これが、正しき『悪役令嬢』の姿よ。——私に勝てると思うのなら、掛かってきなさい?
「いや、中途半端なことするからでしょ!?」
私——遠藤真帆は、チェーンの喫茶店でコーヒーを飲みながら叫んだ。
「……」
「あ、すみません……」
しまった。うっかり声に出してしまった。
周囲の視線を感じ、慌てて頭を下げる。
まったく、ゲームに腹を立てて公共の場で叫ぶなんて、我ながらどうかと思う。
気を取り直して、手元のスマホに目を落とした。
スマホゲーム『ルミナス・クロニクル ~聖なる勇者と平民の聖女~』。
通称『ルミクロ』。
七人の選ばれし勇者たちと共に、王国の脅威と戦う平民出身の聖女カテリーナ・プロッティの物語だ。
ジャンルは乙女ゲーム。
主人公はもちろん、カテリーナよ。
……なんだけれど。
この子に対しては、いや、攻略対象たちも含めて、言いたいことが山ほどある。
まず、カテリーナの口癖は『あたしは聖女なんだから頑張らないと!』だ。
その意気込み自体は結構だ。むしろ立派だと思う。
問題は彼女が頑張ると称して、あらゆる厄介ごとに首を突っ込むことだった。
……いや、あなたが首を突っ込まなければ、何も起きなかったんじゃないの?
そう思わずにはいられない事件が多すぎる。
しかも、彼女の行動が原因で問題が大きくなったことすらある。
それなのに、攻略対象たちはすぐに助けに入っては、
『やれやれ、カテリーナは放っておけないな』
などと言って、勝手に彼女に惹かれていく。
……頭の中、お花畑なの?
仮にも王国を守るために選ばれた者たちなのよ。
もう少し状況を見極めてから動いてもいいんじゃないかしら?
考えなしに突っ込む聖女と、それを全力で甘やかす勇者。
王国の未来が心配になる組み合わせである。
しかも、このゲームは恐ろしいことに、攻略対象と親しくなると主人公は彼らと肉体関係を持つようになる。エロゲーでもないのに。
まあ、ひとりなら。ひとりならまだ、分からなくもない。
乙女ゲームとしてどうなのとは思うけれど……まあ、恋愛の延長線上ということで。
問題は、基本的に複数人と関係を持つこと。
好感度を管理する乙女ゲームの特性が悪い方向に出まくってるのよね。
……聖女なのに? 性女ってこと?
それなのに、攻略対象たちが嫉妬で狂うことはない。
よほど変な行動を取らない限りは『カテリーナは魅力的だもんね♡』的なことを言いながら仲良く逆ハーレムを築いていくのだ。いや、おかしいでしょう!?
攻略対象たちは、揃いも揃って王国の貴族だ。
貴族にとって血統がどれほど重要なのか、知らないわけではないと思うの。
そんな性に奔放な女性を妻に迎えて、家を継ぐ子どもはどうするつもりなの?
まさか、全員で仲良く子どもの父親を譲り合うとでもいうの?
しかも、貴族である彼らには当然のように婚約者がいる。
王太子の婚約者を除けば、婚約者たちはこのゲームの良心だった。
彼女たちは、カテリーナを無闇に責めたりはしない。
ただ、攻略対象たちの過干渉を咎め、至極真っ当なことを言う。
『彼女は自分の意思で動いています! 本当にその意思を尊重したいなら、彼女ひとりで立ち向かってもらうことも大切なのではないですか!?』
『人は失敗から学ぶことだってあるのですよ!? 失敗しないように守り続けていては、彼女の成長を妨げることに繋がります!!』
『傷つけたくない、守りたい、とおっしゃいますが、あなたがやっているのはただの過干渉です!!』
『どうして彼女にそこまで入れ込むのですか!? 彼女の振る舞いが貴族にあるまじきことであることは、お分かりですよね!?』
『お願いですから、目を覚ましてください!!』
——本当にね。
私だって、何もカテリーナを責めればいいと言っているわけじゃない。
彼女が自分の意思で行動するなら、その結果を受け止める機会だって必要でしょう?
何でもかんでも周囲が尻拭いしていたら、いつまで経っても成長できないじゃない。
婚約者たちの主張は、本当に至極真っ当な意見だと思うわ。
なのに、彼女たちは最終的に婚約を破棄される。
可哀想に……って、むしろその方が幸せになれる気がしてきたわね。
あんな頭の中がお花畑になった男たちの妻になっても、苦労するだけだもの。
家を守るどころか、夫の尻拭いで一生を終える羽目になりそうじゃない?
「ここまでなら、単に主人公と攻略対象たちの頭が残念な乙女ゲームで済んだのにね」
このゲームには、もうひとり大問題児がいる。
王太子の婚約者であり、物語の悪役令嬢——ロザリア・アルボレードだ。
私は彼女こそが、レビュー平均☆1という驚異的な評価を叩き出した大元凶だと思っている。
王国を救うっていうシナリオは割と崩壊気味だし、主人公にも攻略対象にも腹が立つ。
でも、一番駄目なのはロザリアだって私は思うの。……何というか、全然魅力的じゃないのよね。
このゲームのラストを飾るのは、卒業記念パーティーでの断罪と婚約破棄、そして処刑。
正直、王国を救うっていう筋書きはどこに行ったのよ、ラストはそっちでしょと思わなくはないけど……まあ、断罪婚約破棄自体は、この手の乙女ゲームではよくある展開だ。
悪役令嬢が散々やらかした結果、婚約を破棄される。そこまではいい。
問題は、ロザリアのやらかし方なのよね。
ロザリアは聖女カテリーナの殺害を企て、紅茶に毒を盛る。
カテリーナは血を吐いて倒れるものの、自分自身が持っている聖女の力によって一命を取り留める。
……うん。殺人未遂ね。重罪よ。
断罪されて当然の行いだわ。
そこまでは分かる。
いや、分かりたくはないけれど、悪役令嬢が追い詰められて暴走する展開自体は理解できる。
でもロザリアは何を思ったのか、自分が主催するお茶会でそれを実行するのよね。……どうして?
他の貴族が彼女に疑いを向けるためにやったのなら、まだ分かるのよ。そういう策略もあるって思えるから。
なのに、ロザリアは毒を盛る相手を自分のお茶会に招くの。馬鹿なの?
証拠を残さないようにするどころか、わざわざ自分から「疑ってください」と言わんばかりの状況じゃないの。
もう少し考えなさいよ。それをすればどうなるかなんて、学園入学前の子どもでさえ分かることだと思うのだけれど?
あとは学園モノの定番どころ、主人公の私物が壊されるイベントもある。
カテリーナの持ち物は、とにかく頻繁に壊される。
もちろん、ロザリアの仕業だ。
ロザリアが自ら、壊しに行く。
……いや、せめて誰かにやらせなさいよ。
さらに、ロザリアはカテリーナを罵倒する。
わざわざカテリーナの教室まで出向き、クラスメイトたちが見ている前で罵詈雑言を浴びせるの。……単独で。
あのね、百歩譲って教室に乗り込むのはいいとして、せめて取り巻きを連れて行きなさいよ。
ぼっちなのかと思ったら、普通に取り巻きはいるのに。
他にも、体育祭の備品をカテリーナが壊したことにしたり、学園祭の屋台の売り上げを彼女が横領したことにしたり。
……どれもこれも、杜撰。
当然のように(プレイ時間5分程度で)攻略対象たちに証拠を押さえられ、ロザリアは糾弾されてしまう。
あれやらそれやらを積み重ねて、最終的に断罪婚約破棄からの処刑に至るのよね。
私物の破壊や罵倒だけなら、まだ言い逃れの余地はある。頑張ったら婚約破棄はやり過ぎだって流れに持って行けるかも。
備品破壊や横領に関しても……規模によるかもだけど、それでも処刑はやり過ぎ、で済むと思う。
でも、毒殺未遂があまりにも重すぎる。
そりゃそうよね。自分のお茶会で毒を盛った愚か者に、処刑以外の選択肢はないだろう。
ああ、もう!
本当に意味が分からない!
「私がロザリアなら、もっと上手くやるのに」
思わず、そんな言葉が口からこぼれた。
カテリーナを吊るし上げたい気持ちは分かるのよ。
でも、そこはもう少し周囲を見なさいよ。
そして婚約者である王太子にほぼほぼノータッチなのは笑うしかないわ。
そこに不満を吐露しているシーンはあったわ。ノータッチなだけで。
どうしてそこに切り込まないのよ。おかしいでしょう?
この手の乙女ゲームにおいては珍しい設定だけれど、ロザリアはそこまで王太子に入れ込んでいる様子はない。自分とアルボレード家の立場を気にしてるだけなのよね。
だったら、王太子との関係を見直すなり、周囲を味方につけるなり、やりようはいくらでもあるはずよ。
王太子の方をどうにかするんじゃなくて、何故か発想がぶっ飛んで何故か聖女を殺そうとするから取り返しのつかないことになるのよ。
……まあ、ゲームだから仕方ないのかもしれないけれど。
悪役令嬢が賢く立ち回ってしまったら、主人公たちが断罪する展開にならないものね。
それにしたって、もう少し何とかならなかったのだろうか。
「はあ……」
ネットで『ヤバすぎる乙女ゲー』と話題になっていたから、怖い物見たさで試しに遊んでみたのだけれど本当に大惨事だった。普通に時間の無駄だった。
攻略対象の顔がいいこと以外、褒めるところが見当たらない。
いや、顔がいいだけで許されるのは二次元だからこそだ。現実にいたら、絶対に関わりたくない。
よし。次はまともなゲームをしようと考えていた、その時——とんでもない、爆音が響いた。
全身に走る激痛。
視界がぐるりと回り、息をすることすらできない。
……え? 何が起きたの?
それを理解する間もなく、私の意識は途切れた。
*
「お約束とか、いらないんだけど……」
——死んだ。
居眠り運転か操作ミスか知らないが、喫茶店に突っ込んできた車に撥ねられて、私は死んだらしい。
いや、待って。乙女ゲームに文句を言っていたら車に轢かれて異世界転生?
どこのテンプレ展開よ。
しかも、目を覚ましたら見知らぬ広々としたベッドの上。
身体は妙に軽いし、部屋は見覚えのない調度品でいっぱいだ。
……まさか。
嫌な予感を抱えながら鏡を覗き込む。
そこに映っていたのは、見覚えのある顔だった。
——悪役令嬢ロザリア・アルボレード。
「いや、確かに『もっと上手くやる』とは言ったけれど」
誰が本当にやると言ったのよ。
勘弁してよね。
鏡台の上には、白い紙が置かれていた。
手に取ると、女性が書きなぐったような文字が目に入る。
『やれるものなら、やってみなさいよ。ちゃんとできたら、元の世界に帰してあげるわ』
『もちろん事故に遭う前、それどころか喫茶店に入る前にね』
「……」
ええー……?
ロザリアを馬鹿にしたから、ロザリアにされたってこと?
何その理不尽。
こっちはただのプレイヤーなんですけど。
私はげんなりした。
日付を確認すると、カテリーナの入学前日。
卒業記念パーティーという名の断罪劇の、約1年前。
そんなタイミングで、私はゲームのロザリアそのものになっていた。
「もっと早く転生させてくれたら、王太子と婚約しない方向に立ち回れたかもしれないのに」
いや、今さら嘆いても仕方がない。
過ぎた時間は戻らない。だったら、これからどうするかを考えるしかない。
問題は、置き手紙の内容だ。
これは暗に『ちゃんと悪役令嬢をやれ』と言っている。
最近のWeb小説で流行っているような、悪役を放り捨てた悪役令嬢になるわけにはいかないらしい。
レビュー平均☆1世界に居続けるなんて、絶対に嫌だ。
つまり私は元の世界に帰るために悪役令嬢ロザリアとして振る舞い、彼女以上に上手くやり遂げなければならない。
「まあ、1年あれば十分ね」
……仕方ない。
「どうせやるなら、徹底的にやってやろうじゃない」
初手でやることは、もう決まっているの。
私は部屋を出てロザリアの父——お父様に会いに行った。
*
「ロザリア、話がある」
カテリーナが入学して早々、王太子リッカルド・カルニメーオに呼び出された。
指定された場所に向かうと、開幕からイチャイチャしているふたりの姿を見せつけられた。
あー……プレイ中も思ってたけど、何これ? 何なの? この気持ち悪い光景。
リッカルドは、カテリーナを愛おしそうに見ながら、口を開く。
「彼女は聖女として入学したカテリーナだ。よくしてやってくれ」
「……」
原作のロザリアは、ここでリッカルドとカテリーナの両方の頬を叩く。
気持ちは分かる。分かるけれど、落ち着いてほしい。
初手でリッカルドに手を出すのも、カテリーナに手を出すのも愚かでしかないわ。
「あら、そうでしたの」
私は深呼吸をひとつして、にこりと微笑み、優雅にカーテシーをした。
「私はロザリア・アルボレードと申します。よろしくお願いいたします、聖女様」
「え……? あ、はい! よろしくお願いします!」
カテリーナは戸惑いながらも笑顔を返した。
うん。これでいい。
挨拶を済ませたら、さっさと立ち去る。わざわざ面倒ごとに首を突っ込む必要はない。
その後、誰もいない場所へ移動してから、私は小さく口を開いた。
「……ちゃんといるかしら?」
「はい。こちらに」
音もなく、黒装束の人物が姿を現した。
ロザリアの生家は侯爵家。身を守るための影が存在するのは当然だ。
私は昨日のうちに、お父様に頼んで影を付けてもらっていた。
学園に平民が入ってくる、ちょっと不安だと言えば、娘馬鹿で貴族至上主義のお父様は簡単に動いてくれた。
「ふふ、ありがとう。……当然、さっきの光景を見ていたわね?」
「はい」
本来、影は主人の身を守る存在である。
武力的な意味でも、情報戦という意味でも。
——そんな影を、私は別のことに使う。
「聖女カテリーナを監視しなさい。何かあっても、あなたたちは手を出さなくていいわ。見たこと、聞いたことを、きちんと記録してちょうだい」
「承知いたしました」
「それと、王家の影と鉢合わせた場合は、上手く連携すること。……いいわね?」
「かしこまりました」
大問題児ロザリアは、この手の存在を扱っていなかった。
王太子リッカルドも、少なくともゲーム内では使っていない。
実際には使っていたのかもしれないけれど、描写がない以上、念のため指示しておくに越したことはない。
レビュー平均☆1ゲー世界の住民とはいえ、彼らは侯爵家を守るために存在する影。
ロザリアの生家に仕えている存在というだけで心配になるけれど、影くらいは有能であって欲しい。
……お願いだから。
*
次の授業は、移動教室だった。
のんびり廊下を歩いていると、突然、後ろから声を掛けられた。
「おい! 悪女ロザリア! カテリーナに謝れ!!」
近衛騎士ファビオ・ロレンツォーニだ。
ファビオは私の肩を掴むと、強引に身体を回転させた。
……いや、向き合うようにしたかったのは分かる。
彼を豪快で男らしい人物として描きたかったのも分かる。
でも、この行動は流石にどうなの?
いくらなんでも、ありえないんじゃないかしら?
私はため息を吐き、ファビオから一歩距離を取った。
「急に何をなさるのです? いきなり女性の肩を掴むのは、礼を欠く行為ですわよ」
「女性!? ははっ! 悪女が女性、ねぇ……面白いことを言うじゃないか」
悪『女』って書いてあるわよ。
字も読めないの? 残念な人ね。
「ご用件がないのなら、私はもう授業に行きますわ。邪魔をしないでくださいまし」
「っ! お前……!! カテリーナの私物を壊しておきながら、白々しい……!!」
「そうです! あたしの私物は何度も壊されたんです!! あたしが王太子様と親しいことに嫉妬しているからですよね!?」
あらあら。
嫉妬で犯行に及んだと思っているの? 低俗ね。
私はただ、真ロザリアに売られた喧嘩を買っているだけよ。
あなたたちには興味がないのに、自意識過剰も甚だしいわね。
「何のことかしら? 私は何もしておりませんわ」
「嘘を言わないでください!!」
そうね。
嘘と言えば、嘘かもしれない。
けれど、私は直接何かをしたわけではないの。
噴水に物を沈めるようにと、最初だけそれとなく促しただけだもの。
——勝手にやったのは、彼らよ。私ではないわ。
「そこまでおっしゃるなら、何か証拠はありますの?」
「お前が誰かしらに命じたのだろう!?」
「その証拠は?」
「……っ!」
無いわよ。見つかるわけがないわ。
しかも実行犯を見つけていないのなら、絶対に無理ね。……愚かね。
「証拠は無いのですね? なのに、私を疑って掛かって……酷い話ですわ」
カテリーナの私物を、噴水の水に沈めさせる。
その実行役として目を付けたのは、カテリーナに想いを寄せている男子生徒たちだった。
……そんな愚かな男子生徒が何人もいること自体が恐ろしいけれど、細かいことは気にしない。
私は、顔のいい攻略対象たちに囲まれながら歩くカテリーナを遠くから見つめる男子生徒たちにそれとなく近づき、ハッキリ聞こえるように呟いた。
『あの噴水、水が随分と汚れているわね。あんなところに物を落としたら、ドロドロに汚れてしまいそう』
男子生徒のひとりと、偶然目が合ったように見せかける。
『あら、目が合ってしまいましたね? うふふ、雑談に付き合っていただこうかしら』
『あ、はい……』
『あの噴水、恐らく浄化装置が壊れているのだと思うのだけれど、水がドロドロになってしまっているの。あんなところに大切な物を落としてしまったら、悲しくなってしまうわ。そうは思わない?』
『そうですね。僕も、そう思います』
そして私は少しだけ頬を赤らめ、微笑んでみせた。
『ああ、でも……その中から自分の物を拾い上げてくれる人がいたら。そんな優しい人がいたら、嬉しくて惹かれてしまうかもしれないわね。……いいえ、みんなそうなるに違いないわ』
遠回しすぎて流石に厳しいような気がしていたんだけれど——行けてしまったのよね。
彼らはあっさりと、私の手のひらで踊ってみせた。
カテリーナの私物に、容赦なく手を出した。
しかも彼らは、私の予想を上回るほど賢く立ち回った。
実行犯は手袋を使い、犯行の時間帯も慎重に選んだ。単独では動かず、見張り役を複数名配置する。
その後、時間を空けてから噴水の前に集まり、
「なんだ、これは!」
「どうしてこんなところに!?」
「ひどすぎる! あんまりだ!」
……と騒ぎながら、沈めた物を取り出すのだ。
私物がなくなったことに気づいたカテリーナは、当然、噴水を見に行く。
そこで彼らが慰め、親切にすれば、カテリーナは彼らを頼るようになる。
彼女に頼られた男子生徒たちにとっては、まさに願ったり叶ったりだ。
恋は盲目、とはよく言ったものね。
当然のように、彼らは犯行を繰り返すわよ……だって、カテリーナが喜んでくれるんだもの。
その結果、彼女の私物は幾度となく壊れたようね。
犯人が見つかっていないのなら、現在進行形かしら?
あらあら、可哀想に。
『物』に罪は、無いのにね?
「もう一度申し上げますわ。私は何もしておりません」
私は本当に、何もしていない。
ただ噴水が汚れているという話と、もしもの話をしただけだもの。
「しらばっくれる気か! この悪女!!」
金属が擦れる音が、廊下に響く。
そしてファビオは鞘から剣を抜き、私に突きつけた。
はあ……攻略対象たちの中でも、ファビオは特に愚かなのよね。
近衛騎士という立場ゆえに、彼は帯刀を許されている。
そして、その権限を軽率に振りかざす。
原作のロザリアはファビオに剣を突きつけられるたびに怯えて泣き叫ぶのだけれど、私はそんな真似をするつもりはない。
「……」
剣を向けられたまま、私は首を傾げた。
カテリーナの間抜け面を見て腹が立ったけれど、今は目の前の騎士をどうにかするのが先だ。
「それは、我がアルボレード侯爵家に対する宣戦布告と受け取ってよろしいのかしら? ロレンツォーニ伯爵様?」
「な……っ!?」
ファビオは伯爵家の人間だ。高位貴族だから、学園内でも一目置かれているわ。
……でも、侯爵家よりは下ね。格下なのよね。
しかも、アルボレード侯爵家が爵位を賜ったのは、ロレンツォーニ伯爵家よりもずっと昔のこと。
新参の伯爵家が、由緒正しい侯爵家に宣戦布告?
笑ってしまうわ。やれるものなら、やってみなさいな。
「ねえ、ファビオ様。私はあなたに何かをしましたか? それとも、これは正当防衛だとおっしゃるの?」
「そ、それは……」
無機質なチャイムが鳴った。
それを合図にするように、私はファビオとカテリーナに向かって一歩踏み出した。
まさかそんなことをされるとは思わなかったのでしょうね。
ふたりは、慌てた様子で一歩下がった。
うふふ。いくらなんでも、勢い任せに斬りつけるほど愚かではなかったみたいね。安心したわ。
私だって、痛いのは嫌だもの。
それに、私は元の世界に帰るために悪役令嬢をやっているの。
それなのにうっかり死んでしまったら、お話にならないじゃない?
……あまりにも残念な相手すぎて、つい前に出てしまったんだけれどね。
相手が問答無用で令嬢を斬りつける愚かじゃなくて助かったわ。
さて、もうしばらくファビオを煽らないとね。
「弱き者を守るのが騎士だと思っていたのですが。どうやら、違ったようですね」
自分は悪女から聖女を守る正義の騎士だと思い込んでいるのでしょうけれど、残念。
今のあなたは、無抵抗の淑女に剣を突きつける野蛮な男にしか見えないわよ?
「ところで、決闘を申し込む時は相手に手袋を投げつけるのが礼儀ですのよ? そんなこともご存じなかったのですか?」
「っ、お前……!!」
遠くから、誰かが駆けてくる足音が聞こえた。
ふう……時間稼ぎは、これくらいでよさそうね。
「誰彼構わず剣を向けるだなんて、まるで理性のない獣のようですわ」
「黙れ!!」
あらあら。
足音が聞こえないのね。
せめて剣を下げていれば、印象も随分違ったでしょうに。
こんなところを見られてしまえば、退学処分まではいかなくても、短期間の謹慎処分くらいにはなるでしょうね。
あーあ、可哀想に。いや、全然可哀想じゃないけれど。
「はあ……理性のない獣のせいで、授業に遅れてしまったじゃない。どうしてくれるの?」
「お前のせいだろう!?」
「何度も同じことを言わせないでくださいまし。私は何もしておりません」
私は学園内で、礼節を守って振る舞っていた。
授業を真面目に受けるのは当然。予習復習も怠らず、積極的に発言し、授業後には教員へ質問に行く。
おかげで、教員たちからの評価は上々だ。
そもそもロザリアって悪役令嬢としてはポンコツだけど、次期王妃って立場はちゃんと理解していたのよね。だから、カテリーナが来るまでは真面目に頑張っていたみたい。
私はただ、それを貫いただけ。
それなら行動に違和感も生じないわ。
侯爵令嬢ロザリアは、どこまでも優秀な模範生なの。
……でも、そんな生徒がいつまで経っても教室に現れないの。
授業担当の教員が心配して様子を見に来るのは、至極当然のことよね?
「おい、そこの君! ロザリア嬢に一体何をしているんだ!?」
「!?」
ほらね?
ふふっ、この後が楽しみだわ。……この愚かに、どんな処分が下されるのかしら?
*
「お忍びデートに行って、それから、人気のない場所で……あ、もうよろしくてよ。大丈夫、ありがとう。あなたも言いたくないでしょう? ごめんなさいね」
聖女に付けた影からは、日々、あれやこれやと不快な情報が入ってきた。
いつの間にか私にも王家の影が付いているみたいなんだけれど、彼らが慌てて誰かに報告しなければならない罪を犯しているつもりはないわ。
——だって、私は何もしていないんだもの。
何かをするとしても、世間話のように、それとなく誘導するだけよ?
例えば、カテリーナが王太子の側近で攻略対象である宰相の息子、ジョヴァンニ・コンティと図書室で親睦を深めるようになった時。
私は教室に、古い恋愛小説を持ち込んだ。
それは今では市場に出回っていない、希少な作品。
他の令嬢たちから見えるように読みながら、視線を集めてから、さりげなく話題を振るの。
「実は私、先日から恋愛小説に入れ込んでしまって……皆様は、どんな作品がお好き? もしよろしければ、おすすめの本を貸し合ってみませんか?」
その結果、恋愛小説の貸し合いが流行した——表向きは、言葉通りの『貸し合い』なんだけれど、実際は『マウント合戦』よ。
今、書店に並んでいる作品ではいけない。
古く、珍しい本を手に入れ、それを惜しみなく貸し出す。
代わりに借りて帰った本は早く読まなければならない。
そうでなければ、話題についていけなくなってしまうからね。
結果として、女子生徒たちは皆、図書室に足を運ばなくなった。
そんなことをしている暇は無いし、わざわざ行かなくても読む本が目の前に現れるんだもの。
図書室に入り浸っていたから、カテリーナが流行に気づくのは遅れてしまった。
だから、他の令嬢との会話には全く入れなくなってしまったようね。
会話の中心は市場に出回らない希少な恋愛小説だから平民のカテリーナが入手することは困難だし、男子生徒はそもそも恋愛小説に興味を持っていないから、ジョヴァンニたちに助けを求めることはできない。
仮に彼らの伝手を使ったり、図書室で同じ本を探し出して大急ぎで読んでも、その頃には話題の本が変わってしまっているの。可哀想にね。
ああ、そうそう。
カテリーナが孤立してるのをいいことに、体育祭の時には他の生徒が「備品を壊したのは彼女だ」と、自分の罪を誤魔化すために彼女に冤罪を吹っ掛けたみたいなんだけど……私が命じたわけじゃないわ。勝手にそうなっただけだもの。
あとはカテリーナが攻略対象の教員チェーゼレ・ビアンキの研究室に入り浸るようになった時には、私は優等生としての顔を使い、フィールドワークを提案した。
直近で恋愛小説ブームもあったし、『流行』というものについて調べ上げたの。
その時はルビーを使ったアクセサリーが流行っていたのよね。だから生徒たちや教員とルビーの産出現場に赴いて現地調査を行ったり、宝石や装飾品の歴史を調べ上げたわ。
そして、その研究成果をまとめて研究発表会で報告したの。……すごく大変だったけれど、いい経験になったわね。
でも、この活動から置き去りにしてしまったせいで、攻略対象チェーゼレごとカテリーナは浮いてしまったの。
可哀想に。私たちは立派な賞を頂いたわよ。……あなたたちがイチャイチャしている間にね。
研究が大変だったからでしょうね。
カテリーナはどうも他の生徒に「サボり魔」だの「恥晒し」だの貶される羽目になったみたいだけど、知ったこっちゃないわ。
あと、後々チェーゼレに「侯爵令嬢が金に執着するなんてみっともない!」って言われたけれど、しっかり言い返してやったわ。
流行を追うことは大切よ。だって、国の経済に影響するものだもの。決してみっともないことではないわ。そんなことも分からないの? みっともないのは、どちらかしら。
カテリーナが俳優を志している攻略対象サルヴァトーレ・ダンジェロと親睦を深めるために校外の劇場に入り浸るようになった時は、私、学園祭で合唱コンクールを開催することを提案したの。
準備と練習のために放課後の音楽室は予約でいっぱいになり、学園全体が合唱の話題で持ちきりになった。……まさに青春。楽しかったわ。
そういえばカテリーナは劇場に入り浸っているだけで学園祭のために何もしなかったものだから、サルヴァトーレを巻き込むような形で酷い嫌がらせにあったらしいわね。
でも、私がそれをしろと言ったわけではないもの。勝手にそうなったのよ。哀れね。
サルヴァトーレには「学園内で盛り上がって満足するなんて、小さなことで楽しめて良いご身分だな」だなんて言われたけれど、貴族が何のために学園に通っていると思っているのかしら? 卒業後を見越して、他の貴族と交友を深めるためよ? 負け犬の遠吠えも良いところだわ。
この1年間で私がしたのは、
ブームの火付け役になったこと。
フィールドワークを行い、まとめあげた研究成果を報告したこと。
音楽コンクールの開催を提案し、学園祭を盛り上げたこと。
——ねえ、それのどこが悪いのかしら?
それなのに、相変わらず頭の中お花畑な攻略対象たちは私に突っかかってきたわね。
私、何も悪いことはしていないのだけれど? 随分とおかしなことを言うわね。
そして原作のロザリアがカテリーナをお茶会に招いて毒を盛る件に関しては、そもそもカテリーナをお茶会に呼ばないことにしたの。
案の定、『カテリーナを仲間外れにした』と攻略対象たちが私を糾弾しにきたから、
「聖女様は私が怖いようですので、お招きしてはご迷惑になってしまうと思いましたの。これ以上、怖がらせたくありませんわ」
……と、言ってやったわ。
カテリーナ本人は「そんなことありません!」と叫び、攻略対象たちも「白々しい!」と声を荒らげていたけれど、影たちはこの発言をどう記録してくれるかしら?
カテリーナが『ロザリア様が怖い』と訴え、攻略対象たちを私にけしかけてきたことは何度もあった。
なんなら攻略対象たちを盾にするようにして、私の前に現れたこともあるわね。
彼女を監視する侯爵家の影。
私を監視する王家の影。
これに関しては、仲良くしなくても意見が一致するんじゃないかしら?
*
——そして、卒業記念パーティー。
私は、断罪劇の舞台に立たされていた。
「ロザリア・アルボレード! 聖女カテリーナを孤立させ、虐げ続けた貴様の罪は重い!!」
「……」
「よって私、王太子リッカルド・カルニメーオと貴様の婚約を破棄する!」
王太子リッカルドは、隣に侍らせたカテリーナの腰に手を添え、意気揚々と宣言した。
あーあ、やっちゃった。
それをしなければ、私は何もせずにいてあげたのに。
「孤立させた? 虐げ続けた? ……何のことでしょうか?」
私は一歩前に出て、美しくカーテシーを決める。
「貴様! 置かれている立場が分かっているのか!?」
「婚約破棄ですか? ええ、異存はございませんわ。むしろ、こちらからお願いしようと思っていたくらいですもの」
「は……?」
細々とした反応なんて、もういい。
早くメインディッシュを味わわせていただきましょう。
私は、パチンと指を鳴らした。
控えていた従者たちが、次々と証拠を手に現れる。
市井を歩き回るために用意したと思しき、数々のお忍び服。
劇場や遊技場の類に出入りするためのチケットの半券。
もうこれでもかと出てくる、分厚い書類。
それらを見て、リッカルドとカテリーナが震え上がった。
ふたりだけではない。
周囲にいた攻略対象たちも、顔色を変えている。
「あら? 皆様、なにか心当たりがおありなのかしら?」
私は微笑んだ。
「ところで、揃いも揃ってどうしたのですか? まさか、私を公の場で断罪するおつもりだったのですか?」
誰も、答えない。
「まあ、困りましたわ。……私、何もしておりませんのに」
気分は、まさに悪役令嬢。
ねえ、ロザリア。分かるかしら?
——これが、正しき『悪役令嬢』の姿よ。
「……何を、するつもりだ」
リッカルドが、かすれた声で尋ねた。
「何を、とおっしゃっても」
私は首を傾げる。
「皆様が私を断罪なさるというのでしたら、まずは事実を確認するのが筋というものでしょう?」
従者のひとりが、束ねられた書類を差し出す。
そこには、王太子や攻略対象たちとカテリーナの密会記録、カテリーナへの貢ぎ物に使われた金の出処、そしてあれやらこれやらと、恥ずかしい行動の数々が記されていた。
私はそれを、淡々と読み上げる。
「そ、そんなものデタラメだ! ロザリア! 貴様は名誉棄損という罪までも犯すつもりか!?」
リッカルドが私に吠えたけど、私を庇うように前に出た従者は静かに一礼し、おもむろに口を開いた。
「残念ながら、王家の影からも同様の報告が上がっております」
その言葉に、リッカルドの顔から血の気が引いた。
……愚かね。
あなたに「デタラメだ」と言われ、逃げられてしまう可能性は先手を打って潰させてもらったわ。
カテリーナを監視していた侯爵家の影も、私を監視していた王家の影も。
彼らの行動をしっかり記録していた。
王家の影が私の行動を変に記録していないかは不安だったのだけれど、どうやら大丈夫だったみたいね。
いえ、聖女側のやらかしが酷すぎて、私の行動が霞んでしまっただけかしら?
私は、優雅に微笑んでみせる。
「殿下。婚約者がいる身で他の女性と幾度も密会を重ね、その立場を利用して国家予算を私的利用する。……これらは、王太子として相応しい振る舞いでしょうか?」
「黙れ!」
カツン、と革靴の音が響いた。
「おやめください、殿下」
リッカルドを制したのは、見覚えのある男性だった。
国王陛下の側近だ。
あらあら。
あなたも来ていたのね。
「その場で声を荒らげても、記録が消えるわけではございません」
周囲がざわめいた。
「な、なぜお前がここに……!」
「陛下のご命令です。卒業記念パーティーにて、王太子殿下が何らかの宣言をなさる可能性があると報告がございましたので」
うふふ。
王家も本気みたいね。
「それと、カテリーナ嬢」
側近は、今度はカテリーナに目を向けた。
「あなたに関する報告も、複数上がっております。聖女としての活動記録、公務への参加状況、貴族との交際関係について、確認が必要です」
「そ、そんな……! あたしは、聖女なのに……!」
「聖女であることと、行動に責任を負うことは別問題です」
素晴らしい。
侯爵家の影は、本当に彼らと上手く連携してくれたみたいね。
ちゃんと仕事、できるじゃない——私は思わず、笑みを深めた。
「ところで、皆様。私を断罪なさる理由は、何でしたかしら?」
黙り込んでいるリッカルドに代わり、ファビオが叫んだ。
「貴様がカテリーナを虐げたことだ!」
まあ。
よりによって、あなたが出てきてしまうの?
私に剣を突きつけた件で2カ月も謹慎処分になっておきながら、それを理由に婚約者に婚約破棄までされていながら、堂々と卒業記念パーティーに参加する恥知らずのあなたが?
そんなことをすれば、目立ってしまうわよ?
あなたが恥を晒そうと、私には関係のないことだけれどね。
「ファビオ様。お伺いしますが、私が具体的にどのような行為を、いつ、どこで行ったとおっしゃるのです?」
ファビオは言葉に詰まった。
「虐げた……ああ、そういえばファビオ様は、私がカテリーナ様の私物を壊したとおっしゃっていましたね。その証拠は? あなたが私に突きつけてきた謎の罪状は他にもありましたわね? そちらの証拠もまとめてご提示くださいませ」
「白々しい! 証拠などなくとも!」
白々しいのは、どちらかしら?
そんなことも分からないの?
「私は至極当然のことを言っているだけですわ。……まさか、こんな公の場で証拠もなしに私を糾弾する気でしたの?」
私は微笑んだまま、彼を見つめる。
「ところで、近衛騎士ともあろう方が、証拠もなく侯爵令嬢に刃を向ける。これは、騎士として相応しい行為なのでしょうか? あの時は聞けませんでしたが、改めてお聞きしますね。当然、納得できる理由を説明していただけるのですよね?
ファビオ様がそのような人物なのであれば、それくらい優秀な騎士なのであれば。証拠もなく侯爵令嬢を糾弾するのも仕方がない、妥当な行動なのだと言えるかもしれませんね……少々、無理はありますが」
「……」
「さあ、ご説明くださいまし」
ファビオの顔が、みるみる青ざめた。
説明なんて、できるはずがないわよね。だから、あなたは不名誉な謹慎処分も婚約破棄も受け入れるしかなかったのだものね。
……ふふっ、無様な姿ね。近衛騎士サマ?
「それから、カテリーナ様」
ファビオはもう放置でいいから、私はカテリーナに視線を移した。
「私があなたをお茶会に招かなかったことを、仲間外れにされたとおっしゃいましたわね?」
「そ、それは……!」
「私は、あなたが私を怖がっていらっしゃると伺っていたので、無理にお誘いしてはご迷惑だと思っただけですわ。怖いと思っている相手にお茶会に呼ばれれば、不安で不安で仕方がないのではなくて?
私がそんなことをされれば、恐ろしくて涙が止まらなくなってしまうわ。だから、お誘いしなかったのですけれど……それが悪いと、あなたはおっしゃるのですか?」
カテリーナは口を開いたまま、何も言えなくなった。
まあ、私が完全に潔白かと言われると嘘になるわね。それは、ちゃんと認めるわ。
私の行動のせいで、あなたがこれでもかと酷い目に遭ったのは事実だものね。
……けれど、あなたにそれを証明できるかしら?
あなたは確かに酷い目に遭った。でも、それはすべて結果論よ。
私が直接命令したわけではないし、皆が自分の意思で行動したことに変わりはないの——それでも私に罪があると、あなたは言い切れる?
「……さて」
カテリーナも、攻略対象たちも、誰ひとりとして口を開こうとしない。
私は、優雅に微笑む。
指をさして嘲笑ってやりたかったけれど、それは駄目よ。
私は無実の罪で晒された哀れな被害者だもの。嘲笑うなんて、あってはならないわ。
「まだ何かあるというのなら、おっしゃってくださいまし。反論はさせていただきますけれどね」
私はもう一度、美しくカーテシーを決めた。
「ですが、私の方も皆様の罪を告発いたします。もちろん、皆様に反論される覚悟はしております。それは当然の権利ですもの。どうぞ、遠慮なくおっしゃってくださいまし」
「……っ!」
相手が間抜けなのだから、そこはちゃんと利用しないと。
愚かな人間に愚かな手を打つんじゃ、お話にならないわ。
同じ土俵に立ってどうするのよ。
喧嘩を売ってくる人間がいるのなら、何が何でも上に立ちなさい。
相手が性女と頭の中お花畑の攻略対象たちだったからできたようなものだけれど……私は、完璧に振る舞ったつもりよ。
さあ、メインディッシュをいただきましょう?
お腹いっぱいになったら、さっさと私を元の世界に帰しなさいよ?
もし満腹になっていないというのなら、あなたの相手もちゃんとしてあげるわ。
「どうぞ、誰からでも受けて立ちましょう」
——私に勝てると思うのなら、掛かってきなさい?
『悪役令嬢』に転生した人が徹底的に『悪役』をぶちかます展開が書きたくて、つい……。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




