"开花"
「殺してくれるんじゃ、無かったんですか?」
白昼
草の上で泥に塗れながら、僕に組み敷かれている弟の顔は、僕から視て右半分が腫れ上がり始めていた
『どうして右なのか』と言うと、僕が右利きだからだ
左手は抵抗する弟を押さえ付ける為に、躰重をかけながら彼の頭を掴んでいる
僕は彼の顔のあちこちを打つ手を止めて、弟の僕に似ない綺麗な顔を視た
僕たちは血が繋がっていない
一般的には連れ子がいじめられる事が多いのかも知れないが、僕は連れ子の身分でありながら弟を呼び出しては殴っていたし、弟はそれを誰にもバラさなかった
「じゃあ」
「そうしてやるよ」
殴打を再開すると、弟は痛みから来る反射で顔を背け、両手で顔を庇い始める
弟の言葉が強がりだったのかは解らないが、この瞬間に感じる昏い悦びを引き立てる調味料である事だけは、間違い無く思えた
必然、弟が顔を庇って居る為、振り下ろした拳の多くは彼の腕や手の甲を打ち据えて居る
手に伝わってくる感覚で弟の指が何本か折れたのが解る頃、弟の白かった腕はついに力無く左右に垂れ下がった
打撲痕だらけのその姿は、本来なら視るも無残なものである筈なのに、血と泥に塗れた彼の皮膚の総てが、今なお優美なものとして僕の眼には映った
様々な感情が在ったが、いずれにしても僕は弟の顔に拳を振り下ろした
瞼が切れ、血液がきらきらと僕に跳ね返る
その雫が袖を濡らした為、僕は次の拳を落とす手を止めて弟に言った
「服が汚れてしまったな」
言葉の意図が明白である為、弟が動いたのは直ぐだった
まだ折れて居ない何本かの指が、辿々しく自らのシャツのボタンを外していく
弟がようやくシャツの前を開く頃には、僕はすっかり自分の服を脱ぎ終えて居て、投げ捨てる様にシャツを弟に投げ渡すと、衣服を引っ手繰る為に弟に近付いた
抗い難い甘さが、芳香の形でシャツの下に在る弟の素肌から感じられて、僕は戸惑った
血と
汗と
肌の匂いだ
僕はどうして良いのか解らず、狼狽えながら弟を視て居た
弟が、くすくすと笑いながら僕の頬に触れる
「兄さん」
「もっと楽しい事を」
「しましょうか?」




