15:初陣・洗脳・終結
15
領主からの撤退命令。
それが響いた時、リュートの周囲からは人が消えていった。
騎兵中心で構成されていた敵の部隊ではあったがその半数近くが壊乱していたがその中で撤退に動いた。
騎兵が、魔道騎兵がその場から離れていく。
しかし…その中で撤退しない部隊があった。
男性兵士の部隊だ。
「ここで逃げてたまるかあっ!」
「逃げたところで場所はねえ、逃げたところで命はねえっ!」
「ならば死に花咲かすのみ、俺らの意地に付き合ってもらうぞ英明王!」
彼らは口々に叫ぶ。
帰ったところで生きる意味はない。
帰ったところで生きる場所などありはしない。
ならば…ここで死んで、ほんの一時意地を張る。
まさに意地の結晶がそこにはあった。
「引け、ひくんだ。お前たちも!」
彼らに声がかけられた。
白い鎧、聖騎士だ。男たちは笑った。目の前の相手に亜人たちを前に彼らをひるむことはない。
ただ立ち向かう。
前にいた騎兵はいなくなった。
自分達が前衛だ。自分達が前にいる。自分達はここにいる。そう、彼らは思った。
「さあ見ろ世界!さあ見ろ女ども!ここに意地を張らせてもらう!」
前進。
正面に突き出し男性兵士たちは奮戦する。
力ではドワーフに劣る。だが意思はより高い。
魔法ではエルフに劣る。だが戦意は上回る。
自分達は負けない。そう信じることが出来る。
「あんたが引くべきだ聖騎士の嬢ちゃん」
「いや引けないな。…君達が男としての意地を張るなら、私は聖騎士としての意地を張ろう」
「おもしれえ…」
そんな会話をし、ドワーフたちに兵士は立ち向かっていく。
ドワーフの斧に、エルフの魔法に負けずに。
その中に剣を振るう一人の男…それを兵士たちは見つけ、ターゲットとした
「あれだ…そこにいるぞ大将首、殺しても、殺されても、俺たちは記憶に残る。
俺たちは戦場に残る、俺たちは世界に残る!」
「俺たちは世界に存在することが出来る!行くぞ王様!」
進撃する兵士たち。殺到する兵士たち…だが…そこに影が走った。
「ダメダヨ」
影が兵士たちを乗り越え、腕を振るう。
正確にはナイフを振るう。ドワーフたちに向け、そして…一番近くにいた一人の腕が飛んだ。
鋭利にきられたその一撃は軽装とはいえ、筋肉の断面図が見えるほど。
魔道。その言葉が浮かんだそばにいた親方はすぐに指示を出した
「やつを止めろっ!」
しかし止まらない。
腕を斬り飛ばしすぐさま別の相手に突っ込みきり飛ばす。
腕を、頬を、腹を、軽装とはいえ容赦のない連続攻撃が生まれる。
それを見て、リュート走り前に出た。
「親方!引かせろ!」
彼の声に親方はスマン、と叫び引かせようとする。
だがそれに対して影の追跡が入っていく。
「ダメダヨ?ダメダヨワルイヒト。
ニゲチャダメダヨ?オシオキダヨ?」
抑揚のない声。それを聴いたリュートは恐怖を覚えかけ、振りほどく。
だが拙い、と。そう思ってしまう。
「<<盾>>」
すばやすぎるその動き。それを少しでもとめようと障壁を張る。しかし。
「ダメダヨ?オシオキ。ママノオシオキナンダ」
影がナイフをふりそのまま突っ込んでくる。
まるで障壁を切り裂いたかのような動作。リュートはそのまま後方へ飛びのきつつ剣を構え急所、喉を防御。そのまま突っ込んでくるナイフを受けていく。が。
「くっ…そっ…!!!」
とり回しが間に合わない。
受けても即座に次がくる。相手のナイフ、そのスピードに対して自分の剣のとり回しが絶対的におそい。その上。致命的といえるものがある。
―――剣を削ってきやがる…
相手のナイフにあわせるほど、自分の剣のほうが削れ、磨り減っていく。
障壁も使えるような間合いじゃあない。ジリ貧であることを感じた。
「クソっ!!<<b「ダメダヨ」
魔法。爆発を引き起こし間合いを取ろうとしても発動前に突っ込んでくる。
早い。どうやったらこんな…とか思いはじめるが、その影に声がかかる。
「少年!お前はママのところへ行け!君が帰ってこなければ悲しむだろう!」
「カナシム?…ワカッタ」
少年はその声に素直に頷き、その場から一気に駆けていく。
草原の先、馬車の走っていったほうへ。
少年は声の主。聖騎士のほうを見なかった。そして、それは、聖騎士達にとって幸福だった
影の味方であるはずの彼らですら、顔面を蒼白にしていたのだ。
彼に見られていたなら、と思うと聖騎士はぞっとした。
「英明王閣下。降伏いたします」
残ったのは血とうめき声にまみれ、影に荒らしまわられた戦場の残骸だった。
そんな中、男性兵士たちを無視してリュートにかけられた聖騎士の声。
そしてそれに反論するものは相手にはいなかった。
戦闘は終了した。
しかしリュートは勝った、とは到底思えなかった…
戦闘が長くなりすぎましたが強引めに終了。
次回戦後処理と追撃です。