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サキュバスとの対峙




 時間も遅くなり、暗くなってきたので俺はトリーデスと別れた。その後も俺はそのまま一人クリスタルガーデンを散策していた。


そんな中で俺はクリスタルガーデンの特異な文化を見つけることができた。


それは里にシャーマンが存在しないことだった。


魔族達はどの部族でも基本的にシャーマン、神と対話する役職がいて、その集団での中心的存在となるのだが、魔神族にはその中心となるべきシャーマンがいないのだ。



「魔神族は最も神化しやすい魔族で、神化した同族は人に近い感覚を有している。だから神化した同族をシャーマンの代わりにしてるんだ。そして魔神族学校を卒業した者の一部は里を出て魔族領全体へ広がっていく。元魔神族の神によるネットワークを作り、地域同士の架け橋となっているんだ。そういえばカラーテルは氷の巨人、アイスジャイアントの魔神族なはずだけど、シャドウバレーにはアイスジャイアントはいない。じゃあカラーテルがシャドウバレーに残ってたのは……ミルズちゃんから離れたくなかったからか?」


「──ねぇ、そんな難しい話してないでさぁ、もっと“イイコト”私としましょう?」



 ──背筋が凍った。姿は見ていない、だが……声色だけでわかる。魔族語には意思が乗る。この声、音には……魅了チャームの力が乗っているッ!!


俺はゆっくりと振り向いた。


やっぱりか……変な感じはしていた……ずっと誰かに見られている気がしていた。



「あんた、サキュバスの魔神族だよな? 悪いが俺はあんたのエサになるつもりはないぞ。それに、俺に手を出せばカラーテルが黙ってないぞ」



 白い角のサキュバスの魔神族、少し前に、ちらっと見かけたヤツだ。



「あはっ、こわ~い。でもぉ、流石に我慢できないかも~。ねぇ、いいじゃーん! 死なない程度に抑えてあげるから、ちょっと味見させてよ~。ね?」



 サキュバスがぬるりと静かに素早く、俺の懐まで入ってくる。腕を俺の服の下へ、胸へと滑らせて、足を俺の胴に絡みつかせる。


吐息を耳に、鼻に吹きかけて、魅了の毒を俺に浸透させようとしている。



「──やめろッ!!」



 俺はサキュバスの拘束を振りほどき、距離を取る。攻撃はしない、敵対したいわけじゃない……



「えっ、嘘……人間が……私の魅了を、跳ね除けた……!? ヤバぁ……だって、私の魅了はタフな魔族の男、魔神族の男にだって効くのに、それが……人間如きに、防がれた……? まさか、加護でもあるの? でも、そんな感じは……」


「魅了耐性を身につけることが、俺が魔族領を旅する為の必須条件だったからな。確かにあんたの魅了は強いのかもしれない。だけど、俺の先生だったネルタタの魅了はもっと強力だったぞ」



 魅了は問題なく弾けた……だけど、俺は見誤っていた。サキュバスは単純な魅了の魔力だけが問題じゃなかったんだ……


俺は奴に……いとも容易く懐に潜り込まれてしまった。あれは高度な戦闘術、バトルステップだ。サキュバスは相手の隙を見つけ出し、そこに浸け込むのが得意らしい。


しかも……サキュバスの吐息、あれは不味い……吸わないようにすぐ息を止めて正解だった。あれは物質的な生体毒だ……体が痺れて、脳の機能が低下しているっ……! 頭が、クラクラする……っ。



 サキュバスは搦手を使う。だから逆に直接的な物理的な脅威があまりないのではないか、そう俺は楽観視していた。


蛇は毒があれば獲物を絞める力が弱く、毒が無ければ絞める力が強いように、強みがあれば、弱みがあるものだと思い込んでいた。


だが、どうも違うらしい……サキュバスは、全てを持っている。力、技、魔力……魔族で最も力を持った種族……それが何故かを、俺は思い知った。




「あれ……? 嘘……なんか君のことめっちゃいい男に見えて来たんだけどぉ……えぇ、なんでぇ? さっきまではエサにしか見えなかったのに」


「は? 待ってくれ、もう俺がエサには見えないのか?」


「うんうん、え~? ふっしぎ~。他の魔族の男達より~全然エサじゃないかも~」



 人間である俺が……エサに見えない? このサキュバスの魔神族は、俺をエサと認識しなくなったってことか? な、なんでだ?



「あんた名前は? サキュバスの魔神族なんだろ?」


「え? 私はグラニュールだよ。グラニュール=アスデラント」


「あ、アスデラント!? アスデラントってまさか、あの……」


「そうそうサキュバスの魔王の一人、グラナエス=アスデラントの娘。お姉ちゃんも魔王やってるから、身内に二人も魔王がいるのよね~優秀過ぎる家に生まれた凡人って肩身が狭いのよ~?」


「そ、それは確かに、大変そうだ。あれ……? グラニュールが魔神族ってことは、もしかして母親である魔王グラナエスは神化してるってこと?」


「そうだよ~だから私もお姉ちゃんも魔神族。お姉ちゃんと私は殆ど同時期に入学したんだけど、お姉ちゃんはさっさと卒業しちゃってさぁ~……私馬鹿だからもう三百年も置き去りになっちゃったんだ。まーでも? お姉ちゃんサキュバスとしては落第生だから、そこは可愛げあるよね」


「サキュバスとして落第生? なのに魔王をやってるの?」


「まぁ強いし頭もいいからね。でもサキュバスとしてはダメダメ、だってガリガリに痩せすぎだし……あんな飢餓状態で動くなんて正気じゃないわ」



 飢餓状態? サキュバスのエサは人間だとか魔族の男の生気……それを食べてないってことなのか?



「じゃあお姉ちゃんは、男の生気を吸っていないってことか? そんなんで生きられるのか?」


「普通は無理、でもお姉ちゃんは特別。私のお父さんはただの魔族だったけど、お姉ちゃんはお父さんも神だったからね。お父さんの力でなんとか踏みとどまってるみたい。何……? もしかしてあなたお姉ちゃんに興味があるの?」


「俺は魔族領の果て、オールランドに行くつもりなんだ。その為には、サキュバスが統治する小世界を避けては通れない。リザードマンの族長から貰った地図を見て確認したから間違いない。サキュバスが統治する小世界3つのどれかを通らなければ、オールランドには辿り着けない。もし、あなたが言う事が本当なら、そのお姉ちゃん魔王がいる小世界のルートが、俺にとって一番安全なルートになるかもしれない」


「あー確かに、お姉ちゃんの支配する所なら人間のあなたでも抜けられる可能性あるかも。でも人間がサキュバスの世界に自分から飛び込んでいくなんて、自殺志願者だよね~。面白いから手伝ってあげる」


「え? 手伝うって?」


「サキュバスの魅了毒の耐性は、あなたの先生でも鍛えられなかったんじゃない? ネルタタってあのラミアの子でしょ? あの子色んな所に顔出してるから、私も知ってるのよ。だからぁ、私の毒液をビンに溜めたのをあなたにあげる。それで耐性を鍛えてみたら?」



 も、物凄く気が進まない……謎の毒液というか、体液を溜めたビン……鍛えるって、だって……それを俺の体内に入れろってことだよな?


い、嫌過ぎる……で、でも……や、やらざるを得ない……



「た、助かるよ。できる準備はちゃんとしないとな。何かお返ししたい所だけど、なんかあったかなぁ……」


「別にお返しなんていいのに~。だって友達のミルズちゃんが愛する相手と結ばれることができたのはあなたのおかげなんだし、私も嬉しいことだったんだから。まぁでもぉ? 魔力はちょっと貰おうかなぁ」



 ということで俺は魔力交換で魔力をいくらかグラニュールに渡す。少し疲れたが、疲れただけで済んだ。サキュバスと対峙して生き残っただけでも幸運なのに、それ以上の成果がある。



「じゃあミルズちゃん達の結婚式には毒瓶渡すから、あなたも二人の結婚式必ず来てよね」


「勿論! ここまで関わっておいて見届けないなんて、粋じゃなさ過ぎる」



 そんな理由で、俺はカラーテルとミルズちゃんの結婚式までこのクリスタルガーデンに残ることが確定した。





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