2.巨獣の縄張り
森の北部は、昨日聞いた噂よりも静かだった。
いや、静かすぎる。
風の音すら遠くに追いやられ、森全体が息を潜めているようだ。
シェインは足元の地面を見下ろした。
そこには——巨大な爪痕。
地をえぐり、石を砕き、木々を大きな爪で薙ぎ払い、
へし折ったような痕跡が連続している。
「いやいや、巨獣って…聞いてたスケールと違うんだが…」
あまりにも凄惨すぎた。
周囲には焦げた土、斬撃の痕、踏み荒らされた大地。
転がる武器や防具、そしてその持ち主と思われる者の、
千切れて、吹き飛んで、バラバラに散らばった五体。
「コイツらが巨獣の縄張りを踏み荒らしてキレさせたのか」
さらに数十メートル先——
木が、森が、根元ごと吹き飛んでいた。
「元は深い森だったんだろうな…
今ではその見る陰もねぇ」
森とは思えぬ拓けた大地に広がる青空…
その中でシェインはそう呟いた。
だが、奇妙な違和感もあった。
獣の暴れた痕にしては、妙に"間"がある。
巨獣の痕跡の方は突発的な暴走にしては整いすぎている。
シェインは剣の柄に手をかけた。
「……ま、いい。とりあえず確かめるしかねぇな」
その瞬間、森の奥から低い唸りが響いた。
━━グゥゥゥゥゥ……
普通の獣ではない。
空気を押しつぶすような、腹の底から響くうなり声。
シェインは反射的に身構えた。
木々の間で、影が動く。
「来たな!」
影が一歩踏み出すたびに地響きがなる。
(……これ、もしかして)
これが噂の"巨獣"——
その正体に気づくのは、もう少し先の話だ。
次の瞬間、影がシェインの視界に飛び込んだ。
「え、人間…?」
そう呟いたのも束の間、刀を持った獣が襲いかかる。
それを、難なく躱し距離を十分にとった。
そして、その姿を顕にした"巨獣"と対峙した。
「人間…かと思ったが、獣っぽい要素が…
獣人か??にしてはヒトっぽすぎる」
グルルルゥ…。と唸り声を上げ、
そして―――
「てめえら!!何度言ったらわかりやがんだ!!!
ここは俺の縄張りなんだ!!!出ていきやがれ!!!」
吠え……喋った。
「喋れんのかよっ!!」
"巨獣"だと噂されていたソイツは、巨獣でも獣人族でもない。
荒々しい気配を纏いながらも、その動きも目も、人間そのもの。
金色の瞳の奥には、揺るぎない“理性”が宿っていた。
「てめぇ……何者だ?」
「名乗る気なんざねぇッ!!
ここは俺の縄張りだ!!二度と入ってくんな!!!」
二人の間に風が吹き抜ける。
―――次の瞬間、地面を砕く轟音とともに、
ソイツが飛びかかってきた。
「ブチのめして頭冷やしてやるか…!」
ソイツは手に持った刀を、
怒りのままに大きく振りかざしてきた。
だが——その動きは荒い。
力だけで押し切る、粗暴すぎる剣筋。
シェインは余裕で躱した。
次の瞬間、振り抜かれた斬撃が空気を裂き、
"衝撃波"となって一直線に走る。
バギィィンッ!!
その先にあった太い木が、根元から斜めに切り裂かれた。
まるで——森に残っていた"巨獣の爪痕"そのもの。
「……これが噂の元ってわけかよ」
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