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自爆



「──うっ……」


「目が醒めたか、私は黄金郷警備大隊隊長、マルナエス・オルドランテという。強引な方法をとったことを謝罪する」



 なんだ? ここ……どこだ? っ!? 俺、手枷をされて……足もか……


捕まったってことか……俺を見下ろすサキュバス、こいつは球境の入口で会った警備隊長っぽいやつ。本当に警備隊長だったんだな。見た所、こいつ以外はこの部屋にはいないみたいだ。


部屋は小さく殺風景だが、清潔で室温も丁度いい。部屋から見て取れる情報は少ないが、俺を拷問してやろうとか、そういう感じじゃなさそうだ。ある程度丁重に扱われているのは間違いない。それはこのサキュバス、マルナエスと言ったか、こいつの態度を見てもそう推測できる。



「その謝罪、意味あるのか? あんた、確か言ってたよな。俺はもう、ゴールドテンパランスから出られないって。謝罪しても、俺を自由にするつもりはないし、自分の行動を否定するつもりもないんだろ?」


「そうだ。一個人の感情として悪いことをしたとは思うが、大義の為なら致し方ないことだ。物事には優先事項がつきものだろう? さて、お前も目覚めた事だし、お前には主と会ってもらう」


「主って、まさか……魔王グラミューズ……」



 マルナエスは頷くと、部屋の外で待機していたらしい部下を呼び出し、俺を運ばせた。広い廊下を通り、大きな扉の前までやってきた。


黄金の天秤の意匠の扉が開かれると、そこにはサキュバス達、そして玉座があった。


玉座に座る者、この人が、グラニュールの姉、グラミューズ。



「グラミューズ様、お連れしました。この男ならば約束の者となりえる可能性があります」



「よくやったマルナエス。正否に関わらず、お前達警備隊の忠義に報いよう。詳細は後で決める、先にこの者を見る」



 透き通るような、脳が揺さぶられるような声が響いた。その声の持ち主は、長い金髪で、褐色の少女だった。


見た目が幼い、人間で言えばまだ14ぐらいに見える。妹であるグラニュールと同じ白い角があるが、何も知らなければこの魔王の方を妹だと思うだろう。


しかし、この幼い見た目の理由は彼女の耳を見ればすぐに分かった。エルフの特徴である長い耳が彼女にはあったからだ。


神化したサキュバス、神化したダークエルフ、その子が魔王グラミューズ、ということか。



「余は魔王グラミューズ、黄金郷、ゴールドテンパランスの統治者にして、オールランドを守護する者だ。お前の発言を許す、望みを言うがよい」



 望みを言う……? どういうことだ? ここまでしたんだ。俺が自由になりたいと言った所でそれを許すとは思えないが……



「自分はシャンカール・アルピウスと言います。アルピネスの血族であり、見ての通り人間です。自分の望みはオールランドへ行くことです。オールランドで言葉の神の加護を得る、それが俺がここまで旅をしてきた理由です」


「そうか、言葉の神の加護が目的か……オールランドを目指すなら、当然サキュバスの領地を通る。命懸け……その価値を見出しているのだな。お前は余の妹であるグラニュールと会ったことがあるそうだが、どういった関係だ」


「旅の道中でクリスタルガーデンに立ち寄りまして、そこでグラニュールさんと会いました。共通の友人がいまして、それがきっかけで彼女とも友人になりました。彼女の魅了を跳ね除け、自分がオールランドに行きたいのだと言うと、彼女はそれを後押ししてくれました。サキュバスの魅了毒の耐性を得る為の修行に必要な魅了毒を提供してもらい、オールランドへ向かう、最適なルートを教えてもらいました」


「なるほど、魅了毒が効かなかったという報告があったが、そうか……グラニュールの魅了毒で耐性を……それに魅了を跳ね除けたということは、グラニュールに食われた訳ではないのだな。しかし、グラニュールの魅了を弾くとは、大したものだ。余ほどではないが、あれの力も強力なのだが。ならば、確かに、可能性はありそうだ。お前を試そう、人間の少年、シャンカール・アルピウス」


「──っ!?」



 魔王グラミューズから魅了の魔力が放出される。あまりにも濃い魔力は物質化現象を引き起こし、実体を持つ魅了の雲となって俺を包み込む。


皮膚、肺、眼球、耳、あらゆる場所から、グラミューズの魅了の力が俺の体へ、精神へ浸透していくのを感じる。浸透していくことを、防げない……くそ……なんの抵抗もできない……他のサキュバスの力はある程度侵入を防げたのにっ……今までとは、格がっ、違い過ぎるッ……!


 体が、精神が蝕まれていくのを感じる。体と精神が熱く、まるで沸騰しているような感覚……だが、まだ、まだ俺は自分の状態を観察できてる。冷静な部分を残せている……


俺はいつも、魅了に抗う方法として、本能の選択を行ってきた。魅了に抗えなければ死ぬという恐怖心を使って、魅了に対抗してきた。魅了に対抗する本能に、俺の精神の力を注ぎ込み、魅了との拮抗状態を生み出してきた。


だが、今回は駄目だ。恐怖を……感じられない……グラミューズの魅了の魔力は、俺を癒やし、溶かすような作用を持っている。本能が、この魅了を危険物だと認識することができない……


心身が沸騰するかと錯覚する程に、激しいはずの魔力の奔流が、危険だと、毒だと認識できない。それはこの魅了の力が、実際に俺を……癒やしているからだっ……!


旅の中で蓄積していた俺の疲労、ダメージが癒えていくのが分かる。この魅了の力は俺に恩を売ろうとしている。俺の心を、体を、信用させて、立ち向かう気を消すつもりなんだ。



「──ッ、あ、あああああああああ!?」


「やっぱり、お前もダメか。余の男には──」


「──おい! 貴様何をしている!! やめろ! どういうつもりだ! ──自分で自分の首を絞めるだと!?」



「──おい、俺! 魅了になんか支配されてみろ……俺がお前をぶっ殺してやる……! それが嫌なら、抗えってんだよ……っ!! 俺は……オールランドに行くんだろ……ッ!? 俺はずっと、その為に頑張ってきた……! お前らも、憶えてるだろっ!?」



 ──ドクン。



 俺の心臓の音、鼓動が次第にゆっくり、穏やかになっていく。体の治癒が止まっていく。心身に俺の魔力が循環していく。


ありがとう、止まってくれて……ごめん、こんなことして。もっといいやり方があったかもしれないのに、俺は思いつくことができなかった。



「あ……抗った……抗いきったの? わたしの魅了を……じゃあ、じゃあ本当に、この子が、わたしの王子様なのっ……!?」


「は? 王子様? 一体何を言って……」


「グラミューズ様ぁ……! 口調が、口調が!」


「──ハッ! まさか、本当に余の魅了に抗って見せるとは、これはもう余の運命の相手に違いない。よし、では式はいつにしようか。あ、でもでも、先に恋愛をある程度楽しんでから、結婚したいという気もしてきた……あぁ、でもでも、定命の者の貴重な時間を余の感覚で消費するのは……」


「え? どういうこと? 結婚? は? 俺は結婚なんてするつもりはないぞ?」


「え……? な、何を言ってるの? あなたはわ、わたわた、わたしの運命の相手なのだよっ!? 結婚して当然なんじゃないの? 運命の相手だからお互いに好きになるのは必然でしょ!?」


「そんなことないと思うけど……」


「えッ……!? でも、わたしはあなたの事もう好きだよ!?」


「あなたの体は、確かに、そう思ってるかもな。でも、それは本当に俺のことが好きなのか? 俺がどんな性格で、心を持つのかも知らないで好きだと言えるのか? 運命の相手であるならば、心から、愛することができなければダメなんじゃないのか?」



 頼む! なんとかなれ! この理屈でどうにかならんかっ!? 何が何やらだが、結婚するのはマズい、魔王の夫になんてなったら本当にこの黄金郷から出られなくなる。


幸い、この魔王は、恋愛関係に関してポンコツっぽいし、まだ付け入る隙がある。



「う、確かにそうかもしれない……でもダーリン、ダーリンがわたしを誤魔化して、わたしから逃げようとしているのは、バレてるんだからね! わたしは言葉の神の加護を受けてるから、魔族語に込められた意思を、深く読み解けるんだから! 絶対に逃さないから、絶対に互いの心も体も、全部を好きにさせるから」



 クソっ……魔族語の欠点が……意思が伝わるから。俺の本心が、バレちまった……魔族語は嘘がつけない……できるのは隠すことだけ。大きな意思で小さな意思を隠すことだけ。でも、俺の心は、ここから逃げ出したいという気持ちが強すぎた。隠せるはずもない……



「はは、逃げ出したいなら間違った選択をしたな少年。少年が魔王様の魅了に耐えられない凡百の存在ならば、魔王様はお前を解放し、オールランドにだって行けたかもしれない」


「え……? そんな、嘘……だって、魅了にかかったら、サキュバスに食われて死ぬんじゃ……」


「魔王様は男を食ったことがない。サキュバスでは奇特な方でな、心に決めた相手としか交わらぬと決めているのだ。父君がダークエルフの神だからな、その厳格さを引き継いだのだろう。つまりお前は、自分から魔王様の運命の相手になってしまったんだよ。サキュバスは己の魅了に耐える者を認め、繁殖相手として認識できるようになる。くくく、先程お前は自分で自分の首を締めていたが、状況的にもそうだったわけだ。あっははははは!」



 笑いごとじゃねーぞ!! このクソ警備隊長!! ああもう! どうすりゃいいんだよ!





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