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誕生と友達



 実を言うと、俺は生まれてすぐから自意識があった。上手く喋ることができなかったし、言葉も分からなかったから、意思の疎通はできなかったが。


そんな俺の状態を、俺の生まれた場所、アルピウス村の村長むらおさは分かっていたようで、生まれた俺の反応を見て、こう言っていた。



「この子は稀人だね。体だけじゃなく、魂も特殊なようさね。この子は……きっと、村から出ていってしまうだろうねぇ……貴重な男だから、残って欲しかったんだけどねぇ」



 当時は村長が何を話しているのか理解できなかったが、今ならば分かる。村長は、最初から俺がどう動くかを分かっていた。諦めていた。



「ほーらシャン、次はこっちのママのだよ~」



 アルピウス村は当時、俺の姉弟達の母親が沢山いた。そんな母親達に俺達姉弟は育てられていた。産んだ人が育てるって感じじゃなく、母親達を中心とした、村全体で赤ん坊や子供を育てる文化がアルピネスにはあって、俺達姉弟もご多分に漏れず、複数の母親の乳を飲んで育った。


 そうして俺達姉弟が三歳になる頃、子供達は男と女で別の扱いとなった。女の子供、俺の姉達は村の若い女達に育てられ、俺達男は村の年寄り、婆さん達に育てられるようになった。


そうなって始めて俺は理解した。この村の男は、俺と俺の目の前にいる二人を含めた三人しかいないことを。



「大人の男はいないの……?」


「っと、シャン、あんたもう喋れたんだねぇ。男はもう100年はいなかったのが、あんた達で久しぶりに生まれたんだよ。しかも三人も、こんなことはきっとアルピネスの歴史で始めてだよ。大体の男は、あたしらの血に勝てなくてね、男は生まれることができないんだ。100年に一人生まれれば良い方さね」


「ふ~ん、じゃあ村長、この村って男はどう生きるの?」


「そうだねぇ……男はアルピネスの女と比べると力が弱いからねぇ……戦士にはなれない、魔物との戦いはさせられない。アルピネスの男は成人したら子供を作るのが仕事だね。それ以外だと、祭器を作ったり、手入れをしたりぐらいかねぇ」



 俺は生まれてから見たアルピネス達の生活と村長の説明を聞いて察した。アルピネスの女はいつも鍛錬を行っており、まさに超人的な動きで戦うアルピネス達が勇猛な戦士であることは明白だったし、俺はこれを見て、ああここは間違いなく異世界、ファンタジーな世界なんだなだと理解した。


アルピネスは戦う女として特化した民族であり、その女戦士としての血は、男の血の力を弱めてしまう、俺はそう分析した。



 男が貴重だから戦いで失うべきでないというだけでなく、実際にアルピネスの女と比較して弱いから自然とそうなっているのだろう。


このアルピネス社会において男とは、子孫を残す為に飼われているような存在であり、男を手放すことはありえないだろうと、俺はこの時点で予測した。



「なにいってるの~? シャンにいちゃーん!」



 村長と話していた所でルンゼに話しかけられる。ルンゼは俺の姉弟の同年代の末弟、一番最期に生まれた。ルンゼは半年早く生まれた俺を兄として認識しているらしく、俺を見かけるといつも後を付いてくる。



「シャン、わかるように話せよ」



 ジト目で、痩せ気味な男児が俺に苦言を呈する。こいつはモルゲン、彼も俺より後に生まれたが、プライドが高いのかその事実を認めようとしない。だからいつも自分が兄で俺が弟だと言ってくる。


彼は見るからに身体能力が低かった。体の動きが全体的にぎこちなく、鈍い。だがその一方で知能はかなり高いようだった。


前世の記憶と意識を持って生まれた俺は、いわばズルをしているようなモノだが、モルゲンはそんな俺と普通に話すことができた。


勿論幼子であるため難解な言葉を理解するのに時間は掛かる。しかし、俺が詳しく丁寧に教えると必ず理解した。


モルゲンもルンゼと同じく、いつも俺と一緒にいた。モルゲンは姉達が怖いらしく、彼女達を避けていた。



「聞いたかシャン、ぼくらの姉達はもう戦士の修行を始めたらしいぞ。ぼく達も鍛えるべきじゃないのか? ぼくはこれ以上姉たちとの力の差ができてしまうのは怖い」


「モルゲン、自分の身体のことは分かってるのか? それでもやりたいってことか?」



 ──コクリ、モルゲンが頷いた。賢いモルゲンは自分が虚弱体質であることを理解していた。モルゲンは戦いには向いていない……正直な所、俺は彼が戦士の修行を行うことには反対だった。


けれど、無理だと決めるつけるのはよくないし、彼の覚悟を踏みにじるのは嫌だった。



「分かった。じゃあ俺もモルゲンと一緒に戦士の修行をするよ。モルゲンも一人で姉さん達の中に行くのは心細いだろうしな」


「こ、心細くなんかないぞ! ぼくは、心では負けないんだ!」


「モルゲンとシャンにいちゃんがやるならおいらもやる~!」



 俺とモルゲン、ルンゼはその日から戦士の修行を自主的に始めた。まだ3歳なのに、モルゲンは向上心が凄いなと思いながら、俺達は姉達のいる修行場へと向かった。



「おい、なんで男がこんなとこきてんだ? 男は弱いから戦士になれないんだぞ!」


「ゲッ、ケルン……よ、弱いから強くなりたいんだよ!」



 モルゲンがビビりながら、生意気そうな女児に言い返す。このケルンという名の生意気そうな女児は、俺達とは同世代ではなく、二つ上の種違いの姉だ。腹違いかどうかまでは分からないが、父親が違うことだけは確定している。



「魔物と戦わないにしても、逃げるぐらいはできるようになった方がいいだろ?」


「しゃ、シャン……まぁ、お前がそう言うなら」



 ケルンは俺の顔を見ると目を背け、大人しくなった。何故かは分からないが、ケルンは俺に甘い。



「やれやれ、しょうがない子達だね。じゃあ軽いのから教えるから、あんた達はこっちの方に来な」



 アルピネスの子供達の師範が俺達を受け入れ、軽い修行をすることを許された。俺がそれを見て思ったのは、やはりアルピネスは同族の男に慣れていない、ということだった。


同族の男があまりに珍しいためにどう接するのが正しいのかが分かっていない。俺が同じ立場なら、男が修行をする事など絶対に許さないが、彼女達はあっさりこれを許した。


想定が甘いのか、それとも決め事を作るにもサンプルが少なすぎるのか、アルピネスにとっての最低限の掟以外はあやふやだった。


 アルピネスの同族の男に対する最低限の掟。


掟一、男が成人するまでは決して手を出してはならない。


掟二、男に危害を加えてはならない。


掟三、男が村の外に出る時は必ず二人以上の戦士をつけること。


掟四、男は他国、別の小世界に行ってはならない。



 これらの掟が絶対であり、それ以外は緩かった。この掟二の危害を加えてはならないというのも、本来であれば危険を伴う戦士の修行など許してはいけないはずだが……


アルピネスは皆、戦士の血族である為に、戦士としての修行をするのは当たり前、だから修行が危険だという認識が希薄なのだろう。


 前世知識と意識を持つズル賢い俺は、この事実を発見して思わずニヤけた。これは使える、うまくやれば、なんとか言いくるめてアルピウス村から出て、広い世界に出ていけるのかもと思ったからだ。


 ともあれ、俺達は3歳から9歳までの間を、修行して、遊んでで過ごした。俺とルンゼは体が恵まれていたらしく、同年代の姉達と互角以上に渡り合えるまでに成長した。モルゲンの方はやはり虚弱体質ゆえに、あまり強くはなれなかった。


だけどモルゲンはこの事で落ち込むことはなかった。俺が同じ立場だったら、きっと自分よりも強くなっていく兄弟を羨み、嫉妬していたことだろう。けれどモルゲンにそんな様子はなかった。


モルゲンはプライドが高いが、他者のことを認める心の強さを持っていた。もしかすると、少しの嫉妬はあったのかもしれない。だけど、心だけは強く、負けない為に、己を律したのかもしれない。



「モルゲン……お前は、俺や姉達を羨むことはないのか? こんなこと、本当は本人に聞くべきじゃないのかもだけど……」



 ある時、俺はモルゲンに心中を聞いた。モルゲンから返ってきた言葉は──



「──凄いものは凄いんだよ。それがひっくり返ることはない。それが世の理であるなら、ぼく一人でどうこうできるものでもない。そこには喜びも苦しみもない。でもぼくは希望を持てた。お前がいたからなシャン」


「え? 俺が……?」


「お前は男なのに、同年代の殆どの女達より強い。ケルン以外には勝ったことがある。こんなのってさ、奇跡だろ! 誰も想像できなかったことだ! でもそれが、実際に起きている! これはぼくが想像もできない所に、希望があるってことなんだ。どうしようもないことだと思うほど、その外側には希望があるんだよ。そんな世界の仕組みを、お前はぼくに、教えてくれたんだよ。お前がいなかったら、ぼくはあんなキツイ修行、耐えられなかった」


「も、モルゲン……お前は、なんて凄いヤツなんだ……! こんな脳筋女戦士だらけの村で、哲学者になってしまうなんて。お前自体がもう、奇跡だろ!」



 俺はモルゲンの気持ちを聞いて、思わず泣いてしまった。だから、俺も一層強く、覚悟を決めた。


今生は、何があっても必ず夢を叶えると。



俺は絶対に考古学者になるんだと。





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