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LAST ONE -Δ42-  作者: project pain


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悩むという事

ユイのブレスレットから収集した連絡先を片っ端から当たったが誰からも応答がない。知らない番号からだから怪しまれるのは最もなのだが。


通話履歴とメッセージの未返信が、画面に溜まっていく。その中でただ一人だけ、メッセージの返信をしてくれた。


『直接であれば会えますよ』


「・・・まぁ、直接でもいいか」


コウイチはその人物と会う時間と場所を決めてブレスレットを閉じた。



コウイチは連絡が付いた女性とオープン・カフェテラスで待ち合わせる事にした。手が落ち着かず、持っているアイスコーヒーの氷が合わせて揺れていた。


「お待たせ。君が連絡入れてくれた人だよね?」


何だか下の方から声が聞こえた気がする、と声の主を探すと、そこにランドセルを背負った女の子が立っていた。


「小学生?」


「ビックリしたでしょ」


まさかこれだけの為に直接会うと言い出したのか?だとするとこの人、相当根が悪い。


「まさか小学生まで若返りを?」


「そだよ。たまにはこういうのも面白いと思って」


この人の考えが計り知れない。彼女は座るなり"同じ物を"と注文した。店員は一瞬だけこちらを見たが、何も言わずに注文を通した。


「で、黒瀬さんの事だよね?」


「はい・・・まぁ」


店員からコーヒーを受け取った彼女はストローで一口飲んでグラスをテーブルに置いた。


「黒瀬さんは何かの思い出を抱えていたのかもしれないね」


「思い出?」


「そう。でもただの思い出じゃない。忘れたいのに忘れられない、そんな思い出。彼女真面目だから、そういうの抱え込んじゃうのよ。だからその部分だけを削除した」


忘れたくても忘れられない思い出。かつての自分と同じという事だろうか。だけど何かが決定的に違う。ユイが部分的に記憶を消したとしても、それだけで深層領域に深刻な問題が起きるとは思えない。


「・・・もしかしたら、だけど、黒瀬さんあの・・・闇マーケットに行った事があったのかも」


「闇マーケット?」


「そう。あそこなら色んなデータをカスタマイズできるの。自分の能力向上や新しいスキルの習得みたいなね」


「でもネットで調べてもそんな場所見付からなかったんだけど」


「そりゃそうだよ。あそこは場所を知ってる人しか入れない。SNSなんかに書いたら即削除される。そんな場所なんだよ」


それが何らかの形でユイの深層領域に問題を起こさせたのか?それを確かめる方法は一つしかなかった。


「場所って・・・知ってたりする?」


「知ってるよ。ちょっと待ってね」


彼女はランドセルからメモ帳を出して、そこに何かを書き始めた。


「はいこれ。行く直前にナビアプリに手入力してね」


「手入力?」


「それだけ危険な所って事。じゃあ、ここはお兄さんのおごりね」


彼女は椅子からピョンと飛び降りると下に置いていたランドセルを背負った。


ユイは何かをカスタマイズしていた。それが何であれ、今の彼女に影響しているのかどうかを確かめる方法は一つしかなかった。


危険だという事は分かっている。だが、行かなければ何も分からない。コウイチはメモ帳に書かれた座標をもう一度確認し、ブレスレットを操作してナビを起動した。




闇マーケットに入ったコウイチは一人、通りを歩いていた。あちこちから客と店員の声が聞こえる。


「金持ちになりたい・・・。有名人がいいな」


「何でも望みのままに」


後付で記憶を書き換えたい者達だろうか。こんなやり取りがあちこちで起こっている。


「ロシア語が話せるようになりたい」


「じゃあこれだな。300ゼガだ。インストールするからこっちに来な」


買った客は店の奥にある椅子に座って頭や腕に吸盤状のインターフェイスを付けられている。道理でネットで探しても見つからないわけだ。


「まさかカオリも・・・?」


料理下手だった彼女が突然弁当を作る様になった。突然胸が大きくなった。それ等がここで追加インストールできたなら腑に落ちる。


「兄ちゃんは何探してるんだい?」


通りを歩いていると、一人の男性に声を掛けられた。


「黒瀬ユイって人、知りませんか?ここで彼女が何かを買ったと思うんですが・・・」


「聞いた事ねぇ名だな。けど、詳しい奴がいる。客の事に関しちゃそいつが一番だ。会うかい?」


その時、後ろから誰かに腕を掴まれた。


「誰だお前?」


前川は警察手帳を出した。


「警視庁の前川だ。この子は俺が保護する。いいな?」


「前川さん・・・何でこんな所に・・・」


「刑事が相手じゃどうにもなんねぇ。勝手にしな」


男が通り過ぎるのを確認して、前川は腕を掴んだまま外へと歩き始めた。


「こんな所、高校生の君が来ていい場所じゃない」


「だけど俺は・・・」


「いいから、一度頭を冷やせ」


前川はコウイチを公園まで連れ出した。




「ほら」


前川は缶コーヒーをコウイチに渡した。


「ありがとうございます」


蓋を開けて一口飲むと、缶を口から離して両手でつかんだ。


「この味もデータなんですよね」


「そうかもしれない。だけど、このコーヒーの味を君の舌はどう感じた?苦いと感じたか?甘いと感じたか?」


「どういう意味ですか?」


前川は立ち上がった。


「君が今抱えている悩みも与えられたデータなのかもしれない。けどな、それをどうするのかは君次第だ。今揺れ動いている心は、今君自身が動かしているんじゃないのか?」


「でも21世紀だと思ってたのに、本当は24,354年だって言われたんですよ。そう簡単に飲み込めませんよ」


「だろうな・・・。突然言われたのなら混乱してもおかしくはない」


「前川さんは知ってたんですか?」


「実は俺もよくは知らない。だけど、今を懸命に生きている。目の前にある事件、目の前にある出来事を放ってはおけない。君はどうだ?」


もしユイが俺の前に現れなければ、俺は何も知らずに生活を送れたのかもしれない。もしユイの側にいなければ世界の真実を知らずに済んだのかもしれない。・・・それでも。コーヒーを一気に飲み干してコウイチは立ち上がった。


「何か俺・・・やらなきゃいけない事が見えてきた気がします。ありがとうございました」


何かを分かってなくてもいい。だけど、分からないままでも立ち止まってはいけないと思えた。彼女がいない場所に自分が立っている光景だけは、どうしても思い浮かばなかった。


コウイチは腕のブレスレットを表示させて手術室へと転移した。


「悩めるってのは若い奴の特権だよなぁ・・・」


コウイチの姿を見送った前川は空を見上げた。

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