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強がり



「拒絶する力が仲良くする力に生まれ変わったって、真逆ね。奇跡の魔法が人の真の願いを叶えるものなら、特性を考えればおかしくはないんでしょうけど」


「エネルギーの総量で言えばナイモの聖霊とテルミヌスの力が丁度合わさった感じだったから、変わりないはずだよ。奇跡の魔法が作用したのは、仕組みというか、もっと根幹な部分だと思う。一つ言えるのは、奇跡の魔法は魔力によって起こされるものじゃないってことだね。もし魔力現象によって起きてるなら、エネルギーの現れ方に変動があったはずだもん」


「難しい話してる所悪いけど、街の近くまで来たから降りようか」



 ナイモの聖霊はイモートに対する戦意を喪失、ジーネによる機銃掃射も防いで、やっと一息つける。


俺達はモイナガオンの入口近くで、テルミヌスから降りた。テルミヌスは光と共にイズミア遺跡へと転移して、俺達の前から消えた。



「うおおお! 巨神が消えた!! いったいなんだったんだ!」



 人々の声が響く、テルミヌスが消える所を見ていたらしく、大騒ぎになっている。



「あれ? みんな、正気に戻ってるのか? エルがいるのに……正気を保って……」


「え、嘘でしょう? あれって、あの天使様って、聖霊様じゃないの!?」


 騒がしい人々が指差す先にはナイモの聖霊がいる。エルと同じ姿をしたナイモの聖霊だ。そんなまさか……モイナガオンの人々に、ナイモの聖霊が……見えている?


いやモイナガオンの人々だけじゃない、ディアも、エローラも、ナイモの聖霊をはっきりと認識し、目で追っている。


テルミヌスに乗っていない今、ナイモの聖霊を見ることができるのは、エルと繋がる俺だけのはずだ。なのに……どうして、見えるんだ。



『モイナガオンの民達よ、エルナの子らよ。我が何者であるか、その心には記憶されている事だろう。復讐心と虚栄心の為に生み出された我は、先の時代へは行けぬ』


「こうして皆と顔を合わせるのは初めてなのです。最期に、話せてよかったのです」



 ナイモの聖霊も、エルも、何を言ってるんだ……まるで、まるで消えるみたいに……



『──一度きり、我という存在を使い切れば、あるいは……──』モイナガオンを救う為にナイモの聖霊に協力を求めた時、彼女が言っていたことを思い出す。



「そんなっ……全部、全部うまくいったって、思ったのに……っ」



 エルとナイモの聖霊の体が薄く、透けていく。小さな光の粒子となって、分解されていく。



「古き魂達に、平和な時代の記憶と心を伝えるには、エル達の存在をあちらにも認識してもらう必要があったのです」


『我らは不可視の中でしか存在できない。不可視領域のバランスが崩れた今、我らは存在を保てない』



「そんなぁ! おれ達をずっと、支えてくださったあなた方に! おれ達になにか、できることはないんですか!」



 ナイモ人の男が叫ぶ、やっと一目見ることができた恩人に、恩返しがしたかったのだろう。その顔には悔しさが滲んでいた。男に続いて、人々は思いを口にしていく。


寂しい、不安だ、なにかできることはないかと。統制なんてあるわけもない。みんながみんな、一度に言うから、俺にはまるで聞き取れないほどだ。


だけど、そんな言葉の全てが、エルと聖霊には理解できているようだった。


優しい微笑みで、頷きを返した。大丈夫、不安はないと。



「きっと大丈夫なのです。モイナガオンをここまで立派にできたのは、みんなが頑張ったからなのです。エル達がいなくとも、みんなは! 大丈夫なのです! エルはずっと見てたから、それが絶対だって、わかるのです!」


『お前達の安寧を祈っている。この平和を、決して手放してはいけない。我らとの約束だ──』



 エルとナイモの聖霊は、完全に透明になって、消えてしまった。


人々の思いを一つにする為、平和を望む心で繋げる為に、人々に認識されることを選んだエル達は、自分達の存在を使って一度きりの奇跡を起こした。


 こんなもんなのか、奇跡の魔法ってのは……奇跡だって言うんなら、もっと、もっとどうにかならなかったのか……


エル達は消えてしまった……人々は悲しみに項垂れる。悲しみを現実として受け入れてしまっている。エル達と繋がった事により、彼女達の心を、言葉を全て真実として受け取ってしまう。


そこに、幻想はない。



「──エル達は、あいつらは消えちゃいない!!」


「お、お兄ちゃん……」



 こんなもんを見たら、俺だって強がってみたくもなる。現実の見えない愚か者を演じてみたくもなる。



「聖霊も、エルも! 元はモイナガオンの人々の思いから生まれた存在だ! だから! この場所に、みんながいる限り! いつかきっと、エル達は帰ってくる! 新しく、生まれてきてくれる! 平和な時代の為の、聖霊が!」



 項垂れていたモイナガオンの人々が俺を見上げる。俺の叫んだ願望に、みんなも賛同したいらしい。


もしかしたら、そんな未来も、そんな風に思ってくれたヤツもいるだろう。


信じ切ることは難しいのかもしれない。だけど、奇跡はあるのだと、信じて突き進んだ彼女達と俺達の結果を、あの奇跡を、彼らも目撃していたのだ。


知っている。奇跡はあるのだと。彼らは知っているんだ。だったら……──



「──もっふ~~!」


「ちょ、う、うわああああ!?」



 赤い風船のような物体が、俺にのしかかってきた。なんだこれ……え?



「まさか、ジーネの機銃掃射の……カワイイビームで、可愛くなったエネルギーなのか?」


「もっふ!」



 赤い風船にはつぶらな瞳があり、どうやら人語を理解しているようだった。自分が元はジーネの機銃掃射のエネルギーであることを肯定した。


それだけでなく、赤い風船は俺に思念を送ってきた。



「お前、ここを、モイナガオンを守ってくれるのか?」


「もっふ! もっふ!」



 赤い風船のような謎物体、生物? はポヨポヨ跳ねて、張り切っている。



「なんで、赤い風船くん、ちゃん? はモイナガオンを守ろうとするんだ?」


「可愛いね、名前何がいいかなぁ~? お兄ちゃん、多分この機銃掃射のエネルギーは、元はジーネの思念の宿るサイキックエネルギーだから、ジーネの本心が現れたんだと思うよ」


「本心?」


「よし決めた! 機銃で風船みたいだから、フージュ! あなたの名前は今からフージュだよ! ジーネはいつも何でも、こうすべき、ああすべき、べきべきで行動して、心に従って行動できないんだぁ~だけど、本当は、本心では……誰かを傷つけたいだなんて思ってない。モイナガオンの人々を救えたらって、本当は思ってたんだよ、きっと」


「もっふ! もっふ! フージュ! フージュ!」



 フージュは名前を貰って嬉しそうだ。こんなふわふわしたのが、ジーネの本心。そう思うと、なんだかこのゆるキャラがとても可愛らしく見えてきた。


俺の知るジーネの印象と言えば、クールでしっかり、むっつりなものだ。俺がジーネと話せたのはほんの少しの時間だったから、それで彼女のことが分かるとは思っていないけど。


そんな俺でもギャップを感じてしまう。そうか……ジーネは自分の中にある、優しい気持ちを我慢してしまうんだ。


そしてそれはきっと……俺の為、俺のせいなんだ。



「みんなと仲良くやるんだぞ、フージュ!」


「もっふ~!」



 そんな俺の言葉は、杞憂であると分かったのは意外にも早く、三日もすればフージュはすっかりモイナガオンの街に馴染んでいた。


働き者なフージュは人助けに奔走し、コーヒー栽培から家屋の修繕、魔物退治から夜の街の警備まで行った。


モイナガオンとフージュが心配で街に残ったけど、これならもう心配なんていらないな。俺が残った所で、できることなんて大してないのにさ。


傲慢だよ傲慢。俺は自分のことを大きく見積もりすぎだ……



「ディアは……休暇はもう十分か?」


「うん! しっかり満喫できたよ。カフェだって街の半分ぐらいは回れたんじゃないかな?」


「はぁ……あぁ、あああ! アタシは、これからどうしたら、どうしてくれるのよジャンダルーム!! アタシ夢が叶っちゃったんだけど!? これからどうやって、何を目標に生きればいいっていうのよーーッ!!」


「なんでもかんでも俺のせいにするなよ。いいじゃないか、夢が叶ったんなら。エローラ、お前の絡み方は面倒くさいんだよ」


「面倒くさいってなによ!! アタシがここまで困ってるっていうのに!!」



 こいつ、やっぱ元々情緒不安定な所があるのかな? それともエルをころ……死に導いた経験によって自尊心が消え去っておかしくなったのかな……



「え~? エローラは面倒でしょ? わたしもそう思うもん」


「あぁーー!!!! ディアまで! アタシを見捨てるの!? 一緒に奇跡の魔法をやった仲なのに!!」


「お前はまだモイナガオンに残ったほうが良さそうだなエローラ。精神療養が必要だ」


「ぐぇあああああああ!!?? 人を病人扱いするなぁ!! アタシは病気じゃない!」


「ははは! またあのエルフのねーちゃんおかしくなってるよ! 顔だけはいいけど、あれじゃあなぁ」


「おい、言われてるぞエローラ。その路線で行けば、男からの惚れた腫れたの関心はなくなるみたいだ。うんうん、世の中悪いことばかりじゃないな」


「お前のフォローの仕方、狂ってんだよジャンダルーム!! もう知らない! どうせこの街を離れれば、あんたとは二度と会うこともないんだわ! あんたのこと忘れちゃうからね! じゃあさよなら!」



 エローラはキレて走ったかと思うと、時々チラチラとこちらを見るために立ち止まる。



「あんな構ってちゃんみたいなことする人じゃないはずだったんだけどなぁ~お兄ちゃんも罪な男だね」


「え? ディアはエローラがおかしくなったのは俺のせいだっていうのか? はぁ、仕方ない。じゃあエローラを追いかけないとな。いくぞディア、エローラが落ち着くように取り繕う方法考えるの手伝ってくれよ?」



 というわけでエローラを追いかける。のだが……


エローラ、こいつっ!!! 俺達がエローラを追っているのが分かると、エローラは走るスピードを上げて、絶妙に追いつけないようにしている!!


メンドイ、というか、最早ムカつく!! ぐぬぬぬぬ! 結構な全力疾走をする俺だが、隣のディアはそんな俺を見て笑っているし、それもまた俺のイラつきを加速させた。


怒りで視野狭窄、街の景色は見えない。人々を横切ったはずだけど、それも今の俺には定かではない。エローラに追いついて、捕まえてることしか頭にない──



「──がんばってなのです~! ジャンさん~!」


「頑張れにいちゃーん!」



 ──え? ありえない声を聞いた気がして、俺の足は急ブレーキをかけようとして、止まるの失敗して、俺は吹っ飛んだ。酒場の際の酒樽に激突する。


ワインが盛大にぶっかかって、俺の服は真っ赤だ。でも、そんなことはどうでもいい。



「エル……? エルなのか?」


「はいなのです! でもエルシエルではありません。生まれ変わったエルの名前はですね! ──エルシエラなのです!」


「はっははー! こりゃあ盛大にやらかしたなぁ! 嬢ちゃんの知り合いかぁ?」


「知り合いじゃないのですおじさん! ジャンさんはエルの友達なのです!」



 エル……エルが、いる……俺の、目の前に……馬鹿みたいにエローラを追いかける俺を、エルと見知らぬおっさんが応援していた。



「え、エルなの……? 嘘でしょ? う、うう、うわーーん!」


「エルちゃーーん!!!」



 気づけばエローラはエルの所に泣きながらやってきて、ディアと共に、エルに抱きついていた。



「ふっ! カチャリ、これで逮捕なのです! エローラさん! ジャンさん、エルはお役に立てたのです?」


「うん、助かったよエル。逮捕協力、感謝するであります……! でも、どうして、それに前より小さくなったか?」


「小さいのは、まだ生まれたばかりだからなのです! 実はエルが、エル達がこうしていられるのは、ジャンさんのおかげなのです。ジャンさんが強がってくれたおかげで、ナイモの人々はエルはまだ消えてないって、幻想を抱くことができたのです。だから、新しいエルは、生まれてくることができたのです。しかも、今度のエルは、こうしてみんなと話して、触れ合うことができるのです!」



 俺はエローラにヘッドロックを掛けながら、エルに向き合う。今のエルはエルシエルじゃなくて、エルシエラという名らしいが。それは名前だけでなく、きっと在り方も変わったということなんだろう。というか見た目も変わったものな。前は12歳ぐらいの見た目だったのが、今は8~10歳ぐらいの子供に見える。



「話して、触れ合える? あれ? そう言えば、でもおっさんは、エルのことを嬢ちゃんて……待てよ? それにエル達ってことは、ナイモの聖霊も?」


「ああ、我もいる。今はエルシエラと同じく、実体を持っている。名はナイナとなった。こんなチビスケの見た目になっては威厳もないが……存在する実感があるというのは、悪くない」



 エルに似た天使風の幼女が見知らぬおっさんの影からひょっこり出てきた。こ、これが……ナイモの聖霊……ナイナ。確か、古代エルシャリオン語だと、ナは否定の意味を持つわけだから……イモートを否定するという意味のナイモをさらに否定してナイナ、復讐心の否定か。



「お前らさっきから何をいってんだ? 天使がどうのこうのって、こんな幼女を見て……あっ!? まさか、お前……ろ、ロリコン……?」


「違う違う! ほら、三日前俺達も天使を見ただろ? そのことを言ってたんだ」


「あ? あー聖霊様のことな! ありゃ凄かったよなぁ~、聖霊様はきっと今もどっかでおれ達を見守ってくれてんだろうなぁ」



 おっさんは目の前の幼女達がその天使様張本人、ナイモの聖霊であったことが分からない。“認識できていない”らしい。



「そういうことか……普通の人間はお前達をナイモの聖霊として認識できない。触れることも話すこともできるが、存在を確定できないんだ。聖霊はどこにいるか分からないが、存在していると思っている。普通の人間にはお前達がただの幼女としか思えないってことか」


「そういうことなのです! 肉体があるのに聖霊っていうのも変な話なのです」


「おいエルシエラ、お前がこいつらに会いに来たのは」


「は、はい! 分かってるのです! ジャンさん! エルはジャンさん達に着いていくのです! 旅に同行させて欲しいのです!」


「え? エルが俺達と旅を? モイナガオンにいなくていいのか? そりゃ、ついてくるのは構わないけど」


「それがエルの、新しい使命なのです!」



 エルが俺とディアの旅の仲間に……は、ははは、まさかこんなことになるなんて。思いもしなかった。奇跡って、凄いな。こんなもんかと悲観した奇跡は、俺の予想のさらに先を行っていた。


「舐めたこと思ってすみませんでした!」俺は奇跡に謝罪した。





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