13:初陣・奮戦
13
「さあ…来い!」
向かってくる女性兵士。しかも騎兵の真っ只中にリュートは突っ込んでいく。
その圧迫感は流石だとリュートは思う。
だが…
「こちとら引くわけには…いかなくてなあっ!」
狙うは馬。
相手、向かってくるのは騎兵であり突撃による攻撃がその主目的だ。
ただそれは前提条件が必要になる。速さが必要であり、力が必要だということ。
高さは絶対的に相手が上回り、高所からの一撃を加えることができれば此方は早く死ぬだろう。
だが今自分は相手の懐といえる位置まで飛び込んでしまっている。
そして。味方の射程距離の内側にいたのだ。
エルフたちの弓攻撃。その中にはエリスの魔法も混じっている。
味方の遠隔射撃によって馬の足が止まる。それだけでいいのだ。
馬に当たれば馬が止まる。転倒もする。
馬にかすれば痛みを馬が覚える。
通常の騎兵なら彼にとって問題はなかった。
馬をびびらせてしまえば…それでよいのだから。
「<<爆炎>>」
前衛に騎兵。それに魔道騎兵が混じっている。森に対しての遠隔射撃を行っていたのだろう。
此方の突撃に対して此方が少数なのを考えてか、後ろにいた騎兵達と入れ替わっていく。
自分を包囲するように騎兵が向かってくる。
その正面、自分の進行方向に対して放たれた<<爆炎>>の呪文は大音響の音と炎を撒き散らす。
馬が平静を保てないほどに。
「こ、こらおちつけっ!」「まてっ!こらあっ!」
人の中にはいってしまえば自分の周囲のみに集中すればいい。
前方。向かってきていた騎士がどうにかバランスを立て直し、体制を整えようとしている。
恐慌状態からの建て直しであるというのに周囲の確認は行っていないのは流石だ。
だからこそ。
「死んでもらわなくちゃな」
そこまでではないかも知れないが。だが、止まって貰わなくてはならない。邪魔なのだ。
抜き身のままの剣は押さえられようとしていた馬の前足に傷をつける。
「<<加速>>」
馬がいたみに震え、蹴られる前に。それより言って早くそばを抜ける。馬の横、そこに回って相手を見る。腕を掲げ、此方に振り下ろそうとする槍。突き入れようとするそれに対して腕を掲げる。
「<<爆砕>>」
突き下ろされる槍。それに対して弾き飛ばすように<<爆砕>>を仕掛ける。
そしてそのまま鎧の隙間を狙って剣を突き刺し、そして引き抜いた。
血が噴出し、痛みに震える馬と共に騎乗したままの騎士がびくんと震えた。まだ死ぬほどではない。
だが何かショックを受けたのだろう。痛覚と出血に。
リュートは思う。謝りたくはない。謝るわけにはいかないと。
次を狙う。
向かってくる騎兵。すぐ近くにいるため加速を生かした突撃は出来ない。
だからこそ、此方は暴れることが出来る。
血が舞う。馬の脚、騎士の脚。馬の胴に出血を与えていく。
動けば動くほどに血があふれ、馬が足を止めていく。またあるものは倒れて行く。のっていたものを振り落として。ある騎士は転倒した愛馬の下敷きになって動けなくなっていた。そこに暴れていた同僚の馬によってとどめを刺された。その蹄に踏み砕かれるという形で。
ある魔道騎士は馬が暴れる中押さえ込もうとして振り落とされた。そして、打ち所が悪かったらしくそのまま目を覚まさなかった。
ある騎士は足を<<爆>>でえぐられ、出血と痛みで動揺したところ馬に誤った指示を出してしまいそこから駆け出していった。
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それに近い数の兵士に囲まれながらもリュートは暴れて見せた。
此方に来る前はこんなことで気はしなかった。リュートはどこかでそう思う。だが、彼は剣を古い、そして魔道を使い続けた。ここに、この世界に来る直前の会話を思い出す。
――――それが欲しいのですか?貴方は。
――――ああ。欲しい。俺が行く先がそんな世界なら…俺はそれがほしい。
――――必要だから。ヘタレな俺が行くんなら。
リュートは後方のほうから親方の、そしてエリスの攻撃命令を聞いた気がした。動揺しているこの状態だ。ここに打撃力が入れば大きいだろう。敵部隊を混乱させ、森のほうへの攻撃を失わせる。遠隔射撃による攻撃と自分の突撃によってそれは達成された。
そしてそれは親方達にとって、打撃を入れる十分なチャンスになる。
混乱は混乱を生み、正面、森側に対して攻撃を加えるものたちはいなくなってしまった。
馬はお互いの暴れる様子や激痛に対する悲鳴。それによって動揺してしまっている。
そこに親方たちドワーフと、下士官の部隊が到着し、リュートと共に騎兵にぶち当たっていった。
リュートは攻撃を自分と共に始めたドワーフたち、そして元下士官達を見ながら…あのときの決断を思い返す。
――――俺に、為すべきと信じたことを後悔しないだけの…胆力をくれ
主人公の異世界人勇者がもらった能力の一つ判明という回でした。
まあ根性ですが。 お決まりのイベント、要素ですけどね。