1:森の中で
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森の中を動く影があった。
まず先頭を鎧兜に身を包んだ騎士が騎乗したままで進み、その横には神官らしき姿があった。
その後ろには先頭の騎士と同様の鎧に身を包んだ騎兵が20.やはり騎乗したままで進んでいる。
「神官殿。…この先に王が居られるのですか?本当に」
訝しげに先頭を進む騎士。隊長のその声音はやや男性にしては高めだった。
事実男性ではない。
隊長も、後ろに続く騎士も、神官も、誰も彼もが女性なのだ。
「ええ…新王を迎え入れるための召喚の儀式。
通常反応があるはずなのですが…一切の反応がない。本来ありえないのです…」
「召喚の儀式は神官家のみに許され、伝えられている秘術。
それも許されているのは今の世界のように、世が、この国が窮地に陥っているとき…ですか」
隊長娘の言葉に神官の娘は頷き深く息をこぼす。
「そう、そのはずなのに召喚は失敗。
そして情報を集めてみれば…新しい王となりうる男性はこの森の奥にあるといわれる隠れ里に。
異世界よりの人間は世界に一人のみ。それがこの世界のルールの一つです。
誰が召喚を為したかはわかりません。ですが…相当の腕利きであることだけは確かと」
今度は隊長娘が軽くかぶりを振って、ため息をはく。
「わがシェリル国は女性優位の国家です。
体面、外交上…何より血統をつなぐために必要なだけで…実質上は…」
「それゆえに。
知性と魔力、そして王にふさわしい外見と自愛に満ちた性格。
それらを持ち合わせた完全なる者のみが我が国の王となる…そうですよね?」
―――そう…そのはずです。少なくとも動乱期は。
彼女らが所属し、周辺一帯、およびこの森を統治するシェリル国。
その国政に関してはひどいといえる特長があった。
女性絶対主義。
つまりは男性と女性。同じ力量を持つなら必ず女性を。
多少の差でも女性が選ばれる。そういった女性の優遇政策である。
つまりは男性が上位階級にのぼるということはそれだけチートということになる。
そんな環境において最上位、つまり王の位に突くのは大体は女王である。それに就くのは当然王女、姫。
そしてその良人には周辺国家の有力貴族。
または自国の有能な技術者、魔術師や資産家。
そんな優秀な立場、そして才能を求められた。
特に魔法などはある程度血縁がかかわってくるので余計、とも言える。
だが、例外が存在する
100年から200年。大体三から五世代に一度。男性の王が即位する時期がある。
それは大体の場合、シェリル国にあって国難といえる事柄が発生したときであった。
魔族、魔王と呼べる存在の発生。
周辺国家の侵略。
男性知識階級の一斉蜂起など一大事といわれるとき…
英明たる男性王が現れてその妻たる女王と手に手を取り合い国難に対して
その秀逸なる智謀と
その果断なる軍才
そして類まれな魔術の才。
そのどれかを、もしくは複数をもって国難を排除し平和をもたらす。
その「英明たる王」とは異世界よりの来訪者であり、
その方法は、適切な時期に神官家の娘が女神にお願いをする。そして、召喚してもらうのだ。
―――しかし、今回は失敗しました。
世界にもバランスがあるらしく世界に異世界人は一人。
それ以上は女神様も受け付けてはくださらない。
神官娘が隊長娘のほうに声をかける
「………とまってください…この先、魔法がかかっています。迷わせる魔法のようです」
結界術の一種だろう。
自分たちの進行方向に術がかかっている。
いくつかのパターンに分かれるがここの場合は一定範囲内を堂々巡りさせる。そんな魔法なようだ。
他には歩いているつもりで足踏みをし続けるようになるものなどがあるが、アレは動物にはきかない。
それゆえに此方が使われているのだろう。
「では…<<解除>>」
神官娘は杖をかざして結界の範囲。その中に干渉して行く。
魔力による構築の<<解除>>文字通りの効果を持つそれが行使され、周囲に張られた結界が崩された。
そして、それと同時。
【誰何】
実際の声とは違う、魔法<<念話>>の声を持って言葉は届けられた。
彼女達を包む、無数といえる殺気と共に。