十五本目 夢抱える少年
「一度、アイツのポテンシャルを試してみないか?」
「えー……」
すっげぇ嫌そうな顔。
「それで、ブランのお気に召さなければ、俺からもパーティ加入の件は断るからさ」
露骨なブランに、そんな条件を付けると、彼女は渋々といった風に頷いた。
「アルティがそこまで言うなら……」
キイラの熱に当てられたブランは、疲れたように頬杖をつく。
「……なんでアルティはそこまであの子を評価してるの?」
言葉の端々に疲労がにじみ出ているブランに苦笑いをしながら、俺は、もらった報酬を二分割にして、多く報酬の入った小袋をブランの手元にやる。
「あくまで魔法素人の俺からみた話なんだが……アイツが俺を助けてくれた時に使った魔法がな、これまたスゲェ威力でな?」
「ふーん……」
俺の方の報酬受け取り分に、自身の取り分を分けようとするブランを阻止しながら、俺がキイラを試す提案をした理由を話した。
俺の言葉について、ブランは訝し気に頷くだけだったが——
「…………」
「…………」
その後、俺達はしばらく報酬の押し付け合いで無言となった。
ちなみに、結果は、ブランが身体強化を使って無理やり俺の財布に金を突っ込んできたので俺の負け。
※ ※ ※
「おはようございますブラン先輩、アルティ先輩っ!!」
「おはようキイラ」
「……おはよう」
朝早く。
冒険者の数もまばらな時間帯。――すでにキイラは俺達の前で土下座の姿勢で待機している。
となりのブランの顔が露骨に警戒心マックスで、俺は思わず笑いそうになる。
「今日もパーティ加入のお願いをしに来ました!!」
そして、キイラもキイラで、全くぶれる気配はなかった。
「一晩経って冷静になるかと思ったが……」
「自分、本気なので!! むしろ昨日より気持ちは強いです!」
眼前のコイツは太陽か?
「もー、眩しすぎて俺、目がつぶれそう」
「えっ!? い、今すぐ治療を……」
「冗談通じない熱血漢は面倒だからやめろ」
俺とキイラのやり取りを聞いていたブランは、静かにため息をつくと——立ち上がる。
「……キイラ君。――頭を上げて」
「……? パーティに……入れてくれる…………訳ではないですよね?」
キイラに背を向けていたブランは、ゆっくりと振り返ると、微かに頷く。
「パーティに入れるかどうかは……キイラ君次第」
イマイチ理解が追い付いていないキイラの背中に俺は手を置く。
「ま、ちょっと付き合ってくれよ」
そうして、俺とキイラは先頭を歩くブランについて行く。
ブランは、ギルドの受付に行くと、受付嬢に許可を得て受付の中に入っていく。
「……いいんですか?」
受付の中に入るという行為にびくびくしているキイラに、俺は笑いかける。
「そりゃぁな。――むしろ、お前は主役だぞ?」
「で、でもここって……」
「ま、とにかく来いって!」
受付の中に入ると、すぐ正面の地下に向かう階段を下りる。
長い間、階段を降りた先にあるのは、真っ白いドームのような空間。
「やっぱり……ここって——」
「あぁ、『等級選定試験』の時に来た場所だな」
そこは、新人の等級を決めたり、冒険者の昇級試験を行うギルドの特別な空間だ。―—俺もブランもキイラも、絶対に一度は来たことのある場所だ。
「ここに来たってことは……」
「うん。――――君の魔法を見せてほしい」
この空間の特徴として――――異常なほど頑丈なのだ。故に、発動すると周囲の被害を強いる魔法の試し打ちの場として重宝されている。
――ちなみに、この空間を作る技術は謎だ。
「アルティから聞いた。――君の雷のこと」
「……はい」
「その魔法を見て――パーティへの加入の可否を決める」
その言葉を聞いて、キイラは少し慌てた素振りを見せる。
「す、すいません! あの魔法……昨日成功したのが初めてで……またできるかどうか……」
「昨日……初めて成功した……?」
キイラの言葉に、ブランは少し訝し気な表情を見せる。
「どうしたブラン?」
「…………ううん、なんでもない。――キイラ君、『見せられない』というのなら、君の加入を認める訳にはいかない」
毅然とした態度で、ブランは告げる。
「……理由は単純。私達はいずれ、高難易度の魔剣域へ挑む。――そんな危険域で自分の身を守ることも出来ない人を……連れてはいけないから」
初めてブランからキイラへ、加入拒否の理由が語られる。
「っ……!?」
その理由に、キイラは明らかに動揺の気配を見せる。
――まぁ、そうだよなぁ……俺も冗談だと思いたいもん。
「で、でも……高難易度の魔剣域なんて、ギルドの許可が下りないんじゃ……」
「キイラ。……お前は知らないかもしれないが……ブラン、これでも金Ⅰ級——最高等級の冒険者なんだよ」
「……へ!?」
流石に等級のことは知識として知っているのか、キイラの表情が分かりやすく驚愕に染まる。
ちなみに、同じような目で俺を見てくるので、気まずく『俺、銅Ⅱ級……』とだけ伝えておいた。
「アルティは、特別な技術がある。――君も見た、『身体強化なしでオークと渡り合える剣術』が」
「……」
ブランの言葉に、キイラは何とか納得してくれるが……同時に黙りこくってしまう。
「どうする……?」
「……」
「……はぁ」
その瞬間、場は何とも言えない空気になる。
キイラは緊張しているし、ブランはキイラの返答を待ってるだけだし。
そんな気まずい空気が嫌で、俺はキイラの背中に手を添えた。
「……無理するな。――あんなことを言われれば萎縮するのも当然だ」
「アルティさん……」
目が合うキイラに下手糞な笑みを向ける。
「だが、ブランは本気なんだ。――だから、今はまだ『怖い』って思うならやめとくんだ」
きっと、今のキイラにブランは高すぎる壁に見えてるんだろうなぁ……
手に入れたくて、並び立ちたくて————しかし届かない程高い壁。
身に覚えしかない感情だ。
「お前がまだ頑張れるってなら、『またいつか』だっていい。――焦る必要はないぞ?」
「……」
目を伏せるキイラ。
「……」
その態度が『答え』だと受け取ったブランは、キイラの隣を通り過ぎようとして、
「やらせてくださいッ!!」
キイラの声がブランの足を止めた。
「僕は……『英雄』になりたくて来たんだ……」
「!!?」
呟くように、零れるように、漏れるように落ちた言葉に、俺は目を見開いた。
いい年して、幼児のような『夢』を掲げる少年を、俺は見た。
『オレ、英雄になりたい!! 英雄になって……みんなを守りたい!!』
『バーカ、『英雄』じゃない!! それは『つえー冒険者』だっつーの!!』
故郷の村で、親友と『夢』を語り合った少年を、俺は見た。
「……」
抱えていたような、忘れていたような……不思議な温かさが胸の中に染み出して、俺は知らず知らずのうちに胸に手を当てていた。
「『英雄』にダメって言われたら『しょうがない』って思える。――でも、自分から怖気づいて諦めるのは嫌だ!!」
「……わかった」
キイラの言葉を肯定すると、ブランはキイラに向いたまま後退する。
「ここで君の魔法を見る。――アルティを助けた雷……見せて」
「……わかりました」
緊張で表情が強張るキイラへ、俺は自然と肩を置いていた。
「……応援してるぞ」
「――はいっ!!」
俺は笑みを浮かべて、キイラへ親指を立てた。




