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氷の魔神



「……いるにはいるけど、ちょっかいを掛けてくる感じはなさそうだな」



 目を瞑ったまま走り続けてしばらく、特に危険な感じはしなかったので目を開けてみる。俺の感覚が正確なら、今は目的地である氷の魔人の住処、渓谷の横穴の少し前ぐらいだが……



「お、確かにあるな横穴。あの削れ方は人工的だし氷の魔人がつく……あれ? 渓谷の横穴のどっちだ? 氷の魔人の住処って東西のどっちなんだ!?」



 渓谷の横穴は二つあった。西側の崖と東側の崖、それぞれに横穴がある。俺は焦って地図を確認する。確認したが、どちらの横穴が氷の魔人の住処は記されていなかった。



「そういやシャドウバレーはシャドウピクシーが多くてリザードマンにとっても危険だったな……来ることもあんまなさそうだし、詳しいことなんて分からないよな。観察して見極めるしかないか」



 俺は周辺の様子を注意深く観察していく。気配で分かっていたことだが、シャドウピクシーと魔神族と思われる者達がいる。彼らは遠目で見えるぐらいの距離感で、何をしているのかというのは大雑把にしか分からない。


シャドウピクシー達は地面に小石や木の枝を並べて儀式のような事をしていて、魔神族らしき連中は喧嘩? じゃれあい? よく分からないが取っ組み合いをしている。どちらも見つかるとマズそうだったので俺は身を潜めながら、さらに周囲の観察を続ける。



「げっ……おい、マジかよ……洒落にならない。からかうってレベルじゃないぞ……」



 俺がシャドウピクシー達のいる方面で見つけたのは魔族の骨が溜まった洞穴だった。おそらくこれが、魔法の落とし穴だ。横に落ちたであろう魔族が横にジャンプして、穴から抜け出そうとしているのが見える。



「ここから見ると簡単に抜け出せそうな深さだけど……多分空間が歪んでるんだな。あの魔族はリザードマンじゃない、鳥みたいな翼……あ! 鳥人族か! やべぇ~~、俺も一歩間違えたらああなってたのかも知れないのか……」



 鳥人族とその横、彼にとっては下に溜まった無数の骸、それを見て、俺の認識の甘さを実感した。シャドウピクシーは基本的に殺すまではしない“らしい”が、どうやら機嫌を損ねたら別のようだ。


あの落とし穴は蓋がしてあり、檻のようになっているのを見るに、もしかすると特別な魔法の落とし穴なのかもしれない。シャドウピクシーを怒らせた存在を閉じ込め、罰するためのものなのかも……



「やだなぁ……横穴よりもっと先だし、大きさが全然違うから間違うことはないけど。事故であそこに入ってしまったら……でももっと横穴に近づかないと、これ以上は分かりそうにないか……」



 渓谷の横穴に近づけばシャドウピクシーの魔法の檻にその分近づくことになるので気は進まないが、やるしかない。俺は意を決して前進する。



「ん……? これ、冷気か? 東の横穴から、氷の魔神ていうぐらいだから、多分冷気の漏れてるほうが正解っぽいよな」



 横穴に近づくことで、俺はどちらの横穴が正解か、当たりをつけることができた。東側の横穴のある岩壁沿いを歩いて進む。途中何度か精霊とすれ違ったが、無視された。鉄の力を込めた装備セットのおかげで、精霊が興味を持たないのかも。そんなことを考えているうちに、俺は渓谷の横穴・東側の入口に辿り着く。


ここまで来ると強い冷気を肌に感じ、鳥肌を立てる腕が、俺にここで間違いない、こっちが正解だと、勇気づけた。



「横穴の高さは20mぐらい、幅も同じぐらい……巨人が通れるレベルだな。松明を……あれ? 明るい?」



 横穴の内部は明るかった。横穴の内部は青白く淡い光で満たされていて、少し薄暗いものの、地形がはっきりと目視できるだけの明るさを有していた。まるで観光地化された洞窟、そんな印象だ。


これならば松明は必要ないと、俺はリュックから出しかけていた松明をそのまま戻し、横穴を進んでいった。



「誰にも会わないな……結構歩いたはずだけどな……あ、開けてる?」



 横穴を結構歩いた所で横穴は終わり、開けた視界が広がる。どうやら渓谷の崖の向こう側に辿り着いてしまったらしい。


肌を焼くような、厳しい寒さが、氷の結晶を纏い、俺に吹く。雪ではない、氷でもない、凍った大気の小さな粒が、針となって、肌に刺さるような冷たさに、俺は震えた。



「う、ごごごご、きゅ、急に寒すぎでしょ!? ガチガチガチガチガチ」



 寒すぎて俺は歯をガチガチと鳴らす。これはヤバイ、このままだと凍死確実、俺はリュックから毛布と防水布を取り出し、身に包ませる。しかし、足りない、全然死ぬ……ひ、引き返すか? そう考えたが、足が動かない。足を見ると、靴底が凍りつき、地面と一体化していた。て、手遅れじゃないか……火、起こせるのか? とにかくやるしかないと、俺はリュックから火起こしセットを取り出す。


アルピネス達も魔導器、魔道具は作り、活用してきた。その中で最も一般的なものが火起こし器だ。ボックリ鳥という、松ぼっくりのような見た目の鳥がいるのだが、その鳥のくちばしを使った魔導器だ。


ボックリ鳥は火を吐いてよく山火事を起こす害鳥で、彼らは山火事で焼き殺した魔物や動物を食べて生きている。このボックリ鳥のくちばしは天然の火おこし器で、ザラザラとしたくちばしをすり合わせて火を起こす。予め翼の先端から分泌される可燃性の油を目星をつけた木々に塗りたくり、山火事を起こす。


アルピネスの火起こしセットは、ボックリ鳥の火起こし器(くちばし)と、油その両方を活用したもので、何千、何万年と使われ続けている安定と信頼の一品。だからどうにかなれ、どうにかなれと、俺は念じながら火を起こす。


 ──ジッ、ジッ、パチ、パチ、ジィイイイイ!



「つ、ついた! だよな、別に寒くても問題ないよな……空気が乾燥してるなら問題ない」



 ボックリ鳥の油を染み込ませた松明の温かさ、光はまさに希望だ。凍りついた俺の靴を照らすと、氷はあっさりと溶けて、俺を自由にしてくれた。



「……えっ!? 何? 火!? 火なのか!? えちょ、嘘!? だだだ、誰か、来てるんでしか!?」



 ──ドタドタドタドタ。


ものすごい大きなドタバタな足音が近づいてくる。鼓膜が大きく揺れるのを感じ、同時に肌でも大きな振動を感じる。巨大な何かが近づいてくるのが分かる。



「ぎょおええええええええええええ!!?」


「ひぃゃああああああああ!?」



 馬鹿でかい巨人が俺を見るなり大声で叫び、その叫び声で驚いた俺も悲鳴を上げる。



「あ……あ、ああ、あ……? あれ? 何もしないんでしか?」


「え? もしかしてあんたが氷の魔神、カラーテル=デスロッドなのか? 俺はシャンカール・アルピウス。あんたに会いに来たんだ」



 俺は滅茶苦茶寒いので外套のフードを脱ぐたくなかったが、挨拶の為の思ってフードを渋々脱いだ。



「え? ボクに、会いに来たんでしか!? あ、あって、どうするつもりなんでしか!? い、いじめないで!! ボクは悪いことはしないんでし!」



 なんだか滅茶苦茶怯えている巨人。俺がカラーテルに会いに来たと言って、ボクに会いに来たのか? と彼は言った。つまり、こいつがカラーテル、なんというか、巨人なのだが……彼の表情や体には幼さが見えた。小学生から丁度中学生になった男子がそのまま10mぐらいに巨大化したような感じだ。


ただ、この中学1年生は肌が氷で出来ていて、少し透けている。冷気と一体化した魔力が彼の体から出る水蒸気を凍らせて、白いオーラを纏わせている。



「いじめたりなんてしないよ……と、というか! さ、寒すぎて死にそうなんだけど、ど、どうすればいい?」


「あ! ご、ごめんでし、ちょっと部屋の温度を上げ……待つでし……ボクが温度を上げて、キミが自由に動けるようになったら、本性を表して、ボクをどうにかこうにかしちゃうつもりじゃないんでしか!? そそそ、そうに決まってるでし~~!! いやぁ~! もうダメでし~~! ボクの所にお客さんなんて来るわけないから、絶対そうなんでし~~!!」



 こ、こいつ……面倒な性格をしているっ!? 全てを悪い方悪い方に考えてしまうネガティブな人種なんだ……


でも俺に謝って、最初は温度を上げようとしてくれたのを見るに、ナンデシュが言っていた通り、悪いヤツ“ではない”らしい。悪いやつではないが……一筋縄ではいかない、一曲ある人物のようだ。



「お、俺は、あんたが、元魔神族の邪神で、邪神なのにいい奴だって聞いて、それで気になって、会って話をしてみたくなって、ここに来たんだ」


「え!? いやいやいや、そんなのありえないでしよ~。だーって、邪神でいいヤツだーって言っても、そんな事で会いに来るヤツなんて、どう考えたって変人、この世界に殆ど存在しないはずでし。だからボクに会いに来る確率は低いでし! よって、キミは嘘をついてるでし! やっぱりボクを、ボクを! どうにかこうにかしてしまうつもりなんでしね~……!? あ、あわわわわ!」



 死ぬ……これ以上、こいつのペースに合わせてバカ正直に対応してたら俺は凍死してしまう。



「うう、嘘じゃない。証明するから、ま、魔力交換をしよう……! 魔族は魔力が金と同じで、魔力で支払う。その時気持ちも伝わる。だからそれで分かる。俺が嘘をついてるかどうか!」



 俺は寒さで凍え、震える手をカラーテルへと伸ばす。魔力をカラーテルに向かって送る。自分は嘘をついていない、あなたに会いに来たんだと、一心不乱に念じた。



「お……ほ、ほほほ本当のこと言ってたんでしか!? そんな馬鹿なでし! 変人がお客さんでぇ~ってえ!? 人間!? 人間なんて初めて会ったんでし!! 感激でし──」


「は、はやく、部屋の温度を……このままじゃ、し、しぬ……」


「あぎゃああー!? まずいでし! このままじゃお客さんを殺してしまうでし! えっと、温度を快適にしなきゃでし」



 部屋の温度を下げてくれるのか、と俺が安堵したのも束の間。



「ぎゃあああああああ!? もっと寒くなって、し、しししぬぅっ、温度を下げるんじゃなくて上げるんだよバカーーー!! 温かくしてくれよーーー!!」


「ごごご、ごめんなさいでし~~!! ボクは寒い方が快適だから間違えちゃったでし……」



 部屋? の温度が上がった、え? ちょっと待て、温度急に上がりすぎじゃ……あれ……? 温度が急激に変化するのってよくないんじゃ……確かヒートショックとかい──


そこで──


──俺の意識は途切れた。





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