神話の森に放置され、アルテミスの泉で沐浴し、ブラとパンツを洗って...
久しぶりのキャンプです。山愛好家ってけっこういるんでしょうね。ぼくはどちらかというと海派です。本質は家派ですけど。
桜「やっとあの格好ができる。ガチ感を感じさせるキャンパースタイル。」
翼「そういえば買ってからまだ着てない。」
紬「そもそもこんな森の中で制服を着ている姿のほうがシュールだよ。」
3人は手分けしてキャンプの準備を始めた。ターブの設営、断熱シートの上にシュラフザック、薪を集めて焚火の準備、地中海の温暖な気候で寒さは感じない。
桜「キャンプ飯、転移先で食べるの何回目だろう?こんな調子じゃフリーズドライフードの制覇は無理だね。」
翼「今夜の私は...じゃーん...ガパオリゾッタ!」
紬「私は五目リゾッタ。リゾッタと言っても五目ご飯だね。」
桜「私はリゾッタサラダチキンと白ご飯。おかずとご飯で贅沢感。」
翼「飲み物はチャイがありますよ。」
紬「夜空が嘘のようにきれいだ。」
桜「さっき、まだ明るいのに三日月があったよね。」
翼「アルテミスがいるところには必ず三日月があるのです。」
紬「そしてアポロンのいるところには太陽があるので、2人が揃うと空がバグる。」
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女神「ふふふ、私の試練に耐えて逞しくなってきたな。高校を卒業してその価値に気付いたとき、感謝のあまり私の信者になるだろう。」
青水「おまえ、信者募集する女神だっけ?」
女神「いや、募集しなくても自然に集まるのが信者だろ?」
翡翠「でもキリスト教など大宗教は伝道者を派遣して信者数を増やしてますよ。結果を出せないとクビになる営業職のように。」
女神「伝道者か。気付かなかった.....翡翠、おまえが伝道者になれ。」
翡翠「イヤですよ。それに無理です。私はすでに巫女ですからね、他の宗教の伝道はできません。」
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朝になった。もう空に三日月はない。つまり危険なアルテミスは去った。
桜「良し、お花を摘んでから沐浴だ。そしてジオラインメッシュの洗濯。」
翼「女子高生の朝のルーティンみたい。」
紬「通常のルーティンにパンツ洗いは入ってないけどな。」
翼「桜、別に隠さなくても良いじゃん。」
紬「そーだそーだ、ギリシャ神話の世界なのに無粋だ。アフロディーテに呪われる。」
桜「いや、これは私の意思ではなくて.....何というか....神の意志だ。」
翼「さて、上がってパンツとブラを洗濯して撤収しますか。」
3人が撤収作業をしていると、森の奥から歌声が聞こえてきた。3人が知らない弦楽器の音色に乗せて哀愁を帯びた歌が流れる。男の声だ。意味はわからないが、メロディーと歌の抑揚から、何かの喪失を嘆いているように聞こえる。全く意味はわからないのだが、3人は胸が締め付けられるような思いにとらわれて歌が聞こえるほうへ歩いて近づいた。ひとりの男性が楽器を弾きながら歌っている。3人の姿を認めると、男性は涙を拭って何か言った.古典ギリシャ語なので3人は全くわからない。とりあえず自己紹介はしておこうということにになった。3人はそれぞれ自分を指差して名前をいった。Sakura, Tsubasa, Tsumugi。すると男性は自分を指差して“オルフェウス”と言った。
桜「オルフェウス....聞いたことがある。何だっけ?」
翼「えーとね、ちょっと待って…… あった。ギリシャ神話の吟遊詩人。死んだ妻を追ってハデスに行き、歌の力でケルベロスを黙らせ、さらに歌の力で冥界の神とその妻の同情も得て妻を帰してもらった。だけど...」
紬「だけど?」
翼「冥界から出るまで決して後ろにいる妻を振り返って見てはいけないと言われていたのに振り返ってしまい、そこでゲームアウト。」
桜「うわ、バカだけどかわいそう。」
翼「あ、大変だ!」
紬「何?急に大声出して。」
翼「このままだと殺されちゃう!」
桜「誰に?」
翼「ファンの女たちに。」
紬「何、それ?」
翼「この歌に感動して女がいっぱい集まってくるの。で、迷惑ファンになる。」
桜「は?ちょっと意味わからないんだけど。」
翼「だから限界迷惑ファンになるんだってば。自分のものにできないなら殺すって。」
紬「うわー、現代にもいそうなサイコ女!」
翼「それが1人じゃなくて集団で押し寄せるの。愛が暴走して愛する者を切り刻む。」
桜「ヤバい。助けたい。でも言葉が通じない。」
紬「そんな複雑なこと、ジェスチャーじゃ伝わらないよ。どうしよう?」
桜「目の前で惨劇を見たくない。」
翼「でも狂ったファンの女たちを止められる気がしない。」
紬「止めようとしたら先にこっちが殺されるよ。そういう女って、私たちがオルフェウスを誘惑しようとしていると思考をショートさせるんだから。」
桜「悲しい歌を明るくバカな歌で上書きする。」
翼「え?何それ?」
紬「思考が高度すぎて接続方法がわからない。」
桜「だから...私たちがここで明るくてバカな歌を熱唱して、女たちが押し寄せてきても、腰砕けにする。」
翼「おお、天才かよ。」
紬「姉さん、一生付いていきやす。」
桜「じゃあ思い切り歌おう、アカペラで、ドラえもん!」
翼「その次はくれシン。」
紬「えーと、可愛くてごめん。」
3人がノリノリで歌い出し、オルフェウスが凝視していると、3人の歌姫たちの姿が輝くアストラル体に変わり、歌声を残して消えてしまった。
桜「ふう、東京に戻って来ちゃった。」
翼「転移生活でぜんぜんカラオケに行けなかったから、久しぶりに全力で歌えて発散できた。」
紬「オルフェウスさん、最初はキョトンとして固まっていたけど、だんだん笑顔になってのってきてたよ。」
桜「うちらのスタイルに影響受けたりして。」
翼「こういう系統の歌を歌い出せば殺されることもないでしょう。」
紬「だねー。」
桜「あ、女神に頼むの忘れてた。」
翼「転移直後でまだつながりが強いから大丈夫だよ。呼んでみよう。女神様ぁー!」
女神「何だ?おねだりか?みなまで言うな。拠点が欲しいのだろう?その願い、叶えてやろう。試練には褒美がつきものだからな。ほれ、拠点の鍵と住所だ。さっそく行ってみるんだな。」
紬「女神様、ありがとうございます。これでますます信仰が深まりました。」
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青水「おまえ、ずいぶん乙なはからいができるじゃないか。見直したぞ。」
翡翠「いえ、女神様は元々そういう人ですよ。私わかってますから。ブツブツ言いながら、最後は全部やってくれる。」
女神「ほ...ほめても何にもでないんだからね。」
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桜「え?ここなの?」
翼「タワマンと呼べなくも...なくない。けどかっこいい。」
紬「渋谷駅から徒歩4分、地上14階地下1階。」
桜「うちらの部屋は9階の929号。」
紬「苦肉の策だ。」
桜「わーお!」
翼「きれい!」
紬「築3年だってよ。築浅物件。」
桜「私、もう信者かも知れない。」
翼「人間の心理をよくわきまえてるね、あの女神。試練を与えてからの恩恵、人間はこれに弱い。」
紬「私、さっきすぐに信仰表明したもんね。」
桜「さて、現在時刻は金曜日の放課後、明日と明後日、転移する。拠点ができたのでこれから秋葉原へ武器調達に行こう。」
翼「次の女神要求だけどさ、ざっくりで良いから行き先を教えて欲しい。」
紬「そうだ。それがわかればどんな装備を持ち込むべきかわかるから。」
桜「全部は持って行けない。うん、明日の転移のときに頼もう。」
いやあ、桜のすごい突破力で惨劇を防ぐことができました。




