サキュバスの壁
カラーテルの愛しのミルズちゃんにプレゼントする絵を描く為の布を調達する為、シャドウピクシーの集落に行くカラーテルに俺は同行することになった。
シャドウピクシーの集落は岩壁の中にあるカラーテルの住処、ダンジョンから直通のルートが存在した。
カラーテルダンジョンの壁にはいくつかの魔力で動く扉があり、扉の先の空間もダンジョンらしい。といってもただの倉庫のような使い方をしているらしく、誰かが住む場所に繋がっているのはシャドウピクシーの集落だけのようだ。
というわけで、直通ルートのおかげで何事もなく、あっさりと目的地に到着した。
「お、お~い、か、カラーテルでしけど~」
カラーテルがぼそっとした声でシャドウピクシーを呼ぶ。すると蜂の魔物の巣に来たのかと見紛うレベルで、シャドウピクシー達がわんさかとやってきた。
「あ~! からっちじゃ~ん! おはよう~今日はどんな用で来たの? ん? あれ? そいつ誰~?」
「エッジちゃん、この人はボクの大事な客人のシャンくんでし。今日は取引に来たんでし、上等な布が欲しくて。あ、シャンくん、この子、エッジちゃんは元シャドウピクシーの神で、この集落のリーダーみたいな感じでし」
エッジちゃんは他のシャドウピクシー達よりも少し大きく、小さな子供ぐらいの大きさだ。頭には一本の角が生えており、羽が6枚ある。
「あ~! あの時のヤツだ~! あたしこいつ知ってるよ~! こいつにいたずらしようとしたけど逃げられたんだ! でもからっちのお客さんならいたずら失敗してよかった~」
なんと俺に目をつけて魔法の落とし穴にぶちこもうとしてきたシャドウピクシーがいた。しかしカラーテルの客人補正は凄まじく、俺は彼女に友好的な目で見られているようだった。
「え!? モッジちゃんのいたずら連勝記録を止めたのがこの人、シャンくんなの~? すご~! 詳しく話聞かせてよ~!」
話が大幅に脱線する予感がした。俺がカラーテルの方を見ると……
「まぁ交渉は後でいいから話してあげてでし。シャドウピクシーにとっては面白いことが一番の栄養なんでし」
「まぁからっちがそういうなら」
「か、からっち!? え、もうあだ名呼びでし!? ま、まさか……シャンくんはもうボクのことを友達だと思ってくれてるでしか……? いや馬鹿な、ボクのような根暗と出会って一日で友達になろうと思うなんてありえないでし……」
「おいおいからっち、俺を舐めるなよ。俺はもうお前の友達だぜ! からっちは根暗かもしれないけど、俺は好きだぜ! 凄いヤツだ、だからこんなにシャドウピクシー達に好かれてるんだろ?」
「お~! シャンくんわかってるね~! からっちは凄いし面白いんだよ!」
「え、へへへ、そんな凄いなんて、そんなわけないでしよ~! エッジちゃんもシャンくんもおだてるのが上手いでしね~ボクは騙されないでしからね~」
「あははは、からっち滅茶苦茶照れてる~ウケる~!」
シャドウピクシー達はからっちの異常な照れ方が面白いらしくみんな笑っている。
ていうかシャドウピクシーって……こんなギャルっぽい感じだったの!?
なんかシャドウピクシーがオタクくんにも優しいギャルのような存在に見えてきたぞ……幻想の存在かと思われるオタクにも優しいギャルだが……シャドウピクシーは幻想の存在だしそういうこともあるか、と変に納得してしまった。
構図的にはギャル小学生に人気のあるオタク中学生という妙な感じだが、ここには幸せな関係があり、それが不思議な空間を生み出していた。
◆◆◆
「へぇ~確かにシャンくんの服からは鉄の力を感じるね。かしこ~、人間ってあたしらが思ってたより賢い存在だったんだ~」
「多分人間みんなが賢いわけじゃないでしよ。ボクらと同じで色んな人がいるみたいでし。賢い人もいればそうじゃない人もいるんでし」
「麻痺毒で濃魔の毒を薬に変えてたなんて、そっか~あの時飲んでたの、麻痺毒だったんだ~! すご~! 自分から毒を飲むなんて、あたしにはできないなぁ~! ねぇねぇ、シャンくんの冒険の話とか、村での話もっと聞かせてよ~! それが約束のお礼でいいからさ!」
俺は魔法の落とし穴にハメようとしてきた例のシャドウピクシー、モッジちゃんにお礼として話を求められる。このモッジちゃんと俺の間には約束がある。俺を見逃してくれたらお礼をする、俺はそうモッジちゃんに言って、彼女の前から去っていった。あの約束を果たす時は俺が思ったよりずっと早くやってきた。
「それがお礼でいいのか? それならはりきって話さなきゃだ。冒険は始めたばっかりだから、殆ど村の話になっちゃうけど」
それから俺は村での生活、リザードマン達との出会いをシャドウピクシー達に話した。彼女達だけでなくカラーテルも興味深そうに俺の話を聞いてくれた。
俺の今生についてはすぐに話し終わってしまったが、シャドウピクシー達はもっともっとと話を催促してきたので、俺はこの世界で知った人間世界のお伽噺や笑い話をシャドウピクシー達に話した。
「シャンくんおもしろ~い! 連れてきてくれたからっちにはしっかりお礼しないとね~! 待ってて~! 上等な布持ってきてあげる! 馬鹿な鳥人から剥いだやつ!」
どうやら俺がシャドウピクシー達に色々話しているうちにカラーテルは事情をシャドウピクシー達に話していたらしい。
「え、馬鹿鳥人から剥いだやつって……もしかして、外の檻みたいな落とし穴にいた人のやつ?」
「そうだよ~! うちらの仲間を誘拐した悪いヤツだから、アレ。あのまま閉じ込めて殺すつもりだよ。あいつの部族の長にも許可とってるから、あいつはもう終わりだね」
なるほど、仲間が誘拐されてたのか、そこまでやるとシャドウピクシー達も殺しに来るわけか。
「誘拐された子は大丈夫なの?」
「う……それが、見つかんなくて、馬鹿鳥人が言うには、もう人間の奴隷商に売られたんじゃないかって」
「人間の奴隷商に、売られた……? え? 待ってくれ、魔族と人間の繋がりって殆どないはずだろ? 一体どういうことなんだ……」
「サキュバスは人間の奴隷商と仲良くしてるんだよ。人間からエサの人間を買ってるんだって~、あと~奴隷商はサキュバスはの力を狩りて奴隷を集めてるんだって」
「なっ……そんな、サキュバスはこれじゃあ、魔族にとっても脅威じゃないか」
「シャンく~ん、悪いのは一部のサキュバスだけだよ? いい子もいっぱいいるんだから。人間からしたらみんな怖い子だろうけど」
いい奴もいれば悪いやつもいる。そんなようなことを俺もカラーテルに言った。サキュバスもそうなんだろうが、人間である俺からすると、どうしてもサキュバスを色眼鏡で見てしまう。
種族全体を決めつけるべきじゃない、個人を見るべきだ。そう思っても、実際問題、種族としての傾向はあるんだ。そのサキュバスがどんなにいいヤツでも、サキュバスはきっと人間をエサとして見てしまう。
サキュバスからすれば、自らの糧を得る為に行動しているだけに過ぎないんだろう。人間の奴隷商と関係を持つことは……
分からない、どこに善悪の境界があるのか……俺はどう足掻いても、立場の違いでしかモノを語れない。仮にサキュバスのこうした行いが、飢えた同族を養う為だとしたら? それはサキュバスにとっては善いことだ。だとしても、俺としては、人間としては認めることなどできない。
己の為に他者に犠牲を強いることは、認めたくない。だけど、サキュバスとは絶対に分かり合えないのだと、決めつけたくもない。
俺がそんな考えに囚われている間に、シャドウピクシー達は上等な布をカラーテルに手渡し、俺とカラーテルはカラーテルの住処であるダンジョンへと帰っていった。
帰る道中も、帰った後も、俺はずっと考え続けてしまった。サキュバスのことを。
俺がこの先も魔族領を旅するなら、必ずサキュバスと出会うことになる。避けては通れない。後回しにしていては、俺は、きっと死ぬだろう。
俺がシャドウピクシーの脅威を避けることができたのは、単に俺が幸運だっただけだ。リザードマンの族長がシャドウピクシーのことを話してくれたからどうにかなった。
シャドウピクシーの魔法の落とし穴にハマりかけて一回、カラーテルのパニックでヒートショックを起こして一回、もう二回、旅を始めて一週間も経っていないのに、もう二回も旅が終わりかけた。こんな調子では目的地である言葉の神アーレンストラの住む、東の果て、オールランドには辿り着けない。
決めなければいけない、オールランドに辿り着くために、サキュバスとどう向き合うのか。
サキュバスと戦うか、それとも対話する方法を模索するか、それとはまた別の方法を考えるか。
俺は決めなくてはならない。
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