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不穏な躓き




 夜、あれから俺とディアはハルポン達と別れ、宿へと戻ってきていた。ミュシャの正しさを証明してやると啖呵を切ったものの、正直どうしたらいいのかはよくわからない。どうしたもんか……



「お兄ちゃんできたよー! カニサソリの蜜ご飯! それとメロンジュース風サボテンジュースだよ!」


「むむっ!? 蜜ご飯? なんだか変わった感じのご飯だな」



 ディアが夜ご飯を作ってくれた。しかし蜜ご飯? ディアの料理の腕は信頼しているが、味の想像のつかない。



「ほらお昼ドナーナさんのお店、実はあそこで色んな料理の情報収集をしてたんだ~。本当はエドナだと麦の粉を茹でたものを使うんだけど、お米でも出来そうだと思って。お兄ちゃんお米好きでしょ? 旅ではいつもお米のストックは欠かさないぐらいだもんね?」


「ほう……なんという心遣い、俺はなんて幸せなんだ。だが食わずに、色々言うのもよくない。いただきます!!」



 ディアが笑顔で俺を見つめる中、俺は一口目をマイ箸で食べる。



「──ッッ!??? う、うまい!? え? なんだ、これは、この旨さ……蜜と言うから甘いんだとは思ってた。けどこれは……なんだ? スイーツとおかずが完璧なバランスで調和しているような……しかも味が、予想外すぎる……蜜っぽい甘さかと思ったら、違う。なぜだかイチゴのような甘さだ。もしかして、蜜サボテンの蜜とカニサソリの出汁の甘さが合わさってこうなるのか? えぇっ!? あのサソリ、こんなに甘くなるの!? いちごっぽい味なのに、なぜだかおかずとして成立する……脳が、バグる。なんで美味しいんだ!? う、うおおおお! うまい、うまい! うまい!」



 結局俺はものすごいスピードでディアの作ったカニサソリの蜜ご飯を平らげてしまった。おかわりも二回、た、食べすぎた……



「ふふ、喜んでくれたみたいでよかった~」


「ごちそうさま! いや~すごかった。メロンジュース風のジュースも完全にメロンジュースだった、最高! うーむ、エドナイルの郷土料理のアレンジとはいえ、これはディアが俺のために工夫を凝らしたオリジナル料理。なんというか、凄いな。最近は応用力が……出会った食材達をうまく活用している」


「お兄ちゃんと一緒に旅をしてると、どんどん新しい味が思いつくの。色んな味に出会って、色んな人に出会うから、その刺激で、味のパズルがガッチャンコと凄く繋がるわけですよ」



 ディアがドヤ顔をしている。可愛いヤツだ。凄い凄いと頭を撫でてやると、ディアは顔を赤くして、大人しくなってしまった。嫌がってるわけじゃないみたいだけど、どういう反応なんだろう。



「ねぇお兄ちゃん。お兄ちゃんは、ミュシャちゃんの言ってること。すぐに信じたよね。わたしの言うことに対してもそうだった。お兄ちゃんは、わたしの過去を聞くこともしなかった。それって変だよね」


「え? 変、だった?」


「そうだよ。だって記憶にない知らない人……ゴーレムが古代遺跡から出てきて、あなたの妹ですって自称している。そんなのを受け入れて、妹として扱って、毎日楽しく過ごす。そんなの、おかしい」


「よ、良くなかったのか……?」



 なんだ? ディアは急にどうしたんだ? 駄目だよくわからない。女の子の気持ちというのはよく分からない。俺は恋愛経験がないけれど、ディアは妹だしな。それは関係ないか。



「凄くいいことだよ。良すぎて、まるで全部が、嘘みたい。わたしはまだ夢を見ていて、わたしにとっての都合のいい妄想をしているかのよう。でも……お兄ちゃんが、わたしの頭を撫でると、それが現実だってわかる。わたしを撫でる手も、穏やかな表情も、全部が、わたしの知ってるお兄ちゃんのもので、お兄ちゃんはどこまでもお兄ちゃんだった」



 え、ちょ!? 泣いてる? ディアが、どどど、どうしたんだよ。お兄ちゃんは一体どうすれば……



「わたしはもう……ダメ」


「え? ダメってどういう意味──」


「──あはは、ダメっていうのは。ほら、幸せ過ぎて、ダメになっちゃうってこと。旅に油断は禁物でしょ? こう幸せだと、油断し過ぎて、とんでもない失敗だってしちゃうかも! そ、それがダメだよね? って! そういうこと」


「そ、そういうことか。じゃあ油断し過ぎないように、適度な緊張感を持って、明日も頑張ろうな!」


「うん! じゃあ、わたしお皿とか片付ける──」



 ──ガシャララ!



「っと、ディア!? 大丈夫か……?」



 ディアが食べ終わった食器を片付けようとして、食器を落とした。食器は木製だったから落としても問題なかったようだけど……ディアは躓いて転んでいる。怪我は全く見当たらないし、大丈夫だとは思う。思うんだが……



「だ、大丈夫。ちょっと疲れちゃったのかも」


「え? でもディアってゴーレムだから、確か前に疲れないって……」


「ああーそれは! 普段の話、実は定期的に疲れるの! 疲れたら少し休眠して、エネルギーチャージして、すぐに復活できるから!」


「そうなのか? ん? あれ? 疲れたら休眠……? じゃあ疲れないから今まで眠ってなかったとかあるの?」


「え? うんそうだよ。わたしは基本的に眠ってないよ」


「じゃ、じゃあもしかして、朝にやたらと手間の掛かった料理が出てくるのって、寝ずに本当に時間掛けて作ってたの!?」


「そうだよ。けどお兄ちゃんが眠ってる間は料理作ってるだけじゃないよ。他にも色々、情報収集とか、旅道具の整備とか、お兄ちゃんの寝顔を眺めたりとか、あ! 最後は嘘だからね! 別に見てないからね、寝顔とか!」



 ディア……これ絶対俺の寝顔見てるだろ……それにしても、なんだか……ディアは俺に隠し事があるような気がする。ディアはゴーレムらしいが、かなりのハイスペックだ。50mはある砂海返しを簡単に撃退できるぐらい……筋力に反射神経、バランス感覚も全てが人を超えている彼女が、躓いて転ぶなんてありえるのか?


三ヶ月ディアと旅をして今まで、ディアのこんな姿を見た記憶がない。まるで、まるで……弱っているかのように、俺には見えた。もしそうなら、ディアは俺に心配させないために、自分の不調を隠しているのか?


 ちゃんと聞くべきだよな。でも……ディアは、俺が事情を問いただすこともなく受け入れてくれたことが嬉しかったと言っていた。踏み込むべきじゃないのかな……でもな……心配なんだよな。あーもう、とりあえず様子見だ。それでまた何かあったら、今度こそちゃんと聞こう。





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