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ソード・レイン ~万年銅級の下級最弱(ビリディス)~  作者: 珠積 シオ


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四十一本目 禁域の主と銅級冒険者

「旋回せよ――雷閃周断(ボルティックローン)!!」


 ブランの水刃旋(アクラムズ)に酷似した五つの『雷の円盤』が、周囲の魔物を両断しながらキイラの周囲を回る。


「今です!! 避難民を連れて退避を!!」


「わかった!!」


 民間人の護衛をしていた騎士は十六名にも及ぶ避難民を連れて王宮へ避難を開始する。


「お前も行くぞ!!」


「はい!!」


 門で出会った騎士に声を掛けられ、キイラも共にその場を退避する。


 しかし、視界の端に広場を囲む魔物の群れを見て……


「無理だぞ」


 ――騎士に何かを言う前に止められてしまった。


「な、何も言ってません」


「いや、いくら何でも分かりやすい」


 この超短期間で、なんだかんだコミュニケーションがとりやすくなってきているキイラと騎士。


 自分の身を犠牲にしてまでも、避難民の救出を優先する少年が、何をしたいのか——この騎士はこの短期間で何となくわかっていた。


「――情報では、あの広場の中では全く魔法が機能しないらしい」


「……なんですかソレ」


 騎士の情報に足を止めるキイラ。――だってそうだろう。『魔法』が使えないということは、アルティもまた『身体強化』なしで戦っているかもしれないということだ。


「なら……尚更行かないと……!!」


「無理だろッ!!」


 飛び出そうとしたキイラを、騎士は寸前で捕まえる。


「放してください……! 先輩が……!!」


「落ち着け!! 『魔法が使えない』なら、魔法使いのお前が行っても……何の役にも立たないだろう!!」


「ッ……」


 そう、どんなにアルティを心配しても、案じても、キイラには——少年にはアルティを手助けをする術はない。


 行っても役には立たず、最悪の場合は死んでしまうかもしれない。


「でも……」


 けれど、


「でも、それでも——役に立たなくても、足手まといでも、僕が先輩を放っておく理由にはなりません……!!」


 少年は腕を引き留める騎士の眼をまっすぐ見つめた。


「怖気づいて諦めるのは……嫌だ!!」


「あッ……オイ!! 止まれ!!」


 騎士の手を振り払い、キイラは全力で駆け出した。



 ※ ※ ※



「アルティ……」


 七大禁域——その主を、生身で押し始める銅級冒険者を、ブランは驚きに満ちた顔で見つめる。


下級最弱(ビリディス)お前……」


 隣のセレストも、ありえない光景に呟きを漏らす。


「か、彼は一体……何者……なのだ……」


「知らねぇよ……なんで……なんで魔法も使えない人間が……あのバケモノを……圧倒してんだよ……」


 今も、斬撃の嵐の中を切り抜け——確実にオルスフェンにダメージを与え続けているアルティに……ブランは次第にその唇に笑みを浮かべ始めた。


「そう……だったね……だって、これまでアルティは……必死に積み上げてきたんだもんね……」



 極限の集中状態。――いわゆる『ゾーン』という精神状態。


 それは、精神の超集中によって起こる現象で、この状態に入った人間はあらゆるノイズやストレスから解放され、百パーセント以上のパフォーマンスを発揮できるという。


「……」


 皆が恐れ、立ち向かうことの出来ない怪物を相手に斬り合うアルティは、羽化を迎え——殻を打ち破った『英雄』のようだった。。


 故に、盾が砕けようと狼狽えることはない。


「死ねェアルティッ!!」


 無限の剣舞の中、剣と回避だけで立ち位置を次々と変えて刃の応酬を凌ぎ切る。


 そして、ダンッと落ちていた『ウェイヴレットの剣』の柄を踏みしめることで、盾ではなく、もう一本の剣を手にする。


「二刀がどうしたッ!!」


 二刀と六刀の斬り合いが始まる。


 ひたすら『暴力』と呼ぶにふさわしい膂力の剣を叩きつけるオルスフェンに対し、アルティは最短・最適な剣を持って『暴力』の剣を凌ぎ——確実にオルスフェンにダメージを与える。


「……」


 アルティは、そんな中で——ジッとオルスフェンの傷を注視する。


「ドンドン来いアルティ!! 擦り傷程度じゃオレは殺せなイッッ!!」


 黒い肉の身体。その全体の形は六本の腕以外は一応人の形をしている。――そんな黒い肉の身体の胴体部分には無数の傷がついている。


 『致命傷にならない』と避けもしないオルスフェンが原因だ。


 しかし、些細な擦り傷も、切り傷も、指に刺さった小さな棘すらも————積もれば、やがては生死に関わる。


「……」


 剣舞を搔い潜り、オルスフェンに傷を付けるアルティ。


「効かねぇなァ!!」


 振われる剣を両手の剣で受け止め——身体を捻りながら跳ぶことで、相手の力に逆らわず吹き飛ばされて……着地する。


「ㇵァ……ㇵァ……ㇵァ……」


 乱舞に晒され続け、次第に頭のてっぺんが焼けつくような感覚がやって来る。


「さァ、アルティ。――お前はこの現状をどうする?」


 見せつけるように切り傷だらけの胴体を見せびらかすオルスフェン。


「ㇵァ……ㇵァ……ㇵァ……——フッ……」


「……?」


 そんなオルスフェンにアルティは——笑みを見せた。


「……いいから来いよオルスフェン。――お前、未だに俺一人殺せてないぞ?」


「はッ、良い威勢ダ。――なら、次で最後にしよウ」


「――上等だよ」


 二刀と六刀を構え——走り出す両者。


「お望み通り殺してやるヨ」


 刹那――オルスフェンの姿が掻き消える。


「っ……!」


 オルスフェンの姿を見失ったアルティ。――だが、その耳は確かに背後に移動したオルスフェンの音を聞き取っていた。


「オラァッ!!」


 振り下ろされる一撃を、向き直ることもなく紙一重で受け流すアルティは、すぐに振り向くが——


「遅せぇぞアルティ!!」


 次の瞬間には再び背後を取られる。


———コイツ……ッ!!


 そう、この期に及んでオルスフェンはパターンを変えてきたのだ。――つまりはステップを交えた斬撃の応酬だ。


 音と、神がかり的な読み能力を持っているアルティだからこそ凌ぎ切れている現状。


 だが、次第にアルティは押され始め——



「せんぱーーーーーーいッ!!!!!」



 刹那――広場の外側にある時を告げる鐘楼から、街中に響くのではないかと思われるほどの大声が響いた。

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