久しぶりの東京、お風呂に入ってフーって吐息が漏れる
あっさり東京に戻ってきたJKトリオ。久しぶりに自由を謳歌しよう。
桜「あれ?今回はずいぶんあっさりと東京に戻って来れた。」
翼「日曜日で転移はしばらくお休みだからサクッと終わらせたんじゃない?」
紬「あまりサバイバル的な要素はなかったね。持っていった装備もあまり使う局面がなかった。」
桜「そんなことを言ってると、女神が何か過酷なイベントを仕込むかも知れないよ。うちらの会話は筒抜けなんだから。」
翼「まあ、明日からの学校生活を頑張ろう。試験も近い。」
紬「その前に銀座のコイン屋に行ってドルやフランを換金してもらわないと。」
翼「私、こないだ作った口座の残高が伸びる快楽に目覚めてしまった。」
紬「お小遣いから財力への進化。」
店主「いらっしゃい。」
桜「19世紀末のアメリカとベルギーの通貨を持ってきました。」
店主「毎度。では鑑定します。………… ほう、なかなか状態が良いですね。合わせて78万円でお引き取りします。」
桜「ありがとうございます。」
店主「倉からまた何かお宝が見つかったら当店でお待ちしております。」
*************************************
女神「あいつら、確実に資産を増やしているなあ。」
青水「女神よ、古銭などより価値があるものをあいつらは持って帰ったぞ。」
女神「何だ、それは?」
青水「ポワン・ド・ガーズだ。現代の日本ではなかなか手に入らない。アンティークの至宝と言える。値段は付けられないと言っても良い。」
翡翠「そんな文化財レベルのものをあの女子高生たちが持っていて良いのでしょうか?雑に取り扱うと一発で価値がなくなりますが。」
青水「自分達で価値に気付くまではどうしようもないな。たぶんそれまでに雑に扱って価値が激減するだろう。」
翡翠「至宝が崩れてゆくのを手をこまねいて見ていなければならないなんて...」
青水「もどかしいか?至宝と言ってもコレクターにとっての至宝、一般人にはちょっと珍しい手の込んだ刺繍にしか見えないから仕方がない。」
*****************************************
桜「78万円だ。良い金額だ。ひとり26万円で分配して端数が出ない。」
翼「この調子で行くと夏休みに海外リゾートに行けるかも。」
紬「自腹で海外に行くモチベがなくなった。いつも転移させられてるから。」
翼「言われてみればそうか。」
桜「アントワープで買った刺繍、どう使ったらかわいいかな?」
翼「黒のワンピの胸元に縫い付けると映えるんじゃない?」
紬「ゴージャスすぎて軽めのワンピに合わせるとバランス崩壊のリスク。」
桜「思えばうちら、ファッション弱者だよね。ブランド名も知らないし、おしゃれ関係の語彙が貧弱。」
紬「服はマネキンが着ているのを引っぺがして買う派。」
桜「まあしばらくは丁寧に保存しておこう。ひょっとしたらメルカリで高く売れるかも知れないし。」
紬「”Point de gaze”....あとで検索してみよう。」
****************************************
翡翠「あの子たち、文化財をメルカリに出すつもりなの?ニュースになっちゃうかも知れませんよ。」
青水「メルカリの運営に鑑定スキルを持つスタッフがいれば止めてくれるだろ。」
女神「スルーされて文化財が3万円で売られても、それはそれで面白い。面白ければ何でも良い。エロでも下品でもどんと来いだ!」
翡翠「あ、あの紬という子が、 »Don’t come! »と言いそうと思ってしまい、私の精神汚染も進んでいるようです。」
****************************************
桜「ふう、やっと木曜日になった。クラスでは浮かず目立たず溶け込んでモブをやりきった爽快感。」
翼「大令嬢はガードが堅い。」
紬「………… ガードとガードルでダジャレを言おうと思ったけど思いつかなかった。」
桜「翼...わかってるな。」
翼「明日の転移に備えてモンベルに寄ってフリーズドライを補給しよう。」
紬「あんなに種類があるなんて、最近のキャンパーは贅沢だな。」
桜「リゾッタだけで10種類もあるからね。」
桜「これまでの経験から、転移先ではせいぜい2泊。フリーズドライは3個あれば十分だね。足りない分はお菓子やカロリーメイトで補おう。」
紬「あ、これ何だ?……フードコジーという便利なものを発見したよ。」
桜「何に使うの?」
紬「暖めて戻したフリーズドライ食品の温度を保ったまま食べられる。これ、安定して自立するし、置く場所がないときは首からかけて食べられる。」
翼「ほお、これは現場の知恵が反映された良品ですな。」
桜「転移先が寒いと助かるね。ぜひ入手しよう。」
翼「お菓子は明日の転移前でいいか。」
紬「それなんだけど、ネットで調査したところ、個包装の羊羹が非常に優秀らしい。熱量ブースターになるし、甘味が笑顔を運んでくる。」
桜「確かに。東横のれん街に虎屋があったから買いに行こう。」
金曜日の放課後、3人は渋谷で待ち合わせた。転移前の準備で残っているのはコンビニでお菓子の補充とマルキュー近くのドリームカプセルで金策アイテムの補充。
紬「金策アイテムは前回と同じで、ブレスレットとペンダント。これは鉄板だからね。蓄光髪飾りも嵩張らないから20個持っていこうか。これは使いどころを間違うと魔女扱いされるリスクがあるので慎重に。」
桜「あのさ、昨日思いついたんだけど、ナイフとか錐とかドライバーとかいろいろ飛び出すやつ、何て言うの多機能ツール?あれ、かっこいいから持っていかない?」
翼「ちょっと待って……(検索中)……あれはスイス軍が開発した便利グッズらしい。んとね、Victorinoxというのが最高ブランド。」
紬「それだ。最高ブランド、なんと甘美な響き。」
翼「いろいろ種類があるけど、スイスチャンプというのがハイエンドモデルだよ。」
桜「どれどれ....ちょっと、これは盛りすぎだろ!31個も付いてる。」
紬「心配性の人があれもこれも必要になるかもってぶち込んだ。」
翼「ここまでになるとイキリオタク御用達だ。うちらはもっと実用に即して選ぼう。」
買物を済ませた3人は、転移の時刻が迫ってきたので道玄坂の路地を入ってラブホが並ぶ円山町の手前、百件店と呼ばれる怪しげな場所を目指した。人通りがないわけではないが、人目に付かない謎のスポット。行き交う人々はみな俯いて足早に通り過ぎる。誰も他人の存在を意識しない。誰もが風景に溶け込んで認知的に不可視となる場所だ。
桜「来た。いつものムズムズするやつ。」
翼「紬、エロマンガで覚えた変な台詞はやめなよ。」
紬「Ethereal transfer!...決まった!」
桜「どこだ、ここは?」
翼「んーと、正確な時代はわからないけど、昔のヨーロッパ?」
紬「聞こえてくるのはフランス語。」
桜「なんだか現実離れした風景だなあ。また昔話の世界じゃないのか?知らんけど。」
翼「あっちに水車があって人が集まってるよ。」
紬「人が集まってるということはたぶんイベント。」
桜「行くしかないか。」
準備した装備が充実しすぎて、いつも使われずに戻ってきてしまうけど、不測の事態を予測するのが現代の女子高生なのです(ホントか?)。




