封印されし妹
──超次元領域、超次元空母ジュピトゥール司令室。
「通信……ディアからか。普段は連絡を寄越さない癖に……モイナガオンには手を出さないで。もう敵じゃないから……確かに、そう……なんだろうな」
ジーネットリブは司令室で一人、モイナガオンの状況を観察していた。ジャンダルーム達がジーネの放った機銃掃射を無力化してから、ずっと。
そんな司令室に二人、妹が転移してくる。
「ジーネには兄様の因果が分かるんでしょう? それで判断すればいいだけではありませんか?」
一人はエスフィアセレベラム。そしてもう一人──
「おにいは凄いや。あたしら以外で因果を覆した存在は、あの世界で数えるぐらいしかいないのにさ。なんだっけ、奇跡の魔法ってやつ? あれも凄いね~」
ティーガイヤ、情報収集と情報伝達を役割とする妹の一人。紫の髪、八重歯が特徴的な妹で、身軽というか、ボーイッシュな服装をしている。
「奇跡の魔法の影響力は認めるが、因果が変動し、モイナガオンから敵対の宿命が消えたのは奇跡の魔法によるものではない」
「え!? そうなの!? それって、全くの予想外のことが起きてたってこと? ちょっとヤバイんじゃないの~? それ」
ティーガイヤは目を大きく見開いた。虎の目のような黄色の瞳が、ジーネの説明を待っている。
「モイナガオンの持つ宿命は、兄様と出会ったことで確定したはずだった。モイナガオンはいずれ兄様を死に至らしめる可能性を持ったのだ。それを私が干渉することで、モイナガオンを因果ごと消し去ろうとした……機銃掃射の攻撃も確定していて、通常ならば覆すことは不可能だった。ディアの力を解放したとしても覆すことは無理だったはず。力を最大解放すれば、その余波でモイナガオンは滅亡してしまう。それでは本末転倒だからな」
「ですから、それを覆したのがあの世界の者達が言う奇跡の魔法なのでは? あれは感情エネルギーの収束による良性の現実改変現象です。因果を変える能力を持つでしょう?」
「──ならば、どうしてその奇跡とやらに兄様は辿り着けたのだ? 兄様が奇跡の魔法を使うにしても、その条件を整える因果は“存在しなかった”のだぞ? 奇跡を起こす力に辿り着くことができないはずだったのに、それが……できてしまった。これは……私達が観測できていない不確定要素、私達が認識していない何者かの干渉、その存在を疑わなければならない」
「なるほどね~……それでジーネはずっと悩んでたわけだね~!」
「ティーガイヤ、あなたの直感能力はどう判断してるんですか?」
「おそらく今のところは問題ないと思うな~。ジーネの言う何者かを、直感で探索してみたけど、おにいを助ける為に動いてるように感じた。あたしらの邪魔をすることはあるかもしれないけど、おにいに害はない」
ティーガイヤにはサイキックによる高い直感能力が備わっている。これは抽象的な概念から物理現象まで、全てに有効であり、なんとなくの認識さえあれば、大雑把に対象の方向性を知ることができる。
ディアの純粋化が現象の意思、目的をリセット、喪失化する力なら、ティーガイヤはそのモノが持つ目的、方向性を理解する力である。
対象をはっきりと認識できなくとも、その方向性が分かってしまう。霧の中に隠れた存在が何をしようとしているのか、まるで霧の中から意識の矢印が飛び出ているかのように認識できる。
「ティーガイヤがそう言うなら、そうなのだろうな……それより、二人はどうしてここに来た? 私の様子を見に来ただけじゃないだろ?」
「自分は新たに開発を始めたので、その報告です。オトマキアにある眷属や分身に、汚染なしで力を与えるシステムですね。魔神王勢力が活発化を始めて、眷属達のいくつかが敗走しているみたいなので、対策が必要になりました。今までも開発はしようとしていたのですが、難航してまして……ですがディアの活動開始によってヒントとなるデータが取れるようになりました。彼女の純粋化の力のプロセスを再現できれば、劣化版とはなりますが、眷属や分身の強化が可能となるでしょう」
「そうか、ディアの力の模範か……待て、これは別に通信で言えばよかったんじゃないか?」
「悩むあなたの顔を見に来た、というのが半分ですが。通信しようとしてティーガイヤに止められたんですよ」
エスフィアの言葉の意味、ジーネはその説明をティーガイヤに求めるように、彼女を見た。
「──封印妹の隔離艦獄がコントロールを失ったんだよね。ディアと同じおにいの意思を尊重する派閥、あそこのアルズリップが裏切った」
「は……? 裏切ったって、どういうことだ!? アルズリップはディアを裏切ったのか……? あいつらの仲は良好だったはずだ」
「それがどうも……本当らしいんだな~。アルズリップは情報錯乱や工作を役割とする妹だからね……あたしの直感も掻い潜っちゃう。実はすでに通信もアルズリップに妨害されてる。アルズリップや反乱に関する通信は、自動的に変換されて伝わる。アルズリップは通信を一方的に傍受して、こちらには誤情報だけを取得させることができる……だからあたしは真っ先にエスフィアが通信しようとするのを止めたってわけ」
「クソ……よりによって一番面倒なヤツが……ディアと……私達を裏切って封印妹に与するとは……だがどうしてだ……理由がわからん」
「アルズリップの反乱を目撃した妹と実際に話したけど、アルズリップはなんかマジギレしてたみたいだよ。裏切り者のディアを殺してやるって言ってたって」
「ディアと何かあった、のは間違いなさそうだな……はぁ……馬鹿なのか? ディアと真正面から戦って勝てないからと、封印妹を解放するとは……」
「よしよし、ジーネの苦労は自分にもよーくわかりますよ~。自分も手伝いますから、そう落ち込まないでください」
エスフィアはジーネの頭を撫でる。普段ならその手を跳ね除けるジーネも、今はその元気がない。
──封印妹、それは危険な思想を持つ為に隔離、封印せざるを得なかった妹達。伊豆宮ミヤコの闇。伊豆宮ミヤコの持つ悪性が強く反映された存在。
彼女達は過酷な妹達の旅を成し遂げる為に作られた10人の妹、通称ランエデンが生まれる時、同じ数生まれた。
ランエデンが高い能力を得る為には、能力の純粋化と集中が必要だった。しかしその純粋化と集中は、同時に悪性の要素を持った妹を反作用的に生み出した。
ランエデンの絞り滓と言える彼女達は封印妹──ヘルデザイアと呼ばれた。
「にぃに……にぃにが悪いんだからね……にぃにがウチを悪い子にさせたんだから……!」
ピンクの髪色の妹、そしてその背後には10人の妹。彼女達は、オトマキアの大地に立っていた。
彼女達は世界の汚染を気にもとめない。破壊さえしなければいいと考えている。妹達はすでに世界を汚染している。自分達の汚染は“程度の差”でしかないのだから。
自分達の悪を肯定するのは簡単だった。
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