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サキュバス戦争



「なるほど、すでに対抗策の一つは見通しが立っているというわけか。魔力でサキュバス好みな味付けをすれば物質的な食事を摂取できるようになる。しかも舌が発達していないから精神毒さえなければ普通の魔族や獣、魔物が食べないようなものでも食べられる……か。確かに他の生物と食料面で競合しないならそこはスムーズに事が運べるね」


「ふん、そのような食事、サキュバスが好き好んで食すはずがない。認知にしても技術にしても、広がりには時が掛かるに決まっておる」



 マニュールは俺とグラミューズで考えたサキュバスの新しい食事方法について肯定的、というより現実的な手段として捉えてくれている、


一方、もうひとりの魔王であるグラナエスは否定的なスタンス。現状のサキュバス文化が変わっていくのを嫌っているように見えた。



「普及を進める上で有効な手段ならありますよ。それは統治者が人々の前で実践することです。そうすると、上の人でも認めているんだ、安全なモノなんだと、徐々に認識されていくようになる」


「なに……? 我に粗末な食事をせよと、言っておるのか? 貴様、グラミューズとの婚約を認めてやったからといって調子に乗るなよ。魔王たる我を侮辱するなら、相応の覚悟を持って──」


「──母上、彼は外の歴史、知識を持っているのです。確かにまだ見た目は幼いですが、その知識は我々の知らぬ領域もあるのですから。ねぇダーリン?」


「え、えぇまぁ……実際、人間族の歴史を見ると、そういった事例が多いんです」



 まぁ俺の知ってる、参考にした歴史的な事例は前世のものだが……例えばジャガイモの普及に関する歴史だ。


あれは元々ヨーロッパにはない、南米からスペイン人が持ち帰った珍しい食べ物、という立ち位置だった。貴族たちがジャガイモを試し、そしてそのポテンシャルを見抜いた。ジャガイモは、飢饉対策になると。


ジャガイモは寒冷地でも育ち、戦争で踏み荒らされてもその影響を受けづらい為だ。しかし、そんなポテンシャルを秘めたジャガイモも普及するには色々と障害があった。


当時の一般的なヨーロッパの人々の口にジャガイモは合わなかったというのが一つ、宗教的な意味で敬遠されたというのが一つ、シンプルに見た目が悪いからというのが主な普及しない理由だった。


 どの理由もひとえに言えることは、ジャガイモは当時の人々の常識外にある食べ物で、常識という固定観念こそが障害であった、ということだ。普及させるには人々の意識改革が必須だった。安全で食べられるモノとして認識してもらう必要があった。


 それに関して面白い話だと、ルイ16世の話がある。彼は農園にジャガイモを作らせ「これは王侯貴族の食べ物で貴重なもので、盗めば罰する」と言って看板を立て、農園に見張りの人員立てるなどした。しかしこの見張りは夜になると帰り、ジャガイモを盗むのは容易だった。


わざと、人々にジャガイモに盗ませたのだ。大げさな対応をして人々の関心を引き、わざと盗ませることで、人々に食べさせ、噂を広めさせたのだ。


 統治者は下々を虐げるもの、そんな猜疑心を持つ統治される側の人々は、貴族たちが普通に推奨してしまうと、何か裏があるのではないか? と疑ってしまう。


貴族が俺達に食わせようとするなんて怪しい、毒なんじゃないかとか、粗末な食べ物を俺達に与え、自分達だけ美味いものを食べるつもりだとか、そんな疑いの心だ。


 だから逆に、貴族が食べたくて仕方がないものとして演出すれば、それは安全で裏のないものとして人の目に映る。これはジャガイモの普及が遅れていたフランスでの一例だが、そういった工夫が必要というわけだ。もっとも、その工夫は、その次代、地域、風俗によって必要な要素が異なるものだが。


民から疑われる当時のヨーロッパの統治者と、アリや蜂のような女王を中心とするサキュバス社会とでは、まるで条件が違うものの、上の者が認めているという事実は、どちらにせよ重要である事に間違いない。



「サキュバスは君主の影響が強く、一般的なサキュバスの民は君主に従順、君主と民の結びつきが強い。君主が認めれば人にせよ、モノにせよ、民に認められていく。だから普及に関しては人間族なんかよりよっぽどやりやすいはずです」


「シャンカールよ、貴様、サキュバスにこの新たな食事方法が普及しなければ我のせいだと言いたいのか? 生意気な、しかし理解はできる。だがお前も理解すべきだ、常識を変えるというのは時を掛けなければ、民達に精神的に大きな負担を掛けるものだということを」



 それに関しては反論のしようがないな……いくら女王様が認めても、今までの生活の習慣が、記憶が、違和感を生み、ストレスとなって積み重なっていく。


……何かが、何かが足りない気がした「もう一押し」がないとダメな気がした。何故ならば、現状では単なる代替案でしかないからだ。


 確かに俺とグラミューズの婚約発表によって、サキュバスの飢餓は起こるかもしれない。しかし、今すでに起こっていることではない。この段階での食事の代替案というのは、サキュバスにとってメリットのあるものではない。統治者の立場からすれば必要なこと、メリットはあるのだが、一般的なサキュバスの民にとっては違う。


今までとは違う、慣れない食事方法をしろと言っても、メリットがない。慣れないうえに、サキュバスの本能が求めないものだ。いくら魔力で味付けができたとしても、サキュバスの体は、それを求めてはいない……


 理性でも本能でも、どっちでもいい。サキュバスから見て魅力的な選択であると、思わせる何かが、必要だと、俺は感じた。



「ただ食べられるってだけじゃなく、サキュバスにとってメリットのある、魅力的になるようにするにはどうすれば……サキュバスが本能的に求めるものってなんだ?」



 そんな言葉を無意識に、俺の口から出て、マニュールがピクりと、反応を示した。ニヤリと、笑った。



「サキュバスの本能、人間から見れば、男から精を奪い、糧とすることだろうけど、妾達、サキュバスにとっては少し見方が異なるんだよ。あれはね、上手く男から精を奪うことができれば、それはサキュバス社会において自分の存在を、有用性を示す行いとなるんだよ。だからグラミューズは強大な力を持つにも関わらず舐められがちで、異常に見られるんだよ。一部例外はあるけど、基本的には同じだからね、強いサキュバスは男から精を奪うのも上手い」



 あ、そっか。あれか、狩猟社会で狩りが上手いと皆から認められるみたいなアレか。そう考えると……サキュバスってのはかなり部族的な様相を持っているんだな。


女王を中心とする狩猟社会で、部族内の結びつきが強い……外部の者が認められるにはハードルが高いが、一旦認められてしまえば、仲間として迎え入れられる。


そう考えると、なんだかしっくりするな。感覚的な理解ができてきた気がする。



「つまりだよ、サキュバスが真に求めているのは、仲間達から評価されること、自分の有用性を示すことというわけさ。だから逆に、先にこちらで用意してやればいいんだよ。有用性とは、他者よりも優れていると示すこと、それは競争の中で生まれ、育まれる。その競争を用意すればいいんだよ。君たちの示した料理とやらで、競わせ、妾達でそれを評価してやればいい。そして、その評価には相応しい対価を与えるんだよ」



 なるほど、料理大会を開いて、争わせるのか……で、優秀な者にはトロフィーを、褒美を与える。


その大会自体にサキュバスが意義を持てなくとも、競争の中で本能的な欲求は満たせる。


俺の前世の世界でも、狩猟民族が農耕を始め、食うために狩りをしなくなって、やがて狩りはスポーツ化した。優れた技術と知恵を示すものとなった。


 サキュバスの狩りとは魅了という魔力、身体操作技術の結晶である。俺とグラミューズの考案した新たな食事方法、魔力による味付けをする料理もまた、魔力と身体操作技術という面では同じだ。


そう考えると……グラミューズが本気で魔力操作して味付けした料理ってヤバいんじゃ……魔力で味付けしなくとも滅茶苦茶美味しかったのに、そこから更にってなると……グラミューズに人間用の魔力の味付けはしないように言わないとな。


 ヤバいクスリをやったみたいに、人間の精神が崩壊するおそれがある。



「そうですね。マニュール様の案はかなりいい線をいっていると思います。定期的な魔力料理による大会を開催し、優秀な成績を残したものに褒賞を与える。各サキュバス領で魔力料理の大会を開き、次に各領地の成績上位者を代表として、領地対抗戦を行う」


「なっ、領地対抗戦だと!? それではサキュバス領同士での優劣を決めてしまうではないか、新たな食事方法の技術はグラミューズが開発したものである以上、グラミューズに優位なものとなってしまうであろうが」


「そうですね母上、しかし──ですね。現状でも単純な力では余が最も強いサキュバスであり、他の魔族に対しても強い影響力を持っている。そんな状況の中で、単純な武力以外の力を示し、影響力を得るまたとない機会ともなりましょう?」


「全く、我が娘ながら、こうも生意気に育つとは……だが民にも我にも良い刺激となろう。我が民が抱えるお前への不満も、この競争の中で健全に消化されるし、我も停滞の中で伸び悩んでおった。神へと至ってからというもの、さらなる力を求める探究心を忘れていた。いいだろう、ここで宣言する。半年後、魔力料理大会を各地で開催し、一年後に領地対抗戦を行う。これを慣例化し、サキュバス社会に浸透させていく、異論はあるか?」


「異論? あるわけがないよ。だって妾の友に勝ち、力を示すまたとないチャンスなんだよ? 妾が勝ったらグラミューズ、そのものとの子作りを許可してもらおうかな」


「いいだろう。余が、余の育て上げる者達が、料理を知らぬ者達に負けるわけがない。マニュールの領地の代表者が対抗戦で勝てば、シャンカールとの子作りを許可する」



 勝手に許可すなーーーッ!!



ともあれ、いつの間にか領地のプライドを懸けたサキュバス料理戦争が始まる流れとなった。





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