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スタートライン



「──なるほど、ダーリンがわたし達の婚約のことを口止めするように求めていたのは、そういう事情だったのね。だけど人間を喰らう忌避感による飢餓対策の道筋が見えたから、こうして事情を話してくれた」


「うん、サキュバス用の新しい魔力食事方法が開発されれば、なんとか耐え凌ぐこともできるはず。サキュバスが普通の食事を摂る場合、実際の味が悪くとも魔力の味が良ければ問題のないことが、マルナエスの実験協力によってわかった。これは僥倖だよ」



 俺はグラミューズにゴールドテンパランスのサキュバス飢餓危機について話した。政務で忙しいグラミューズの負担を増やしたくなかったから対策方法が分かるまでは事情を話したくなかった事や、人間牧場のついての俺のスタンス等も。


グラミューズはそれを聞いて喜んでいた。自分の為に、国と結婚のことを真剣に考えてくれたんだと。出ていきたい国の民のことなんて考える必要もないのに、民を思って動いてくれたと。



 俺からすると、いくらここから出ていきたいと言っても、その為に何万人もサキュバスを殺して実現するなんてありえない。そりゃあサキュバスは基本的には人間の敵だけど、俺は殺すようなことは嫌だし、敵か味方、そのどちらかしかないんだと考えたくなかった。


打算だってあった。俺は弱いから自力で無理やりに黄金郷から脱出するのは無理だ。特にマルナエスの監視があったらそれは絶対に不可能だ。ネズミどころかチリ一つ通さない、絶望の壁だ。


仮にそのマルナエスの監視をどうにかしたって、オールランドへ行くには黄金郷が管理する関所を通らなければならない。


力押しではどうしようもない、俺に残された脱出方法はやはり対話、交渉しかないわけだ。その為には俺の価値を、存在感を高める必要がある。


そして今、俺はおそらく、交渉のスタートラインに立ったのだ。



「ラミー、分かってると思うけど、俺はいずれ黄金郷を出ていく。オールランドへ行って、言葉の神の加護をもらって、世界を旅する。古の記憶を探して、書物に残す為に。だから君と結婚はできない、それが俺の考えだ」


「勿論、ダーリンの考えはちゃんと分かってるよ。分かったうえで外には出さないって言ってるの、まぁそれはダーリンも分かっているだろうから、話には続きがあるんでしょう?」


「ああ、俺を黄金郷の、ゴールドテンパランスの民として認め、迎え入れて欲しい」


「え……? ダーリン、何言ってるの? それだと……」


「ラミー、契約をしよう。俺はこの黄金郷を第二の故郷として、帰る場所とする。必ず帰る場所として、魂の誓約をする。そして、俺が黄金郷の民として、この国に貢献できたなら、それを認めて欲しい。俺に自由を」



 グラミューズの表情がシリアスなものに変わる。俺に対し、怒りの感情を抱いている。魔王への交渉を、まだ何者でもない俺がしている。傲慢な行いであり、同時に俺が厄介な提案をできた証明でもある。


グラミューズは異常な程、真面目な魔王だ。国の運営に妥協はなく、民に対して真摯に向き合ってきた。


そんなグラミューズにとって俺は例外の存在、国を運営するのとは関わりのない、グラミューズのワガママだ。彼女の抱える寂しさを癒やす為だけに存在する、民ではない存在。



 普通の魔王なら、民は自分のモノでどう扱おうと自分の自由だと、そう思ってもおかしくない。そんな魔王の民に一度なってしまえば、やりたい放題にされることだろう。


だけど、グラミューズはそうじゃない。俺を例外とすることで、民と認めないことで、俺を公平、公正の例外とした。自分のワガママで国のルールを、秩序を乱したくないのだ。


けれど、俺がこのルールに参加したならば、グラミューズは俺に対し、他の民達と同様、公平公正に扱わなければならなくなる。



 これは賭けにはならない。グラミューズはこの提案を飲むしかないし、俺を正当に評価しなければならなくなる。


俺が魂の誓約をすれば、それは必ず履行される。そうなれば俺は黄金郷をホームとして、必ず帰る、つまりはグラミューズと会うことになる。これに抜け道はない。


世界を旅しようと考える俺にとって、これは最大限の譲歩だ。この大世界オトマキアでは、特定の決まったルートでしか移動ができない。それ故、移動に時間が掛かる。オトマキアで特定の場所へ帰るというのは、世界を旅をする上でかなりのロスなのだ。


来た道を帰るというのが文字通りで、融通が利かない。勿論小世界の球境は一つではないし繋がる小世界にも選択肢があるが、それでもかなりのロスだ。


俺にできるのはできるだけ行ったことのないルートをどうにか見つけ出して帰ることだけ。



 本音を言えば、俺はこんなのは嫌だ。おそらく、この誓約で、俺が死ぬまでにできる旅で、行ける場所は半分以下になるだろうから。


だけど、これぐらいは捧げるものがないと、グラミューズは見向きもしないだろう。



「分かった。でも、ダーリンの言ってることって凄いことだよ? だって、わたしが公平公正に見て、ダーリンの自由を認めるってことは、それだけの成果をあげなきゃいけないってことだよ? わたしが抱えた大きな大きな、重たい気持ちと天秤が釣り合う成果を、ダーリンにあげられるの?」


「ははは、俺はズルいから、何もラミーだけに認められようとは思ってないよ。だってラミーは民の声を無視できないだろ? 黄金郷の民をいっぱい説得して味方につけさせてもらう。そしてきっと、それは君が大事に思ってる民達を幸せにしなきゃできないことだ」


「そうね、ダーリンは本当にズルいわ。そう言われたら、わたしが認めないわけにはいかないでしょう? ダーリンには、わたしだけのワガママでいてほしかったのになぁ……」



 前進した。一歩進めた気がした。寂しそうな彼女の言葉を聞いて、俺はそう思った。





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