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ソード・レイン ~万年銅級の下級最弱(ビリディス)~  作者: 珠積 シオ


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二十八本目 約束

「まだまだ強化が甘い……!!」


「ぐッ……!」


 俺の脇腹に、身体強化の施されたブランの柄が突き刺さる。――痛みに声を漏らし、後方へよろめいて、膝をつく。


「だぁぁぁッ!!」


「君はそもそも立ち回りが甘い……!」


「ッ!?」


 短剣片手に突っ込むキイラは、身体強化以前の指摘をされながらこめかみに、ブランの斧槍(木製)が打ち込まれる。


「ま……だ、まだァ!!」


 俺は気合を入れて立ち上がり、意識を飛ばすキイラの横を通り過ぎて、ブランへ斬りかかる。


「アルティ……! イメージが出来ていない……! その程度じゃ(テラス)の皮膚は裂けない……!」


 上段からの剣(木製)を斧槍で真横から弾かれ、その尋常じゃない力に態勢を崩される。


「ハッ……!」


 次の瞬間、飛んできた回し蹴りが弾かれた両手の甲に当たり、痛烈な衝撃と共に剣が勢いよく吹き飛ばされる。


「いくよ……!」


「っ——!?」


 刹那――流れるような斧槍捌きで、両脇腹を斧槍で殴られて、最後に強烈な斧槍の斧が肩に打ち込まれ、地面に無理やり倒された。


「イメージ…………ついた?」


「イメージする前に…………死ぬ」



 ※ ※ ※



 俺とキイラが魔剣域(ダンジョン)から生還して、()()()()()()


「まだいける……!」


「……わかった」


 陽が昇りきっても、俺とブラン、キイラは訓練を続けている。


 最初は俺とキイラの身体強化の訓練。


 次にブランとキイラの近接訓練。


 ――といっても、キイラは早々に気絶してしまい、訓練の六割はブラン一人でこなしている。


「ハッ……!!」


「……!」


 広場で俺達が訓練しているのが珍しいのか、周囲の人間は物珍しそうに遠目から見つめているが……関係ない。


 だって、三日後にブランは————『オルスフェンの魔剣』攻略作戦に向かう。


 俺自身の訓練なんて放っておいて、今は少しでもブランと一緒に剣術……斧槍術を磨きたいくらいだ(ブランの意志により、俺とキイラの身体強化訓練は行っている)


 少しでも……少しでもブランの生存確率を上げるために、今は目の前の少女との戦いに集中する。


「フッ……!!」


 短い息を吐きながら、鋭い突きを繰り出される。


「……」


 俺はそれを盾で弾くと、懐へ飛び込む。


「それは……想定済み……!」


 ブランは『待ってた』と言わんばかりに、懐へ入ってきた俺に連動して一歩後方に下がり、斧槍を振り回し、


「おっと……!」


 下方から斧が襲来。――首をズラすことで回避し、おそらくやって来るであろう次の一手を予測する。


「まだまだ……!」


 おそらく攻撃の手を緩めないために、ココは俺の左脇腹を狙った柄の薙ぎ払いがくる。


 ――ブランは、それすらも防がれる想定で来るだろう。その()()()()の攻撃の出鼻を挫くために、ここは盾で攻撃を防ぎ、剣を使ってコチラから攻めに出る。


 だが——


——……!? 攻撃が……()()……!?


 俺の想像と反して、即座に柄で攻撃をすることなく斧槍を振り回して——()で俺の左脇腹を狙ってきた。


「ヤバ……ッ!!」


()()()()……!」


 刹那――盾を直撃した斧槍は、盾の縁を引っ掛けて……


「っ……!」


 盾ごと、俺の態勢を地面へ崩した。


「獲った……!!」


「ッ……! まだッ!!」


 反射速度だけでギリギリ槍の先端を受け止める。


「うそ……!」


「っらあ!!」


「きゃっ……!!」


 寝ころんだ状態でブランの斧槍を防いでいる俺は、そのままブランの足を払い転倒させる。


 そのまま状態を入れ替えるようにブランの上に跨り、剣を喉元に突き付ける。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


「……参りました」



「はぁ……はぁ……きっつ……」


 運動による体温の上昇で、暑さに耐えかねた俺は上着を脱いで服を手ぬぐい代わりに顔を拭く。


 そのまま自重に耐えかねた膝が折れ、ドスンと芝生へ腰を下ろす。


「お疲れ……はい水」


「あぁ……ありがとう……」


 汗一つ掻いていないブランに申し訳なさを感じながら、組んできてくれた水を飲む。――氷のように冷たい水が、喉から胃袋から火照った身体を冷やしてくれる。


「プハっ…………キイラは?」


「『ウン』とも『スン』ともしないから、あの子の止まってる宿に預けてきた」


「大丈夫かよそれ……」


 宿のフロントに『えいー』っと投げ捨てられるキイラの姿が想像できてしまい、俺は首を振った。


 ――流石にないだろ。


「ごめんね、私の訓練主体になっちゃって……」


「なんだ、()()その話か?」


 俺は地面に手をつき、体重を後方に傾けながら天を仰ぐ。


「――言ったろ。禁域に挑む金級(おまえ)に、銅級(おれら)のせめてもの出来ることだ。謝るんじゃねぇよ」


「……うん」


 今日のような訓練メニューを始めてから、ずっとこの調子だ。そんなにブランにとって俺とキイラの訓練は大事なのだろうか?


「……」


「……どうしたの?」


 気になった俺は、思い切って聞いてみることにした。


「なんでブランは、俺とキイラの訓練に……そんなに熱心なんだ?」


「…………」


 そんな疑問を飛ばされたブランは口を一直線に引き結び——そっと目を逸らした。


「……なんで目を逸らすんだ?」


 ブランの反応は、まるで悪戯がバレてしまった子供のようだ。


 ――俺はそんな彼女の様子に、なんだかロクでもないことを考えていたのだろうとため息をつく。


「……怒らないでね?」


「――保証は出来ないが……お前にもう『話さない』選択肢はないぞ?」


「むぅっ…………」


「むくれんなよ……子供じゃあるまいし……」


 観念したブランは、息を吐きながら口を開く。



「二人の実力が育ってれば……今回の()()()()()()()()()()()



「無理に決まってんだろッッッ!?」


 過去一デカい声が出てしまった。


「お前、さてはお馬鹿様だな!? 色々ツッコミたいが、とりあえず馬鹿だろ!?」


「無理じゃない。アルティとキイラならできる」


「お、お前なぁ……」


 疑いのない瞳で見つめられ、俺は脱力する。


「仮に、もしもたとえばの話…………俺やキイラがこの短期間でそこまで実力をつけたとしてもだ」


 プルプルと人差し指でブランを指さしながら、俺は例え話をする。


「俺達はこの間の事件で初めて魔剣域(ダンジョン)に入ったんだ。――そんな素人同然の俺らを連れて行こうとするなよ……」


「……一理ある」


「お前……」


 思った以上にとんでもない思考のブランに、俺は『コイツは年下だった』と久々に感じた。


「はぁ……」


 一気に老けた様な気がする。


 そんな俺のため息をみて、ブランは——申し訳なさそうに口を開いた。


「……でも大丈夫」


「……」


 チラリと見たブランの目は、広場を行きかう人々——その奥を見つめているように感じた。


「――きっと、今の二人を連れて行ったら……死んじゃうって……思うから」


「……だな」


 ありえない話で、『バカバカしい』と思う話だ。


 けれど、ブランにとっては『信じていた』ことで、『成し遂げられる』と思っていたことなのだろう。


 それを、先日の事件で『実力不足』をブランに感じさせてしまったんだ。


「……」


「……」



 ――期待に応えられなかったのが、悔しい。



「アルティ」


 そんな俺に、ブランは再び声を掛けてくれる。


「私ね、時間はかかるんだろうけど……アルティは金級(ゴールド)になれると思うの」


「ブラン……」


 以前にも伝えてくれた言葉。――いつも無機質な顔は、今だけは穏やかに微笑んでいた。


「ねぇ、アルティ」


「どうした」


「一つ、お願いしてもいい?」


「……願い事の内容によるな」


 いつもより小さく見えるその背は、静かに言葉を紡ぐ。


「私がもし……帰ってこなかったら——死んじゃったら……」


 目が合う少女の瞳は、先ほどと打って変わり——真剣だった。


「この街を守って欲しいの」


「……」


 『こりゃデカく出たな』なんてふざける気は……起きなかった。


 だって、彼女の目は切実に、本気で——そう願っている目だったから。


「任せろよ」


 俺を見下ろしていた瞳にそう返して、俺は疲労の溜まった足で立ち上がり——少女の眼前に拳を突き出した。


「その代わり、お前も約束しろブラン」


「……なに?」


「――()()()()()()()()。ボロクソの時こそ……噛みつけ」


 少女の奥底にある感情に、まっすぐ目を合わせ————俺は豪快に笑ってやった。


「うん……!」


 そんな俺の顔を見つめ、ブランは少しだけ晴れやかな顔で俺の拳に自分の拳をぶつけた。

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