消えた元パセリちゃん、現ラプンツェル、王子は塔から墜ちて動けない
はい、あの金色の謎物体はラプンツェルの髪の毛だったようです。
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青水「なあ女神、初級に格下げしたけど、あいつら結構頑張ってたじゃん。」
女神「つい翡翠と比べてしまった。」
翡翠「私、17もエピソードを使って、ルイ16世夫妻とその子どもたちをパリから逃がし、ケンタッキー州のルイヴィルで事業主として成功させるまで、それはもう一言では言い表せないほどの苦労をしましたからね。」
青水「ずいぶん前に助けたマノン・レスコーがチャールストンで水商売と風俗業を原点として成功していたので、その助けも借りたんだよな。」
翡翠「はい、そこまで遡ると、本当に息の長い調律でした。」
女神「アメリカに渡ってメアリとルイスになったふたりは、マノンの店で接客しながら英語を鍛え、ついにはステージで漫才まで披露してた。いや、王族ながらしたたかだったな。」
翡翠「そうなんですよ、あのふたり、王族なのにというより王族だからかもしれませんが、生きる力が半端ない。あの時計ばかりいじくっていたルイくんも、アメリカでフランスのアサシンに襲われそうになったときは、私が御巫流棒術を指南して、ふたりで多数のアサシンを撃退しましたからね。」
女神「なんだかんだ言って、翡翠、おまえも楽しんでいたんだろ?だからエピソードを17も続けた。」
翡翠「はい、それは否定しません。てへ。」
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謎の塔に近づいたJKトリオは高い窓からぶら下がってる金色の物体が髪の毛であることに気付いた。それにしても何という毛量だろう。
桜「何、これ金髪?毛量がエグい。うちらで一番毛量がある翼よりずっと多い。」
翼「えーと、私はふつうの人間なので、こういう超常的なものと比べないでね。」
紬「これ、何のために垂れ下がってるのかな?」
そのとき森の奥からいかにも王子ですといった服装の青年が現れ、彼女たちに挨拶した。
王子「Guten Tag, schöne Fräulein!(こんにちは、美しいお嬢様方!)」
桜「ぐ、グーテン・ターク!……おい、翼、素性を聞き出せ。」
翼「Guten Tag! Sind Sie ein Prinz?(こんにちは!あなたは王子ですか?)――シンプルだけど通じればいい――」
紬「なるほど、見たまんまの王子様なのね。Bonjour prince!」
桜「この奇妙な塔が何なのか知ってるか訊いて、翼。」
翼「そういう複雑なのは桜の高速入力アプリでやってよ。私、無理。」
桜「わかった。“このでっかい金髪の三つ編みは何なのか知ってますか?” さあ、どうだ。」
王子がペラペラ、いやドイツ語はペラペラという響きじゃないな、ベウベウと説明したが、もちろん誰もわからない。
桜「あ、音声モードにしておけば良かった。翼、何かわかった?」
翼「わかるわけない。なんか上を指差して登るって言ってたみたい。」
と言ってる間に、王子は軽く笑顔で会釈すると、三つ編みを掴んで手と足を器用に使ってスルスルと登っていった。
桜「うわ、上級アスレチックだ。私、あんな高さは絶対無理。」
翼「命綱必須だよね。ボルダリングでもハーネスにワイヤーが付いて安全確保している。」
紬「命がけで登った先に何があるのかな?桜、ちょっと登って確かめてきて。」
桜「アホか!さっき無理って言ったでしょ。この天然アオリストめ。」
紬「お、素晴らしい造語能力。港区JKならではだね。」
桜「どこかに入り口ないのかな?」
翼「ぐるっと一周したけど、扉はおろか窓も通風口もない。」
紬「命をかける覚悟がある者だけを受け入れる謎の塔。」
桜「ドラクエなら絶対登るけど...」
3人がそんな話をしていると、上の方で何やら言い争う声が聞こえ、王子が怒りに震えて窓から出て三つ編みを降りようとしていた。だが、3メートルほど降りたところで三つ編みは窓の中で切られたようで、王子はふさふさの三つ編みを掴んだまま4メートルほどの高さから落下して動かなくなった。
桜「ヤバっ!何があった?」
翼「さっき知り合ったばかりだけど死んだらイヤだな。」
紬「死んでないみたいだよ。ピクピク動いてる。」
3人は王子に駆け寄った。王子は打撲か骨折か、けっこうなダメージを受けたようで立ち上がれない。ただ、その口は弱々しく「ラプンツェル...」と呟いていた。
桜「あ、ラプンツェルだ。思い出した。子どものころ親が買ってくれたDVDで観た。」
翼「それ、ディズニーのアニメでしょ。お子様が観ても安全仕様の。」
桜「そうだけど、安全じゃないのもあるの?」
翼「検索したら、この物語がどんなふうに成立してどんなふうに変化してきたかわかるよ。英語も併用して検索したけどね。」
紬「おお、ウィキの騎士、そなたの知り得た知識を我らにも教えてたもれ。」
桜「ちょっと紬、その喋り方の設定、いろいろこんがらがってるからね。」
翼「では皆の衆、お聴きあれ。この物語の元ネタは古いペルシャの神話で、そこでは髪の毛を垂らして恋人を招き入れるだけの微笑ましい話。それが17世紀のフランスで、魔女が幽閉しているパセリちゃんに王子が会いに行く話になって、ここでフランス宮廷人が好きそうなエロ要素が入る。王子様、塔の上に登るんだけど、命をかけるだけのご褒美が待ってたの。はい、パセリちゃんとの愛の交歓です。つまりエッチです。やることやったら妊娠する、レディコミのお約束ですね。これがバレてパセリちゃんは遠い海沿いの小屋に追放されてしまう。」
桜「ちょっと待って。ラプンツェルじゃなくてパセリちゃんなの?」
翼「うん、フランス語でペルシネット、意味はパセリちゃんだね。ラプンツェルになったのは、18世紀末のドイツ語版でのお話。」
紬「ふむふむ、なかなか過酷な成り行きですな。で、王子はどうなった?」
翼「パセリちゃんがいなくなったことを知らない王子は、鼻歌交じりで密室デートの場所を目指して三つ編みを登ったんだけど、そこに待ち受けていたのは魔女。魔女は、“バーカバーカ!鼻息荒くしてのこのこ登ってくるんじゃないよ。おまえのパセリちゃんは腹がふくれたから追い出してやったわ。もうエッチできねーよ!+`*;――乙女なので自粛――”と言われ、絶望して塔から飛び降ります。」
桜「死んだのか?」
翼「いや、なぜか生き残ったけど、それからどうしたわけかホームレスになって森や野山を数年間彷徨います。」
桜「実家が王家なんだろ。なんで城に戻って金貨を山ほど持ち出さない?」
翼「謎ですね。実家がパセリちゃんとの淫行を許さなかったのかも。」
桜「う、それはそうかも。」
紬「ルンペンになった王子はそのあとどうなったの?」
翼「無事にパセリちゃんが追放された海辺の小屋にたどり着き、双子の母になっていたパセリちゃんと再会。ここからハッピーエンドになる流れですね。」
桜「孫と嫁を連れ帰れば、そりゃ王様とお妃様も許すしかないわね。」
翼「さて、そこで“ラプンツェル...”と名を呼びながら、痛いからか恋人が消えたからかわからないけど、しくしく泣いてるうちらの王子はどういう位置づけになるか考えてみると、名前がパセリじゃなくてラプンツェルだし、ドイツ語を話してるし、18世紀末のドイツで作られた翻案ですね。」
桜「グリムじゃなくて?」
翼「グリムでは、王子は落下したはずみで目に茨の棘が刺さり失明するけど、この王子は打撲だけだから。」
紬「ラプンツェルのこと、妊娠の有無、いろいろ尋問しなくては。」
桜「そうね、私たちJK旅団の案件だわ、これは。」
翼「ヘイ、プリンツ!――急に無礼になっている―― Es tut weh, ich verstehe. Aber wir haben Fragen. Du musst antworten. OK?(痛いのね、それはわかる。だけどうちら質問があるの。あなた、答えなければならないわよ。)
桜「よし、音声モードにして手っ取り早く質問しよう。“単刀直入に訊くけど、あなた、ラプンツェルを妊娠させた?余計なごたくは良いから、イエスかノーで答えなさい。”」
王子「うううう、“答えはイエスです。愛の結晶です。”」
紬「(何か言いそうになって、その生々しさと時代の制約を思い出して口を紡ぐ)。」
桜「紬、あんたいま“生”とか“中”と言いそうになったでしょ。唇の形でわかるんだよ。慎め、乙女。」
王子「うううう...“ラプンツェルを...ラプンツェルを...探しに行かなければ...”」
桜「“あなた、動けないでしょ。しばらくそこで安静にしてなさい。“」
翼「Eines habe ich dir zu sagen. Such sie am Meer!(ひとつだけ教えてあげる。海辺を探しなさい!)」
紬「それじゃ私たち、もう行くわね。Au revoir!」
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女神「あいつら、優しいんだか厳しいんだかわからないな。」
翡翠「女子高生としてはやっはりこういう問題において男性の責任を問いたい気持ちが強いのでしょう。私だって同じ態度に出ます。」
青水「あいつら、このあとどうするんだろう?楽しみだな。」
いやあ、JK旅団の尋問、なかなk痛快でしたね。「愛の結晶」?きれいごと言ってるんじゃないわよ、って感じが伝わってきます。




