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憎しみを忘れた掟



「違う違う、魔力を蹴る瞬間だけじゃなく、高木に接触するタイミングから込めるんだよ」


「こ、こうか? お、おお! さっきよりうまくいってるか!?」



 ナンデシュに置いてきぼりにされかけた俺だが、ナンデシュの方もコレに気づいて戻ってきてくれた。それからそのまま高木登りのレクチャーを受けている。


レクチャーを受けもう一度高木登りにトライしてみると、意外とあっさり習得できた。ナンデシュ程のスピードは出ないが、登れはする。高木を蹴って別の高木へ飛ぶように徐々に上へ上へと。



「そうそう、中々センスあるなシャンカール。身体操作での魔力運用は人でも魔族でも関係ねぇからな。お、ほら見えてきただろ? あれが里だ」



 ナンデシュが高木を登りながら上方を指さした。ナンデシュが指差すその先には皿のように平べったく広がる高木の枝葉があった。高木の梢にはクリスタルがあり、クリスタルが陽光を吸って、時々例のレーザー反射光を照射している。



「よ、っほ! ついた! す、凄いな! まるで別世界だ。こんなに見晴らしのいい場所見たことない。小世界の果てまで見えるじゃないか!」



 俺とナンデシュは高木を登り切り、高木の“皿”の上に立った。皿の上には高木の細かい木々の枝や魔物の皮を建材とした集落がぎっしりと敷き詰められている。



「高木の枝を曲げて内側に魔物の皮を貼り付けてる……枝葉は死んでいない、生きたまま活用してるのか」


「お~いみんな~! 今からオレの認めた戦士を紹介するから集まってくれ~!」



 ナンデシュが大声で叫ぶと、声は集落全体に響き渡る。リザードマンが得意とするハウリングの魔法だ。伝えたい相手だけに声を広範囲で伝える魔法で、戦闘でも日常生活でも便利な魔法だ。


戦闘なら敵のみを対象に声を収束させて伝えることで敵の聴力を奪ったり、味方にのみ伝わる形で話すことで連携したりできる。日常生活なら電話のような形で使うことができる。



「おおナンデシュ! 話は聞いてたから準備しといたぞ」



 長老らしきリザードマンを先頭に沢山のリザードマン達が集まってきた。見た感じ、リザードマンは女より男の方が多いようだ。女のリザードマンは男のリザードマンよりも少し大きく、鱗の一部が宝石のように光っていて、細長い尻尾が生えている。



「ああ、そうか。ハウリングを使ってすでに話してたのか!」


「ああ、シャンと喧嘩するって決まった段階で実は話をしておいたんだ。オレはデュアルボイスの魔法も使えるからな。魔法の口と合わせて2つの口で話せる」


「す、すげぇ~人間達がリザードマンに勝てないわけだよ。元の身体能力だって高いのに、情報面でも連携面でも上を行き、それに魔法も使えるんじゃな」


「よしみんな! 聞いてくれ、こいつはシャンカール。アルピネス族の世にも珍しい男にして、オレに喧嘩で勝った戦士だ。オレはシャンカールを友として、里での滞在を認めたいと思ってる。みんなはどう思う?」


「若が認めたんならだーれも文句はいいませんよ。アルピネスと話せる機会なんて殆どないし、こんなに若い子を追い出したんじゃリザードマンの器が狭いって言われちゃうでしょう?」



 一人の女のリザードマンがそう言うと、周りのリザードマン達は頷いて同意した。



「コルシェ、ありがとう。流石はオレの嫁だな!」


「まだ式を行ってないから婚約者です。調子に乗らないで」



 コルシェはツンとしながらも顔は赤く、照れ隠しで尻尾をぶんぶんと振り回している。ちょいちょい隣にいる長老のリザードマンに尻尾がパシパシと当たって、長老は苦笑いしている。



「お~! ナンデシュの婚約者なんだ。それより若っていうのは? ナンデシュは里で偉かったりするの?」


「ほら、あそこの如何にもな長老リザードマンがいるだろ? オレの爺ちゃんだ。爺ちゃんがクリスタル族の長老で、親父はトールフォレスト警備隊の隊長だ。いずれオレは親父や爺ちゃんの跡を継ぐことになるから若なのさ。でもまだただの一警備隊員だから全然偉くはないぞ」


「そうそう、こやつは全然偉くないぞ。最近調子に乗って訓練をサボっておったこの馬鹿に謙虚さを教えた、若きアルピネスには感謝じゃ」


「いや~感謝されることじゃ。でもビックリですね、リザードマンが俺をこんな風に受け入れてくれるとは思ってなかったから」



 リザードマンは友好部族以外の人間は見つけ次第殺すらしいし、ナンデシュは気性の荒いリザードマンは危ないとか言ってたから、こんな歓迎ムードなリザードマン達には違和感しかない。



「まぁそもそも、わしらリザードマンは1000年は人間に会ったこともないからのう。掟として非友好部族の人間を殺すというのがあっても、そこに感情は追いつかんし、人間への憎しみなど、リザードマンは遠に忘れたよ」


「せ、1000年も人間が来てないのか!?」


「そりゃそうじゃろ。人間が魔族領に入るにしたって普通は人間にいくらか友好的なラミアやナーガの住むウッドバースから入るのが常識。わざわざ危険とされる所に行く馬鹿はそうそうおらん、ましてやここに繋がる魔球境を守護してるのはアルピネスじゃからな。アルピネスの守護を潜り抜けて危険地帯へ行くのは、人間からすれば狂気の沙汰じゃ。まぁみんながお前さんを歓迎しとるのは単純にナンデシュが認めた戦士だからじゃよ」



 確かに言われてみれば長老の言う通りだ。そもそもほぼ全ての魔球境はアルピネスが守護してて、人間の行き来は制限されている。アルピネス以外で魔族領に入ることがあるのはラミアやナーガが認めた人間だけで、その認められた人間だって殆どいないって話だ。



「どちらかと言うとウッドバース方面の方が人間嫌いな魔族は多いんじゃないかの。関わりがあった方が嫌な部分が見えるもんじゃし、ウッドバース方面は長命種族が多いから、やつら昔の事をいつまでも根に持つからのう」



 そういやラミアのネルタタも村長を子供扱いしてたし、彼女も長命種だったな。そうか……寿命が長いから、人間との嫌な記憶もずっと残る……か。



「じゃあ人間嫌いの多い魔種族って例えば、どの種族が多いの?」


「まぁ嫌いっていうより見下すという感じになるが、筆頭はサキュバスじゃろ。サキュバスは人間をエサとしか思っておらん。他だと魔神族とダークエルフ、鳥人族とシャドウピクシー族あたりが人間嫌いかのう。はは全部長命種じゃな! この中だと特にサキュバス族と魔神族、シャドウピクシーが危険かのう。というかシャドウピクシーに関しては人間でなくとも危険じゃ、あいつら根性が腐っとるんじゃ」



 シャドウピクシーの事を語る長老の顔は真っ赤で、怒りに震えている。一体過去に何が……



「シャンカール、爺様に聞くなよ? 聞くと長いからな」


「え? で、でもそんな事言われたら気になっちゃうよ」


「お、おい馬鹿! そんなこと言ったら!」


「何!? 気になるじゃと? いいじゃろう、じゃあわしの家でゆっくり話そうか。シャドウピクシーが如何にゴミかはいくらでも話せるぞい」



 俺は長老に肩組されて、長老の家へと連れ去られた。そして、俺はナンデシュの忠告を聞いておけばよかったと後悔した。


その日は一日中シャドウピクシーの悪口を長老から聞かされた。どれも似たような話で飽き飽きするが、要約するとシャドウピクシーは人をからかって遊ぶのを生きがいにしているらしい。


からかって遊ぶと言ってもそれはシャドウピクシー視点であり、他の種族からすれば、それはからかうの範疇を超えている。長老は若い頃にシャドウピクシーの仕掛けた魔法の落とし穴にハマり、3日間そこから出られず死にかけたらしい。


しかも、これは長老が結婚する前日に起きたことで、シャドウピクシーは長老が結婚すると聞いて、計画したらしい。これにブチギレた若き日の長老はシャドウピクシーを殺そうとシャドウピクシーの里を攻めたらしいのだが、そこでまた魔法の落とし穴にハマった。シャドウピクシーは長老が怒って復讐しに来るのを分かっていたので、予め準備しておいたのだ。しかもシャドウピクシーはまた同じ罠にハマった長老を口汚く罵倒し、長老のいる落とし穴の中に魔物の糞を大量に入れた。最悪だ……


 と、こんな感じのエピソードを長老から沢山聞かされた。シャドウピクシーに関わってはいけないというのは、最初に聞いた落とし穴の話で分かりきっていたので、俺は内心辟易した。しかし、そんな俺の気持ちなど知らないとばかりに長老の口は止まらず、長い長い時を掛けてやっと長老の口は止まった。その頃、時はすでに深夜で俺はすっかり意気消沈だったが、反対に長老はスッキリとした面持ちで、話すだけ話して、話し終わると速攻で寝た。


翌朝、起床すると俺は長老から里の者達に紹介された。見どころのある、心の強い若者だと。どうやら俺は長老から滅茶苦茶気に入られたらしい。長老の長話を最期まで大人しく聞くものは殆どいないらしく、長老以外からも称賛の声があがった。称賛というか、最早尊敬の眼差しだったな。


俺は長老の長話を聞く時、同時にもてなしを受けていたので、逃げづらかったという実態がある。一宿一飯の恩義というヤツだ。


魔族領で過ごした最初の一日は、俺が想像していたものとはまるで違った。しかし、これは俺の運がよかっただけだと、俺は思い知ることになる。





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