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リザードマンの森



 魔球境を抜けた先にあったのはそびえ立つ高木の森の小世界だった。本来であれば背の高い木々によって日は遮られるはずだが、日の光は地上部までしっかりと届いている。


高木にはミラースライムという、名の通り鏡のような見た目のスライムが纏わりついており、このミラースライムが光を反射して地上まで光を届けているようだった。



「それにしても高いな、木のてっぺんが見えないなんて……樹齢何年ありゃこんな大きく……」



 ミラースライムが反射する光は二種類あり、一つは広く拡散させるように反射した光、そしてもう一つがまるでレーザーのように収束反射された光だ。


拡散された反射光は地上の植物達に光を与え、地上の植物を育んでいて、レーザー反射光の方はというと、ところどころ地面に落ちているクリスタルに照射されているようだった。クリスタルは受けた光を吸収し、どこかへと光を溜めている。



 俺はそんな観察や考え事をしながら歩みを進める。そんな時だった──



 ──ザルザザザザー、ダッ、ダッ、ダッ! ストン。



「なんだ……お前……人間? 人間の子供だよな、でもアルピネスか? いやでも男……」



 高木を蹴りながら減速して地上に降りてきたのはリザードマンの青年だった。リザードマンは蜥蜴リザードと言うものの、実際にはトカゲではない。


見た目は硬い鱗のような角質で出来た甲殻を持つ人間のような感じで、爬虫類というより明らかに人間的、哺乳類的な見た目だ。


 しかし、このリザードマンも魔族、魔の一種族であり、人間と異なり魔法を扱える。と言ってもリザードマンは魔族の中では魔法が不得手な方で、高い身体能力が強みの種族だ。



「よ、よかった~ちゃんと意味が分かる。魔族語を教えてくれたネルタタ達に感謝だな。俺はアルピネスの男だよ。アルピネスにも時々男が生まれるんだ。俺はシャンカール、君の名前は?」


「お!? お前人間なのに魔族語が話せるのか! 人間が話したら意味がなくなるはずだが、中々に見どころのあるヤツだ。オレはナンデシュ、リザードマンのクリスタル族だ。人間が来てびっくりだけど、アルピネスなら問題はなさそうか。それでシャンカール、お前はどうしてトールフォレストに来たんだ?」


「魔族領の最果てにあるオールランドに行きたいから、トールフォレストを抜けてこうと思って来たんだよ」


「えっ!? 人間のお前がオールランドに!? 流石に無理じゃないか? オレらはともかく奥地のやつらはアルピネスをよく知らないぞ? 他の人間達と同じ扱いを受けることになる。魔族に人間がよく思われてないのは知ってるだろ?」



 ネルタタ達の住む小世界はウッドバース、俺がやってきたトールフォレストとは別の方向にあり、ウッドバース経由でオールドランドに行くとかなり遠回りになる。だから俺はトールフォレストに来た。


トールフォレストの事は殆ど知らなかった、知っているのはリザードマンが支配する地域だってことぐらいで、初見も初見だった。


 おそらくネルタタは俺がウッドバース経由でオールドランドに行くと思っていただろうが、俺は行ったことのないトールフォレストに興味があるというのもあって、トールフォレスト経由ルートを選んだ。



「知ってるよ。でも俺はオールランドに行く! アーレンストラに会うんだ。アーレンストラに会って、全ての言葉の加護を得るのが俺の目的だから」


「おいおい……シャンカール……お前は人間なうえに、まだガキなんだぞ? お前は現実を分かってない。知らないのか? リザードマンは領域内で友好部族以外の人間がいたら、見つけ次第殺す。人間にリザードマンが危険で、関わるべきでないと知らしめる為だ。お前はウッドバースに行くべきだった。こっちはウッドバースの奴らと違って人間に慣れてない。血の気の多いヤツに見つかれば殺されたっておかしくないんだ」


「じゃあナンデシュ、あんたが俺を仲間達に紹介してくれよ。そうすれば非友好部族と間違われて殺されることもない」


「なっ、ははは、呆れたガキだぜこいつは。どうやらお前は中途半端にリザードマンのことを知ってるみたいだな」



 ナンデシュが言った中途半端に知っているというのは、俺が仲間に紹介してくれと言ったことだ。


リザードマンでは仲間に紹介するという行為は、単なる紹介ではなく、その者を戦士として、力と心を認めたという意味になる。



「──俺も一応戦士だからな、リザードマンは力のない者を認めない。なら力を示すまでだ」


「いいだろうバカガキ、その喧嘩、買ってやる。武器なし、魔法なし、気絶か降参で勝敗を決める。そんじゃあ、教育してやるか!」



 ナンデシュが地面に落ちているクリスタルに魔力を送り、魔法を使う。クリスタルから黄色い光が放出され、光が他のクリスタルやミラースライムと繋がると、俺達を囲む檻となった。


光は固形化し、触れると固く焼けるように熱かった。



「なるほど、光を固くする魔法か、クリスタルは光の檻を作る為、警備の為だったか。ってことはクリスタル族は、トールフォレストを守護する戦士の一族か!」


「いまさら分かっても遅い遅い! 戦いはもう始まった! 加減はしてやるよ!」



 ナンデシュが地を蹴り、ナンデシュの後方に勢いよく土が飛んだ。飛んだ土が光の檻に当たって焼けるのと同時に、ナンデシュの拳が俺の眼前へと伸びる。


俺はそれをギリギリでしゃがんで躱し、カウンターのアッパーをナンデシュの顎に入れる。



「──ぐがッ!? て、てめぇ、生意気な。顎の鱗がなけりゃ気絶してたな」


「手加減必要ないと思うけどな。ナンデシュ、お前はどう思う?」


「カーッ、言うじゃねぇか! いいぜ、お望み通り、もう手加減はしねぇよ!」



 ナンデシュの動きが変わった。一段階どころじゃない、二段階は動きのキレが良くなった。緩急を駆使したフェイントを織り交ぜながら、拳の猛連打を俺へと叩き込もうとしてくる。


俺はその全てを避ける。避けられるが、反撃する余裕がない。ナンデシュは魔法も武器も使っていないのにこれだ、もしそのどちらかが使用可能であれば、俺は一瞬でやられていただろう。



「……っく、なんつーガキだ。オレはこれでもクリスタル族の次期主力だってのに、まるで攻撃が当たる気がしねぇ」


「困ったな……どうやったら勝てる攻撃ができるのか、まるで思いつかないぞ……」



 ナンデシュの攻撃は俺に当たることはないが、俺は俺でナンデシュに勝つだけの攻撃力を持ち合わせていないし、そもそも攻撃する余裕がない。


気づけば膠着状態で数十分が過ぎた。



「ぜぇ……はぁ……っく、もっと、体力の訓練、真面目にやれば、よかった……」



 ──バタリ、ナンデシュが倒れた。攻撃を避ける俺より、攻撃するナンデシュの方が大幅に体力を消費したようで、ナンデシュは体力の限界を迎えた。


攻撃のペースを抑えればいいと思うのだが、多分ナンデシュはそれが嫌だったのだろう。手加減はしないと言ったが、ガキ相手に自分のペースを合わせるのはプライドが許さなかったのだろうか?



「……はぁ、お前の勝ちだシャンカール。攻撃の方はまだまだだが、努力は認める。お前、攻撃の回避と同時に、オレの関節に打撃を入れていたな? あれは上手かった」


「で、でも全然効かなかったしなぁ……」



 自分から攻撃する余裕がなかったので、俺は回避と同時に攻撃をしていたわけだが、これはカウンターと言えるようなレベルのものではなく、回避のついでにやっているという感じだ。相手の攻撃の力を利用しようとすれば回避が間に合わなくなってしまうので、自分の回避行動の力を利用して打撃を入れた。



「効かなかったのはオレがリザードマンで、お前にはない鱗が守ってくれたからだ。鱗がなければお前の攻撃はオレに届いていた。リザードマンの鱗は攻撃を弾くだけじゃなく、衝撃を吸収する能力もある。仮に技の精度がこのままでも、あと少し、お前が肉体的に成長していたら、オレの鱗は割れてる。成長期だったら、1年後にはそうなるか」


「え!? そうなの!? リザードマンの鱗ってそうそう割れないって聞いたけど……」



 ナンデシュが気だるそうに立ち上がり、やれやれといった感じで口を開く。



「はぁ……シャンカール、お前自分じゃ気づいてねぇんだな。お前らアルピネスは馬鹿力で、オーガの魔血まけつが混じってる。オーガの魔力を受けた骨は馬鹿みたいに硬いだけじゃなく、破壊力を生み出すバネで、力を増幅させんだよ。だからお前が思ってるよりも実際の威力はずっと高い。そうだな、おそらくお前が思ってる三倍は威力がある」


「ま、マジかよ……そうだナンデシュ! 魔血って何!?」


「知らねぇの? 血は三種類あんだよ。肉の血、魔力の血、魂の血だ。肉はそのまま肉体を作る血、魔力の血も、魂の血も、そのままの意味だ。それぞれの血が子に受け継がれるのが世の理。魂の血から魔力の血、魔力の血から肉の血へと力と影響は降りてくる。逆はない。魔族とは、魔力の血、魔血によって子孫を残す存在。だから犬と鳥ぐらい違う魔種族同士でも子を成せる」


「じゃあ違う種族で子供が出来る時って、魂と魔力の血だけが引き継がれるとして、肉体の血は引き継がれないんだろ? え? 待って、肉体の血がなくても生まれてこられるの!?」


「そりゃそうだろ。肉体より魔力の方が上位の存在だし、肉体の持つ情報なんて魔力に比べればないようなもんだ。魔力の血から、肉の血は生み出せる。親の種族が違う場合、どっちかの種族の体を魔力の血の中から選んで生まれて来るんだよ。だけど人間の体は魔力適正が低くて、魔法が使えないうえに、ゴブリン以外の魔族と人間が交わっても、生まれてくるのは人間になる」


「人間しか生まれないの? 不思議だなぁ……生まれてくるのは人間なのに、他の種族の力の一部を引き継ぐんだものなぁ」


「別に言うほど不思議でもねぇぜ。例えばアルピネスならアルピネス族全体での魔血があって、その魔血の中にはいろんな種族の魔血が入ってると思えばいい。そしてアルピネスの魔血の中に、人間として生まれてくるっていう仕組みが、呪いが入ってるんだよ。人間の子が人間しか生まれてこないのは、人間の魔血が呪われてるからだ」


「体は人間だけど、魔力はそうでもなくて、でも人間の体は魔法適性が低いから……力を発揮しきれないってことか? まるで封印されてるみたいだ。魔族から見れば、人間は不完全な存在に思えるだろうなぁ」


「まぁ魔族が人間を嫌うのはそれが大きいな。さてと、負けたことだし、お前を仲間に紹介してやる」


「お、マジ!? ありがとうナンデシュ! よろしく頼むよ!」



 妙に知識があるナンデシュに対し、疑問がないわけではなかったが、とりあえずそれは横に置き、俺はナンデシュに、リザードマンの仲間達に紹介してもらえることになった。



「よし、じゃあついてこい! 集落に案内してやる」



 ナンデシュが高木にあるちょっとした凹凸を蹴って猛スピードで高木を登っていく。



「え……? ちょ、俺、そんな動きできないんですけどー!?」



 リザードマンの集落って、高木の上にあんのかよ……通りで地上は静かなわけだ。


俺はナンデシュの動きを真似て木登り? をするがまるでうまくいかない。普通に失敗して落下してしまう。


どうやら、この小世界での一番の強敵は、この森の環境らしい。





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