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勝手に精神崩壊



「う、う~ん……」


「あ! 目が醒めたんでしか!? よ、よかったぁ~一応回復魔法は使ったけど、人間に効くかどうか不安だったでし」



 目を開けると、俺を心配そうに覗き込む大きな顔があった。氷の魔神カラーテルだ。なんだっけ……俺、なんで寝て……



「あ~、急激な温度の変化で倒れたんだっけか。回復魔法使ってくれたんだな。助かったよ、ありがとう」


「いやいやいや! 元はと言えばボクのせいでこうなったんでし、え~っとシャンカール・アルピウスさん? だったっけ? は、お礼なんて言っちゃダメなんでし……」



 カラーテルは申し訳なさそうに俯いた。



「そう落ち込まないでくれよ。人間に会うのは初めてだったんだろ? 誰だって最初は失敗するものだよ。俺達人間は急激な温度変化があると、体がおかしくなったりするんだよ。人間だけじゃなく、おそらく他の人間に近い魔族もそうかな? というか、カラーテルさんは大丈夫だったのか? 急激な温度の変化があっても大丈夫なのか?」


「え!? えぇ~~~ッ!? ぼぼぼ、ボクを責めるどころか心配と励ましをッ!? お、おかしいでし! こんなのなんやかんやの企みがないとおかしいでし! こんなお人好しが存在するわけが──」



 やれやれ、俺は疑り深いカラーテルに魔力を送る。魔力交換によって俺の真意をそのままに、偽りなく伝える。



「う、嘘……本心からこんなこと言えるんでしか……? あの人間が? いや、名前から察するにアルピネスでし、アルピネスだからありえるんでし……? あ! ボクは大丈夫でし! ただの魔神族だった頃から温度の変化は大丈夫だったでし、温度が高いとちょっとダルいけど、今の温度なら全然問題ないでし」


「あの人間っていうのは? 神々、いや魔神族達の間では人間はどう思われているんだ?」


「え、え~と……」



 露骨に言いづらそうなカラーテル。人間に良い印象がないのは明白だ。



「魔神族が人間を嫌ってるらしいというのはリザードマン達から聞いてる。言い難い事だったとしても、受け止める覚悟はできてるよ」


「その、人間は欲深くて、争いばかりしてて、そのくせ弱くて愚かな劣等種族だって、魔神族は教わるでし……でも、それは多分間違いでしね。シャンカールくんは愚かだけど賢いでし、争いとは正反対、平和的な人でし」


「いや、魔神族のその認識は間違ってないよ。人間という種族全体で見れば、その認識は正しいから。個人で見ればそうじゃない人も沢山いると思うけど、魔神族と比較すれば劣った種族だろう。少なくとも能力的には間違いない」


「ふむふむ、人間も個人差が大きいでしね。魔族も個人差はかなりあるでし、ボクはこんなだけど、他の魔神族達はイケイケっていうか……ボクとは正反対な性格のヤツが多いんでし。仲が良かったのはあの子だけだったでし……」


「あの子っていうのは? あ、言いたくないなら言わなくてもいいけど」


「魔神族の、ボクの幼馴染のミルズちゃんでし! あの子だけはボクみたいな、後ろ向きな、キモい根暗にも、話しかけて、優しくしてくれたんでし! あんなに魅力的な女の子は他にいないでし! う……」



 カラーテルがミルズちゃんのことを嬉しそうに語るのも束の間、一転してカラーテルの表情が絶望的なものとなる。



「ちょ、どうしたどうした? ミルズちゃんに何かあったのか?」


「あんなに魅力的な女の子……他の男が放って置くわけがないんでし……き、きっと今頃は……ボクが嫌いなあいつやあいつとかと、つがいになって……う、うわあああああああ……!!」


「つ、つがいって……カラーテルさんはミルズちゃんのことが好きなんだな。ミルズちゃんが魅力的だから、他の男に取られてないか不安で、心がどうにかなってしまいそうって感じか。でもミルズちゃんが他の男とそういう関係になってるとは限らないんじゃ? 何かそう思う根拠でもあるのかい?」


「根拠なんてないでし! でも絶対そうなんでし……!! だってミルズちゃん可愛いし、元から他の魔神族の男連中からもモテモテだったでし……」



 ミルズちゃんはモテモテだったのか、だからといって男がいるかどうかはまた別問題だと思うが、確率的に言ったら、カラーテルの言うことは正しい可能性が高い。けど、それはあくまで可能性、確かめるまでは実態は分からない。


といっても、それをカラーテルに言った所で、このネガティブ邪神は自分にとって悪い可能性を信奉するだろう。可能性が低いことは、現実的にありえないと、勝手に納得してしまうだろう。



「じゃあ実際にそうなのか、確認してみようぜ」


「は!? 何をいってるでし!? そんなの確認するだけ無駄でし! 現実を見たって心が、心がおかしくなるだけでし! ボクは耐えられないでし……!」


「確かにカラーテルさんの言う通りだったら、その絶望は痛く苦しいものだろう。だけど、実際に絶望にたどり着いてしまった方が楽だとは思わないか?」


「へ……?」


「このまま真実を知らぬまま、永遠に思い悩んでじわじわと絶望の毒に蝕まれていくよりも、一撃でズバッと絶望の刃に斬られてしまった方が、過ぎ去った後は気持ちが楽だとは思わないか? カラーテルさんは、ミルズちゃんが他の男に取られるのは絶対にそうだと決めつけてるんだろ? どの道待ってるのは絶望、だけど、二つの絶望の選択肢があるわけだ。だったら、せめて現実を見て、現実に納得してみないか?」


「そ、その発想はなかったでし……シャンカールくんは天才でし! 確かにボクの未来はどのみち絶望でし、だけど、選べるんでしか……絶望の方法を。ボクはきっと、このままだと、確かめないまま何百年、何千年と、シャンカールくんの言う絶望の毒に浸り、蝕まれていくはずだったでし。でも、そうでしね……何千年も思い悩むより、ズバッと一太刀いった方がトータルダメージは少なく済みそうでし。ショックで死んでしまう可能性もあるでしが、それはそれで仕方がないでし」



 カラーテルは俺の理論にかなり肯定的なようだ。俺なりに考えたカラーテルを説得する方法はうまくいった。カラーテルはネガティブなヤツだ、希望的な、楽観的な未来予測を受け入れることはありえない。


しかし、ネガティブ故に、ネガティブな未来予測はすんなりと受け入れる。だからネガティブな選択肢だけを用意してやれば、ちゃんと選んでくれる。


 正直な所、これは俺の無用なお節介なのだろう。けれども、俺はカラーテルに会って、縁ができた。俺がカラーテルに会った事は、良くも悪くも、カラーテルにとっては非日常で、変化の兆しとなりうる。変化で事が良い方向に進めばいいんだが……



「よし、じゃあ早速ミルズちゃんに会いに行こう! 俺もついていくから!」


「え、えぇ~!? でも魔神族のみんなは人間を嫌ってるから危ないでしよ!?」


「そこはほら! 邪神カラーテルの客人てことで、俺のことを守ってくれよ。邪神とはいえ、神として認められる存在なら、流石に皆一目置くんだろう? 命が取られるまではいかないだろ」


「わ、わかったでし! ボクが全力で、確実にシャンカールくんを守るでし! 君が一緒に来てくれるなら、ボクも心強いでし! ミルズちゃんはこことは反対側の、西側の横穴の先にある集落にいるはずでし。ただ、こことは違ってダンジョンが複雑な構造をしてるから気をつけてほしいでし」


「ダンジョン……? え、待って、ここ、この部屋? ダンジョンだったのか!?」



 俺は疑問に思って辺りを見渡す、前後左右上下と。



「日に照らされてるから外だと思ってたけど、よく見たら太陽の大きさが違う……太陽に顔があるし、上空に滞空してる……」



 太陽が変なだけでなく、この場所はよく見れば壁に囲まれていた。空と大地の魔法の壁画で、まるで壁の先にも空間があるかのように見える。



「ボクの住処のダンジョンを外みたいにすれば、外に出なくても気分が悪くならないでし。でもずっと同じ風景だと飽きるから、ボクはこうやって絵を描いて壁の中に入れてるんでし」



 カラーテルはそう言うと手を空にかざし、魔力を放出した。魔力はリアルな鳥の絵となって、上空の壁の方に張り付くと、絵の中で飛び回り始めた。



「す、凄い! じゃあ、あそこのオオカミや木々、川に魚まで、全部、全部、カラーテルさんが描いたのか!? 今のって絵を描く魔法だろ? 確か自分で描けるレベルの絵しか出せないヤツ。ネルタタがやってるのを見たことがあるけど、あれは落書きみたいな感じだったぞ」


「いやぁ~引き籠もって暇だったから、ちょっとだけ上達しただけでし、そんな褒められたもんじゃないでしよ~」


「よし! カラーテルさん! ミルズちゃんへのプレゼントに絵を描こう! 布にミルズちゃんの好きなモノを描いて渡すんだ」


「えぇっ!? ぷ、プレゼントをミルズちゃんに!? で、でもボク、ミルズちゃんを実際に見たら渡せないかもしれないでし……きっとショックで動けなくなってるでし」



 カラーテルの反応を見るにプレゼントを渡すこと自体は問題なさそうか。自分の絵なんて渡す価値もないでし! とか言うと思ったが、そんなことはなかった。


カラーテルは自分の絵をちょっと上達しただけと言っていたが、彼の中で絵を描くというのは、彼のプライドとなっているように俺は感じた。ネガティブな彼でも、自分の中に持った自信なのだ。



「はは~ん? さてはカラーテルさん、昔ミルズちゃんに絵を褒められたことがあるんだな?」


「なっ、どどど、どうしてそれがわかったでし!?」


「ネガティブなカラーテルさんにしては絵に自信を持ってそうだったからね。それはつまり、きっと誰かに褒められたからだと思ったんだ。そして、カラーテルさんに話しかける人はミルズちゃんぐらいしかいないのだとしたら、それはやっぱりミルズちゃんに褒められたってことになるだろう?」


「お、おお~シャンカールくん、見事な推理でし! そうでしね、ボクは昔、絵をミルズちゃんに褒められたんでし。だから、これで会うのが最期になるのなら、ボクの全てを、ミルズちゃんへの思いを込めて絵を描くでし。あの時ボクを褒めてくれた恩返しをするでし! となれば、絵を入れる上等な布が必要でし! シャドウピクシー達と交渉して、貰うのがいいでしかね」


「それって俺も付いていって大丈夫かな? カラーテルさんの客人てことにすれば安全だったりする?」


「大丈夫でし。ボクはシャドウピクシーとは結構仲がいいんでし」


「え? そうなの?」


「シャドウピクシーも絵が好きなんでし。だから時々ボクの絵をあげるんでし、そしたらいつの間にか仲良しになったでし。ここの生活に使ってるものはシャドウピクシーがお礼でくれたもので、いつもこの部屋の前まで届けてくれてるんでしよ」



 なるほどなぁ、シャドウピクシーって子供っぽい雰囲気だし、確かに面白い絵を描けば喜びそうではある。シャドウピクシーを攻略するにはユーモアを、か。





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