三十七本目 副師団長
「はぁ……はぁ……はぁ……」
キイラは息を切らしながら、多くの避難民を連れて王宮へたどり着いた。
「お前……冒険者か……?」
門兵である騎士達は、魔物が跋扈する街中を多くの避難民を連れてやってきたキイラに絶句する。
「……はい……ギルド所属の冒険者です……は、早くこの人たちを中に……」
「わ、わかった……! ――君も中に入るんだ!!」
対応してくれた騎士は、他の騎士と協力して避難民を王宮の中へと招く。――そんな中、疲労で膝をつくキイラの腕を掴み、騎士は少年を支えてくれる。
そんな時——
「その者を中に入れてはならない」
キイラをそのまま大人にしたような男性——魔法師団の副師団長、イーラ・キーデンスが、キイラの入城を拒んだ。
「なっ、なぜですイーラ様!?」
当然、腕を支えてくれた騎士は驚きを見せるが……
「……」
イーラは無言でキイラに近づき――騎士からキイラの腕を奪って少年を無理やり立たせた。
「キイラ・キーデンス。家出する前、私はお前に『二度と城に帰って来るな』と伝えた筈だが?」
「……」
まるで、上から一方的に押しつぶすような態度と言葉。――言葉の端々に、怒りがにじみ出ていた。
キイラは父であるイーラの言葉に、反射的に顔を伏せる。
「い、イーラ様……状況をお考え下さい!! 今はそんなことを言っている場合では——」
端で見ていた騎士がイーラを止めに入るが、
「知っている。――門の防衛は私がやる。お前は今から中に待機している騎士、師団員と、城の防衛に当たっている者達に伝令しろ」
イーラは、キイラから視線を外すと、街の中に突如として現れた『魔物が出現する黒柱』を見上げる。
「騎士三名、師団員一名の四人の隊を作り、半分は城の防衛へ、残りは街へ出て冒険者と避難民を城へ誘導しろ。――おそらく『オルスの奈落』に住まう魔物が居る。絶対に単独行動をしないよう厳命しろ」
「しょ、承知致しました!!」
上官の正式の命令とあり、騎士も止めることが出来ず――彼は慌てて城の中に入っていった。
「……」
「……」
残されたのは、キイラとイーラのみ。
「何とか言ったらどうだキイラ」
「……!」
キイラは強く引き結んだ唇を解き――勢いよく顔を上げた。
「ここには避難民を誘導するためだけに寄っただけのこと。――元より、戻る気はありませんッ!!」
怯えの残る目で……それでも、キイラは昔と変わらない父の瞳をまっすぐ見つめ返した。
「……」
対し、イーラはキイラを見下ろして、
「……なら、さっさと街に戻れ」
男はキイラへ背を向けた。
「……はい」
そんな父へ、息子も背を向け——
「――冒険者キイラ」
背中越しにイーラは、冒険者へ声を掛けた。
「今のは、『ギルド運営協力法』にある『非常事態時、ギルドは国家の指揮下に入る』という正式な法律に基づく命令である」
ギルドは運営に国家の協力がいる。――ギルドは運営の協力の対価に、非常時に置いて冒険者を国の指揮下に入れる契約をしている。
イーラは、たった今、その契約に基づいてキイラへ『命令』をしたのだ。
「お父様……」
「否。今の私達は『指揮官』と『命令を受ける冒険者』だ」
「……」
イーラの言葉にキイラはやる気に満ちた表情で、深く頷いた。
「いいか、これから四人一組の小隊が出動する。――その一つに合流して避難民の捜索・誘導と、冒険者を王宮へ連れてこい。――戦力を一か所に集結させて徹底的に防衛する」
「……わかりました」
道中でアルティとの合流を目指そうと画策するキイラ。
「副師団長ッ!!」
そこへ、一人の騎士がやって来る。
「どうした?」
「ギルド前広場に『オルスフェン』を名乗る者が出現!! 不可思議な魔法と異常な力で周辺の冒険者を圧倒! また、その者が持っていた剣を地面に突き刺した瞬間に広場を隔離するように黒い帯のような出現! 同時に街の各地に黒い柱が現れました!!」
「……」
半分パニックになりながら騎士が伝える言葉に、流石のイーラも情報を処理するのが遅れ……
「――しくじりましたか師団長殿……」
その顔を苦渋に歪めた。
「広場……先輩……!?」
キイラも先ほどまでアルティの居た場所に現れたという『禁域の主』の名に緊張感が高まる。
「他に何か情報は?」
「は、はい……! 魔物達は『禁域攻略』に向かった騎士団長ソフィア様、魔法師団長フランツ様、他金級の冒険者達を人質に取っているようで、『アルティ』という名の冒険者がオルスフェンに勝てば魔物は散り、人質も解放するとのことです!」
「アルティ……先輩……!?」
「待てキイラッ!!」
すぐに広場に戻ろうとする息子を、イーラは怒鳴り声をあげて静止した。
「なんで止めるんですかッ!! ――行かないと先輩が……ッ!!」
「あの男がッ!! 死ぬかもしれない場所に、お前が来ることを望むのか!!?」
キイラの腕を掴むイーラは——あたかもアルティを知っているかのような口ぶりで少年を制止した。
「……知っているのですか……? 先輩を……?」
「…………お前が家出をしてから二か月近く経つ。――それだけ時間があれば、息子のことなど調べがつくに決まっているだろう。お前のパーティメンバーについてもな」
「父上……」
イーラは見ていたのだ。
息子の背中を預かるパーティメンバーは誰なのか。――いざという時にまだ未熟なキイラを置いて逃げないのかを。
けれども、あの男は見捨てるどころか、困っている人間を放っておけない程のお人好し。――危ないときにキイラを見てるどころか、自らを犠牲にしてまでもキイラを守るであろうほどのお人好しだ。
「冒険者とは思えない程の優しさをもつあの男が……強大な力を持つ敵の所へお前が来ることを良しとするのか?」
「……それは」
それだけはきっと——いや、絶対にない。
「――今は、お前に出来ることに集中するしかないだろう……!」
「……クソっ」
『アルティの元へ向かいたい』という自分のやりたいことと、『冒険者と避難民の捜索・誘導』という今、やらなければならないことを天秤にかけて、
「わかりました……っ」
少年は『自分に出来ること』を選んだ。




