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多解釈と残酷



「へぇ~アルピネスも殆ど人間と交流がないのか。同じ人間なのに不思議だな」


「魔族からすると理解できないだろうけど、人間は人間のグループ同士で争うのが珍しくないんだ。魔族領では個人的な諍いはあっても、部族間の対立にはしないだろ? 人間は弱いから力を纏めて強くあろうとする。でも自分を超えた力が、自分達を傲慢にしてるんだ。アルピウス村でもラミアやナーガ達が持ち込んでくれた歴史書が読めたから、そういったいくつかの事例を知ってる」



 人間の事を知らないリザードマン達は俺の持つ知識に興味津々で、リザードマンのクリスタル族の里に滞在している間、俺は常に質問攻めだった。特にナンデシュは好奇心旺盛で、ずっと俺に張り付いている。ナンデシュの彼女から嫉妬の目で見られる程に。



「例えば王の臣下だった者が地方で力をつけて、自分が王に成り代わろうと反逆するなんてよくあることだ。俺の住んでた近くの小世界だとナスラム帝国でそういうことが最近あったらしい。反逆者はあっさり返り討ちにあったみたいだけどね」


「え~? 人間達はそんなんで、どうやって秩序を保ってんだよ?」


「人間の世界じゃ基本的にはその地の神が秩序の中心なんだよ。国を治める者が変わろうとその地の神が変わることはないから、人々は人間の支配者ではなく、神を秩序の中心にする。こうすることである一定の秩序を保ち続けてるんだよ。逆に魔族領だと神はどういった扱いなんだ?」


「神が大事な存在なのは変わらないけど、魔族領では神と人は助け合う存在って認識が強い。長生きしてる仲の良い親戚みたいな感じだ。前に血は三種類あるって言っただろ? 実はあれの魂の血の力が強い者が神なんだ。だから肉体を持っていたとしても、魂の力が強ければそれは神となる。魂の力が強くなれば、人は神となることもできる。だから実際、魔族領には元魔族の神がわんさかいる。魂の力を高め、神へと至った者達だ」



 これは興味深いことを聞いた。魔族達は俺が思っていたよりも遥かに現実的で、実践的な哲学を持っていた。自分達が住む環境に、魔族から神へと至った手本が身近にいるなら、魔族領の人々にとって精神性、魂の力を高めることは現実的な恩恵のある事なんだ。



「なるほどなぁ、実際親戚が神になることもあるわけだ。そりゃあ神と人の距離も近くなるか、それこそ親戚のおじさんおばさんぐらいに。でも元魔族の神は、普通の神と比較して違いはないのか? 人間が神になったら調子にノリそうなもんだけど、魔族は問題ないのか?」


「むしろ元は魔族だった神の方がまともなのが多い。人が神に至る為に魂の力を高める時、必然的に高い精神性が求められるからな。基本的に精神修行の過程で邪心は削ぎ落とされる。問題のあるヤバイ奴は神にはなれないってこった。生まれから神の奴は自由奔放で、オレらからすれば常識のないものが多い。よくも悪くも純粋で、極端なんだよ」


「へぇ~うまくできてんだなぁ。例外はあったりしないのか? 邪悪な心を持ったまま神になったりできないの?」


「いないわけじゃねぇが、オレ達は邪悪な神は邪神と呼んで別の存在として扱ってる。奴らは己の邪悪な精神性が極まった結果邪神になった。ほら、爺様が言ってたシャドウピクシー、あれが極まった存在だと思えばいい。だが邪神が生まれるのは稀だ、邪悪な奴らは不真面目で、修行が嫌いな奴が多いからな。ま、邪神つっても悪いやつばかりじゃないんだけどな」


「え!? そうなの!? 悪くない邪神がいるの!? それはなんとも、興味深いな。トールフォレストにはいないの? 悪くない邪神」



 俺がナンデシュに聞くと、ナンデシュはしばしの逡巡を経て口を開く。



「トールフォレストにはいねぇが、トールフォレストから続く小世界のシャドウバレーにはいる。あそこに元魔神族の氷の魔神カラーテル=デスロッドという奴がいる。悪いやつじゃないつっても面倒な奴だし、シャドウバレーは人間にとって特に危険な魔神族とシャドウピクシーがいる。行くのはオススメしない。というか行くな」


「え~? でも気になるな~! だって、そんな土地、絶対特殊な文化や遺跡、歴史があるに決まってる。というかさ、魔神族って元から神じゃないの?」


「魔神族は魔族と神の混血で、神に至るには魂の力が足りないやつらだ。ただ他の種族より生まれた時の能力が高いから、一番神になるのが簡単な種族だと言われているんだよ。というか、神になる魔族を沢山輩出したから魔神族と呼ばれるようになったんだ」


「なるほどなぁ~つまり元から神に近い存在で、神になるにも修行があまり必要ないと。じゃあ一般的な魔族が神に至るよりも、精神性が低いまま神になりやすいってこと?」


「ああ、その認識で正しいな。まぁ能力が高いから、邪悪な心を育めば簡単に邪神にもなる。はぁ……お前、シャンカール、その顔やめろよ。ワクワクしてんじゃないよ、オレは止めたからな? 何かあっても、オレのせいにするんじゃないぞ?」



 どうやらナンデシュにはバレたらしい。俺がシャドウバレーの邪神、氷の魔神に会いに行くと決めた事が。俺は長老から長話を最期まで聞いたお礼としてもらった魔族領の地図を広げ、指を地図の魔族文字に触れさせた。


魔族文字は魔力が込められた文字で、魔力に込められた意味を読み取ることで理解する特殊な文字だ。魔族によって使う見かけの文字は異なるが、見かけにはなんの意味もない。これは魔族文字だけでなく、魔族語自体がそうだ。


魔族の使う言語の全ては、込められた魔力に意味がある。魔族語ならば発音する音自体に意味はなく、音に乗せた、込められた魔力に意味がある。文字も見かけの形や記述法には大した意味がない、せいぜい書かれた文字で記された言葉の意味の分類ができる程度だ。それが生活に関わるものか戦いに関わるものかとか、地域の説明とか、そういったことが大雑把に分かるぐらい。


 俺はこの魔族の特殊な言語を、ある種のテレパシー的な言語と理解している。魔力に意味を乗せ、その魔力を何かに混ぜて伝えるという仕組みは、極めれば純粋な魔力のみでの会話を可能とするだろう。そうなれば完全にテレパシーの領域だ。


人間達にも念話の魔術や、魔力通信の技術が存在するが、これは言葉を伝えるだけのもので、意味をダイレクトに伝えるものじゃない。テレパシーのレベルではない、俺の前世でいう電話のようなものでしかない。


もちろん、意味が直接伝わらないからこそ解釈の余地が存在し、解釈によって意味が変わるという面白さはあるが、この面白みは人々に誤解やすれ違いを与えた。そんな勘違いが無用な争い、疑心の余地を生む。



 俺は実際に魔族語でリザードマン達と話して確信した。残酷なことだが、人間が尊んだ言語の面白み、解釈の余地は、人を苦しめるものだと。


様々な解釈を持つことができなくとも、魔族には多様性がある。解釈に種類がなくとも、個々人の考え方はそれぞれの数だけ存在するからだ。様々な解釈を考えることで違った視点を得るというのは、何も通常の言語の専売特許ではない。


魔族の言葉は、人々の一人一人異なる視点をすれ違いなく伝える。そして、正しく意味を理解する魔族の言葉は、他の視点を共有し、新たな視点を生み出す。このサイクルが、人間の扱う言語よりも優れている。



「ナンデシュのせいなんかにしないさ! 俺は知りたいことがいっぱいある。その為に生きてる。危険だというのなら、覚悟を持って突き進むだけだよ。それにヤバイと思ったら逃げるつもりだからさ」



 俺はリザードマン達に別れの挨拶をして、トールフォレストを旅立った。リザードマンの里のある皿のような高木の天辺からは、目的地へと続く魔球境が見えるから迷う要素がない。


高木の皿は他の皿と繋がっていて、移動も楽だった。俺は高木の梢から梢からへと跳ねて飛んで、そのまま魔球境へと飛び込んだ──シャドウバレーに続く道へ。





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