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ソード・レイン ~万年銅級の下級最弱(ビリディス)~  作者: 珠積 シオ


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エピローグ 彼女の真実

 あれはキイラがパーティに加わってから一週間がたった頃だった。


「なッ……!?」


「ん? どうした?」


 なんか絶句するキイラの視線の先に、とある少女が居た。


 ピンクのエプロンに、白い頭巾で髪の毛を覆っている少女だ。


「おぉ、久しぶりだなぁ」


「へ……!?」


 その少女は、以前に冒険者に絡まれている所を助けたあの少女だ。


 殴られた俺を酷く心配していたのをよく覚えている。


「……お久しぶりです。傷もすっかり良くなったみたいで……安心しました」


「おうよ。パーティメンバーに回復魔法の得意な奴が居るんだ。――おかげでも毎日依頼(クエスト)漬けよ」


 わざとらしく力こぶを作る俺に、少女は『フフッ』と笑っている。


「嬢ちゃんはこれからどっか行くのか?」


「はい、これからお花を貰いに行くんです」


「へぇ、花ねー」


 思わずまるっきり興味のない声が出てしまい、少女は首を傾げた。


「……お花は興味ないですか?」


「興味ないっつーか……最近までそれどころじゃなかったというか……」


「そうですか……じゃあ、今度オジさんには『カランコエ』の咲いた鉢をあげます」


 『これを機に、植物にも興味を持ってください』と、少女はその場を後にする。


「せ、先輩……あの子と……知り合い……ですか?」


「んー、まぁな。――っていうか、なんでブランは今日休んだんだろうな? なんか聞いてない?」


 俺は知らない。


 その子はキイラに向かって、『しぃー』と悪戯に笑ったのを。



 ※ ※ ※



 『英雄』として国王陛下直々に称号を受け賜わった数日後。――禁域攻略の宴でどんちゃん騒ぎをしているギルド。


 いつまで経っても終わりそうにない宴に、キイラを先に帰らせた俺は、少し冷たい風が欲しくてブランとエールを片手にギルドを抜け出した。


「そういえばブラン?」


 夜の広場のベンチ。――いつも俺達が訓練している場所で、ブランに俺は隣に座るブランに声を掛けた。


「どしたの?」


「ずっと考えてたんだけどよー……なんでブランは()()()()()()()()()()?」


「え……?」


 酒が入り、上機嫌になって居る俺はブランの動揺する顔にも気が付かず言葉を続ける。


「今までは『生まれ育った街だから』かなぁ、なんて勝手解釈してたけど……なんかしっくりこなくてなぁ……」


「え、えっと……」


 そこでやっとブランが言葉に詰まっていることに気が付いて、


「あ、いや、嫌なら無理に答えなくていいからな?」


 と付け加える。


「……えっと」


 俺の問いに、しばらくアタフタしていたブランは……やがてため息をついた。


「――――――――――お父さんお母さんを……守りたかった……から」


「へ……?」


 予想もしなかった答えが返ってきて、俺は間抜けな声を出す。


「…………!!」


 ブランは、そんな反応を見せた俺に対して、一瞬で顔を赤くして目を背けた。


「……みっみんな、『亡くなった仲間のため』とか、『死んだ家族との約束のため』とか……そんな理由で冒険者をしてる……から……その……」


「あー……」


 今の言葉と、ブランの反応を鑑みれば——()()()()()()()のだろう。


 俺にしてみれば、全く恥ずべきことではないし、『街を守る』なんて見ず知らずの他人のために戦うって言われるより、よっぽど納得できる。


 ――だがまぁ、ブランも何だかんだまだ十代。周りの動機と自分の動機を比べて……恥ずかしくなってしまったのだろう。


「良い理由じゃないか」


 だから、その立派な理由を恥じてほしくなくて、俺は目を背けるブランに『ニッ』と笑いかけた。


「顔も知らない『誰か』のために、命は——掛けられないよな」


「……」


 『はっはっはっ』と笑う俺に——『もぅ』とブランも微笑んでくれた。


「なぁ、ブラン?」


「………………なに?」


「別にブランの動機は恥ずかしいとは思わないが……——恥ずかしついでにもう一個聞いてもいいか?」


「……うん。この際だし…………なんでも答える」


 なんか吹っ切れたように、赤い顔で俺に向き直るブランに、俺は質問した。


「どうやって俺に目を付けたんだ?」


 ずっと、気になってたこと。


 ブランと出会う前の俺と彼女は……一切関わりがなかった。


 同じギルド内に居て、俺はブランのことを天の上の人間として見ていて、


 ブランは世界中を飛び回り、依頼(クエスト)をこなす日々——控えめに言って、等級の低い俺のことなど目に入る暇もなかったはずだ。


 なのに——



「私は……小さい頃から何でも出来た」



「…………はい?」


 意外にも帰ってきたのは、自慢だ。


 半眼になる俺の視線に気が付いたのか、ブランは笑いながらも言葉を続ける。


「お勉強やお花の知識——全部すぐに覚えることが出来たし、武器も一度持てば大体使い方が分かった。魔法だって、すぐに習得した」


「そらぁまぁ……うらやましいことで……」


 羨望・嫉妬通り越して、ゲンナリする気分だ。


「だからかな……」


 そのとき、ブランの視線が足元へ落ちる。


「『どうしてコレが出来ないんだろう』、『簡単なのに』……——気が付くと、自分の中にそんな想いが芽生え始めた」


「……」


 当然だろう。――自分が簡単に出来ることが、他人が出来なければ……きっと誰でもそう思う。


 けれど、


「ある日、お父さんにその気持ちを伝えたら——『それは他の人が傷つく言葉だから……口にしちゃいけないよ』……そういわれた」


「……ま、他人と生きて行く上では言っちゃいけないかもな」


「そう。頭では確かに理解できた。――でも」


 ブランの言葉は暗い。――だから、俺は静かに彼女の言葉に耳を貸す。


「無意識に他人と自分を比較して——私は他人を()()()()()()


 すっかり暗くなった空を見上げて――少女は悲しそうに呟いた。



「……私、本当は『嫌な奴』なんだ」



「……」


 きっと、ただ漠然と夜空を見上げているであろうブランの横顔を見つめる。


「……だから」


 不意に、視線を落としたブランと目が合う。


「他人を見下す『嫌な奴の私』と比べて――他人に無条件で『優しくする貴方』を見て……尊敬した」


「……ブラン」


 微笑む彼女は——暗闇の中を照らす白い妖精のようだった。


「だから、頑張ってるアルティを見て……力を貸したくなった」


 『まぁ、そんなアルティは既に凄い人だったけど』と笑うブラン。


「……ははっ」


 ブランに俺は笑い返す。


「……? どうしたの?」


「ブランが『嫌な奴』? ――面白い冗談だ」


「え……?」


 少女に、俺は言葉を並べた。


「『両親の為に戦うヤツ』が、『冴えないオッサンに手を差し伸べるヤツ』が、『死ぬかもしれないって新人を拒絶するヤツが』が、『優しいヤツを見て無条件に尊敬できるヤツ』が————『嫌なヤツ』?」


 それは、今までの彼女がしてきたこと。


 ――――そこに『嫌なヤツ』の要素がどこにある?」


「こんなヤツが『嫌なヤツ』だったら、世の大半に人間が『嫌なヤツ』だよ」


「アルティ……」


 だから、俺は言ってやったんだ。


「俺は、お前が自分のことを『嫌なヤツ』って勘違いしていることの方が、よっぽど恥ずかしいよ!」


 思いっきり笑ってやったさ。


「もう、人が真剣に悩んでたのに……そんな笑うことないでしょ!」


「はっはっはっ……悪い悪い。――そう気を悪くすんなって!」


 笑うついでにエールをグッと仰ぐ。


「ま、大丈夫だ。――お前が自分自身のことをどう思うかは自由だが……お前のことを『嫌な奴』だと思うやつなんて誰も居ない」


「…………そう……かな。そうだと……いいな」


「そうだって」


「うん。――アルティがそう言ってくれるなら……ちょっとは信じることが出来そう」


 金級(ゴールド)銅級(カッパー)の奇妙な組み合わせは——満天の星空の下で、いつまでも言葉を交わし続けた。



 ※ ※ ※



 これにて、子どもみたいな『夢』を追い続けた男の物語は終わり。


 親友を失い『挫折』もあった。下級で居続ける男を笑う嘲笑もあった。――死にかけることもあった。


 男はそれでも、立ち上がり積み上げて……戦うことを決してやめなかった。


 だからこそ、男は『英雄』となることが出来た。


 万年銅級の下級最弱(ビリディス)と呼ばれた男は、剣の降り注ぐ世界で……『緋剣沛雨(ソード・レイン)』として確かに歴史にその名を刻んのだ。

閲覧いただきありがとうございます。

これにて、この物語は完結でございます。ここまでお付き合い頂いた貴方に最大の感謝を。


このお話は短編「オッサンにファンタジーは難しい。」を土台に作り上げた物語です。

特にブラン関係の話は、そこから色濃く設定の影響を受けているので、「ブランは結局何なんだ?」と思った方は、そちらを読めば、もしかしたらわかるかもしれませんね?

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