16:追撃
16
「治療に動かせるのは何人いる」
「そう多くはない。フォードさまとエリスが中心となって指揮をしているが…」
戦場跡。
その中で敵の生き残りに治療、およびドワーフたちの治療に当たっていた。
だが状況は悪い。その以上ともいえる戦闘力の塊。それを目の当たりにしたからだ。
隠し玉も存在し、使う間もなかったドワーフの一党の戦意は揺らいでいる。
そう思われた。
「馬鹿か糞ガキ」
そんな言葉でいきなり迎えられた。
「俺たちはアレに負けた。それは事実だ。だがな?
負けっぱなしではいられん。アレには勝つ。それは確定だし優先すべきことだ」
そう言って笑い、腕をつないでいる仲間の元に歩いていく。
そんな状況を各種確認していたのだが。リュートにはある懸念が一つあった。
勝てるのだろうか。アレに。
南に存在する領主の館。
そこに攻め入るには少なからずあれともう一度やりあわなくちゃならない。
それを考えていた。打開策。封じる策。
少なくとも、足止めを行う策。それを行わなくてはならない。しかも。
十中八九改造されたただの子供だ。
彼らの元を考えたら彼らを殺してしまうのはいただけない。
殺さず、しかし沈黙させなければならないのだ。…あの戦闘力を相手に。
歩きながら悩んでいる。
そのリュートの姿を見かけ声をかけた姿があった。
「英明王閣下」
「アンタか。それは止めてくれ。それは英明王として即位するつもりはない
だからそう呼ぶな」
お定まりの台詞。
そんなことを話しながら、白い鎧に身を包んだ彼女がとなりに来た。
その背後に、彼女に率いられて最後まで残っていた男性兵士達だ。
聖騎士たちは一般的には白の武装。
鎧や法衣等の差はあれど白の武装で固めているのが圧倒的に多い。
聖騎士の仲でも前線に出て剣を得意とするものは鎧を。魔法を得意とするものは、法衣を身につけるというのが一般的だ。
「了解いたしました。ではなんとお呼びすれば」
「リュート。それでいいよ。で、なんだ?」
「彼らに関してです」
リュートは周囲に代表者を呼んだ。
治療中のフォード、エリスはともかくとして、ライル、親方、そして合流したデュークだ。
聖騎士を中心としてその前に座り込み、彼女の解説を聞く。
「彼らは作り変えられた子供たち。それは予想しておられますね?」
「ああ。どうにも無機質だし、あーいうタイプを育成するノウハウがあるとは思えない。
だとするならばあの体格からして子供たちだと思うのが一番だろうな」
聖騎士は頷き、言葉を続ける。
「ええ。彼らは現在領主の傍にお仕えしている少年達ですね。
彼らに戦闘能力を確実に持たせるためにそれまでの外見加工に加え…身体能力のリミッターを外したのが今の状態です。かつては薬物などもつかっていたようですが今では多くはありません」
「まあ、ないわけではないな
薬物のほうは私が軍にいた当時何度か手合わせをしたことがある。
意思捻じ曲げているうえで戦わせているからな。戦闘能力的にはひたすらに、早い。
そのうえ膂力も相応にあるからかなりてこずる」
口を挟んできたデュークの言葉にうーむとリュートは考えこんでしまう。
さらには、とデュークはさらに言葉を発す。
「薬品の場合は時間制限がある。薬品の効果が切れてしまえば…」
「ああ…」
言葉を濁すデュークに納得したリュートは軽く頷いた。
ろくなことにはならない。そしてその打開策なんだな、とリミッターの解除の理由を認識した。
自分を押さえ込むリミッター。
本来であれば安全のために押さえ込むであろうそれを外し、限界まで力を振るう。
それによって、ありえないレベルまで戦闘能力を向上させる
「そして彼らは寵愛を受けています。
治療術に関しては適切な対処をとられるでしょうから、生きてはいるでしょう。
そして意識をいじられ、彼らは領主のことを「ママ」と呼んでいます」
「ママ、か。彼らを傍に置き、見目麗しい少年をはべらせ、守らせる、か」
「貴族階級では両論ありますね。男を傍に置き守らせることに懸念を抱く家もあることはあります。
子供でも、男を使うのは男に頼らなくてはならない、家の力が低いと見られる、と」
「弱い立場にいるものをそばに置く、か。ヤダねえ」
リーシャの言葉にライルが頭を振って。よく思っていないことを示した。
「ですが特殊な能力、というのは持っていません。子供は子供なんです。つまり…」
「魔法を切ってるのはあのナイフというわけだなあ…」
聖騎士の言葉にリュートがかぶせるように言葉をつなげた。
そして聖騎士は、こっくりと頷いて見せた。
南へ。
進軍が不可能なものは集落に残留を願い、リュートたちは兵を動かした。
その間二日にはいくつかある。
デュークの持ち込んだ銃をチェックした親方はそれをセリスに渡した。
「こいつは普段から魔法を使い慣れてるやつのほうが効果がでかいだろうなあ。
調節、構築。経験が効くから使える程度のだんなよりはよほどいける」
「私としても同感だ。正直距離とって戦うよりは皆を率いて戦うほうが性に合う」
そんなことをデュークたちが口にして、それをセリスが持つことになったりした。
リーシャの持ち場からの移動、それをゆるしたフォードと軽くもめてみたり。
聖騎士の下にいた兵士たちと、元下士官達の中に見知った顔があり交友を深め合ったりしていた。
そして翌日昼には館に対するというところまで来た彼らであったが、そこにもたらされた情報はある意味、彼らの予想を超えすぎていた。
「領主の町では祭りが開かれています!」
「…………はい?」