5:英明王リュート
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「その腐りきった状態を打開するために俺を迎えにきた…ってーことか」
英明王はそういい、一息つく。
少なからず彼は収穫を得ていた。一枚岩じゃあねえんだな、と。
目の前の二人は少なからず現状に不満を持っている。カードは此方から切っておくべきか、と。
「お前さんたちは俺を英明王だと思っているようだが、正確には違う。
いや、正しくもあり、違ってもいるというところだけど」
彼はそういうと後ろの老人、フォードのほうを指差して
「俺を召喚したのはこの爺だ。一応今までの王様と同じように神を手を借りたようだけど…違う神様にかりたようだからな。
ある意味別だ」
「それで…此方では召喚出来なかった、と?」
英明王は頷き、エリスに対し視線を向ける。
「だな。さっき話した以前のこともどこまで正しいかはわからない。
俺が知っているのは召喚された時にもらった基礎知識レベルだ。神様のほうのな。
ただ、お前さんたちが信仰している女神以外の神によって召喚された.それだけ認識しててくれ」
「は…はあ…」
エリスとリーシャは頷き、不承不承、といった感じで頷く。
そしてその様子に英明王は笑って
「二、三日まて。準備をととのえるから。ライル!」
「うい」
戸口をいきなりがらりと空けて男は顔を出す
「適当な泊まり処用意してやれ。この村に宿なんて高尚なものはないからな」
「…ここじゃだめなんで?」
「面倒だ」
ライル本人は気がつくよしもない。
目の前の二人が青年にとってたいそうな美少女であり、いろいろと安全策をとっているだけだと。
「ああ、適当に挨拶させておいたほうがいいかもな。
ここには女にひどい目に合わされて流れてきたものも多い。逆上されても困る」
「…仲裁役やれってことかい、リュートの大将」
「…できるだろう?デュークに協力してもらってもいい」
デュークとはこの国の元軍人。罷免された下士官の一人だ。
有能であり人望厚く、実質上部隊を一つ。大隊規模でまとめあげていた。
当然この国でそんなに有能な男性は、不興を買えば真っ先に拒絶される。
事実デュークは真っ先に罷免された一人だ。
女貴族にも人望厚いという話ではあったが良く知らない。この国の女は目の前の二人が初めてだったからだ。
「それでは英明「リュート」…しつ…はい?」
「リュートだ。即位も何もしていないのに王と呼ぶな」
「了解いたしました」
「はい。しつれいいたします」
二人の女性はその場を離れていく。そしてそれを見送ったあと英明王…リュートはフォードの方を見る。
「さて爺さん。準備を始めなければならないようだ」
その日の夜。
「つーわけで、現状報告を聞きたい。
そろそろ迎えもきてしまったことだし、動く必要があるだろう」
フォードの家。
昼間使者二人と面会したその家の中で、集落の顔ぶれが何人か集まってきていた。
「まずライル」
「あの二人はとりあえずデュークのオッサンのところに引き受けてもらった。
問題はその後だな。あの二人の部下だが
2名が森の中、結界付近。
10名が命令どおり野営している。残り8名は…」
「…伝令か」
低く声を発したのは中年のオヤジといった風情。
しかしその体躯は均整が取れ、使い込まれた鉄鎧が歴戦であることを物語っている。
使者二名を引き受けたデューク本人だ。
その言葉にライルは頷く。
「おそらく。引き取りにいくだけのはずだったのに一晩たっても出てこない。
まあまだ大丈夫でしょうがね。長く続けば兵士が増える可能性もあります」
「…行動自体は正しいのお…咎められるようなことでもあるまい」
フォードがそういえば次の報告を求める
「ここより馬で二日。西の村なのだがやはり山岳域に近いだけのことはあるな。山賊と合わさって領主襲撃すら考え始めている。元々ゴブリンなどの襲撃も多い地域だし戦闘経験が自信につながっているのだろう」
デュークが今度は報告を始める。
「目的は…子供たちの奪回だろうなあ…なんとしてでも止めろ」
「訳を聞いてもいいか?リュート」
内心同情していたのだろう。デュークは彼の方を見る。しかし答えたのはフォードだ。
「現在確認されておるのは人数の一致のみじゃ。
ゆえに無理に奪還に行ったところで罪をかぶらされるのがおちじゃろうなあ。
それに…外見と共に性格もゆがめられておるなら、洗脳ぐらいはされておるじゃろう。
主のために、とのお…打開策がなければ難しいわ」
「此方から協力を願い出よう。爺ならどうにかできるだろう?」
爺と呼ばれた老エルフ、フォードは苦笑浮かべつつ頷いてみせる。
「まあのお…どうにかしてやるわい…此方からなのじゃが…」
「どした爺さん」
報告を聞き、しゃべっているため喉が渇いたのか水を口にして
「あの二人、おそらくお前さんへの貢物をかねておるな」
激しく吹いた。
主人公の名前判明。
男性側協力者
ライル・デューク・フォードでそろい。