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ミルズとカラーテルの真相




「う~ん、むにゃむにゃ──!? あ、わっ、み、ミルズちゃんがどうしてボクの家に……!?」


「ここはあんたの家じゃなくてあたしの家よ! 寝ぼけちゃって」



 ガーロッドとの決闘に勝利したカラーテルは幸せな現実にショックを受けて倒れた訳だが、倒れ込んだカラーテルはミルズちゃんの家に運ばれ、彼女に看病されていた。


俺とトリーデスもミルズちゃんの家にあがり、カラーテルの様子を見ていた。



「え!? あっ、そうでし! ボクはガーロッドとの決闘に勝って……あれ? 決闘? 決闘で勝ったら結婚? え!? ボクとミルズちゃん結婚するんでしか!?」


「そうよ! これはもう決定なんだから、言い逃れはできないわよ! あんたは一生あたしと暮らすんだからね!」


「ははは、全く、この二人の間に割って入ろうだなんて、この里には馬鹿が多い。それにしても本当よかったっすよ。二人の仲がやっと進展して、いや~シャンくんがいなかったらどうなっていたことか……」


「いやぁ、俺はなんも……けどあれだね、ガーロッドは今回の決闘大会のことをカラーテルに伝えないように暗躍してたんだろ? それさ、ミルズちゃんが直接カラーテルに伝えれば何の問題もなかったんじゃないの?」


「うっ……そ、それは……しょ、しょうがないでしょ! だ、だって……カラーテルの馬鹿、最近ずっと、あたしに会いに来てくれなかったし……あたしから会いに行くのが、なんか負けた気がして……」


「ミルズちゃんも素直じゃないからね、自分が寂しいからって、それをカラーテル本人に言うのは恥ずかしいわけで、いや~結局、みんなの前で告白しちゃって、恥ずかしいことになったっすけどね~あははは」


「う、うぅ~~!! うるさいトリーデス!」


「なるほどなぁ、ガーロッドはミルズちゃんもカラーテルもこんなだから、自分にもワンチャンあると思ったわけか。いや、決闘大会になったってぐらいだから、他にもそう思ったヤツがいっぱいいたわけか。あ、そうだ! カラーテル! 例のものを出すんだよ!」


「例のもの!? そうでし! 今から出すでし!」



 カラーテルが空に魔法陣を指で描くと、魔法陣の中から一枚の大きな布が出現した。



「これ! ボクはこれをミルズちゃんに渡しに来たんでし! 気にいるかどうかわからないでしけど……ミルズちゃんの幸福を願って、ボクの全力を込めて描いた絵でし」



 ミルズちゃんがカラーテルから絵の描かれた布を受け取る。そしてミルズちゃんは、手足からアラクネ族の蜘蛛の糸を放出し、絵を壁に貼り付けた。絵の全体像がよく見える。



「あの黄色い花って、ミルズちゃんの髪飾りと同じものだよな?」



 カラーテルの描いた絵には笑顔のミルズちゃんと一面の黄色い花が描き込まれていた。見ていると、なんだか癒やされるような、温かみのある絵で、幸福の概念を絵にしたような感じだ。


間違いない、絵の花とミルズちゃんの髪飾りは同じ花だ。



「そうでし! これはラクレイモの花でし、魔族領にしか生えない高級ポーションの原料にもなる凄い花なんでし。ミルズちゃんがラクレイモの花が好きだからいっぱい描いたんでし!」


「あたしはラクレイモの花なんて好きじゃないわよ?」


「えっ!? ううう、嘘でし! だって、ミルズちゃん、ボクがラクレイモの花で作った髪飾りを渡した時、すごく喜んでくれたでし!? ラクレイモの花が好きじゃないならなんで……」


「ホント、カラーテルは馬鹿で困るわ。あたしはラクレイモの花なんて好きじゃない、あたしはあんたにプレゼントを貰ったのが嬉しかっただけ」


「え? えええええええええ!? で、ででで、でも! ボク達が小さい頃、ミルズちゃんとラクレイモの花を一緒に探したでし! ミルズちゃんが欲しいって言ったから、トリーデスも憶えてるはずでし!?」


「あー、あの時ね。勿論憶えてるっすよ? カラーテル、さっき自分で言ってたっすよね? ラクレイモの花は高級ポーションの原料になるって。ミルズちゃんは小さい頃から薬学の先生になりたかったから、ポーション生成の練習に必要だったんすよ。というか、その実験はカラーテルも見てたっすよね?」


「う、うん見てたでしけど……でも、ボクがラクレイモの花を見つけた時、ミルズちゃん凄く喜んでて、嬉しそうだったでし。実験の為だけとか、そんなドライな理由には思えなかったでし」


「う、うぅ~! もう! 何回言わせんのよ! あたしは、あんたと一緒にラクレイモの花を探して、見つけるのが楽しくて、嬉しかっただけ!」


「……え? じゃ、じゃあ……えっ!? じゃあまさか……ミルズちゃん、あの頃からボクのことを、あんな風に……好きだって、思ってくれてたんでしか!?」


「そうよ! この馬鹿! もういいわ! そんなに信じられないなら分からせてやるわよ!」



 ミルズちゃんはそう言うとカラーテルに向かって飛びかかり、カラーテルの肩に乗り、そのまま八本の手足全てでカラーテルを頭に巻き付いて、カラーテルにキスをした。


ミルズちゃんは蜘蛛の糸を手足から出して、自分ごとカラーテルの頭をグルグル巻きにしてしまった。



「な、何やってんの!?」


「ああシャンくんは知らないんすね? アラクネ族の求愛行動っすよ。糸で自分と相手を一緒に巻くことで、自分達は一緒になる運命であり、その運命からは逃げられない、そんな意思を伝えるんすよ」


「あ、あの……もご、ミルズちゃ……こ、呼吸が、もご、しづら……」


「ふん! このあたしを何百年も待たせたんだから、後10時間はこうしてやるんだから!」


「じゅ、10時間て……流石にそれを見届けるのは御免被るなぁ……」


「あははは、そうっすね! シャンくん二人の邪魔しちゃ悪いし、外に行かないっすか……? クリスタルガーデンを案内するっすよ?」


「本当!? お願いします! トリーデスの兄貴!」


「いやぁ兄貴だなんてそんな、でも悪い気はしないっすね! じゃあ行こうか!」



 というわけで、グルグル巻きにされたカラーテルとミルズちゃんは放置して、俺とトリーデスはクリスタルガーデンを回ることにした。


クリスタルガーデンはかなり広いが、人口はた大したことないようだ。500人ぐらいの魔神族が住んでいるが、500人ではどう見ても使い切れない広さがある。


この感じだとあれだな、顔見知りしかいない、村のような感じだ。でもクリスタルガーデンの施設設備はかなりの高性能で、村のレベルを遥かに超えている。


高性能な整備ゴーレムが常に街を最良な環境に保ち、魔神族の余剰魔力を吸収するクリスタルが、街の設備を自動で動かしている。


農業から生活必需品の生産までが自動化されていて、魔神族達はそれを時々管理するぐらいで生きていける。



「なるほどな……これだけのことをするとなると、大量の魔力を必要とするけれど、魔神族は魔力が膨大だから、それでやっていけてしまうのか。仮に同じ技術があっても人間には絶対に再現できないな。魔族の中でも力の強い魔神族だからこそ可能な文明社会か、まるでこのクリスタルガーデンだけが未来を生きてるみたいだ」


「確かに便利っすけど、その仕組みを完全に覚えないと魔神族学校は卒業できないんすよ。まぁおいら達魔神族は寿命が馬鹿みたいに長いから、時間を掛ければ馬鹿でも卒業はできるっすけどね! 凄いのだと卒業に千年かかった人もいるんすよ?」


「ほほぉ、そいつは面白い! 確かにそうか、寿命が長いなら、そういうゴリ押しもきくのか。人間だとあれだもんなぁ、ある程度頭が良くないと一流の知識人にはなれないものな。そう考えると、長命種は馬鹿にも寛容なのかな?」


「まぁそうっすね。他の魔族も同じだけど、問題になるのは心の方っすよ。悪い心を持つ、他者を故意に傷つける者は排除される。だからガーロッドは、本当なら排除されるはずだったんすよ。クリスタルガーデンを追放された魔神族なんて他の魔族からも煙たがられる。だってそうでしょ? 力が無駄に強くて、自己中心的なヤツが隣に引っ越してきたら、嫌だし怖いっすよ。基本的にそういうのが堕ちて邪神になっていくんすよ」


「あぁそうか、ガーロッドは過去を消されて子供に戻ったからチャンスがあるのか。あいつの心が正しく育てば、うまくやっていけるのかもしれないんだ。でも不思議だな、そういう悪しき心を持った存在が邪神になるのなら、なんでカラーテルみたいな邪神が存在するのか」


「神に至ることを神化と言うっす。そしてもう一つの言い方が“到達者”精神の力の極限に到達した者。これは例えっすけど、コップに入った水があるとするっす。そんなコップの水の中には意思という魚がいるっす。そのコップは魂であり、水は精神、そして……精神の極限とは、水を包むコップや水面を意思という魚が突き破ることを言うんすよ。こうして自分の魂の限界を超えたものは神となる資格を得る。方法はなんでもいいんすよ、怒りでも喜びでもなんでも、とにかく精神の力が極まれば神化する。神か邪神かは結局、元となった力が他人からどう思われてるかの区別でしかないんすよ」


「カラーテルはネガティブな感情で到達して、その力も否定、拒絶だから邪神、か……発現した神の力がネガティブなものじゃなかったら、カラーテルは邪神じゃなくて神だったのかな?」


「まぁだと思うっすよ。でも基本的には到達して得る力はその精神性に準ずることが多い。ほらガーロッドは神化したと言ってたけど、あれは邪神の力っすね、完全に。見た感じ相手の力を奪う神の力だったぽいし、多分カラーテルからミルズちゃんを奪ってやろうって思い過ぎてああなったんすよ。あんなドス黒い嫉妬の炎燃やしちゃってさぁ、あはは、ホント馬鹿だよ。おいらは何度も、ミルズちゃんのことを諦めろって、言ったんすけどねぇ……」



 トリーデスは落ち込んでいる。トリーデスがガーロッドのことをキツく言うのは、ガーロッドのこと嫌っていたとか、そういうわけじゃなかったようだ。


破滅へと向かう友を止めることができなかった無力な自分への怒りが、トリーデスの中にはあったんだ。



「ふふ、でもトリーデスさんは魔神族学校の先生なんでしょ? 今度のガーロッドは生徒だし、カラーテルとミルズちゃんが結婚すれば、きっとガーロッドは別の道を選べるよ」


「ありがとうシャンくん。神様ありがとう、こんないい子をおいら達の所へ導いてくれて」


「神様ありがとうって、トリーデスさんはどの神様に言ってるの?」


「さぁね、誰も知らない、だけどきっといる。名もなき、どこかの神が、見守ってくれてるような気がしただけっすよ」



 誰も知らない、見えない神……神が見える世界だからこそ、トリーデスのその言葉は、純粋な祈りだと俺には思えた。


損得じゃない、祈れば何かが返ってくるわけでもない、ただ世界にありがとうと言いたくなってしまった。


そんなトリーデスの祈りの中に、確かに俺も何かを感じた。


俺もまた、このカラーテルとの出会いが、単なる偶然とは思えなかったからだ。





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