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サキュバスの毒を飲む



「う……本当にこれを飲むのか? や、やるしかないのか……」



 ピンク色の毒々しい液体が入ったビンを手に持って、俺はカラーテルの住処をウロウロしている。


これを飲む覚悟を決めきれない……サキュバスの魔神族であるグラニュールから貰ったサキュバスの魅了毒……


サキュバスが持っている魅了は魔法由来のものだけでなく、物質的な魅了毒がある。この物質的な毒を克服しなければ、俺はサキュバスの支配する領地で死亡確定……


グラニュールから結婚式で渡すと言われ、これを受け取った……元々結婚式の後、旅立つつもりが予定変更してカラーテルの住処で世話になっている。


おそらくこの魅了毒は強力だ……旅をしながら耐性を得る修行などできない……毒に酔って無防備となれば、サキュバスじゃなくとも俺が死ぬ可能性は高い。



「ほらシャン、さっさと飲みなさいよ。あんた新婚さんのお家にお邪魔してるの分かってるわけ? カラーテルもあたしも、あんたを無傷で止めるぐらいわけないんだから、ほら、さっさと飲む!」



 カラーテルと結婚したミルズちゃんはカラーテルの住処へと引っ越しした。ミルズちゃんは結婚しても魔神族学校の先生を続けるようだ。まぁカラーテルの住処はクリスタルガーデンに近い、ここから通うのはなんの不便もない。


確かに俺は、お邪魔をしてしまっている……新婚でイチャイチャしたいであろうミルズちゃんとカラーテルの邪魔をしてしまっている。


事情を聞いて俺を置いてくれたカラーテルとミルズちゃんには感謝しかない……であれば、俺も覚悟を決めるしかあるまい……!



「う、い、いくぞ! ──ず、ズズ……っ!」




 ──!!!!!!!!!!!!?????????



「ごっ、オっ!? ハァ!? ゴホッ、ゴホッ!?」



 頭が、頭がおかしくなる……くそ、体が、なんだこの痺れ……変だ。意識が、視線が勝手にミルズちゃんの方に向いて……ミルズちゃんの方に行く以外の行動をしようとすると、体が動かないのに……なんで、っく!



 シャーーーー!! ヒュルヒュルヒュル。



「──っう、あ、ありがとう……はぁ、はぁ……」



 ミルズちゃんがおかしくなった俺をアラクネの糸でグルグル巻きにして止めてくれた。だけど……きつくしめられているから、滅茶苦茶痛い……か、下半身が……



「お、思ったよりも正気に近いでしね……シャンくん、毒はどんな感じなんでし?」


「体が勝手に動くけど、思考自体はそこまで干渉しない、みたい……自分の動きに警戒しておけば、止まることはできそう……か? 無意識を操るような感じだな」


「なるほど~、じゃあしばらくは一滴だけで修行する感じでしね」


「無理したらヤバそうだし、それがよさそう。できるだけ早く耐性を得るように頑張るけど、どうなるかはわからないな……よろしく頼む」



 こうして俺の居候生活と修行が始まった。朝はクリスタルガーデンに行って魔神族の者たちと交流し、彼らの仕事を手伝い。夜は魅了毒を飲んで修行した。


しばらくして俺の修行用の部屋をカラーテルが作った。毒を飲んだ俺は修行部屋に朝まで隔離される。なので俺が隔離されている間にカラーテルとミルズちゃんは仲良くしているはずだ。


そんなに長居するつもりはなかったのだが……



「よし、完全に耐性を得られたぞ! な、長かった……ありがとうみんな!」



 カラーテルとミルズちゃん、そしてトリーデスとグラニュールが、修行を成し遂げた俺に祝福の拍手をしてくれた。


本当に長かった、半年、半年もカラーテル達のお世話になってしまった。半年もいると、カラーテル達だけでなくクリスタルガーデンの魔神族達ともかなり仲良くなってしまった。


最初は人間を見下しがちだった彼らも、俺を友人として認めてくれた。



「じゃあ旅立ちだね。シャンくんが旅立つと寂しくなるなぁ~あ、これ一応毒瓶何個か渡しとくね。旅の道中も定期的に飲んで、できるだけ耐性を高めた方がいいだろうから」


「ありがとうグラニュール。まさか修行中に10本以上ビンを消費することになるなんて……俺の見通しが甘すぎた……グラニュールが力を貸してくれなかったら、俺……絶対死んでた……」


「ほんとほんと、そんなに飲んだらもうヤミツキになっちゃうんじゃないの~? シャンくんが夫になるなら、毎日良くしてあげるのになぁ~?」


「いやそんなことは……気持ちだけで、どうにか……」



 グラニュールは俺のことをかなり気に入ってしまったらしいが、彼女は意外にも理性を保ち続けた。


初手で俺をエサ認定して襲って来た時からは考えられない程に理性的だった。どうやらサキュバスは自身の魅了に耐えられる存在を恋愛対象、繁殖相手として認める習性があるようで、俺が彼女の魅了魔法を耐えた時から、俺がエサに見えなくなったらしい。


クリスタルガーデンには彼女の魅了に耐えられる魔神族の男は少なく、その少ない男はみな彼女の好みではないらしい。


……あれ? 待てよ……? じゃあもしかして、俺……グラニュールにとって初恋の相手だったってコト!?


だとすると、俺の態度はもっと考えた方がよかったんじゃ……でもなぁ、サキュバスと人間が結婚は無理だろ……仮に俺を人として見ることができたとしても、俺が彼女の力に耐えられるとは思えない。



「グラニュール、本当に君には感謝してる。俺は君の夫になることはできないけど、君に困ったことがあれば必ず力になるよ。そうだこれをあげるよ」



 俺はカバンからあるものを取り出しグラニュールに渡した。



「え、プレゼント!? いいの? これって……お守り?」


「うん、シャドウピクシー達に作り方を教えてもらったんだ。何個か作ったんだけど、一番の自信作を君に。鉄と銀を組み込んだから、呪いと邪悪な魔法を弾く効果がある。サキュバスの魅了の魔力は阻害しないから嫌な感じもないはずだよ」


「あ、ありがとうシャンくん、大事にするね!」


「ちょっとシャン、お世話になったでいうならあたし達も相当でしょう? あたし達にはないの?」


「ははは、ミルズちゃん、俺を侮ってもらっちゃ困るなぁ。勿論用意してるとも! ミルズちゃんとカラーテルにはスチームフォクスの毛皮の首巻きだ! これをつけると自分にとって最適な温度で過ごせる。カラーテルはアイスジャイアントだから寒い方が快適だけど、今はミルズちゃんの為に抑えてるだろ? これがあればお互いに快適に過ごせる」


「おぉ~気が利くわね。すごく嬉しいわ! ありがとうシャン」


「うぅ~シャンくん、ありがとうでし~!」



 スチームフォックスの毛皮はシャドウピクシー達から仕入れた。元々俺が使うのにも欲しかったから、そのついでだ。ただ、これが結構高くついた。カラーテルは巨人だからその分首に巻く毛皮の必要量が増える。でも、俺は迷わなかった。カラーテルとの出会いに俺は感謝していたから。



「最後にトリーデスにはこれ。俺が聞いた人間世界の話をまとめたのと、人間の使う共通語の教材だ。トリーデスは人間の世界に興味があるんだろ? クリスタルガーデンにあった共通語の教材はかなり昔のものだから、現代だと通じないのが書かれてる。出来としては完璧じゃないけど、実用的な感じでまとめたから、使い勝手は悪くないはずだ」


「えっ!? いいんすか!? ありがとう、めちゃ嬉しいっすよ~! というか、シャンくんはこんなものをいつの間に作ってたんすか?」


「これは昼休みにコツコツと書いてたんだ。魔族語の文字は見た目に意味はないだろ? 文字に込めた魔力に意味が乗っている。だからさ、人間の共通語の文字に魔族語の要素を組み込めば、人間でも魔族でも理解できる本を書けると思ったんだ。だから、魔族語のことも人間に向けて書いてある」


「う、うわぁ……これ、おいらだけで使うには勿体なさ過ぎる、凄いものっすよ。おいら達から見たらまだ赤ちゃんみたいな若さで、これを……本当に凄いっすね……よし、じゃあおいらは人間に興味がある子達に、このシャンくんから貰った教材で人間達のことを教えるっす!」



 よかった。みんな喜んでくれたみたいで。



「じゃあ、俺行くよ。みんな元気でな! またいつか会おう!」



 俺はみんなに見送られながら、再び歩みだした。旅の再開だ。





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