2:警戒
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【誰何】
その声に対して隊長娘がまず動いた。隊をとめる。
神官娘の方を見るが敵対行動をとらない。
余計に刺激するのは役目上避けるべき。そう隊長娘は思った。
自分達がこの場にいるのは王を迎えるためであって、争いに来たのではないのだから。
「我々は争いに来たのではありません。
シェリル国宮廷神官エリス=ノーティスの名において誓約します。
我々は争うことを望みません」
神官娘は声を放つ。
<<念話>>の相手は正確にどこにいるのかは不明。
ただ、<<念話>>が届く距離の中にいるのは確か、そうとしかエリスは捉えられない。
そして問題は…自分達を包むこの殺気だ。
いつでも殺せる。
そう思わせるだけの濃密なものを感じさせられる。
隊長娘も神官娘に続くように名乗る。
「同じく、近衛第一部隊中隊長リーシャ=マクノートン。
我々に貴君らに対して敵意はない。争いにこの地に来たのではない。
我々はこの先に役目を果たしにきたのだ!」
【ならば誘拐か。脅迫か
西の村で誘拐騒ぎがあったことを我々は知っている。
そして、ある女貴族の下に見目麗しい少年が増えたことを知っている。
誘拐された少年と女貴族の元に現れた少年の数は同数。
油断させ我らの元からも子供らを連れ去るというのか?】
―――なぜあの一件を知っている…
隊長娘…リーシャは内心歯噛みし、悔やむような表情を見せた。
一部の女貴族では平民、いわゆる貧困層などの少年を連れ去ることをなんとも思わない人間がいる。
それは女性絶対主義の汚点の一つであり困った点だ。
実際国家法の中で人身売買は禁止されている。
しかし「貧困からの保護」「教育」などを名目にし、ましてや貴族間で「交流」「養育費」などお名目をつけ売買が為される。
リーシャ自身よく思っていないし、おぞましいと言う行為だが存在するのだ。そのような行為が。
西の村は人口数十の小さな村。貴族が何かしてもどうと言うこともない。
何もいえず、何も出来ない。
「有り得ぬ」
自分達のふがいなさを振り払うように、リーシャは語気を強くはなつ。
「汝らの下に異世界よりの人間が居られるはずだ。
本来異世界からの来訪者は王として迎えられる。それがこの国のしきたりだ。
我々は彼を迎えに来た。彼に対し面会を願いたい!」
リーシャの言葉にエリスは彼女の方を見る。そして一つ息を吐くがどうにかなる、と。
そう楽観している。ごく、わずかではあるが。
【………いいだろう。汝ら代表二名のみ前へ進め。村への道を開く。残りは許さん】
―――妥当…ですね。
20とはいえ敵に回る可能性のある兵力。それを自分の懐に迎え入れるわけにはいかない。
尚且つ此方は敵意がないと表明したためエリスの側も否定することは出来ない。
否定してしまえば「拒否する理由がある」つまり、何らかの攻撃を起こすという風にも取れるからだ。
「有難うリーシャ。けど、あまり無理はしないで。引く事も重要だから」
「だが…あまり弱気でいてもしょうがないのも事実だ。
そのあたりの空気を読むのは苦手だがな」
そう、リーシャはくすりと笑うと馬を進めていく。
「では…先方からの要望により我々のみで進む。
お前たちは森の入り口で野営。何か伝達事項がある場合のみここまで来るといい。
彼らが察知しておくに進めるなり、彼らなりの対応を行うだろう」
女性兵士たちはその言葉に従い大人しく引き上げていく。
彼女たちとて理解できないわけではない。
王を迎えるという栄誉ある選抜部隊に加われただけでもある意味幸運なのだから。
彼女達が森の外へ引き上げたのを確認すると二人は奥へ歩みを進めていく…
「【ようこそ。我らの主の下へ】」
森を抜けたその先にある集落。その入り口に立った男は<<念話>>と共に己の言葉でそう告げた。
二人を迎え入れる言葉を。