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LAST ONE -Δ42-  作者: project pain


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3/6

違和感

──それは突然の出来事だった。


「おい、誰か屋上にいるぞ」


「飛び降りる気か?」


「あれ1年の高橋じゃないか?」


うちのクラスの奴じゃないか。


「あ!」


飛び降りた、と思ったらその姿はバーコードの様なリングに包まれて消えていった。


「まぁよくある事だよな」


「いるよな〜。ちょっと面白くないからって人生巻き戻す奴」


それっきり誰も気にする事もなく、散らばっていった。


「・・・巻き戻す?」


言い知れぬ違和感をコウイチは感じ取った。




──刑事がその日のうちに学校に現れたのは不自然な事ではなかった。


「自分は警視庁の前川っていいます。女子生徒の自殺の件で聞きたい事があるんだけど、少しいいかな?」


「はい・・・うちのクラスの高橋ユカさんです」


「彼女に最近変わった事とかなかったかな?誰かにいじめられてたとか」


「いえ・・・そんな事は」


「そうか。彼女と親しくしてた生徒に心当たりはあるかな?」


「えっと・・・、入宮さん、森田さん、田中さん・・・位でしょうか」


「分かった。ありがとう」


「あの・・・」


校舎に向かおうとした前川をコウイチは思わず呼び止めた。


「俺見たんです。高橋さんが飛び降りた時に姿が消えたのを。見ていた人が巻き戻すって言ってましたが・・・」


前川は顔を寄せてコウイチに小声で話し掛けた。


「・・・それは心の内にしまっておけ。後々面倒な事になる」


前川には知ってるが簡単に答えられない何かがある。そんな風に感じられた。




カレンダー通り、ゴールデンウィークに突入した。コウイチとカオリは買い物でショッピングモールに入った。


「私ちょっとトイレ行ってくる。買った服見張っててよ」


「へいへい、いってらっしゃい」


8階建ての建物で、5階までは吹き抜けの構造。透明なアクリル製の壁もあって、店や通る人の姿までバッチリ見える。コウイチはベンチに座ってその光景を眺めていた。


「あれ、鷹宮君も買い物?」


そこにはショッピンバッグを手にしたユイが立っていた。


「まあ買い物に付き合わされるというか」


「でも、やっぱりそこに座るんだね」


「なあ、君は俺の過去を知ってるのか?だったら教えてくれないか?昔の俺・・・若返る前の俺を」


「今更知ってどうするの?」


「え?」


「私はなぜあなたが記憶を消して若返りをしたのか理由を知らない。でも、あなたが望んでやった事よ。・・・もう行くね。友達待たせてるんだから」


ユイは踵を返してコウイチの前から姿を消した。それと入れ違いにカオリが戻ってきた。


「コウ君どうしたの?」


「いや、何でもない」


「そう?私行きたい店があるんだ。行こ」


その時、彼は何かが違うという違和感を覚えた。ユイと話していた時と違う何か。好きとかそういう恋愛感情じゃない。ただ、一緒にいる間だけ周囲のざわめきが少し遠のく様な感覚。それが一番近くにいるはずのカオリからは感じられない。複雑な感覚を抱いたまま、コウイチはカオリに腕を引っ張られてベンチから離れた。




──俺は何者かから逃げる様に走っていた。

誰かの手を引いている。女子・・・だと思う。けど、誰なのかが分からない。

エレベーターに向かってとにかく走った。ボタンを押す。が、反応がない。何度押しても、何も変わらなかった。

追っ手の姿は見えない。それでも、確実に近づいてくる気配だけがあった。


間に合わない。


そう感じた瞬間、目が覚めた。




ある日、カオリの方から連絡が来た。


『少し話せる?』


待ち合わせたのは学校から少し離れた公園だった。特別な場所ではない。ベンチがあって、街灯があるだけだ。


「急に呼び出してごめんね」


カオリはそう言って、ベンチに腰を下ろした。少し間を空けて座ったのが分かった。


「最近さ・・・」


言いかけて、言葉が止まる。


「・・・何か、変じゃない?」


「俺が?」


「ううん。私が・・・かな」


そう言って、カオリは小さく笑った。


「一緒にいるのに、何か・・・見てもらえてない感じがして」


コウイチは返事を探したが、うまく言葉にできなかった。否定もできたし、誤魔化す事もできた。けれど、どれもしっくりこない。


沈黙が続いた。


「・・・やっぱり、無理してたのかもね」


カオリは立ち上がり、制服の裾を軽く払った。


「コウ君は悪くないよ。ほんとに」


そう言って、少しだけ笑う。


「じゃあ、ここで」


それだけだった。


背中を見送る間、コウイチは声をかけなかった。引き留める理由も、続ける言葉も、浮かばなかった。カオリの姿が見えなくなってから、コウイチはようやく息を吐いた。特別な事が起きたわけじゃない。ただ、終わったのだと分かった。


奇妙な事に、それ以降カオリの姿を見掛ける事がなくなった。彼女の教室の様子を見てみたが、そこには席その物が配置されていなかった。まるで、最初から誰もいなかったかの様に。




──それから数日後


「鷹宮君」


教室から出てすぐに背後からユイに呼び止められた。何やら申し訳なさそうな困り事を抱えている様子だ。


「あの〜映画の席予約してたんだけどさ、友達が用事ができたからってドタキャンされたんだよ。・・・良かったら一緒に行かない?」


「映画?別にいいけど」


土日に行くのかと思いきや、放課後に直接観に行くつもりだったらしい。確かにドタキャンと言っただけはある。


「聞くの忘れてたけど、何てタイトル?」


「異世界刑事。ファンタジーの世界で刑事ドラマをやるんだよ」


「そういうのに興味があるんだ」


「意外っだった?」


「いや、別に・・・。席どこ?」


「後ろの方のセンター。ここが一番観やすいの」


「ふぅん。俺、映画とか観た事ないからなぁ〜」


スタッフロールが流れ始めた辺りで席を立とうとしたコウイチの手をユイは当たり前の様に掴んだ。


「まだだよ。この後にも話が続くから」


「そうなの?」


「そうだよ」


ユイの指摘通り、エピローグ的な話が少し出て館内の照明が明るくなった。


その後二人は簡単な夕食を食べて帰路に付いた。


「あのさ・・・」


「ん?」


「映画のお返しと言っては何だけど・・・今度遊園地行かない?」


「子供っぽいな〜。でも、うん、いいよ。いつ行くかは後で考えようよ」


「OK。連絡はブレスレットでいい?」


「じゃあ連絡先教えるね」


コウイチとユイはブレスレットを表示させてお互いのアドレスを交換した。


「じゃあまたね」


「うん、じゃあまた」


手を振る事もなく、二人はそのまま別れた。コウイチの中では不思議と物足りない感じはなかった。





──翌日

昨日の映画の事が嘘の様に日常が戻ってきた。人の声や物音が、一斉に押し寄せてくる。


──落ち着かない。


退屈な授業。全く集中できなかったコウイチは無意識に外の様子を眺めていた。


ヴォンッ

突然コウイチのブレスレットが光ってメッセージの着信通知が開いた。

「え?」

内容はメチャクチャだが、送信者はユイだ。

「こら鷹宮!授業中にブレスレット開くなっていつも言ってるでしょ!」

黒板に向かっていた永田から厳しい声が響く。

「すみません、ブレスレットが勝手に動いて・・・」

「そんな言い訳があるか!」



──放課後

コウイチはユイの教室に真っ先に向かった。彼女も教科書をバッグにしまって席を立とうとしているところだった。ユイはこちらを見るなり廊下に出てきた。


「何?どうしたの?」


「授業中にメッセ送るなよ」


「?私何もしてないよ。ほら」


ユイはブレスレットで送信履歴を見せる。


「確かに送られてないな。けど、俺の方には受信履歴があるんだよね」


「嘘?ウイルス?自己診断はした?」


「何それ?」


「それも知らないの?ちょっと貸して」


「おい」


ユイはコウイチのブレスレットの画面を操作してウイルスが仕込まれてないか診断アプリを起動させた。

コウイチはこの密着した時に何か心が安らぐ感じを覚えた。近すぎる距離のはずなのに、不思議と胸の高まりは感じなかった。その代わり、いつの間にか彼女の呼吸の間隔に引きずられる様に自分の息も落ち着いている事に気付く。


「・・・確かにおかしなところはないね」


「せっかくだし、遊園地の日程決めちゃわない?今度の土曜とかどう?」


「うん、その日なら空いてるから。今度の・・・コンドの土曜日、ど曜日ね?」


今一瞬、何かがズレた様な感覚がした。ユイの言葉が若干ブレている。


「私何か変な事言ったかな?」


「あ、いや何でもない」


その後の時間は驚くほど何事もなく過ぎていった。

ユイの言葉が一瞬だけずれた事も、ブレスレットの誤通知も、日常の中にすぐに埋もれていった。

そして土曜日、二人は約束通り遊園地に向かった。

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