ウルトラマンを救え!
イベントは円谷プロ方面で起こるのですね。
桜「何かイベントの匂いがする。」
翼「あの車が何なのかモブの通行人に訊こう。」
紬「すみませーん。さっき走って行った派手な車は何かわかりますか?」
通行人「あれか?あれは科学特捜隊の車だよ。」
紬「有名なんですか?」
通行人「ああ、誰でも知ってるよ。お世話になってるからな。」
紬「ありがとうございます。」
3人は人気のない路地に入ってスマホを取り出した。」
翼「科学特捜隊...あった!1966年7月17日から1967年4月9日まで、TBS系列で全39話が放送されたSF特撮番組『ウルトラマン』に登場する国際地球防衛組織。」
桜「たぶんこれだ、イベント。」
紬「さっき銀座の電光掲示板で見たけど、きょうは4月5日だよ。もうすぐ最終回じゃん。」
翼「ヤバい。最終回でウルトラマンはゼットンに破れる。」
桜「確定だね。日本中の子どもたちのヒーローが怪獣に負けるのを何とか阻止。子どもたちのトラウマを回避せよ。」
紬「そんなのできるの?相手は怪獣だよ。」
桜「翼、ゼットンはどうなった?」
翼「えーと、岩本博士という人が開発した無重力弾をアラシ隊員が撃ち込んで空中で爆死。」
桜「それだ。ハヤタ隊員をウルトラマンに変身させないで、アラシ隊員が単独出撃すればOK。」
翼「そうなると、ハヤタ隊員を説得して岩本博士に開発を急がせる必要があるんだけど、科学特捜隊の場所がわからない。検索しても東京郊外としか出てこない。」
桜「画像を見ると山影が見える。東京都で山影が見えるのは多摩地区だけ。そこを当たろう。」
紬「当たろうって言っても、多摩は広いよ。」
桜「多摩といったら京王線。とりあえず新宿に移動して京王線に乗ろう。」
翼「小銭が必要になると思うから、万札をもう1枚両替しておこう。」
紬「三越1階のサービスカウンターで、これからタクシーに乗るって言えば両替してくれると思う。」
15枚の千円札――当時はまだ高額紙幣――を手にした3人は、銀座から新宿までタクシーに乗った。いや、いったんは丸ノ内線に乗ったのだが、車内があまりにも不快で耐えきれず一駅で降りてしまった。当時の電車は冷房もなく窓は全開。今と比べて圧倒的多数が喫煙者であり、分煙もあまり守られていなかったので、電車に乗るとタバコの臭いから逃れる術はない。
桜「ヤバいヤバいヤバい、ヤニの匂いが身体にしみこむ。」
翼「ホームが煙だらけ、信じられない。」
紬「すぐ脱いでクリーニングに出したい。」
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女神「おい、青水!当時の日本は高度成長期でユートピアかと思ったら地獄じゃないか。」
青水「ああ、昔の日本人はマナーがなっていなかったらしいよ。3人が遭遇したヤニ地獄は日本中に存在して避けがたい。飲食店でも禁煙の店なんてほとんどない。道路に平気でゴミを捨てる。つばや痰を吐く。犬のウンコはそのまま放置。」
翡翠「昔は良かったみたいにノスタルジーに浸る人も少なくありませんが、記憶が塗り替えられているのでしょうね。」
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桜「ふう、タクシーに逃れて窓を開けて風を入れたら少しはマシになった。」
翼「でも、ほら見て、タクシーの客席にも灰皿と吸い殻が。」
桜「とんでもない時代だな。」
紬「できるだけ見ないようにしよう。」
桜「さて、新宿に着いたが、地獄のホームに降りる前にタカノフルーツパーラーで作戦会議をしよう。さすがにあそこはヤニ地獄と無縁なはず。」
紬「無縁....ふふ....無煙だから無縁...」
桜「翼、無視だぞ、ツッコんだら負けだ。」
翼「フルーツパーラーを名乗っているだけあって、パフェが豪華だ。メロンをあしらったものもある。」
紬「私、メロンとハーゲンダッツを一緒に食べるのが好き。」
桜「ハーゲンダッツじゃないけど、いちおうメロンパフェにはアイスが添えられている。」
翼「オアシスだ。地獄で出会ったオアシスだ。」
桜「それじゃ作戦会議だけど、いちおう特撮番組の中の世界という前提で話を進める。」
紬「番組が設定している実際の東京、つまり架空の東京。」
桜「そうじゃないとゼットンが出現できない。」
翼「なるほど、そうなると多磨方面にある撮影所が怪しい。」
桜「うん。撮影所で撮られた映像の世界だから。」
翼「京王線は京王八王子が終点だけど、そっちまで行く必要はなさそう。」
紬「怪獣関係は円谷プロが専門で、その社屋とゴジラが活躍する東宝撮影所はご近所だよ。」
桜「ホットポイントだ。京王線からだと仙川から歩くのか。」
翼「小田急線だと成城学園駅が近いよ。」
紬「ただ、うちらは撮影所を目指すのではなく、あくまでも科学特捜隊の基地を目指す。おそらくこの架空世界では、撮影所の近所という設定になっていて、ロケも近所でやっていたに違いない。」
翼「ねえ、銀座であの痛車っぽい車を見つけたとき、モブの人が言ってたよね、お世話になってるって。」
紬「言ってた。つまりこの世界は架空のドラマ空間で、科学特捜隊は毎週怪獣と戦っている。」
桜「ともかく小田急線に乗って成城学園駅を目指そう。行けば何かわかると思う。」
翼「着いた。」
紬「のどかな世田谷。」
桜「ダメ元でタクシーに乗って科学特捜隊までって言ってみよう。」
タクシードライバー「科特隊ですか?あそこは一般車両立ち入り禁止地域にあるので、横付けはできませんよ。」
桜「かまいません。立ち入り禁止の手前で降ります。」
タクシードライバー「了解しました。」
翼「通じちゃったね。」
紬「ウルトラマンがいる世界。」
桜「緊張して進もう。」
ドライバー「この道の先に立ち入り禁止の規制線があるので、道が細くてUターンできないから、ここで降りてもらえますか?」
桜「わかりました。ありがとうございました。」
翼「あっちに進むと多摩川があるよ。」
桜「その向こう側に基地がありそう。」
紬「あ、あれだ。」
桜「防衛体制は盤石だろうから潜入は無理ね。」
翼「基地から町へ出る道はこれ1本だから、ここで待ち伏せして車が来たら止めよう。」
紬「あ、来た。痛車。」
桜「ストーップ!」
ハヤタ「何だ君たちは!危ないじゃないか!」
桜「ハヤタ隊員ですね?そしてハンドルを握っているのはアラシ隊員。」
翼「後に毒蝮になる。」
紬「余計なことは言わないように。」
桜「岩本博士の研究室に連れて行ってください。地球のために重要な話があります。」
ハヤタ「なぜ私の名前を知ってる?その服装、現代とはズレがある。君たちは何者だ?」
桜「ゼットンの悲劇を阻止するために来た女とだけしか言えません。」
紬「21世紀でアニメ版も見た女でもある。」
翼「あんたも余計なことを言うなよ、紬。」
ハヤタ「なぜゼットン星人のことを知ってる?」
翼「ウィキペディアで見たからだよ。」
桜「えーっと、この子たちの雑音は無視して話を進めて良いですか?」
ハヤタ「何だ、言ってくれ。」
桜「ハヤタ隊員、いや宇宙警備隊隊員ウルトラマン、あなたはゼットンと戦ってはいけない。」
ハヤタ「君、なぜ....」
桜「端的に言おう。ウルトラマンは負ける、そして死ぬ。隊長のゾフィがやって来て遺体を回収する。あなたの死は無駄死に、あなたは死ななくて良かった。なぜなら岩本博士が開発した無重力弾でゼットンは爆死する。トリガーを引くのはアラシ隊員、あなたです。」
翼「ハヤタ隊員はそもそもあなたと衝突して死んでるんだ。あなたは責任を感じてハヤタ隊員と命を共有した。あなたが負けて死ねばハヤタ隊員はもう不可逆的に死ぬ。」
紬「なので、選択肢はひとつ。岩本博士の無重力弾を早期に完成させ、ゼットンが出現したらアラシ隊員が撃ち殺す。これで誰も死なない、誰も悲しまない。」
アラシ「ということは俺が最後のヒーローになるのか。それ、いただきだ。」
ハヤタ「わかった。すべて辻褄が合う。乗ってください。岩本博士の研究所までご案内します。」
岩本博士「何だ、君たちは?ここは部外者立ち入り禁止だぞ。」
ハヤタ「博士、彼女たちはどうやら未来から来たようです。現況のすべてを把握しています。」
桜「博士、無重力弾の完成を前倒ししてください。でなければウルトラマンは敗北し、ハヤタ隊員は死にます。誤差は3日ぐらいです。これをどうぞ。未来技術で作られたカロリーメイトです。これで食事時間がほぼゼロになります。1日2時間は余分に使えるでしょう。」
翼「これは受験生用アイテムの超刺激グミです。眠くなったらこれを口に入れてガツンと目覚めてください。」
紬「頑張れ、岩本、頑張れ、アラシ!そしてハヤタは休め!」
2日後にゼットンは無事に討伐され、ハヤタは迎えに来たゾフィーとM78星雲に戻っていった。
ゼットンを倒したのは岩本博士とアラシ隊員。毒蝮三太夫になるアラシ隊員は日本を救った英雄だったのですね。




