人魚さんと深い女子トークをしたら共感してもらった
もちろん人魚さんが出てきますよ。でも、現実問題として、すぐ目の前に人魚がいたら不気味すぎて耐えられないと思いませんか。腰から下の魚部分を足すと体調は3メートル近くになりますよ。なので距離を取ったまま会話。下半身は海の中に沈んでいてください。
3人が息を吹き返した王子に喜んでいると、沖のほうでパシャリと魚が飛び跳ねたような音がした。桜が目をやると、人魚が海面に顔を出してこちらを見ている。桜は立ち上がってスマホのカメラで拡大してその姿を確認した。見ると紬もスマホのカメラを起動して、こちらは写真を撮っている。人間ではないので盗撮ではないという自信に満ちた表情をしている。
桜「ねえ、あなたさっきこの人を放置して逃げたよね?人間は海で放置されると溺れ死ぬって知ってる?あやうく死ぬところだったんだよ。」
人魚は怯えたような表情で目を伏せた。
翼「日本語通じないんじゃない?」
桜「You just left this guy and ran away, dind’nt you? You almost killed this guy!」
人魚は悲しそうに震えている。
紬「動物は強く叱ると怯えて固まるんだよ。」
人魚「人間の言語の種類は私には関係ありません。心で会話します。先ほどは本当に申し訳ありませんでした。人間の姿を見てとっさに逃げてしまいました。陸まで近かったので、助けてもらえると思ってしまいました。助けていただいて本当に良かった。」
紬「(やべ、動物って言っちゃった)」
翼「この人を助けて陸まで運ぼうと思っていたのね?」
人魚「はい。でも私は陸に上がれませんから、浜辺まで運んで、見ていることしかできません。皆さんに助けてもらって本当に良かった。」
桜「さっきは怒りにまかせて強く言いすぎた。ごめん。人魚は陸に上がれない、そんな簡単な前提を忘れていた。」
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女神「はっはっは、人魚だ人魚!翡翠、おまえ原作とアニメと両方の人魚を助けたよな?」
翡翠「はい、成り行きで....」
青水「ディズニーのIPを回避するため、あのAで始まる人魚の名前をカタカナのエで初めて、そっちのほうが英語の発音に近いとか姑息な...」
翡翠「あれはカモメさんが提案したんです。」
女神「あれ?このラノベがお初の読者にとって、さっきの白ビキニは初対面になるな。」
青水「眼福サービスだな。」
翡翠「やめてください。私...そういうキャラじゃないんで。」
女神「いや、サービスは大事だぞ。ほれ!」
翡翠「もお....知りませんっ!」
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桜「あなた、お名前は、確かア...」
人魚「いえ、違います。エリアルでもありません。名前がないんです。」
桜「え?なぜ?」
人魚「アで始まる作者が名前を付けてくれなかったから。なので王子にも名前はありません。」
紬「へー、知らんかった。じゃあさ、もしも付き合うことになったらすごく困らない?“人魚”と呼ばれて、“はい、王子”と答えるの。」
翼「紬、やめなさい」
桜「えーと、話を進めても良いかな。人魚さん、あなたこれからどうするつもり?」
人魚「どうすると言われましても。あの人をお慕いしつつ人魚として300年生きます。そして最後は海の泡になります。」
紬「あ、それ良いな。羨ましい。300年はいらないけど、最後は海の泡って最高。死んだ後に死体が残るって考えると死んでも死にきれん。」
翼「死にきれなくても死ぬから。」
人魚「人間は死ぬと魂になって天国に登るって長老様が言ってました。」
桜「そう信じないと、それこそ“死んでも死にきれない”人がたくさんいるからだろうね。」
紬「でもね、残酷な真実を言うと、死んだらゴミになって燃やされるんだよ、人間は。燃えてて燃えかすと煙になる。炭素と...煙の成分がわからない。」
桜「海の泡と大して変わらないかも。炭素は土の成分になり、二酸化炭素と水蒸気は空の雲の成分になる。消えるように姿を変えるという点で。」
人魚「魂は?」
桜「信じてる人だけの存在。人間はいろんな文化を持っているので、魂がないと思っている人もたくさんいるよ。」
翼「私、ドイツの作家の短編で読んだことがある。死後の世界は、思い出が世界に残っている間だけ続くの。だから偉人とか作家とかはいつまでも消えない。一般人は孫の代を過ぎたあたりで消えるから死後に長い間苦労しなくても良いの。死後の世界でプラトンやソクラテスがいつも不貞腐れて、“けっ、いつまでも飽きずに読み続けやがって”ってぼやいてる。」
人魚「面白いですね。たしかに死んでスッキリ消滅するほうがずっと楽かも知れません。」
桜「さて、ここから現実的な話になるけれど、もしあなたがとてつもない犠牲を払って王子と付き合えるようになったとしても、300年生きるあなたとすぐ死ぬ王子、すぐそこに迫ってくる死別の悲しみはどうするの?」
翼「だよねー。これがヴァンパイアの恋ならばちょっと噛んで同族にするっていう手もあるけど。」
紬「私ならすっぱり諦めて同族から伴侶を見つけるね。きっとそれが最適解。」
桜「現実的にはそうなんだけど、ここは物語の世界だからね、“それを言っちゃあおしめえよ”ってこともあるのよ。」
人魚「私、皆さんと話し合えて良かった。人間と知り合っていろいろな考えを学ぶことができて本当に幸運でした。すごく共感できたので、紬さんの意見に従います。無理はしない、それがQOLのためには大事ですもの。」
紬「良く言った、マーメイドよ。幸福にはいろいろな形があるだろうが、不幸を抱え込まないのが一番だよ。」
桜「紬がなんだか締めっぽいまとめを言ったので、身体がムズムズしてきたよ。」
翼「来るね、アストラル...」
紬「もうダメ...いっちゃいそう....」
桜「ねえ、ここに寝ている王子、完全に蚊帳の外だったんだけど。」
紬「半透明の女を見て悲鳴を上げて逃げ出すはず。」
桜「そだね。じゃあ、人魚さん、バイバーイ!」
翼が読んだドイツの短編は、翻訳されているかどうかわかりませんが、アルノ・シュミットという作家の「ティナ、あるいは不死性について」という物語です。死後はもちろん歳は取らないし、好きな年齢を選べるってことになってるのですが、ともかく飽きる。そりゃ飽きますって。




