五本目 決着
打ち合って分かったことがある。
目の前の金級冒険者には呆れるぐらいの『才能』って奴がある。
……まぁ、俺より年下なのに金級である時点で、わざわざ言葉にしなくてもいい程の事実ではあるのだが。
おそらく、同じ年の頃の俺が、斧槍をここまで使いこなすことなど、天地がひっくり返ってもあり得なかっただろう。
それは『魔法』に関してもそうだ。
実際に彼女が魔法を使っているのを見たことはない。――だが、人間が魔物に対抗するには『魔法』は必須だ。
そんな冒険者で、最高等級まで上り詰めるのだから、『魔法』の才能など言うまでもなくあるのだろう。
――――だが、これは『身体強化』なしの戦い。
互いに生身の闘争。――ならば俺には彼女に勝っている所が一つだけある。
あとは、その瞬間を甲羅に閉じこもる亀のように……じっと待つだけだ。
大丈夫。――『諦めないこと』だけは得意だ。
※ ※ ※
斧槍の柄を盾で弾き、斧部分を剣で防ぐ。
この攻防が、もう何度繰り返されたか分からない。
一時間は経ってるかもしれないし、一分も経過してないかもしれない。
少なくとも、今この集中が途切れた瞬間に均衡は崩れる。
「ㇵァ…………ㇵァ…………ㇵァ…………」
すでに息は足りない。
それでも格上のブランに食らいつく。
「……」
「……」
その時——互いに攻防を繰り広げているハズの彼女と目が合う。
「ㇵァ……ㇵァ……――」
一瞬の視線の交錯。
それでも、俺の直感は告げていた。
「――――」
状況が動くということを。
「……っ」
上からの斧の一撃。
何の変哲もない今まで通りの一撃。
――ではなかった。
「……ココ」
迫るかと思われた斧。
けれど右手で短く持たれた斧は上方にズラされ、斧槍の柄と剣の刃が激しくぶつかる。
そして次の瞬間――
「――フッ!!」
ブランの短い裂帛と共に、落下のように迫った斧が剣に引っかかる。
俺が初手で引っかかった、態勢崩し。
剣ばかり使っていた俺には馴染の薄い技術。――だが、
「――――――――待ってたよ」
俺は剣を強く握り――――無理やり耐えた。
「なッ——」
ブランから今日一番の声が漏れる。
――そして、今日一番の油断で……最後のチャンスだ。
「――――」
俺は無理やり耐えている剣の力を一気に抜く。
「っ…………!?」
当然、拮抗していた力を突然緩めれば、ブランの態勢は崩れる。
「ふッ——!!」
短く息を吐き、ブランの斧槍を剣を構える腕ごと回すことで巻き取り――――大きく弾き飛ばした。
「――――――」
まさかの絡め手に、ブランはその真っ白な髪を揺らしている。
が、そんなことは関係ない。
「悪く思うなよ——」
俺は千載一遇の好機に、盾をブランにぶつけながら突貫。
そのままブランを押し倒した俺は彼女へ馬乗りになりながら、そっとブランの首に刃を添えた。
「ハッ……ハッ……ハッ……————俺の………………勝ちだ」
「…………」
その状態で、ブランは目を見開いて固まっていた。
「…………」
「…………」
「…………」
そして、その場の全員が———ギルド長やセレストやヘリオスまで、銅級が金級を組み伏せている光景を何秒も見つめていた。
やがて、
「…………ま、負けました」
「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!!!」」」
星空の見える闇夜に、熱狂の歓声が上がった。
「……大丈夫か?」
俺は剣を仕舞い——ブランに手を出す。
「……あ、ありがとう」
ほんの少しの間を置いて、ブランは俺の手を取って立ち上がった。
———セクハラだと思われたかな?
手を取るときの少しの『間』にオッサン特有の恐れを抱いていると、
「最後……『待ってた』って……」
立ち合いの最後、俺がブランの態勢崩しを無理やり耐えた時のことを俺に聞き始めた。
「あぁ……アレ…………」
必死に息を整えながら、滴る汗と一緒にうっとおしい前髪をかきあげながら答える。
「戦い慣れない斧槍との戦闘で、驚きっぱなしだったけど——耐えてれば、一度使った技を絶対に使ってくると思ってた」
『ふぅー』と息を吐きながら、息1つ乱していないブランをうらやましく思いつつ言葉を続ける。
「そのうえで、『身体強化』なしで俺と君の一番の違い——『体格差によるパワーの差』を一番活かせる『態勢崩し』をもう一度使ってくるのを待ってた……それだけ」
「…………」
やっと息が整ってきたのを感じてなんとなく嬉しくなっていると、ブランは俺のことをジッと見つめてきた。
「……何?」
金級のプライドでも傷つけてしまったのかと、内心ビビりまくる俺。
「…………簡単そうに言うけど、それは難しいこと」
「え?」
だが、いざブランの口から出た言葉は、やはり立ち合いのことについてだった。
「『態勢崩し』は、やろうと思えばいろんな角度からできる。それに、タイミングだって自由自在。―――対処しようと思ってできることじゃない」
「……そうだな」
自分の技術に確かな自信があるのか、俺に対してハッキリとそう宣言するブランを眩しく思いながら、俺は言葉を付け足した。
「でも、耐えて居れば、その状況をじれったく思う君は自身のある技術に頼る。――立ち合い中に目が合ったろ? その時に、その兆候を感じたから俺は反応できたんだよ」
「…………戦闘中に相手を見ることは大切。貴方はその技術が卓越してる。―――きっとそうゆうことなんだね」
「いやいや、そんな大げさなことじゃないさ」
最高等級の冒険者からの賛美に、俺は自覚があるほど気持ち悪い笑みを零してしまう。
「オジさん……いや、アルティ」
そこでブランは初めて俺の名を口にする。
「……?」
疑問に思いながらも、なんだか改まった空気を感じた俺はしっかりとブランに向き直った。
「私と……パーティを組んで欲しい」




