしがることなくそう言った。

「え、ええ驚きました。全然そうは見えませんから」

「そうなんじゃよ、みんな人間。なのにどうして奴隷なんてものが存在すると思う? 簡単じゃ、自身を神か何かだと勘違いして人を操りたいと思う奴らが存在するからなんじゃ! それが悔しくて悔しくてな……同じ事を思っている人を集ってレジスタンスを組んでいるのじゃ、よければ君もワシと一緒にこの間違った世界を正さないか? げほげほっ」

 今まで欠片も感じなかったが、お爺さんは必死さを伝えようと声を荒げる。その後もずっとこの国の間違った場所を語り、王が悪いという説明を長々と話してきた。 

 たしかに今の国の奴隷の制度は正直おかしな所ばかりで納得出来るところは一つもない。今のままでは奴隷の人たちが可哀想だ。

「そうですね、奴隷なんてものを作った王は滅ぼされるべきです」

 そこで私は首を横に振った。 

「ですが、私は辞めておきます。ただ協力するということで、一つだけ情報を……今日は王様の騎士団の方々は秘密裏に遠征して警備が手薄ですよ」

 私がそう言うと、お爺さんは「本当にありがとう、君とお茶ができて嬉しかったよ」と言い、慌てて店の外へと駈け出していった。

「今日も変わった日だなー」

 私は呟き、時間も経って冷たくなった紅茶を飲み干すと、既に日が傾き始めている空を時折眺めながら、家路についた。



「王の首をたたき落とせ!!」「「うおーーーーーーーーーーー!!!!」」

 今日のお昼に知り合ったお爺さんの声が聞こえた後、何十人もの男女の声が響き、馬の蹄がストリートを駆ける。そして城の方から何かが爆発する音が響いて、家の窓をカタカタと揺らしている。どうもレジスタンスによる攻撃が始まったようだ。

「ふぅ、明日はどんな日なんだろう」

 私は外の喧騒に耳を傾けながら、今日のふかふかの布団を被った。








  

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