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14:初陣・隠し玉

敵パートも。

14


 怯えていた。

 倍以上。それだけの兵士がいたはずだ。

 しかし、今目の前で起きている恐慌状態はどうか。

 今まで自分の積み上げてきたものが終りつつある。

 領主である彼女にはそう見えた。


 

 場違いといえる物がそこにあった。

 

 

 豪奢な馬車。それが一台そこに鎮座していた。

 周囲には聖騎兵。この恐慌状態でも冷静に周囲に守護陣形で陣取っている。

 御者は魔道師であり馬車の周囲にいつでも結界を晴れるように準備している。


 元々相手の倍以上いるとはいえ、人数が多いというほどではなかった。そのため彼女がいる位置、そこでも十分に恐慌状態に陥っている部隊の、馬の悲鳴が聞こえていた。


「間違っていない…間違っていない…」


 馬車の中には一人の中年女性がいた。豪奢な衣装に身を包み厚い化粧した女だ。自分の両側に美しいといえる少年をはべらせ、その二人にすがりつくように震えていた。

 彼女からしてみれば今回の出兵は無意味なもの、という認識が強かった。

 それ以前に中央から派遣された神官と騎士が率いる近衛部隊、それが達成すべき任務だった。勿論協力も行う。しかし自分がこうして戦場にいる理由などないはずだった。それがどうだろうか。あれよあれよという間に、自分は危ない目にあっている。

 最初は近衛部隊の兵士だった。

 率いていた神官と騎士。その二人が帰ってこない。最初は誤魔化していたが日がたってもでてこない。そういう話が出てきた。何かあったかもしれないので出兵願いたいと。

 中央に対して不快感を抱かれるわけにはいかない、とほぼ全軍。そして自分自身がやってきた。

 英明王を迎えればそれで終る任務なのだから、と。

 そうであったはずなのに。


「おおおっ!!!!!」


 声が聞こえた。

 若い男の声…敵の声だ。思ったより近く聞こえた。

 自分が、この子達が危ない。そう、彼女は思った。しかし、今はまだ決断できない。

 要素がたりなかった。しかし…一人の男が要素をつなげた。


 

 デュークは回復呪文を馬につかう。そんな方法をつかって本来二日かかるところを一日で飛ばした。

 この方法自体は基本技術といってもいい方法だ。長距離間の伝令。それを行う時は二つの方法がおもにとられている。

 まず領内での場合は、リレー方式。一定区間ごとに替馬、替わりの人員を用意してリレーでつないでいく方式。だがこれは一定以上安全が確保されている自分の味方といえる領内でのこと。

 であるのならば敵地ならばどうなるか。

 交替人員などあるわけもない。おもに一人で行かなければならない。そんな状況下で取られるのがこの方法だ。馬を出来るだけ長持ちさせ、その分の距離を稼ぐ。そんな方法だ。

 デュークはそれを使い一気に駆けてきた。そして…追いついたのだ。

 

「…託された得物…この距離であれば」


 それは長い筒。銃であった。

 デュークは存在自体は聞いていた。

 

 ――――筒の中に魔力を溜め込む機構を作り、それを打ち出すことによって遠隔攻撃を可能とする。


 それがドワーフ、親方達の当面の切り札なのだと。


『耐久力がある自分達が近くからでも、遠くからでも戦えるのなら、もっとあいつの力になれる。』


 親方はそう言って笑っていた。デュークは自分の手に持っているものをみる。

 おそらくはそのドワーフの銃。その改造型だろう。使われている魔法構造が複雑すぎる。

 理解できる出来ないは別として、彼はそう断じた。自分に使えるのは基礎呪文だ。


「こうか…?」


 説明すら受けていない。だが。目の前のそれに作り出されたものにより、彼は理解した。

 銃身部にひとつ。魔法陣が展開した。

 銃口部にひとつ。魔法陣が展開した。

 そして銃口部から少し先に、もう一つ魔法陣が展開した。

 

「これは…」


 銃身部の魔法陣と銃口での魔法陣の色合いが違う。つまりこれは別の意味をもっていると言うことだろう。銃自体をグリップをもち、支えるようにしてもって構える。そうして実際銃を動かしてみると銃口から離れたところにある魔法陣が動いていく。

 これは狙いを意味しているのか、と判断する。真実かどうかは別として。


「引き金を…引く」


 そして。

 展開された光景は、デュークの理解のうちから外れていた。

 まず十二分に蓄積された魔力の固まりは引き金によってゴーサインを出され射出。

 そして銃口部の魔法陣により、風の属性。つまり大気圧の塊と指定された弾丸は周囲に待機と共に存在する魔力を巻き込んでいく。巨大な圧力の塊。最後の魔法陣によって方向を指定されたそれは部隊の最後方。つまりは、領主の馬車に直撃コースだった。


 さすがにそうもいかない。そのまま終わりではなかった。

 巨大なそれの接近に気がついた御者の結界によってかろうじて直撃は免れていた。


 しかし。馬車を掠めていた。激しいショックが馬車を襲い、ただでさえ怯えていた領主にとどめをさすのにその一撃は十分すぎた。辛うじて馬車は動きを保ち、馬も抑えきったが、中の人はダメだったのだ。

 

「撤退…てったいじゃああっ!!!!!!にげるのじゃああっ!!!!!!」


 恥も外聞もない。

 その体格から馬に乗れない彼女は大きな声で指示を出した。その声を聞くと御者が、仕方あるまいとでも言いたげに引き上げの動作をしていく。そして周囲の騎兵達も。その中で一人、別の動きがあった

 20人ばかりの人の塊が動き始める中、少年が一人馬車から降り、その場に残ったのだ。

 彼の主である、領主は怯えに怯え、そのことにすら気がついていない。

 もう一人の少年が「ダイジョウブダヨ…」と抱き返すその姿にすがりつくだけだ。

 そしてそれを少しだけ見た少年は馬車から降り駆け出した。


「ママ…ママ……マモルヨ…ボクガ…ワルイヒトカラ…」

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